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本編
14 親友①
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色んなすれ違いも乗り越えて、私達は毎日とても仲良く過ごしている。最近の彼は外にいる時でも、私の前では甘い態度をとるようになった。
この前久しぶりに王都の舞踏会に参加した時は、みんながエルの雰囲気の変わりっぷりに驚いていた。
「クリス、どうか今夜君と踊る幸福を俺にくれないか」
「ええ、もちろんですわ」
甘く蕩けた声で私に優しく話しかけて、紳士なエスコートをして微笑みながら優雅に踊るエルを見て『鬼が鬼じゃなくなった』とみんなポカンとしていた。
本当は私と結婚する前から、エスコートもダンスもできる人だったが……無口で目つきが悪いため周囲からは浮いていたのだろう。
二人で陛下にご挨拶した時も「仲良くて何よりだ。まあ、エルベルトのその緩みきった顔は見てられないがな」とニヤリと笑っていた。
「いいんです。クリスを心から愛していますから。可愛い彼女を目の前にすると自然とこの顔になってしまいます」
「ちょっと、エル! 陛下の前で、そんな恥ずかしいこと言うのやめてください」
私は真っ赤になりながら、彼のことを見上げる。彼は「どうして?本当のことだ」とまた蕩けるような微笑みを見せた。
「ハッハッハ、まさかエルベルトが君の前では、そんな男になるとは愉快だ。私も良い縁を結んだものだ」
陛下は大声で笑いながら、とても楽しそうにしていらっしゃった。
最初はどうなることかと心配だった結婚も、今となっては最高の相手に巡り会えたと陛下には感謝している。
♢♢♢
エルと私がきちんと夫婦になってから、約半年が経過した。今もとても順調に仲良く暮らしている。むしろ仲良すぎて……ちょっと困るくらい。
「三日間も君に逢えないと思うと辛い」
エルは辺境伯として毎日忙しい。治めている領地は広く移動にもそれなりに時間がかかる。いちいち家に帰るのは時間のロスなので、頻繁に遠征になるのだ。そして魔物討伐も奥地に行く場合は日帰りは難しい。
「大丈夫ですよ。この前の一週間も耐えられたのですから」
「あれは死にそうだった! なんとかして君を小さくしてポケットに入れて持ち歩けないものか。それならばいくらでも頑張れるのに」
そんな意味不明なことを口走る彼に、苦笑いしながらよしよしと慰める。外では辺境伯として、騎士団のトップとしてキリッと凛々しく頑張っているエルが気を抜けるのは私の前だけなのだから……甘やかしてあげたい。
ちょっと『ポケットに入れて持ち歩く』の部分は理解できないし、真剣に考えると少し怖いので聞かなかったことにしている。
「ねえ、クリス? 逢えない三日分、たっぷりじっくり愛したい」
彼は急に色っぽく微笑み、わざと甘えるように擦り寄ってきた。そうなればもう彼のペースで、いつも私は意識がなくなるまで激しく愛される。
翌朝、動けないのでベッドからお見送りする羽目になるのだが彼は嬉しそうに「行ってきます。なるべく早く帰る」とキスをして仕事へ向かう。
そして帰ってきたら「寂しかった。だからこの三日分の補充させて」とまた私にちゅっちゅとキスをしてベッドに連れ込まれるのだ。
そして翌朝また起きれず……恥ずかしい思いをする。使用人達は「全部旦那様のせいですから、奥様は何も悪くありません」とニコニコと私を甘やかしてくれる。
「エル……行く前に三日分愛したのに、帰って三日分補充したら計算が合わなくないですか?」
また起きれなかった私は、恨みがましくじっと睨んでエルにそう言った。愛されるのは嬉しいが、加減をして欲しい。騎士の体力は半端ないのだから。
「おや……俺の奥様は可愛いだけじゃなく賢くて困るな」
私の髪をくるくると弄びながら、そんなことを言って楽しそうに笑っている。
「でも君を前にするとなぜか計算が狂うんだ。クリスが可愛すぎるせいだな」
彼は幸せそうに微笑みながら、私をギュッと抱きしめスリスリ頬擦りをしている。
だめだ……彼は全くやめる気はないらしい。私は無駄な抵抗はやめて、受け入れることにした。
♢♢♢
今日はエルが遠征から戻ってくる日。恥ずかしいけど……体力を残しておかないといけないと思い、朝からゆっくり過ごしている。
