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本編
8 ひとつに①
私達は毎晩一緒に寝るようになった。寝ると言っても添い寝だけれど。寝室で二人で話しながら、戯れ合う時間はとても楽しい。いつも私が先に寝てしまうのが悔しいけれど。
「ねえ、エルベルト様。私って食べるの遅いですか?」
「食べるスピード? 特に何も思わんが……」
「だって! エルベルト様は食べ終わった後、いつも私をじーっと見ながら待たれているので。それに出逢ってすぐの時に『食べるのが遅い』って仰っていたのを思い出して、少し気になってしまいまして」
彼は私の発言にさーっと青ざめた。
「それも誤解だ! 食べてる君を見ているのは、可愛いからだ」
「は?」
「もぐもぐと小さい口を動かして、美味しそうに食べる姿が好きなんだ。だから、つい見つめていた」
ふふふ……あれは見つめているつもりだったのか。睨んでいるように見えるので、てっきり『早く食べろ』の圧なのかと勘違いしていた。
「あの時食べるのが遅いと言ったのも、君が最後のデザートを食べる姿を見たいなと思ったからだ。あの時は仕事が立て込んでたから、君が食べてる途中に退席しなくてはいけなかったんだ。すまなかった。気にせずにゆっくり食べてくれ」
「ふふ、わかりました」
そんな風にこの一年のすれ違いを解決しながら、だんだん仲を深めていった。
そして口付けもこの数週間で徐々に大人のものに変化していった。彼はゆっくりじっくりと時間をかけて、慣れていない私に大人のキスを教えてくれたのだ。
「……クリスティン」
エルベルト様は甘い声で私の名前を呼んで、唇をトントンと舌でノックした。促されるまま、口を開けるとそのままぬるりと舌が中に入ってきた。
「ふっ……んんっ……!」
中で舌が絡み合ってすごくいやらしい。そして、とても恥ずかしいのにとても気持ちがいい。
ちゅっちゅっ……くちゅ……
「息は……鼻でするんだ」
そんなことを言われても、もう訳がわからないくらい頭がパニックだった。私はキスをしながら上手く鼻で息ができなかったのだ。
「ぷはっ。はぁっ……はぁっ……ごめんなさ……上手く……できませ……ん」
恥ずかしくて下を向くと、エルベルト様は私の濡れた唇をそっと指で拭いながら優しく微笑んだ。
「大丈夫だ。少しずつ慣れていく」
「……はい」
「もう一度」
「はい」
それから本当に毎日毎日、何度もキスを繰り返した。吸われすぎて、なんだか唇が熱っぽく感じる。
「気持ちいい?」
「ふっ……気持ち……いい……です」
「よかった。俺も……すごく気持ちがいい」
唇を食んだり、上顎を舌でなぞったり……たくさんのパターンを教わり、だんだん上手くできるように成長していった。
今では彼がしてくれる大人のキスに、ちゃんと応えられるようになっている。まだ、自分からするのは照れてしまってできていないけれど。
そんな日々を過ごし、今日はついに結婚披露パーティーの日。結婚一年記念日に可笑しな話だが、私達は最近やっとお互いの気持ちが通じたので……あながち間違っていないのかもしれない。
彼が用意してくれたウェディングドレスはとても素敵な物だった。使用人達は旦那様が女性の好みの物などわかるはずがないと……どんなドレスが届くか不安がっていたが、一目見ると『旦那様、やればできるんですね』と拍手を送っていた。
彼はセンスが悪いわけではない。だって自分の物は素敵な物を選んでいらっしゃるから。でも『女性が喜ぶ物』がよくわからないだけなのだ。
注文していただいたドレスはレースに白い薔薇が細かく刺繍されており、裾はふわふわと羽が舞うように動いて美しかった。私が着替え終わると、正装したエルベルト様が控室にやってきた。
「クリスティン……君はこの世の物とは思えぬほど美しいな」
彼は頬を染めながら、ボーッとドレス姿の私を見つめていた。
「ありがとうございます。エルベルト様、あなたもとても凛々しくて素敵です」
