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番外編
お任せください②
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「初めまして。私はランドルフの妻、ヴィヴィアンヌと申します。いつも主人がお世話になっておりますわ」
私は微笑みながら、深く頭を下げた。男性ばかりの騎士団の皆さんの前で話すのは少し緊張する。ランディ様程ではないが、みんな身体が大きい。
「これが団長の奥様?まじかよ」
「可愛い!でもまだ少女みたいじゃないか?」
「うわー団長と彼女が並んだら美女と野獣だな」
「セクシー系が好みじゃなかったっけ?」
「こんな可愛い子なら、毎日でも来て欲しいっすね!」
皆さん一斉にヒソヒソと話始めた。それ全部聞こえていますからね。
「あの……皆様、今日は遠征中の料理を覚えていただきたくて……」
必死に話しかけてみるが、ザワザワはおさまらない。私が困っていると後ろに大きな影ができた。
「お前ら、黙れ。これは任務の一環だ」
「はっ!」
ランディ様の低い声に全員が急に黙って、ピシッと姿勢を正した。おお、さすがだわ。私とは威厳がまるで違う。
「ヴィヴィ、すまないな。こいつらも悪気はないのだが、ここに女性が来ることが少ないから煩いんだ」
「いえ。私こそランディ様にご迷惑をかけて申し訳ありません」
「迷惑なものか。何かあればすぐに言うんだぞ」
ランディ様は目を細めて、私の頭を優しく撫でた。家ならキスされているところだが、流石に自重してくださって良かったわ。
「うわ……団長の顔やばい」
「めっちゃ蕩けてる。あんな優しい顔見たことあるか?」
「ないない!本当に夫婦なんだな」
そんな話をされて、私は恥ずかしくて真っ赤になった。ランディ様はここではそんなに怖いのかしら?私にはいつも優しいけれど。
「お前ら、真面目にやらないとランドルフにキレられるぞ」
いつの間にかクロード様がゲラゲラと笑いながら、ひょっこり後ろから現れた。
「クロード様!お久しぶりです」
「ヴィヴィアンヌちゃん、今日もキュートだね」
私が頭を下げると、クロード様はウィンクしながらちゅっちゅと投げキッスをした。相変わらずランディ様とは正反対の性格だ。
ランディ様は、眉を吊り上げながらパッと後ろに私を隠した。
「ヴィヴィの視界に入るな」
「お前っ、それはさすがに酷すぎるだろ!!」
「クロードの軽率さがヴィヴィに悪影響を与えたらだめだから」
お二人でギャーギャーと言い合っているのを見ると、口は悪くても仲が良いなぁと羨ましく思う。
「また始まったよ。でもあの二人正反対なのに、お互いのこと全部わかってる凄いコンビなんだよな」
「やっぱりそうなのですか!?」
「そうですよ!どんな魔物だって、あの二人がいれば倒せるんだ。飛び抜けて強いから、俺達の憧れです!」
うわぁ……凄いな。ランディ様は家ではあんまりお仕事の話をしてくださらないが、やっぱり憧れの存在なんだ。格好良い。
でも、いつまでもこの調子だと料理を教えることができないではないか。ランディ様をはじめ……皆賑やかなままだ。
「皆さん、めっ!いい加減もうお料理をしますよ」
私はムッと唇を尖らせ、ついつい大きな声を出してしまった。シーンと静まり返ったのに気が付き、私は慌てて口を手で押さえた。
――まずい。またつい弟のアルを叱るように言っちゃった。以前もランディ様にこの言い方しちゃったのに……失敗した。
ごめんなさいと思いチラリとランディ様を見上げると、彼は真っ赤な顔でフルフルと震えていた。え?もしかして怒っていらっしゃるのかしら。
「めっ!だって……なんだそれ!可愛い」
「これなら、ずっと叱られたい」
「くーっ、これで俺達より年上なの堪らないっすね」
私は怒ったのに、なぜか周囲はさらにザワザワした。なんで!?
