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2 うさぎのリンゴ
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眩しい……明るい陽射しと、ちゅんちゅんという鳥の声に目が覚める。体が怠いし、足は痛いし、涙で腫れた瞼が重たい。
私は昨日、サムに振られてアイザックに会って慰められたのだ。それからどうやってここに帰ってきたのだろうか?
「リリー様、おはようございます。ご気分はいかがですか?」
私付きの侍女のアリスが心配そうに、私の顔を覗き込んで挨拶してくれる。
「あまり良くないわ。食欲がないから、朝ごはんも不要よ」
「お嬢様……昨晩何があったのですか?」
アリスが私の手を不安そうにギュッと握ってくれる。今は何があったら言うのは辛い。
「別に何もないわ。ねぇ……私はどうやって家に帰ってきたの?」
「昨日、アイザック様が抱きかかえながら連れてこられました。お嬢様がこけて怪我をされ、意識を失われたと」
「そう……」
彼が運んでくれたのか。お礼を言わないといけないが、今はその気力がない。
「アリス、ごめんなさい。今は一人になりたいの。私のことはそっとしておいて」
「お嬢様、私は貴方の味方ですからね」
「ありがとう」
私は力なく微笑んだ。そしてこの日、何も食べず部屋に鍵をかけて過ごした。
「リリー、どうしたんだ! 開けてくれ」
「ねぇ? 昨日何があったか教えてちょうだい?」
「姉様……僕だよ。心配だから、顔みせてよ」
引きこもった私を心配し、両親や弟が扉を叩くが無視を続けた。アイザックの前であんなに泣いたのにまだ涙が出てくる。
仕方がない……八年も拗らせた恋なのだから。次の日も、その次の日も私は部屋から一歩も出なかった。
心配性のお父様が、昨日スペアキーで無理矢理ドアを開けたので私は扉の前に物を沢山置き入って来れないようにしている。
扉の前に食事が用意されているみたいだが、手をつけていない。食べたくないのだ。最低限の水だけ口に含み、それ以外はベッドでぼーっとしていた。
「こんなことしても……サムは来てくれないのに」
あんなことがあったのに、彼に貰ったブレスレットをまだ外せないでいる。私はそれを指でなぞるように撫でた。私は何してるんだろう――
失恋してご飯が食べれず、三日間も部屋に篭るなど我ながら馬鹿みたい。
そんな時、部屋の窓をドンドンと叩く音がする。何だろう? ここは三階……鳥か何かがぶつかっているのだろうか?だとしたら、可哀想なので逃してあげようとベッドから起き上がりカーテンを開けて窓を見た。
ドンドンドン!
「おい、開けてくれ」
――アイザックっ!?
そこには、いるはずのないアイザックが窓の枠に掴まって立っている。こんな高さどうやって登ったの? 落ちたら危ない! びっくりして涙が止まった。
「落ちるっ! 早く開けてくれ」
その言葉に驚き、窓の鍵をガチャっと開けた。運動神経の良い彼は開けた瞬間にひょいっと体を浮かせて私の部屋の中に入った。
「な、何してるのよ? こんなところ登って落ちたらどうするの」
私は窓から下を眺めて、その高さにサーッと血の気が引いた。
「簡単に騙されるなよ! 俺が落ちるわけないだろ? 親父さん達から、お前が引きこもって出てこないって聞いたから……窓から来た」
そして、彼は夜着のままの私を見て、何故か頬を染めて目を逸らした。未婚の令嬢が男性に夜着を見せるなどあってはならないことだが、こいつは勝手に来たのだから仕方がない。恥ずかしいのは私の方だ。
今は髪も下ろして、化粧もしていない。
「着替えてねぇのかよ」
「……ずっと寝てたから」
「この前より痩せたな。ちゃんと食えよ」
「食欲ないの」
アイザックはポケットからリンゴとナイフを出し、剥きはじめた。
「ほら、リリーの好きなうさぎのリンゴ。食え」
そう言って私の口元にリンゴを押し付けた。うさぎ型に切ったリンゴは小さい頃の私が好きだった物だ。まだ仲良かった頃、二人でよく食べた。アイザックはこんな昔のこと、よく覚えていたわね。
カリッ……シャクシャク……
「おい……し……」
アイザックの優しさとりんごの甘さが体に染み渡っていく。
「もっと食え。全部うさぎにしてやるから」
彼はニッと笑って、私の髪をくしゃくしゃっと撫でた。
私は昨日、サムに振られてアイザックに会って慰められたのだ。それからどうやってここに帰ってきたのだろうか?
