69 / 100
69 恋人期間【アイザック視点】
俺は何故か親父にぐいぐい引っ張られながら、スティアート家を去った。
「何すんだよ、離せよ!」
でかくて馬鹿力の親父に引っ張られると、流石に腕が痛い。俺が怒ると、親父に思いっきりガンとグーで頭を殴られた。
不意打ちで避けることもできず、まともにくらう。しかもこんなことされるのは、子どもの時以来だ。
「痛ってぇー! 俺が何したっていうんだよ」
「胸に手を当てて聞いてみろ! 馬鹿野郎」
「はあ?」
「客間から庭が見えてんだよ!」
「庭……見え……てる?」
俺はそう言われて、庭でリリーに襲いかかっていた自分を思い出し赤面する。
「するなとは言わねえけど、時と場所を選べ」
「……すみませんでした」
「しかも、がっつきやがって」
「……すみませんでした」
俺は親父に見られていたことが恥ずかしくてしょうがない。しかしそれよりも恐ろしいのは……
「デューク様も……見た……?」
「見たに決まったんだろ! 俺、めちゃくちゃ怖かったんだからな。あいつ怒りで氷魔法が制御しきれず、部屋の温度めちゃくちゃ下がってたわ!!」
俺は手で目元を覆い天を仰いだ。
「……終わった」
「お前、デュークに発情期の雄犬って呼ばれてたぞ」
親父は思い出してゲラゲラと笑っているが、こちらからすれば笑い事ではない。デューク様からの信用が失墜してるではないか。
「それで……帰り態度が冷たかったのか。しかもリリーの部屋に防御魔法までかけたって言ってたよな」
「自業自得だな。くっくっく」
「でも! 婚約するってことは、結婚するんだしキスくらいしたいって思うのは自然だろ。好きだから……」
俺は拗ねたようにそう言った。
「デュークだって、そんなこと頭ではわかってるさ。でも、嫌なんだよ。自分の命より大事にしていた娘が他の男に奪われていくのを目の前で見せられるのはな」
「……まぁ、そうだろうな」
「だから親に隠れてうまくやれ。ただし一線はこえるなよ」
「なっ! あ、当たり前だろ」
「そう言われても、発情期の雄犬の言うことは信用できねぇからな」
親父はニタニタ笑い、そう揶揄ってくる。はぁ……我が家はこれからしばらくこのネタで持ちきりだろうと頭を抱えた。
♢♢♢
家に着くと、お袋や使用人たちから正式に婚約できたのかと質問責めにあった。無事にできたと話すとみんは手放しで喜んだ。
――どんだけ我が家で人気なんだよ。
「よかった。直前でリリーちゃんの気が変わったらどうしようかと心配してたの」
「婚約は滞りなく結べた。しかしマーガレット、そうそう。面白い話が……」
「親父!喋るな!」
怒っている俺を見て、親父はプルプルと笑いを堪えている。お袋は怪訝な顔をして「どうせ碌でもないことでしょ? リリーちゃんに嫌われることしないでよね!」と呆れている。
リリーには嫌われていない、デューク様に嫌われただけと言いたいところをグッと我慢する。
「疲れたから寝る!」
そう言って自室に戻り、ベッドに横たわる。ずっと好きだったリリーとやっと婚約できた。めちゃくちゃ嬉しい……部屋に一人になると喜びが湧き上がってくる。
あと一年……一年で結婚。俺にとっては長いけど、彼女は恋人期間として楽しみたいと言っていた。そうだよな。
結婚したらすぐに子どもができるかもしれないし、ゆっくりデートできるのは今だけかもしれないもんな。
ん? いや、ちょっと待て。子ども……子どもができるってことは、リリーとそういうことをするってことだよな。
俺は寝室で彼女を組み敷き、今夜の俺のために身に付けてくれたであろう夜着を、そっと解いていく。
「ほら、全部見せて」
「恥ずかし……い」
「照れてる姿も可愛い。愛してるよ」
「私も愛してる。アイザックあの、私初めてだから優しくしてね」
「リリー……」
いやいやいや! 待て……俺はなにリアルな想像してんだよ。
もちろん男としての欲はあるけれど、ずっと好きだった大事な彼女を傷付けたくない。怖がらせたくもない。優しく……甘く……彼女に触れたい。
この純粋な恋心とは裏腹に、勝手にドクドクと熱が集まる自分の体に嫌気がさす。だが、急に俺は冷静になりガバッとベッドから起き上がった。
俺はキス止まりで、そういう経験は一切ない。年相応の好奇心はあれど、リリー以外と深い関係を持ちたいとは全く思えなかったからだ。
経験がないけどちゃんとできるのかな? でも初めては絶対に彼女以外あり得ない。
とりあえず結婚するまでに実践以外の勉強をしよう。一年あるし……うん、そうしよう。ふう、と息を吐き気持ちを落ち着かせる。
婚約指輪も買いに行かないとな。十歳の時の指輪は渡したが、あれは小さくて指にははめられない。
今度遊びに行くついでに見に行こう。俺たちは長い間無駄な喧嘩をしていたから、あまり二人で遊びに行ったりしたことがない。
これから一年間、二人でできる限り楽しもうと心に決めた。
「何すんだよ、離せよ!」
でかくて馬鹿力の親父に引っ張られると、流石に腕が痛い。俺が怒ると、親父に思いっきりガンとグーで頭を殴られた。
不意打ちで避けることもできず、まともにくらう。しかもこんなことされるのは、子どもの時以来だ。
「痛ってぇー! 俺が何したっていうんだよ」
「胸に手を当てて聞いてみろ! 馬鹿野郎」
「はあ?」
「客間から庭が見えてんだよ!」
「庭……見え……てる?」
俺はそう言われて、庭でリリーに襲いかかっていた自分を思い出し赤面する。