あの結婚式の日は、彼は何も言ってくれなかったので『美しい』と言われて嬉しくなった。ちなみにあの時も『もちろん綺麗だと思っていたが……君と結婚できるんだと感動して何も言葉が出なかった』らしいのだが。
彼は私の前に跪き、真っ白な薔薇のブーケを下さった。とても綺麗……それに私のドレスの刺繍とお揃いで嬉しくなる。
「クリスティン、その薔薇は二十四本ある。俺はいつ何時でも君のことを想っているよ。どうか……俺と本物の夫婦になって一生添い遂げて欲しい」
「はい」
私は嬉しくて涙が溢れる。お化粧が取れるので、泣いてはいけないのに止まらない。
「愛してるよ」
彼は嬉しそうに笑い、私の手の甲にチュッとキスをした。これは私が憧れていた騎士の正式な求婚申し込みだ。
すでに結婚しているので、変なのだが……私達にとっては変じゃない。私の準備を手伝ってくれていたノエルや他の侍女達も、涙を拭っていた。
「さあ、行こう。あいつらに見せるのは勿体ないが、俺の奥さんはこんなに素敵なんだとみんなに自慢したい」
彼にエスコートされて、結婚パーティーの会場へ入った。今日は騎士団の皆さんや、エルベルト様のお友達が沢山来てくださっている。お祝いなので、領民達にも酒やご飯が振る舞われるという盛大なイベントだ。
「クリスティン様、お綺麗です!」
「団長が優しいかどうかあなたにかかってます! ずっと仲良くいてください」
「エルベルト、幸せそうで良かったな」
「お似合いですよ!」
周囲から口々にお祝いの言葉をもらえる。エルベルト様はみんなの前ではキリッと……いや、かなり無愛想な『鬼』の顔に戻っているが私に話しかける時だけ視線も口調もかなり甘くなる。
「うわ、団長のあんな顔初めてみた」
「蕩けた優しい顔できるんだ」
「なんか胸焼けしそう」
……と、部下の皆様にはかなり驚かれた。しかし、エルベルト様は気にするのをやめたらしい。
「当たり前だ。この世で一番大事な妻に優しくしないでどうする?」
彼は堂々とそう言い放ち、私の頬にチュッとキスをして微笑んだ。私の顔は真っ赤に染まる。
「ひゅー! 団長、最高」
囃し立てられて、恥ずかしいが……私はこんなにも彼に愛されて幸せだ。その後もパーティーは盛り上がり楽しい時間を過ごした。
「ねえ、エルベルト様。私って食べるの遅いですか?」
「食べるスピード? 特に何も思わんが……」
「だって! エルベルト様は食べ終わった後、いつも私をじーっと見ながら待たれているので。それに出逢ってすぐの時に『食べるのが遅い』って仰っていたのを思い出して、少し気になってしまいまして」
彼は私の発言にさーっと青ざめた。
「それも誤解だ! 食べてる君を見ているのは、可愛いからだ」
「は?」
「もぐもぐと小さい口を動かして、美味しそうに食べる姿が好きなんだ。だから、つい見つめていた」
ふふふ……あれは見つめているつもりだったのか。睨んでいるように見えるので、てっきり『早く食べろ』の圧なのかと勘違いしていた。
「あの時食べるのが遅いと言ったのも、君が最後のデザートを食べる姿を見たいなと思ったからだ。あの時は仕事が立て込んでたから、君が食べてる途中に退席しなくてはいけなかったんだ。すまなかった。気にせずにゆっくり食べてくれ」
「ふふ、わかりました」
そんな風にこの一年のすれ違いを解決しながら、だんだん仲を深めていった。
そして口付けもこの数週間で徐々に大人のものに変化していった。彼はゆっくりじっくりと時間をかけて、慣れていない私に大人のキスを教えてくれたのだ。
「……クリスティン」
エルベルト様は甘い声で私の名前を呼んで、唇をトントンと舌でノックした。促されるまま、口を開けるとそのままぬるりと舌が中に入ってきた。
「ふっ……んんっ……!」
中で舌が絡み合ってすごくいやらしい。そして、とても恥ずかしいのにとても気持ちがいい。
ちゅっちゅっ……くちゅ……
「息は……鼻でするんだ」
そんなことを言われても、もう訳がわからないくらい頭がパニックだった。私はキスをしながら上手く鼻で息ができなかったのだ。
「ぷはっ。はぁっ……はぁっ……ごめんなさ……上手く……できませ……ん」
