【完結】8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。

大森 樹

文字の大きさ
48 / 100

48 生きる希望【デューク視点】

しおりを挟む
 ――それは十七年前。

 私がまだ二十歳の時にまで遡る。一年前に両親が旅行中に事故死し、魔法学校を出たばかりの私は若くして伯爵家を継いでいた。

 姉が息を切らしながら、急に私の部屋に勝手に入ってきた。

「姉上! 急にどうされたのですか」
「デューク、この子……この子を守って! お願い」
「何を言ってるんですか? この赤子は一体……」
「三日前に私が産んだ子よ」
「姉上が産んだとは……? 一体誰との子ですか!」
「トーマスに決まってるでしょ。名前は……貴方が決めていいわ」

 私は驚きすぎて開いた口が塞がらなかった。忙しくて仕事で長らく家を空けてたとはいえ、久しぶりに帰ってきたら……まさかこんなことになっていようとは。

「私を狙って、他国から沢山の魔法使いが来てるらしい。私、トーマス以外の人の元に行くつもりないのから逃げるわ。でも……でもこの子だけは連れていけない」
「姉上は王命でブライアン様と結婚すると決まっていたではありませんか! 二人は仲良くしていたのに何故ですか? トーマスとは別れると言っていたのに嘘をついてたのですか!」
「嘘をついてごめんなさい。でも、彼を愛してるの」
「姉上……貴方の力は危ない。それを守るためにはトーマスではだめだとわかっているでしょう? 彼は確かに優しい良い人だが魔法使いじゃない」
「私、女神ヴィーナスなんて……なりたくてなったんじゃないもの! どうして好きな人と結ばれるのがいけないことなの?」

 姉上はぽろぽろと涙を流した。私はその言葉を聞いてそれ以上なにも言えなかった。

「でも、もし私が死んだらこの子に能力が移ってしまうわ。魔法使いたちは私を殺して、この子を奪おうとすると思うの……赤子の方が扱いやすいもの。愛した人との子を魔法使いの道具にしたくない」
「死ぬなんて縁起の悪いこと言わないでください! 姉上は私が守りますからここにいてください!」

 姉上はニコッと微笑んで「デュークは優しいわね。ありがとう」と言った。

「でもね、貴方にはこの子を託したい。私が死んだらこの子も一緒に死んだことにして! そして……貴方の子として女神ヴィーナスではなく普通の女の子として幸せに育てて欲しいの」
「姉上……何を!」
「無茶苦茶なこと言ってるのはわかってる。貴方に迷惑をかけているのも……でも! もう本当に時間がないの。お願い……お願いね」

 そう言って姉上は走って出て行こうとした。

「姉上っ!」

 そう叫ぶと、彼女は振り返り私の頬にキスをした。

「デューク、愛してる。貴方が弟で私は幸せだったわ。今までありがとう」
「止めても無駄なのですね……私も姉上を愛しています。どうか、どうか生きてください」
「行ってくるわ。この子のこと、どうかよろしくお願いします」

 そう言って姉上はトーマスと一緒に姿を消した。残された私の腕の中の赤子は、母との別れを惜しむように泣いていた。

 その後は……思い出したくもないくらい酷い事の連続だった。

 遠く離れた森の中でバーーンという大きな爆発音と真っ黒などす黒い闇の塊が見えた。絶対にそこでなにかがあったと一目でわかった。

 私は心配と不安で胸がバクバクし、赤子を侍女に預け移動魔法を使って森へ向かった。

 そこは血の匂いが充満しており、他国から侵入してきたであろう魔法使いたちが大量に死んでいた。壊れた馬車の傍には……息絶えたトーマスの姿。

 そして、全身血塗れで呆然としながら姉上を抱きしめているブライアンの姿があった。この森で生きているのは彼だけ……明らかに異様な光景だった。

「ブライアン……様?」

 俺が顔面蒼白で声を掛けると、彼は生気のない目でチラリとこちらを見た。

「リリアンは……馬鹿だ。こんな男を選んで」

 彼の腕の中の姉上はぐったりしており……すでに死んでいた。

「まさか……この魔法使いたちも……姉上たちも貴方が殺したんじゃないだろうな?」
「……」
「答えろよ!」

 ブライアンは俺をギロリと睨んできた。

「だったら何だ? お前が俺を殺すか?」
「……許さない!」

 私は深い哀しみと怒りで感情がぐちゃぐちゃになっていた。ブライアンに向かって沢山の魔法をかけたが、天才とまで言われた魔法使いの彼には全く効かずにあっという間に倒された。

「彼女の娘を渡せ。私が育てる」

 そう言った彼にさらに疑念が湧く……こいつは姉上に娘がいることを知っている! まさか、それが狙いでこの事件を起こしたのか……?

「姉上に娘などいない!」
「嘘をつかなくてもいい。お前にその子は守れない」
「娘など知らない」
「……いずれ貰いに行く」

 ブライアンはそう言って、姉上の体をゆっくりと下ろし彼女の髪を一房切って内ポケットに入れた。

 そして彼は移動魔法でどこかへ消え……二度と私の前に姿を現さなかった。

♢♢♢

 姉上とトーマスを葬い……一緒の墓に入れた。どうかあの世で二人で幸せに暮らして欲しいと願いを込めて。

 そんな哀しみと絶望の中、私の希望は姉上の子どもだった。ベッドを覗き、指でつんつんと触ってみると小さな手でギュッと握ってくれる。

 ――ああ……この子は生きている。

 姉上のこの子だけは、私の命に変えても守り抜かなければ。姉上ができなかった幸せな生活を……この子にさせてあげたい。

「君の名前は……リリーだ」

 彼女はふわぁ、と可愛く欠伸をしている。

「姉上は君に何も残せなかった……せめて名前は姉上から貰おうね」

 そう言ってリリーの頭を撫でた時、彼女が笑ってくれた気がした。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

〖完結〗時戻りしたので、運命を変えることにします。

藍川みいな
恋愛
愛するグレッグ様と結婚して、幸せな日々を過ごしていた。 ある日、カフェでお茶をしていると、暴走した馬車が突っ込んで来た。とっさに彼を庇った私は、視力を失ってしまう。 目が見えなくなってしまった私の目の前で、彼は使用人とキスを交わしていた。その使用人は、私の親友だった。 気付かれていないと思った二人の行為はエスカレートしていき、私の前で、私のベッドで愛し合うようになっていった。 それでもいつか、彼は戻って来てくれると信じて生きて来たのに、親友に毒を盛られて死んでしまう。 ……と思ったら、なぜか事故に会う前に時が戻っていた。 絶対に同じ間違いはしない。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全四話で完結になります。

〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。

藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。 どうして、こんなことになってしまったんだろう……。 私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。 そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した…… はずだった。 目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全11話で完結になります。

幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 一度完結したのですが、続編を書くことにしました。読んでいただけると嬉しいです。 いつもありがとうございます。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?

藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。 目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。 前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。 前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない! そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」 大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが…… ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。 「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」 エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。 エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話) 全44話で完結になります。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...