「するなとは言わねえけど、時と場所を選べ」
「……すみませんでした」
「しかも、がっつきやがって」
「……すみませんでした」
俺は親父に見られていたことが恥ずかしくてしょうがない。しかしそれよりも恐ろしいのは……
「デューク様も……見た……?」
「見たに決まったんだろ! 俺、めちゃくちゃ怖かったんだからな。あいつ怒りで氷魔法が制御しきれず、部屋の温度めちゃくちゃ下がってたわ!!」
俺は手で目元を覆い天を仰いだ。
「……終わった」
「お前、デュークに発情期の雄犬って呼ばれてたぞ」
親父は思い出してゲラゲラと笑っているが、こちらからすれば笑い事ではない。デューク様からの信用が失墜してるではないか。
「それで……帰り態度が冷たかったのか。しかもリリーの部屋に防御魔法までかけたって言ってたよな」
「自業自得だな。くっくっく」
「でも! 婚約するってことは、結婚するんだしキスくらいしたいって思うのは自然だろ。好きだから……」
俺は拗ねたようにそう言った。
「デュークだって、そんなこと頭ではわかってるさ。でも、嫌なんだよ。自分の命より大事にしていた娘が他の男に奪われていくのを目の前で見せられるのはな」
「……まぁ、そうだろうな」
「だから親に隠れてうまくやれ。ただし一線はこえるなよ」
「なっ! あ、当たり前だろ」
「そう言われても、発情期の雄犬の言うことは信用できねぇからな」
親父はニタニタ笑い、そう揶揄ってくる。はぁ……我が家はこれからしばらくこのネタで持ちきりだろうと頭を抱えた。
♢♢♢
家に着くと、お袋や使用人たちから正式に婚約できたのかと質問責めにあった。無事にできたと話すとみんは手放しで喜んだ。
――どんだけ我が家で人気なんだよ。
「よかった。直前でリリーちゃんの気が変わったらどうしようかと心配してたの」
「婚約は滞りなく結べた。しかしマーガレット、そうそう。面白い話が……」
「親父!喋るな!」
怒っている俺を見て、親父はプルプルと笑いを堪えている。お袋は怪訝な顔をして「どうせ碌でもないことでしょ? リリーちゃんに嫌われることしないでよね!」と呆れている。
リリーには嫌われていない、デューク様に嫌われただけと言いたいところをグッと我慢する。
「疲れたから寝る!」
そう言って自室に戻り、ベッドに横たわる。ずっと好きだったリリーとやっと婚約できた。めちゃくちゃ嬉しい……部屋に一人になると喜びが湧き上がってくる。
あと一年……一年で結婚。俺にとっては長いけど、彼女は恋人期間として楽しみたいと言っていた。そうだよな。
結婚したらすぐに子どもができるかもしれないし、ゆっくりデートできるのは今だけかもしれないもんな。
ん? いや、ちょっと待て。子ども……子どもができるってことは、リリーとそういうことをするってことだよな。
俺は寝室で彼女を組み敷き、今夜の俺のために身に付けてくれたであろう夜着を、そっと解いていく。
「ほら、全部見せて」
「恥ずかし……い」
「照れてる姿も可愛い。愛してるよ」
「私も愛してる。アイザックあの、私初めてだから優しくしてね」
「リリー……」
いやいやいや! 待て……俺はなにリアルな想像してんだよ。
もちろん男としての欲はあるけれど、ずっと好きだった大事な彼女を傷付けたくない。怖がらせたくもない。優しく……甘く……彼女に触れたい。
この純粋な恋心とは裏腹に、勝手にドクドクと熱が集まる自分の体に嫌気がさす。だが、急に俺は冷静になりガバッとベッドから起き上がった。
俺はキス止まりで、そういう経験は一切ない。年相応の好奇心はあれど、リリー以外と深い関係を持ちたいとは全く思えなかったからだ。
経験がないけどちゃんとできるのかな? でも初めては絶対に彼女以外あり得ない。
とりあえず結婚するまでに実践以外の勉強をしよう。一年あるし……うん、そうしよう。ふう、と息を吐き気持ちを落ち着かせる。
婚約指輪も買いに行かないとな。十歳の時の指輪は渡したが、あれは小さくて指にははめられない。
今度遊びに行くついでに見に行こう。俺たちは長い間無駄な喧嘩をしていたから、あまり二人で遊びに行ったりしたことがない。
これから一年間、二人でできる限り楽しもうと心に決めた。
あなたにおすすめの小説
〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。
藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。
但し、条件付きで。
「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」
彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。
だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全7話で完結になります。
【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました
恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」
交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。
でも、彼は悲しむどころか、見たこともない
