【完結】望まれて鬼の辺境伯に嫁いだはずなのですが、愛されていないようなので別れたい

大森 樹

文字の大きさ
15 / 32
本編

15 親友②【エルベルト視点】

しおりを挟む
 俺は今、領地の森の奥の魔物討伐に来ている。今日が三日目の最終日。順調に倒せているので夕方には家に戻れそうだ。

 クリスと身も心も結ばれてから、俺はより一層彼女が愛おしくて堪らなくなった。可愛くて仕方がない。そして甘い彼女を余すことなく愛したい。

 今まで我慢していた反動なのか、十代のガキのように盛っている自分に呆れてしまう。華奢な彼女の身体にあまり負担をかけてはいけないと思うが……クリスを前にすると堪えきれなくなるのだ。

「しつこいと嫌われないようにしないとな」

 俺は彼女に嫌われたくない。毎日逢っている時は大丈夫だが、数日逢わないとより愛が暴走してしまう。とりあえず落ち着いて……今夜は優しく彼女を愛そうと心に決めて家に帰った。

「旦那様、お帰りなさいませ」
「ああ、オリバー。今、帰った。クリスはどうしたんだ?」

 いつも笑顔で出迎えてくれる彼女がいない。それだけで俺の気分は滅入ってしまう。そして……一体どうしたのかと心配になった。

「奥様は来客対応中でございます」
「……来客?」
「はい、ジェフリー様が旦那様に会いに来られていらっしゃいます」

 ジェフが来ているだと!? そしてクリスと二人で話していると言うのか。

「ジェフが? チッ……あいつ何の連絡もよこさず、しかも俺がいないタイミングで来やがって」
「旦那様を驚かせたかったそうです」
「あいつらしいな。客間か?」
「はい」

 ジェフに会えるのは素直に嬉しい。数年ぶりの親友との再会だし、あいつはクリスとのことを応援してくれていたから。でも、あいつは女たらしだ。クリスに手を出すとは思えないが、それでも二人でいて欲しくない!

 俺はドスドスと音を立てながら、急いで客間に向かった。

「んっ……ジェフ様、痛いです」
「初めは痛いんだ、我慢だよ。何度もしてたら柔らかくなるからね」
「ふっ……んんっ……できました」

 ちょっと待て。客間から聴こえてくるこの艶かしい妻の声はなんだ?

「ああ、とても上手だよ。でもエルは教えてくれなかったのか?」

 何が上手なんだ。何が? まさかジェフの奴……クリスに変なことしてないだろうな。最悪の想像をして俺はサーっと青ざめた。

「教えて……もらってません」
「あいつはだめだな。いいよ、俺が手取り足取り教えてあげる」

 俺はそこで我慢できず、バンと扉を開けた。

「クリス! 一体何をしてる…………んだ?」

 そこにはクリスが男装のようなパンツスタイルで立っていて、武道の組み合いのようなことをジェフとしていた。もちろん近くには使用人達もいる。

「あ! エル、お帰りなさいませ。ごめんなさい、こんな姿な上にお出迎えもできずに」

 彼女はぱぱっと身だしなみを整え、恥ずかしそうに俯いた。

 ――可愛い。彼女のパンツスタイルは初めて見たがこれはこれでグッとくる。

 俺がジーッと見惚れていると、ジェフに背中を強く叩かれた。

「エル、久々の親友にお帰りの言葉ないわけ?」
「……久しぶりだな。だが、なに勝手に来てんだよ。クリスに近付くな。何やってんだ?」
「つれないね。何って護身術だよ。お前なんで教えとかないんだよ。結局いつでも女や子どもが狙われるんだぜ? 身を守るために必要だろ」

 俺はギロリとジェフを睨みつけた。とりあえず変なことをしてなくて良かった。

「不機嫌じゃね? あ……俺とクリスティンちゃんが、二人でいけないことしてると思って妬いたんだろー? やらしーな」
「いけないこと?」

 クリスはポカンとして首を捻っている。うん……可愛いクリスは何も知らなくていい。ジェフが俺の頬を指でつんつん突きながら、ニヤニヤと笑っているのが腹が立つ。

「クリスには、護衛をつけてるから必要ない。一緒にいる時は俺が守る」
「そーかい、そーかい。でも知っていて損はない。クリスティンちゃん、暴漢に襲われたら攻撃に怯んじゃダメだ。そしてあとはひたすら逃げろ。男なら絶対に下半身、あとは目を狙え」
「は、はい!」