「リリー様、おはようございます。ご気分はいかがですか?」
私付きの侍女のアリスが心配そうに、私の顔を覗き込んで挨拶してくれる。
「あまり良くないわ。食欲がないから、朝ごはんも不要よ」
「お嬢様……昨晩何があったのですか?」
アリスが私の手を不安そうにギュッと握ってくれる。今は何があったら言うのは辛い。
「別に何もないわ。ねぇ……私はどうやって家に帰ってきたの?」
「昨日、アイザック様が抱きかかえながら連れてこられました。お嬢様がこけて怪我をされ、意識を失われたと」
「そう……」
彼が運んでくれたのか。お礼を言わないといけないが、今はその気力がない。
「アリス、ごめんなさい。今は一人になりたいの。私のことはそっとしておいて」
「お嬢様、私は貴方の味方ですからね」
「ありがとう」
私は力なく微笑んだ。そしてこの日、何も食べず部屋に鍵をかけて過ごした。
「リリー、どうしたんだ! 開けてくれ」
「ねぇ? 昨日何があったか教えてちょうだい?」
「姉様……僕だよ。心配だから、顔みせてよ」
引きこもった私を心配し、両親や弟が扉を叩くが無視を続けた。アイザックの前であんなに泣いたのにまだ涙が出てくる。
仕方がない……八年も拗らせた恋なのだから。次の日も、その次の日も私は部屋から一歩も出なかった。
心配性のお父様が、昨日スペアキーで無理矢理ドアを開けたので私は扉の前に物を沢山置き入って来れないようにしている。
扉の前に食事が用意されているみたいだが、手をつけていない。食べたくないのだ。最低限の水だけ口に含み、それ以外はベッドでぼーっとしていた。
「こんなことしても……サムは来てくれないのに」
あんなことがあったのに、彼に貰ったブレスレットをまだ外せないでいる。私はそれを指でなぞるように撫でた。私は何してるんだろう――
失恋してご飯が食べれず、三日間も部屋に篭るなど我ながら馬鹿みたい。
そんな時、部屋の窓をドンドンと叩く音がする。何だろう? ここは三階……鳥か何かがぶつかっているのだろうか?だとしたら、可哀想なので逃してあげようとベッドから起き上がりカーテンを開けて窓を見た。
ドンドンドン!
「おい、開けてくれ」
――アイザックっ!?
そこには、いるはずのないアイザックが窓の枠に掴まって立っている。こんな高さどうやって登ったの? 落ちたら危ない! びっくりして涙が止まった。
「落ちるっ! 早く開けてくれ」
その言葉に驚き、窓の鍵をガチャっと開けた。運動神経の良い彼は開けた瞬間にひょいっと体を浮かせて私の部屋の中に入った。
「な、何してるのよ? こんなところ登って落ちたらどうするの」
私は窓から下を眺めて、その高さにサーッと血の気が引いた。
「簡単に騙されるなよ! 俺が落ちるわけないだろ? 親父さん達から、お前が引きこもって出てこないって聞いたから……窓から来た」
そして、彼は夜着のままの私を見て、何故か頬を染めて目を逸らした。未婚の令嬢が男性に夜着を見せるなどあってはならないことだが、こいつは勝手に来たのだから仕方がない。恥ずかしいのは私の方だ。
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「ほら、リリーの好きなうさぎのリンゴ。食え」
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カリッ……シャクシャク……
「おい……し……」
アイザックの優しさとりんごの甘さが体に染み渡っていく。
「もっと食え。全部うさぎにしてやるから」
彼はニッと笑って、私の髪をくしゃくしゃっと撫でた。
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