暗い瞳で私を追い詰めた。
「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」
私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、
隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……
藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」
大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが……
ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。
「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」
エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。
エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話)
全44話で完結になります。
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む
浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。
「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」
一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。
傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語
【完結】小さなマリーは僕の物
miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。
彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。
しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。
※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)
【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~
Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。
だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと──
公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、
幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。
二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。
しかし、リリーベル十歳の誕生日。
嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、
リリーベルを取り巻く環境は一変する。
リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。
そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。
唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。
そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう……
そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は───
※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』
こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。
めちゃくちゃチートを発揮しています……
〖完結〗時戻りしたので、運命を変えることにします。
藍川みいな
恋愛
愛するグレッグ様と結婚して、幸せな日々を過ごしていた。
ある日、カフェでお茶をしていると、暴走した馬車が突っ込んで来た。とっさに彼を庇った私は、視力を失ってしまう。
目が見えなくなってしまった私の目の前で、彼は使用人とキスを交わしていた。その使用人は、私の親友だった。
気付かれていないと思った二人の行為はエスカレートしていき、私の前で、私のベッドで愛し合うようになっていった。
それでもいつか、彼は戻って来てくれると信じて生きて来たのに、親友に毒を盛られて死んでしまう。
……と思ったら、なぜか事故に会う前に時が戻っていた。
絶対に同じ間違いはしない。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全四話で完結になります。