「……ヴィヴィは怒っても可愛すぎて困る。しかし、すまなかった。お願いだから機嫌を直してくれないか?」
彼は私の頬をそっと撫でながら、あやすように甘い声を出した。
「いえ……すみません。あの……私こそ失礼イタシマシタ」
私はその甘い雰囲気に居た堪れなくなり、小声で謝った。するとクロード様がケラケラ笑いながら「じゃあ、早く料理はじめよう」と言ってくださったので助かった。
♢♢♢
私はこの日のためにランディ様から買っていただいたキュートなエプロンをキュッと締めて、気合を入れた。
「さあ、お料理スタートです」
今まで騒がしかったのが嘘のように、皆さん真面目に説明を聞いてくださった。料理番は若い人が当番制でするらしく、習うのは私より年下か同世代の方々ばかりだった。
「ヴィヴィアンヌ様、これくらいで大丈夫ですか?」
「そうそう!お上手ですよ」
「ヴィヴィアンヌ様、この大きさでいいですか?」
「素晴らしいですわ」
私はやる気を削がないように、なるべく褒めながら料理を進めていった。多少豪快ではあるけれど、剣の使い方が上手い彼らはナイフの使い方も上手だ。
褒められると、皆も嬉しいようで満更でもない表情で私に質問をしながら素直に作業をしてくれている。よしよし、順調だわ。
「干し野菜と干し肉はあらかじめ水につけて置くのを忘れずに。それで柔らかくなって、出汁が出ますから沸騰させて放置すれば出来上がります」
「狩った獲物は、すぐに血抜きを。そして臭み消しのため塩とお酒で洗って下さい。それを水で洗い……ハーブ塩やスパイス塩をかけて焼いて下さい。三種類作ったのでお好みで!ただし焼きすぎると硬くなるので気をつけてくださいまし」
私は最低限気をつけてもらうことをお伝えした。だんだんといい香りがしてくる。出来上がった物から食べてもらうことにした。
「うわー、美味い。こんな簡単にできるんだ」
「これなら沢山食いたいな」
「このハーブ塩めっちゃいい香り」
うんうん、良かった。パクパクと食べる皆さんを見て嬉しくなった。なかなか好評のようだ。
「ヴィヴィアンヌ様、最高です!」
「ふふ、良かったです」
食べながらブンブンと手を振る皆様に、私もニコリと笑って手を振り返した。
すると……一人の若い男の子がオロオロと困っているのが見えた。騎士団は十五歳を過ぎたら入団できるため、この子はまだ学校を出たばかりなのだろう。
「困ったことがありましたか?」
私が近付いて声をかけると、彼は恥ずかしそうに下を向いた。
「あ……あの、すみません。僕この前入ったばかりで。料理なんてしたことがないから、全然わからないんです」
「そうでしたか。みんな最初ははじめてですからお気になさらず。急に料理だなんて戸惑ってしまいますわよね」
私より柄は大きいが、幼さの残るお顔立ちに成人したばかりなのだとすぐにわかった。
「一緒にやってみましょう。お肉はこれくらいに切って……串に刺してください」
「は、はい」
私は彼が切るのを後ろから覗く形で、指導をした。緊張しているのか、頬が染まっている。大丈夫かしら?
「切るのお上手ですよ。ハーブ塩は両面にかけましょうね。ええ、そうですわ」
「で、できました」
「さあ、焼いてみましょう!」
火で炙り色が変わったところで「もういいですから、食べてみてください」と伝えると彼は恐る恐るパクリと口をつけた。
「んっ!美味しいです!!」
彼の顔がパッと明るくなり、残りのお肉もあっという間に胃の中に消えた。
「まあ、良かったですわ。ふふ、お料理上手にできましたね」
私がニコリと笑うと、彼はさらに真っ赤に頬を染めた。
「体調悪いですか?熱でもあるんじゃ…… ?」
「だ、だ、だ、大丈夫です!!なんともありません」
なんか吃っているし、心配になっておでこに手を伸ばそうとした時……私の手は大きな手に包まれた。
「ヴィヴィ、料理は終わったのか?」
少し低いその声にランディ様が怒っているのかと思ったが、顔は優しく微笑んでいるので……勘違い?