「奥様、お庭の薔薇が綺麗に咲いていましたよ」
「じゃあ、見に行ってみようかしら」
ノエルに教えて貰ったので、私は庭の散歩をすることにした。うわぁ……色とりどりの薔薇が咲き乱れている。とても綺麗。
これはエルが『君にいつも愛を伝えたい』と私のために作ってくれたのだ。花束じゃ俺の気持ちが足りないから庭を作る! と言っていたらしい。嬉しいけど恥ずかしい。
薔薇を堪能していると、後ろからガサガサと音がした。誰かいるのかと振り向くと、そこにはブロンドの綺麗な長髪をたなびかせた、アイスブルーの瞳の美しい男性が立っていた。
どなたかしら……なぜお庭に? ここに迷い込んで来られた? いや、でももしエルのお客様なら妻として丁寧に招かねばならない。
「あの」
「まさか君はクリスティン嬢!?」
彼は驚いたように目を見開き、私の名前を読んだ。結婚している私に『嬢』はおかしいけれど。
「えっ? は、はい。私をご存知でございますか?」
「ご存知もなにも。まじかよ! エルは? エルはどこにいる?」
「申し訳ございません、エルベルト様は仕事で出掛けております」
私はこの人は誰なのだろうかと困っていると、話し声に気が付いてオリバーが来てくれた。さすが!優秀な執事だわ。
「おお! オリバー、久しぶりだな」
彼はオリバーに親しそうに話し出した。やはり知り合いのようでホッと安心する。
「ジェフリー様! こちらにお戻りになられていたのですね。旦那様にご連絡は?」
「してない。驚かそうと思って黙って来たんだ。じゃあ……こんな面白そうなことになってて驚いたぞ! なんで俺はこの国を離れてたんだ。悔しい」
「奥様、このお方は旦那様の親友ジェフリー・ヒューストン様です」
「まあ、そうでしたの。ご挨拶が遅くなり申し訳ありませんでした。私は妻のクリスティンと申しますわ」
私はニコリと笑い、ドレスの裾を摘んでペコリとご挨拶をした。
「ジェフって呼んでくれ、よろしく。俺は陛下の側近をしているが、数年間他国に仕事へ行っていてね。今日、久々に戻ったんだ。いつ結婚を?」
なるほど。この国にいらっしゃらなかったのか。だから私達が結婚したことをご存知なかったのね。
「ジェフ様、大変でございましたね。結婚は一年半ほど前ですわ」
まあ……ちゃんとした夫婦になったのは、最近ですけれど。
それからはここで話すのも何なので、家の中にお招きしお茶をすることにした。ノエルもジェフ様をよく知っているようで、楽しそうに話していた。
彼はとてもお話上手だった。エルと若い頃に王都できつい騎士の訓練を受けて仲良くなったことや、そこでの失敗話を面白おかしく語り……また他国での珍しい動物や食べ物の話などをして色々楽しませてくださった。
「クリスティンちゃん、あいつは君を溺愛してるだろ? 昔から君を『好き、好き』言っていた。毎日相手すんの大変じゃない?」
「あー……いや、はい。大事にしてもらっています」
私は急にそんなことを言われて、恥ずかしくなった。
「あいつのやばい趣味知ってる? クリスティンちゃんと付き合う前から、君へのプレゼントを買ってたんだぜ。王都では鬼とか言われて恐れられてるのに、ムッツリの変態だよな」
ジェフ様はお腹を抱えてゲラゲラと笑っている。ああ、彼はそのこともご存知なのか。
「何年か前にあいつがさー、うさぎのぬいぐるみを街中のアンティークショップで買ったんだよ……じゃあ結婚もしてないのに辺境伯には隠し子がいるって領民達の噂になったんだ。俺はもう可笑しくって……くくくっ、あいつ可愛すぎるだろ?」
ええっ! それは私がいただいたあのうさぎさんのことだ。確かにあの屈強で無愛想なエルが、街中でぬいぐるみを買っている様子は目を引くだろう。でもまさか隠し子疑惑が出てたなんて。
「オリバーが必死に揉み消してさ。あのぬいぐるみは親戚の子どもにやるんだとか言って……くっくっく」
私はオリバーを見ると、彼は少し困ったような顔で曖昧に微笑んでいた。
「そのぬいぐるみ、私が持っています」
「本当に? はっはっは、大人のレディにぬいぐるみは無いと伝えたんだけどな。あいつを甘やかしてはいけないよ。いらないものはいらないと言って、男としてちゃんと躾けないと」
ジェフ様は私に向かってパチンとウィンクして、妖艶に微笑んだ。
「いえ……エルが初めて私に選んでくれたものなので、今も大切にしています」