 クリスはなかなか物騒なことを教わっているらしい。しかし、確かに知っていてもいいかもしれない。

「抱きつかれた時に腕から抜けるやり方は、さっき練習した通りだからね」
「はい」
「エル! 後ろから抱きつけ。さあ、クリスティンちゃんは復習だよ」

 俺は言われるがままそっと後ろから彼女を抱きしめるとひゅっと彼女がしゃがんだと思った瞬間、こつんと顎に頭突きをされた。痛い……

「上手い、上手い! 本来ならここで足を思いっきり踏み抜けば完璧だ。暴漢じゃなくても、これで旦那がまとわりついてうざい時にも逃げられるよ」

 こいつはそんな恐ろしいことを言って、ケラケラと笑っている。毎回これをされたら、俺の心が折れる。

「エルにそんなことしませんわ」
「ははは、喧嘩した時に使えるから」
「……お願いだからやめてくれ」

 三人で笑い合い、それからクリスは服を着替えてくると部屋に戻って行った。

 二人きりになると、ジェフは急に真面目な顔になった。

「おめでとう。お前が幸せそうで安心した」
「ありがとう。お前に一番に伝えられなかったのが、残念だった。長い任務ご苦労だったな」
「ああ。居場所を言うわけには行かなかったからな。クリスティンちゃんには、俺は陛下の側近とだけ言ってある」
「わかった」

 この男は、陛下の側近なことは間違いない。だが、本当は王家の密偵だ。今回は他国に数年潜入していた。

 ジェフリー・ヒューストンは俺と同じ年で、歴史ある公爵家の三男。剣の腕と社交性の高さ、そして見目麗しい容姿でいくつもの顔と名を使い分け密偵をしている男だ。

 そしてその職業柄、堕とせない女はいないと言うほどのプレイボーイだ。色んなことを探る上で『女』が一番大事らしく、調べたい男の女に近付くのが一番手っ取り早いそうだ。男は惚れた女には何でも話してる……らしい。

「でももっと彼女を気をつけてやれ。もし俺が敵でお前の情報を得たいなら、絶対にクリスティンちゃんを狙う。人質としても価値があるしな」
「……わかった。護衛も強化する」
「よかったな。絶対結ばれるのは無理だと思ってたわ」
「ああ。結局……陛下の口添えだがな」
「そうか。でも始まりなんて、なんでもいいじゃねぇか。可愛い嫁が来てこの家も華やかになった。使用人達もみんな嬉しそうだ」

 ジェフはニッと笑った後「俺も若い嫁が欲しいわ」と思ってもいないことを言っていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

初恋をこじらせた騎士軍師は、愛妻を偏愛する ~有能な頭脳が愛妻には働きません!~

如月あこ
恋愛
 宮廷使用人のメリアは男好きのする体型のせいで、日頃から貴族男性に絡まれることが多く、自分の身体を嫌っていた。  ある夜、悪辣で有名な貴族の男に王城の庭園へ追い込まれて、絶体絶命のピンチに陥る。  懸命に守ってきた純潔がついに散らされてしまう! と、恐怖に駆られるメリアを助けたのは『騎士軍師』という特別な階級を与えられている、策士として有名な男ゲオルグだった。  メリアはゲオルグの提案で、大切な人たちを守るために、彼と契約結婚をすることになるが――。    騎士軍師(40歳)×宮廷使用人(22歳)  ひたすら不器用で素直な二人の、両片想いむずむずストーリー。 ※ヒロインは、むちっとした体型(太っているわけではないが、本人は太っていると思い込んでいる)

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

余命わずかな私は、好きな人に愛を伝えて素っ気なくあしらわれる日々を楽しんでいる

ラム猫
恋愛
 王城の図書室で働くルーナは、見た目には全く分からない特殊な病により、余命わずかであった。悲観はせず、彼女はかねてより憧れていた冷徹な第一騎士団長アシェンに毎日愛を告白し、彼の困惑した反応を見ることを最後の人生の楽しみとする。アシェンは一貫してそっけない態度を取り続けるが、ルーナのひたむきな告白は、彼の無関心だった心に少しずつ波紋を広げていった。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも同じ作品を投稿しています ※全十七話で完結の予定でしたが、勝手ながら二話ほど追加させていただきます。公開は同時に行うので、完結予定日は変わりません。本編は十五話まで、その後は番外編になります。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~

藤 ゆみ子
恋愛
 グラーツ公爵家に嫁いたティアは、夫のシオンとは白い結婚を貫いてきた。  それは、シオンには幼馴染で騎士団長であるクラウドという愛する人がいるから。  二人の尊い関係を眺めることが生きがいになっていたティアは、この結婚生活に満足していた。  けれど、シオンの父が亡くなり、公爵家を継いだことをきっかけに離縁することを決意する。  親に決められた好きでもない相手ではなく、愛する人と一緒になったほうがいいと。  だが、それはティアの大きな勘違いだった。  シオンは、ティアを溺愛していた。  溺愛するあまり、手を出すこともできず、距離があった。  そしてシオンもまた、勘違いをしていた。  ティアは、自分ではなくクラウドが好きなのだと。  絶対に振り向かせると決意しながらも、好きになってもらうまでは手を出さないと決めている。  紳士的に振舞おうとするあまり、ティアの勘違いを助長させていた。    そして、ティアの離縁大作戦によって、二人の関係は少しずつ変化していく。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

処理中です...