「はい!」
「そうか。ありがとう」
彼は私の頭をゆっくりと撫でた。そして新人の彼をじっと見つめた。
「だ、団長!あの……ヴィヴィアンヌ様に……いえ……あの奥様に料理を教えていただきました」
彼はピンッと直立不動になっている。ええ!?ランディ様ってそんなに怖いのかしら。
「そうか。できたならもう彼女を連れて行っていいな?」
「は……はい!」
「あの、体調は大丈夫なのですか?」
私は彼の頬が赤いのが気になって、声をかけた。
「はい。焼いてる時の熱で暑かっただけです!」
「そうですか」
私がそう言ったのと同時に、ランディ様に「こっちにおいで」と抱き寄せられたまま歩かされた。
「ラ、ランディ様?」
彼の執務室に連れて行かれて、強くギュッと抱き締められた。
「……」
これは一体なんなのだろうか?ランディ様は無言のままだ。
「ランディ様?あの、どうされました?」
「……自分の心の狭さを実感して反省している」
「ん?反省ですか?」
――反省とは、どういうことだろうか?
「若い部下達と仲良くしてるの……嫌だった。すまない、ヴィヴィは俺のために色々してくれているのはわかっているのに。こんなことで妬くなんて格好悪いな」
もしかしてランディ様は、料理を教えていただけなのに妬いていたということなのか?
「……ランディ様の馬鹿。私の愛する旦那様はあなただけよ」
「そうだな。俺は……馬鹿だ」
「ランディ様、大好きです」
「ああ、俺もヴィヴィが大好きだ」
彼と甘い雰囲気になり、もうすぐ唇が触れ合う……という時にバンっと勢いよく扉が開いた。
「あれ?もしかしてお邪魔だった?」
そこには、ニッと意地悪く笑うクロード様が立っていた。私は赤面してランディ様を慌てて押しのけた。
「クロード……お前は上司の部屋をノックもなしに開けていいと思ってるのか!」
ランディ様は拳を握り、ブルブルと身体を震わせて怒っている。
「上司って親友だろ?親友の俺が、公共の場でいやらしいことする前に止めてやったんじゃん」
「いやらしいことなんてするか!」
「どうだかなぁ?お前、キスで止まれるか?」
ランディ様とクロード様はそのままギャーギャー喧嘩している。私はキスしようとしていたところを見られたことが恥ずかし過ぎて、執務室からそっと外に出た。
私は微笑みながら、深く頭を下げた。男性ばかりの騎士団の皆さんの前で話すのは少し緊張する。ランディ様程ではないが、みんな身体が大きい。
「これが団長の奥様?まじかよ」
「可愛い!でもまだ少女みたいじゃないか?」
「うわー団長と彼女が並んだら美女と野獣だな」
「セクシー系が好みじゃなかったっけ?」
「こんな可愛い子なら、毎日でも来て欲しいっすね!」
皆さん一斉にヒソヒソと話始めた。それ全部聞こえていますからね。
「あの……皆様、今日は遠征中の料理を覚えていただきたくて……」
必死に話しかけてみるが、ザワザワはおさまらない。私が困っていると後ろに大きな影ができた。
「お前ら、黙れ。これは任務の一環だ」
「はっ!」
ランディ様の低い声に全員が急に黙って、ピシッと姿勢を正した。おお、さすがだわ。私とは威厳がまるで違う。
「ヴィヴィ、すまないな。こいつらも悪気はないのだが、ここに女性が来ることが少ないから煩いんだ」
「いえ。私こそランディ様にご迷惑をかけて申し訳ありません」
「迷惑なものか。何かあればすぐに言うんだぞ」
ランディ様は目を細めて、私の頭を優しく撫でた。家ならキスされているところだが、流石に自重してくださって良かったわ。
「うわ……団長の顔やばい」
「めっちゃ蕩けてる。あんな優しい顔見たことあるか?」
「ないない!本当に夫婦なんだな」
そんな話をされて、私は恥ずかしくて真っ赤になった。ランディ様はここではそんなに怖いのかしら?私にはいつも優しいけれど。
「お前ら、真面目にやらないとランドルフにキレられるぞ」
いつの間にかクロード様がゲラゲラと笑いながら、ひょっこり後ろから現れた。
「クロード様!お久しぶりです」
「ヴィヴィアンヌちゃん、今日もキュートだね」
私が頭を下げると、クロード様はウィンクしながらちゅっちゅと投げキッスをした。相変わらずランディ様とは正反対の性格だ。
ランディ様は、眉を吊り上げながらパッと後ろに私を隠した。
「ヴィヴィの視界に入るな」
「お前っ、それはさすがに酷すぎるだろ!!」
「クロードの軽率さがヴィヴィに悪影響を与えたらだめだから」