私は頬を真っ赤に染めながらそう言うと、彼は嬉しそうに微笑んだ。
「そうか。エルは君のような女性と結婚できて、本当に幸せ者だな」
彼は優雅に紅茶を飲み、それからも他愛ない話をしながらエルの帰りを待った。
この前久しぶりに王都の舞踏会に参加した時は、みんながエルの雰囲気の変わりっぷりに驚いていた。
「クリス、どうか今夜君と踊る幸福を俺にくれないか」
「ええ、もちろんですわ」
甘く蕩けた声で私に優しく話しかけて、紳士なエスコートをして微笑みながら優雅に踊るエルを見て『鬼が鬼じゃなくなった』とみんなポカンとしていた。
本当は私と結婚する前から、エスコートもダンスもできる人だったが……無口で目つきが悪いため周囲からは浮いていたのだろう。
二人で陛下にご挨拶した時も「仲良くて何よりだ。まあ、エルベルトのその緩みきった顔は見てられないがな」とニヤリと笑っていた。
「いいんです。クリスを心から愛していますから。可愛い彼女を目の前にすると自然とこの顔になってしまいます」
「ちょっと、エル! 陛下の前で、そんな恥ずかしいこと言うのやめてください」
私は真っ赤になりながら、彼のことを見上げる。彼は「どうして?本当のことだ」とまた蕩けるような微笑みを見せた。
「ハッハッハ、まさかエルベルトが君の前では、そんな男になるとは愉快だ。私も良い縁を結んだものだ」
陛下は大声で笑いながら、とても楽しそうにしていらっしゃった。
最初はどうなることかと心配だった結婚も、今となっては最高の相手に巡り会えたと陛下には感謝している。
♢♢♢
エルと私がきちんと夫婦になってから、約半年が経過した。今もとても順調に仲良く暮らしている。むしろ仲良すぎて……ちょっと困るくらい。
「三日間も君に逢えないと思うと辛い」
エルは辺境伯として毎日忙しい。治めている領地は広く移動にもそれなりに時間がかかる。いちいち家に帰るのは時間のロスなので、頻繁に遠征になるのだ。そして魔物討伐も奥地に行く場合は日帰りは難しい。
「大丈夫ですよ。この前の一週間も耐えられたのですから」
「あれは死にそうだった! なんとかして君を小さくしてポケットに入れて持ち歩けないものか。それならばいくらでも頑張れるのに」
そんな意味不明なことを口走る彼に、苦笑いしながらよしよしと慰める。外では辺境伯として、騎士団のトップとしてキリッと凛々しく頑張っているエルが気を抜けるのは私の前だけなのだから……甘やかしてあげたい。
ちょっと『ポケットに入れて持ち歩く』の部分は理解できないし、真剣に考えると少し怖いので聞かなかったことにしている。
「ねえ、クリス? 逢えない三日分、たっぷりじっくり愛したい」
彼は急に色っぽく微笑み、わざと甘えるように擦り寄ってきた。そうなればもう彼のペースで、いつも私は意識がなくなるまで激しく愛される。
翌朝、動けないのでベッドからお見送りする羽目になるのだが彼は嬉しそうに「行ってきます。なるべく早く帰る」とキスをして仕事へ向かう。
そして帰ってきたら「寂しかった。だからこの三日分の補充させて」とまた私にちゅっちゅとキスをしてベッドに連れ込まれるのだ。
そして翌朝また起きれず……恥ずかしい思いをする。使用人達は「全部旦那様のせいですから、奥様は何も悪くありません」とニコニコと私を甘やかしてくれる。
「エル……行く前に三日分愛したのに、帰って三日分補充したら計算が合わなくないですか?」
また起きれなかった私は、恨みがましくじっと睨んでエルにそう言った。愛されるのは嬉しいが、加減をして欲しい。騎士の体力は半端ないのだから。
「おや……俺の奥様は可愛いだけじゃなく賢くて困るな」
私の髪をくるくると弄びながら、そんなことを言って楽しそうに笑っている。
「でも君を前にするとなぜか計算が狂うんだ。クリスが可愛すぎるせいだな」
彼は幸せそうに微笑みながら、私をギュッと抱きしめスリスリ頬擦りをしている。
だめだ……彼は全くやめる気はないらしい。私は無駄な抵抗はやめて、受け入れることにした。
♢♢♢
今日はエルが遠征から戻ってくる日。恥ずかしいけど……体力を残しておかないといけないと思い、朝からゆっくり過ごしている。
「奥様、お庭の薔薇が綺麗に咲いていましたよ」
「じゃあ、見に行ってみようかしら」
ノエルに教えて貰ったので、私は庭の散歩をすることにした。うわぁ……色とりどりの薔薇が咲き乱れている。とても綺麗。