恥ずかしくて下を向くと、エルベルト様は私の濡れた唇をそっと指で拭いながら優しく微笑んだ。
「大丈夫だ。少しずつ慣れていく」
「……はい」
「もう一度」
「はい」
それから本当に毎日毎日、何度もキスを繰り返した。吸われすぎて、なんだか唇が熱っぽく感じる。
「気持ちいい?」
「ふっ……気持ち……いい……です」
「よかった。俺も……すごく気持ちがいい」
唇を食んだり、上顎を舌でなぞったり……たくさんのパターンを教わり、だんだん上手くできるように成長していった。
今では彼がしてくれる大人のキスに、ちゃんと応えられるようになっている。まだ、自分からするのは照れてしまってできていないけれど。
そんな日々を過ごし、今日はついに結婚披露パーティーの日。結婚一年記念日に可笑しな話だが、私達は最近やっとお互いの気持ちが通じたので……あながち間違っていないのかもしれない。
彼が用意してくれたウェディングドレスはとても素敵な物だった。使用人達は旦那様が女性の好みの物などわかるはずがないと……どんなドレスが届くか不安がっていたが、一目見ると『旦那様、やればできるんですね』と拍手を送っていた。
彼はセンスが悪いわけではない。だって自分の物は素敵な物を選んでいらっしゃるから。でも『女性が喜ぶ物』がよくわからないだけなのだ。
注文していただいたドレスはレースに白い薔薇が細かく刺繍されており、裾はふわふわと羽が舞うように動いて美しかった。私が着替え終わると、正装したエルベルト様が控室にやってきた。
「クリスティン……君はこの世の物とは思えぬほど美しいな」
彼は頬を染めながら、ボーッとドレス姿の私を見つめていた。
「ありがとうございます。エルベルト様、あなたもとても凛々しくて素敵です」
あの結婚式の日は、彼は何も言ってくれなかったので『美しい』と言われて嬉しくなった。ちなみにあの時も『もちろん綺麗だと思っていたが……君と結婚できるんだと感動して何も言葉が出なかった』らしいのだが。
彼は私の前に跪き、真っ白な薔薇のブーケを下さった。とても綺麗……それに私のドレスの刺繍とお揃いで嬉しくなる。
「クリスティン、その薔薇は二十四本ある。俺はいつ何時でも君のことを想っているよ。どうか……俺と本物の夫婦になって一生添い遂げて欲しい」
「はい」
私は嬉しくて涙が溢れる。お化粧が取れるので、泣いてはいけないのに止まらない。
「愛してるよ」
彼は嬉しそうに笑い、私の手の甲にチュッとキスをした。これは私が憧れていた騎士の正式な求婚申し込みだ。
すでに結婚しているので、変なのだが……私達にとっては変じゃない。私の準備を手伝ってくれていたノエルや他の侍女達も、涙を拭っていた。
「さあ、行こう。あいつらに見せるのは勿体ないが、俺の奥さんはこんなに素敵なんだとみんなに自慢したい」
彼にエスコートされて、結婚パーティーの会場へ入った。今日は騎士団の皆さんや、エルベルト様のお友達が沢山来てくださっている。お祝いなので、領民達にも酒やご飯が振る舞われるという盛大なイベントだ。
「クリスティン様、お綺麗です!」
「団長が優しいかどうかあなたにかかってます! ずっと仲良くいてください」
「エルベルト、幸せそうで良かったな」
「お似合いですよ!」
周囲から口々にお祝いの言葉をもらえる。エルベルト様はみんなの前ではキリッと……いや、かなり無愛想な『鬼』の顔に戻っているが私に話しかける時だけ視線も口調もかなり甘くなる。
「うわ、団長のあんな顔初めてみた」
「蕩けた優しい顔できるんだ」
「なんか胸焼けしそう」
……と、部下の皆様にはかなり驚かれた。しかし、エルベルト様は気にするのをやめたらしい。
「当たり前だ。この世で一番大事な妻に優しくしないでどうする?」
彼は堂々とそう言い放ち、私の頬にチュッとキスをして微笑んだ。私の顔は真っ赤に染まる。
「ひゅー! 団長、最高」
囃し立てられて、恥ずかしいが……私はこんなにも彼に愛されて幸せだ。その後もパーティーは盛り上がり楽しい時間を過ごした。
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