お二人でギャーギャーと言い合っているのを見ると、口は悪くても仲が良いなぁと羨ましく思う。
「また始まったよ。でもあの二人正反対なのに、お互いのこと全部わかってる凄いコンビなんだよな」
「やっぱりそうなのですか!?」
「そうですよ!どんな魔物だって、あの二人がいれば倒せるんだ。飛び抜けて強いから、俺達の憧れです!」
うわぁ……凄いな。ランディ様は家ではあんまりお仕事の話をしてくださらないが、やっぱり憧れの存在なんだ。格好良い。
でも、いつまでもこの調子だと料理を教えることができないではないか。ランディ様をはじめ……皆賑やかなままだ。
「皆さん、めっ!いい加減もうお料理をしますよ」
私はムッと唇を尖らせ、ついつい大きな声を出してしまった。シーンと静まり返ったのに気が付き、私は慌てて口を手で押さえた。
――まずい。またつい弟のアルを叱るように言っちゃった。以前もランディ様にこの言い方しちゃったのに……失敗した。
ごめんなさいと思いチラリとランディ様を見上げると、彼は真っ赤な顔でフルフルと震えていた。え?もしかして怒っていらっしゃるのかしら。
「めっ!だって……なんだそれ!可愛い」
「これなら、ずっと叱られたい」
「くーっ、これで俺達より年上なの堪らないっすね」
私は怒ったのに、なぜか周囲はさらにザワザワした。なんで!?
「……ヴィヴィは怒っても可愛すぎて困る。しかし、すまなかった。お願いだから機嫌を直してくれないか?」
彼は私の頬をそっと撫でながら、あやすように甘い声を出した。
「いえ……すみません。あの……私こそ失礼イタシマシタ」
私はその甘い雰囲気に居た堪れなくなり、小声で謝った。するとクロード様がケラケラ笑いながら「じゃあ、早く料理はじめよう」と言ってくださったので助かった。
♢♢♢
私はこの日のためにランディ様から買っていただいたキュートなエプロンをキュッと締めて、気合を入れた。
「さあ、お料理スタートです」
今まで騒がしかったのが嘘のように、皆さん真面目に説明を聞いてくださった。料理番は若い人が当番制でするらしく、習うのは私より年下か同世代の方々ばかりだった。
「ヴィヴィアンヌ様、これくらいで大丈夫ですか?」
「そうそう!お上手ですよ」
「ヴィヴィアンヌ様、この大きさでいいですか?」
「素晴らしいですわ」
私はやる気を削がないように、なるべく褒めながら料理を進めていった。多少豪快ではあるけれど、剣の使い方が上手い彼らはナイフの使い方も上手だ。
褒められると、皆も嬉しいようで満更でもない表情で私に質問をしながら素直に作業をしてくれている。よしよし、順調だわ。
「干し野菜と干し肉はあらかじめ水につけて置くのを忘れずに。それで柔らかくなって、出汁が出ますから沸騰させて放置すれば出来上がります」
「狩った獲物は、すぐに血抜きを。そして臭み消しのため塩とお酒で洗って下さい。それを水で洗い……ハーブ塩やスパイス塩をかけて焼いて下さい。三種類作ったのでお好みで!ただし焼きすぎると硬くなるので気をつけてくださいまし」
私は最低限気をつけてもらうことをお伝えした。だんだんといい香りがしてくる。出来上がった物から食べてもらうことにした。
「うわー、美味い。こんな簡単にできるんだ」
「これなら沢山食いたいな」
「このハーブ塩めっちゃいい香り」
うんうん、良かった。パクパクと食べる皆さんを見て嬉しくなった。なかなか好評のようだ。
「ヴィヴィアンヌ様、最高です!」
「ふふ、良かったです」
食べながらブンブンと手を振る皆様に、私もニコリと笑って手を振り返した。
すると……一人の若い男の子がオロオロと困っているのが見えた。騎士団は十五歳を過ぎたら入団できるため、この子はまだ学校を出たばかりなのだろう。
「困ったことがありましたか?」
私が近付いて声をかけると、彼は恥ずかしそうに下を向いた。
「あ……あの、すみません。僕この前入ったばかりで。料理なんてしたことがないから、全然わからないんです」
「そうでしたか。みんな最初ははじめてですからお気になさらず。急に料理だなんて戸惑ってしまいますわよね」
私より柄は大きいが、幼さの残るお顔立ちに成人したばかりなのだとすぐにわかった。
「一緒にやってみましょう。お肉はこれくらいに切って……串に刺してください」
「は、はい」
私は彼が切るのを後ろから覗く形で、指導をした。緊張しているのか、頬が染まっている。大丈夫かしら?
