【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹

文字の大きさ
6 / 35
本編

6 お金の使い道

しおりを挟む
 だいぶ酔っている旦那様のお世話をテッドに任せて、自室に戻った。キスされて抱き締められたところをミアにしっかり見られていたので「大丈夫ですか」と心配された。

「もう一度お風呂に入るわね。抱き締められてお酒と女性の香水の匂いが移ってしまったの」

「奥様……」

「いいの、子どもじゃないからわかってる。騎士達がそういう女性のいるところで飲んだり……その……それ以上のこととか……するって。旦那様は私に触れないんだから、外に別のお相手がいる方が普通だわ」

 私は涙をぐっと堪えて、ミアに心配かけさせないようになるべく明るくそう言った。

「旦那様は仕事場のお付き合いでそういう場所に行かれることはあっても、浮気をする方ではありませんわ」

 そうね、浮気をする人ではないかもしれない。でも浮気ではなくてそっちが本気の可能性もある。私のことはボランティアで助けたお飾りの妻なのだから。

「そうね。それにしても、旦那様ったらあんなに飲んで困ったものだわ。しっかり面倒みてさしあげてね。私は……一人でお風呂に入れるから大丈夫よ。ミアは下がって」

「奥様……」

 ミアがとても心配しているのがわかるが、私はこれ以上彼女といては取り繕うことができなくなる。

「……一人になりたいの。お願い」

「ゆっくりおやすみなさいませ」

 ミアは私の気持ちを優先して、部屋から下がってくれた。その瞬間にポロリと涙が溢れる。

「私、旦那様のこと好きなんだな」

 改めて自覚してしまった。報われない片想いはこんなに苦しいのかと驚いた。彼に吸われた唇をそっとなぞる。これが私へのキスだったらどんなに嬉しかったことか。

 こんなことなら初夜の日に何が何でも抱いてもらうんだったな、なんて意味のない後悔が押し寄せてくる。あの日の彼は私を妻にしてくれる気があった。今となっては、もうどうしようもない。

 私は哀しさを洗い流すようにシャワーを浴び、匂いが一つも残らぬようにいつもより入念に身体を洗った。



♢♢♢



 翌朝、私は彼のお見送りをしなかった。こんなことは結婚して初めてだが、どうしてもする気になれなかった。ミアが旦那様に聞かれたら適当に言い訳をしておいてくれる、というので任せた。まあ……聞かれることもないかもしれないが。

 旦那様にとっては、私が見送っても見送らなくても差し支えないだろう。

 私はシーツに包まったまま、旦那様が出て行く気配がするまで部屋で過ごした。

「旦那様は仕事に行かれましたよ。お支度をしてモーニングを食べましょう」

「……今日は気分転換に孤児院に行こうかと思うの」

「そうですか、それは良い考えですね。護衛の者にもそう伝えておきましょう」

 街に出るのでドレスではなく可愛いワンピースに着替えることにした。私の部屋のクローゼットの中には沢山の可愛いドレスやワンピースがぎっしりと並んでいる。なんて贅沢な……と思って恐縮していたが綺麗な服を着ることも旦那様の顔に泥を塗らないため必要なのだと知ったので、今は受け入れている。

 定期的に新しい物も補充されているが、一体誰が用意をしてくれているのだろう?多分ミアだとは思うけれど。

 モーニングを食べていると、使用人やシェフのみんなが私を心配してくれているのがわかる。だって今まではまるで忠犬のように『旦那様、旦那様!』と追いかけていたのに、今日は見送りにも行かなかったのだから。

「テッド、旦那様はあれだけ飲まれていたのに大丈夫だったの?」

「ええ。朝は少し頭が痛そうでしたが、問題ないと出て行かれました。旦那様はかなりお強いので、あれだけ酔われているお姿は珍しいです。昨夜は相当強いお酒を飲まされたらしいです」

「……そう」

「奥様の体調が悪いのではとかなり心配されていました。申し上げにくいですが、旦那様は昨夜のことはあまり覚えていらっしゃらないようです」

 テッドは困ったように眉を下げて、そう言った。私はだんだんと腹が立ってきた。こっちはモヤモヤしていたのに、向こうは覚えていないなんて。

「私からそれとなくお伝えしておきましょうか?」

「いいです。旦那様にとっては取るに足りないことでしょうから!」

 ムッと怒りながらパクパクとモーニングを食べて行く。今朝は私を気遣ってか、甘いパンケーキが用意されていた。美味しい……とっても美味しいのになんだか味気ない気がするのは、私の気持ちのせいなんだろう。

 食べ終えて、予定通り孤児院に向かった。実は旦那様から私が好きに使って良いお金を毎月いただいている。家の支援までしてもらったのに、そんなお金いらないと固辞したが『旦那が妻へやるのは当たり前だ』と……こんな時だけ『妻』という単語を使うずるい旦那様に言いくるめられた。

 驚くほどの金額に手が震えたが、使わないのも悪いことだと教えられた。公爵家の人間になった以上、それなりにお金を浪費して経済を回すことも必要らしい。そういうものなのね。