これはエルが『君にいつも愛を伝えたい』と私のために作ってくれたのだ。花束じゃ俺の気持ちが足りないから庭を作る! と言っていたらしい。嬉しいけど恥ずかしい。
薔薇を堪能していると、後ろからガサガサと音がした。誰かいるのかと振り向くと、そこにはブロンドの綺麗な長髪をたなびかせた、アイスブルーの瞳の美しい男性が立っていた。
どなたかしら……なぜお庭に? ここに迷い込んで来られた? いや、でももしエルのお客様なら妻として丁寧に招かねばならない。
「あの」
「まさか君はクリスティン嬢!?」
彼は驚いたように目を見開き、私の名前を読んだ。結婚している私に『嬢』はおかしいけれど。
「えっ? は、はい。私をご存知でございますか?」
「ご存知もなにも。まじかよ! エルは? エルはどこにいる?」
「申し訳ございません、エルベルト様は仕事で出掛けております」
私はこの人は誰なのだろうかと困っていると、話し声に気が付いてオリバーが来てくれた。さすが!優秀な執事だわ。
「おお! オリバー、久しぶりだな」
彼はオリバーに親しそうに話し出した。やはり知り合いのようでホッと安心する。
「ジェフリー様! こちらにお戻りになられていたのですね。旦那様にご連絡は?」
「してない。驚かそうと思って黙って来たんだ。じゃあ……こんな面白そうなことになってて驚いたぞ! なんで俺はこの国を離れてたんだ。悔しい」
「奥様、このお方は旦那様の親友ジェフリー・ヒューストン様です」
「まあ、そうでしたの。ご挨拶が遅くなり申し訳ありませんでした。私は妻のクリスティンと申しますわ」
私はニコリと笑い、ドレスの裾を摘んでペコリとご挨拶をした。
「ジェフって呼んでくれ、よろしく。俺は陛下の側近をしているが、数年間他国に仕事へ行っていてね。今日、久々に戻ったんだ。いつ結婚を?」
なるほど。この国にいらっしゃらなかったのか。だから私達が結婚したことをご存知なかったのね。
「ジェフ様、大変でございましたね。結婚は一年半ほど前ですわ」
まあ……ちゃんとした夫婦になったのは、最近ですけれど。
それからはここで話すのも何なので、家の中にお招きしお茶をすることにした。ノエルもジェフ様をよく知っているようで、楽しそうに話していた。
彼はとてもお話上手だった。エルと若い頃に王都できつい騎士の訓練を受けて仲良くなったことや、そこでの失敗話を面白おかしく語り……また他国での珍しい動物や食べ物の話などをして色々楽しませてくださった。
「クリスティンちゃん、あいつは君を溺愛してるだろ? 昔から君を『好き、好き』言っていた。毎日相手すんの大変じゃない?」
「あー……いや、はい。大事にしてもらっています」
私は急にそんなことを言われて、恥ずかしくなった。
「あいつのやばい趣味知ってる? クリスティンちゃんと付き合う前から、君へのプレゼントを買ってたんだぜ。王都では鬼とか言われて恐れられてるのに、ムッツリの変態だよな」
ジェフ様はお腹を抱えてゲラゲラと笑っている。ああ、彼はそのこともご存知なのか。
「何年か前にあいつがさー、うさぎのぬいぐるみを街中のアンティークショップで買ったんだよ……じゃあ結婚もしてないのに辺境伯には隠し子がいるって領民達の噂になったんだ。俺はもう可笑しくって……くくくっ、あいつ可愛すぎるだろ?」
ええっ! それは私がいただいたあのうさぎさんのことだ。確かにあの屈強で無愛想なエルが、街中でぬいぐるみを買っている様子は目を引くだろう。でもまさか隠し子疑惑が出てたなんて。
「オリバーが必死に揉み消してさ。あのぬいぐるみは親戚の子どもにやるんだとか言って……くっくっく」
私はオリバーを見ると、彼は少し困ったような顔で曖昧に微笑んでいた。
「そのぬいぐるみ、私が持っています」
「本当に? はっはっは、大人のレディにぬいぐるみは無いと伝えたんだけどな。あいつを甘やかしてはいけないよ。いらないものはいらないと言って、男としてちゃんと躾けないと」
ジェフ様は私に向かってパチンとウィンクして、妖艶に微笑んだ。
「いえ……エルが初めて私に選んでくれたものなので、今も大切にしています」
私は頬を真っ赤に染めながらそう言うと、彼は嬉しそうに微笑んだ。
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