「切るのお上手ですよ。ハーブ塩は両面にかけましょうね。ええ、そうですわ」
「で、できました」
「さあ、焼いてみましょう!」
火で炙り色が変わったところで「もういいですから、食べてみてください」と伝えると彼は恐る恐るパクリと口をつけた。
「んっ!美味しいです!!」
彼の顔がパッと明るくなり、残りのお肉もあっという間に胃の中に消えた。
「まあ、良かったですわ。ふふ、お料理上手にできましたね」
私がニコリと笑うと、彼はさらに真っ赤に頬を染めた。
「体調悪いですか?熱でもあるんじゃ…… ?」
「だ、だ、だ、大丈夫です!!なんともありません」
なんか吃っているし、心配になっておでこに手を伸ばそうとした時……私の手は大きな手に包まれた。
「ヴィヴィ、料理は終わったのか?」
少し低いその声にランディ様が怒っているのかと思ったが、顔は優しく微笑んでいるので……勘違い?
「はい!」
「そうか。ありがとう」
彼は私の頭をゆっくりと撫でた。そして新人の彼をじっと見つめた。
「だ、団長!あの……ヴィヴィアンヌ様に……いえ……あの奥様に料理を教えていただきました」
彼はピンッと直立不動になっている。ええ!?ランディ様ってそんなに怖いのかしら。
「そうか。できたならもう彼女を連れて行っていいな?」
「は……はい!」
「あの、体調は大丈夫なのですか?」
私は彼の頬が赤いのが気になって、声をかけた。
「はい。焼いてる時の熱で暑かっただけです!」
「そうですか」
私がそう言ったのと同時に、ランディ様に「こっちにおいで」と抱き寄せられたまま歩かされた。
「ラ、ランディ様?」
彼の執務室に連れて行かれて、強くギュッと抱き締められた。
「……」
これは一体なんなのだろうか?ランディ様は無言のままだ。
「ランディ様?あの、どうされました?」
「……自分の心の狭さを実感して反省している」
「ん?反省ですか?」
――反省とは、どういうことだろうか?
「若い部下達と仲良くしてるの……嫌だった。すまない、ヴィヴィは俺のために色々してくれているのはわかっているのに。こんなことで妬くなんて格好悪いな」
もしかしてランディ様は、料理を教えていただけなのに妬いていたということなのか?
「……ランディ様の馬鹿。私の愛する旦那様はあなただけよ」
「そうだな。俺は……馬鹿だ」
「ランディ様、大好きです」
「ああ、俺もヴィヴィが大好きだ」
彼と甘い雰囲気になり、もうすぐ唇が触れ合う……という時にバンっと勢いよく扉が開いた。
「あれ?もしかしてお邪魔だった?」
そこには、ニッと意地悪く笑うクロード様が立っていた。私は赤面してランディ様を慌てて押しのけた。
「クロード……お前は上司の部屋をノックもなしに開けていいと思ってるのか!」
ランディ様は拳を握り、ブルブルと身体を震わせて怒っている。
「上司って親友だろ?親友の俺が、公共の場でいやらしいことする前に止めてやったんじゃん」
「いやらしいことなんてするか!」
「どうだかなぁ?お前、キスで止まれるか?」
ランディ様とクロード様はそのままギャーギャー喧嘩している。私はキスしようとしていたところを見られたことが恥ずかし過ぎて、執務室からそっと外に出た。
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