 服や宝石はあまり興味がない……と、いうか必要なものはすでに素晴らしい物を用意してくださっている。

 弟に必要な本や文房具、そして服などを買って送ったがそんなもの微々たるものだ。全くお金が減らなかった。そこで困った私は、あることを思いついた。

 我が家にお金がなくなって一番困ったのは『教育』だった。飢饉が起きた時に私はもう成人していたので問題なかったが、弟に良い家庭教師をつける費用がなかったのだ。今は……旦那様のおかげで弟はしっかりと教育を受けられている。

 だから、孤児院の子どもたちに教育を受けさせようと思ったのだ。読み書きや計算ができれば、大人になったら働くことができる。働ければその子達も生きていけるし、働いて儲けてくれれば領地も潤うというものだ。

 私は本屋さんで低年齢から読める本や教科書を買い占め、文房具店に足を運びノートやペンを大量に買った。あと初めて行った時に生活環境が悪かったので、寝具や衣服を新しいものに変えさせた。

 これらは全て街の店の店主達に相談し、庶民のものを揃えた。街で買うことで他の店も潤って良いだろうと思ったのだ。いきなりランドルフ様の妻が来たとあって何事かと驚かれ、恐縮されたが……私の幼い見た目もあってか割とみんなすぐに打ち解けて下さった。

「ありがとうございます、皆さんのおかげで助かってますわ」

「いえいえ、奥様のおかげで店も儲かってありがたいですよ。頼まれていた子供服届いたので、息子に一緒に持って行かせますよ」

「まあ、よろしいのですか?助かります」

 子供服の店主の息子さんは私と同じ年齢だ。明るく人懐っこい感じで街では人気者らしい。

「重たいのにごめんなさいね」

「なんのなんの!むしろこんなに可愛い奥様と、二人で歩けるなんてラッキーですよ」

 そんなことを言っているが、後ろに護衛がいるので二人きりじゃないけどね。

「まあ、そんなに褒められてはまた大量に買わないといけなくなるわ」

「あちゃー……作戦がバレました?どうぞ今後ともご贔屓にお願い致します」

 はははと笑い合ってそんな冗談を言いながら、孤児院まで一緒に来てくれた。

 まさかその姿を旦那様に見られているとは、全く思ってもいなかった。


しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

【完結】何もできない妻が愛する隻眼騎士のためにできること

大森 樹
恋愛
辺境伯の娘であるナディアは、幼い頃ドラゴンに襲われているところを騎士エドムンドに助けられた。 それから十年が経過し、成長したナディアは国王陛下からあるお願いをされる。その願いとは『エドムンドとの結婚』だった。 幼い頃から憧れていたエドムンドとの結婚は、ナディアにとって願ってもいないことだったが、その結婚は妻というよりは『世話係』のようなものだった。 誰よりも強い騎士団長だったエドムンドは、ある事件で左目を失ってから騎士をやめ、酒を浴びるほど飲み、自堕落な生活を送っているため今はもう英雄とは思えない姿になっていた。 貴族令嬢らしいことは何もできない仮の妻が、愛する隻眼騎士のためにできることはあるのか? 前向き一途な辺境伯令嬢×俺様で不器用な最強騎士の物語です。 ※いつもお読みいただきありがとうございます。中途半端なところで長期間投稿止まってしまい申し訳ありません。2025年10月6日〜投稿再開しております。

【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します

大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。 「私あなたみたいな男性好みじゃないの」 「僕から逃げられると思っているの?」 そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。 すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。 これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない! 「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」 嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。 私は命を守るため。 彼は偽物の妻を得るため。 お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。 「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」 アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。 転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!? ハッピーエンド保証します。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

冷遇夫がお探しの私は、隣にいます

終日ひもの干す紐
恋愛
愛人がいるなら、さっさと言ってくれればいいのに! 妻に駆け落ちされた、傷心の辺境伯ロシェのもとへ嫁いでほしい。 シャノンが王命を受け、嫁いでから一年……とんでもない場面に立ち会ってしまう。 「サフィール……またそんなふうに僕を見つめて、かわいいね」 シャノンには冷たいの夫の、甘ったるい囁き。 扉の向こうの、不貞行為。 これまでの我慢も苦労も全て無駄になり、沸々と湧き上がる怒りを、ロシェの愛猫『アンブル』に愚痴った。 まさかそれが、こんなことになるなんて! 目が覚めると『アンブル』になっていたシャノン。 猫の姿に向けられる夫からの愛情。 夫ロシェの“本当の姿”を垣間見たシャノンは……? * * * 他のサイトにも投稿しています。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
【清い関係のまま結婚して十年……彼は私を別の男へと引き渡す】 幼い頃、大国の国王へ献上品として連れて来られリゼット。だが余りに幼く扱いに困った国王は末の弟のクロヴィスに下賜した。その為、王弟クロヴィスと結婚をする事になったリゼット。歳の差が9歳とあり、旦那のクロヴィスとは夫婦と言うよりは歳の離れた仲の良い兄妹の様に過ごして来た。 そんな中、結婚から10年が経ちリゼットが15歳という結婚適齢期に差し掛かると、クロヴィスはリゼットの嫁ぎ先を探し始めた。すると社交界は、その噂で持ちきりとなり必然的にリゼットの耳にも入る事となった。噂を聞いたリゼットはショックを受ける。 クロヴィスはリゼットの幸せの為だと話すが、リゼットは大好きなクロヴィスと離れたくなくて……。

処理中です...