聖女の私にできること第五巻

藤ノ千里

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第七章 愛するという事

第四十九話 一松の生い立ち

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 明くる日、私はとんでもない現場に立ち会う事になる。
 朝ご飯の後、一松に「お美代さんを呼び出して欲しい」と頼まれて、男性用お風呂の裏手に彼女を呼び出したんだけど。
 速やかに席をはずそうとした私に、お美代さんが「いてくださいませ」と言ったのだ。
 そして一松は反対しなかったのだ。
 ということで、卒業式の体育館裏的な甘酸っぱい感じの空気感が漂うこの場に、当事者じゃないのに立ち会う事になったのが、約15分前。
 で、そろそろ痺れを切らして何か言おうと思ったら、渋い顔でずーっともだもだしていた一松が、ようやく口を開いた。
「お慕い、しておりまする・・・」
 小さな声で、だけど。彼ははっきりとそう言った。
 やったね一松!男を見せたね!!
 なんて心の中でクラッカーを鳴らしながらも、お美代さんの手前だけあって顔は平然を装う。
 でも、お美代さんは特に驚いてなくて、どうやら道明様のお節介が効いてたみたいだった。
「はい」
「・・・それでは」
 言いつつ一松はペコッと頭を下げた。
 そしてそのまま踵を返した。
 流れるような動きに呆気にとられたお美代さんだけど、遠ざかっていく一松の背中にハッと我に返ったようだ。
「そ、それだけなのでございますか・・・!」
 一松は、足を止めた。けどやっぱり何も言わなくて。
 言わないまままた歩き出そうとする。
「お美代は・・・!お美代は、一松様であれば恋仲になりとうございます」
 まさかの逆告白に思わずお美代さんを見たけど、彼女は始めて見る乙女な顔をしていて。
 なんか、びっくりするくらい嬉しくなった。
 まるで当事者みたいに嬉しくなって、興奮から顔も熱くなってきて。
 「やったじゃん!」って一松に言おうと思った。
 でもそれより先に、一松が叫んだのだ。
「それは・・・無理です・・・!」
 彼の姿が建物の向こうに消えていくのを、呆然と見ている事しかできなかった。
 あの時の私の脳内は、きっとお美代さんと完全にシンクロしていたと思う。


 託児所はお里さんたちに任せていたから、しばらくは大丈夫だろうと判断して、お美代さんを道明様の部屋に連れて行って宥めていた。
 そしたら、道明様が部屋に戻ってきた。
 六助にお願いしていたはずのお茶をお盆に乗せて。
「お話は伺わせていただきました」
 なんて言うからには、全て筒抜けなのだろう。
 もしかしたら六助が厠の近くにいたのも、彼に言われて盗み聞きするためだったのかもしれない。
 僧正様面してやってる事が犯罪スレスレ過ぎる。
 いつもの事だから驚きはしないけど。
「一松がご迷惑をおかけしたと伺いました。不肖の弟子に代わりお詫びを申し上げまする」
 丁寧に淹れたお茶をお美代様さんに差し出しながら、目を伏せる道明様。
 そういうつもりがないんだとしてもその切ない感じの表情は艶があり過ぎるし、嗜虐心が掻き立てられてしまう。
 つい、「体で償ってもらおうか」なんて言いたくなって来てしまう。そういうつもりがないんだとしても。
「いいえ・・・ありがとうございます」
 ピュアなお美代さんにはやっぱり効かないみたいで、彼女は普通にお茶を受け取っていた。
 でも道明様、私にお茶を渡す時は手を触ってきた。絶対わざとだ。
「差し出口をお許し頂けるのであれば、一松の釈明をさせて頂きたく」
「はい」
「感謝を申し上げまする。では、ありがたく少しお時間をいただきまする」
 ちょっと仰々しい感じもしたけど、道明様はきちんと座って、まるで説法でもする時みたいに真っ直ぐにお美代さんを見た。
 お美代さんもちょっと背筋を伸ばして、きちんと聞く姿勢になった。
「一松は、あれは父親を知らず、母親は身売りをしていた為邪険にされながら育ったのです」
 実は私は、一松の家庭環境が複雑なんだろうと、何となく気づいていた。
 親に大切にされなかった子は、自分を大切にできない。
 家庭が安全じゃなかった子は、逃げるという選択肢を取れない。
 彼の無謀さはそこに起因していると、気づいていた。
「まだ幼い歳で放り出され、盗みを働きつつ町を転々としていたようです。捕まれば手酷く扱われると知りつつ、生きる為に盗人となる他なかったと聞いておりまする」
「そんな・・・」
 同情を誘う為ではないようで、道明様はただ淡々と喋っていた。
 お美代さんの反応を、確認しているようにも見えた。
「あれを拾ったのは、私の財布を盗んだからでございました。喋り方も粗暴で、真新しい傷もいくつもありました」
 一松の事は目いっぱい甘やかしてきたけど、こんな話を聞くとまだ甘やかし足りていないと反省した。
 やっぱりハグもしてあげよう。思春期でも、義理の息子だから。
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