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番外編
そのままの君が好き①【エルベルト視点】
「なぜだ! 俺は……俺はこんなにクリスを愛してるのに。顔か……顔がダメなのか……」
ドンっと机にグラスを置き、強めの酒を一気に飲み干した。こんなの酔わないとやっていられない。
「いきなり会いに来たと思ったら、なんなんだよ?」
はぁ……と嫌そうな顔でため息をつき、ジェフがこちらをチラリと見た。
「今夜はエミリーちゃんとデートだったんだけど?」
「また知らない女……エミリーとかいう女と俺とどっちが大事なんだ!? お前は傷付いた親友を捨てて女のところへ行くのか!」
今の俺は自分が面倒くさいことはわかっている。わかっているが、一人では抱えきれず仕事終わりにステラでわざわざジェフのところまで駆けて来たのだ。こいつが辺境伯領の近くで仕事をしていて良かった。話くらい聞いて欲しい。
「エミリーちゃんのが大事に決まってんだろ!」
「なんだと?」
「誰がこんな大男のうじうじした姿見て酒飲みたいんだよ! 美人で柔らかい女の子と過ごす方が有意義だ。俺の貴重な時間を奪うなら、なにがあったか話せ」
苛ついたジェフにそう言われて、クリスが俺の仕事中に若い美男子と街で密会していたことを話した。
「クリスティンちゃんが浮気なんて考えられないけど? 友達じゃねぇの?」
「知らない顔だった。しかもお互い微笑み合って、その男は……クリスのおでこにキスしていた」
俺はその光景を思い出しただけで、怒りと哀しみで拳が震えてくる。
「へぇ、それを黙って見てたんだ? 出て行けばよかっただろ。お前に勝てるやつはそう居ない」
俺はそう言われて、無言で酒を飲んだ。そうだ……本当なら俺が出て行って『俺の妻に何の用だ』と言えばよかったのだ。だが、それは出来なかった。いや、する勇気がなかった。普段ならすぐに出て行っているが……今は彼女が俺を好きなのか自信がない。
なぜならこの数週間、彼女は俺に抱かれるのを急に拒否しだしたからだ。最初は疲れているのかな、とか昨日激しくしたせいかな? とか心配していたが、あまりに何日も続くのでどうやら違う理由な気がしていた。
――俺に触れられたくない。
もしかして、彼女に好きな男が出来たのではないか。だから俺と寝るのが急に嫌になったのではないか。そう思うと不安でいっぱいになった。
無理矢理押し倒す勇気も、なぜ拒否するのか咎める勇気もなかった。
だってもしクリスに『ごめんなさい、彼のことを好きなったのです。別れて下さい』とでも言われたら俺は生きていけない。彼女が誰を好きでも、例え俺のことを好きじゃなくなったとしても……俺はクリスと別れられない。絶対に別れない。
その死刑宣告をハッキリ聞くくらいなら、抱けなくても今の曖昧な状態の方がいい。だって彼女は大変な女主人としての仕事を器用にこなし、俺を出迎え他愛無い話をしながら一緒に食事を取ってくれる。それに抱くのは嫌がられるがハグやキスは受け入れてくれている。
――充分幸せではないか。
クリスと俺は歳の差がある。しかも、王命による無理矢理な結婚だ。無垢な彼女は俺しか知らなかった。だから俺の一方的な愛を、受け入れてくれたのだ。若い彼女が……結婚後に本当の恋を知ってもおかしくはない。
「すごく綺麗な男だったんだ。華奢で……役者のように整った顔だった。もしクリスがああいう男が好みなら、俺に勝ち目はない」
なんだか自分で言っていて哀しくなってきた。しかしそもそも彼女の生家であるエメット家は文官家系で、義父上も義兄上も細身だ。結婚するまで『こんなに身体の大きな方を間近で見たことなかったので、正直驚きました』と以前クリスに言われたことがある。
つまり、クリスは本当は細い華奢な男が好きなのだろう。そりゃ二人でイチャイチャしてる時は『エルは逞しくて素敵です』なんて褒めてくれていたけれど。しかし冷静にみると俺は身体も傷だらけだし、背はデカイし全体的に筋肉質……都会育ちのお嬢様なクリスが好きになる容姿ではない。
「クリスティンちゃんが男前好きなら、俺に初めて会った時にもっとトキメクはずだろ? 俺に見向きもしなかったから……絶対にその線はない!」
こいつがハッキリ言い切る自信は何処からくるんだ? と思わなくはないが、確かにそうだ。こいつはモテるし、王都一の男前だ。なのにクリスはジェフが来た時も『異性』として興味がなさそうだった。それどころか、むしろ……俺にもっと構って欲しかったと可愛く甘えてくれた。
「てゆーか、知らない男と会ってただけだろ? 絶対クリスティンちゃんの友達か知り合いだ! 別に他に何か不安があるわけじゃないんだろ」
「それなら何でクリスは俺を拒むんだ!」
さらに酒を飲み、ドンッとグラスを机に乱暴に置いた。そしてその後に俺は言わなくていいことを口走ったことに気がつき、サーっと青ざめた。
「……え、お前拒否られてんの?」
ジェフは憐れみの瞳で、俺を見つめた。やはり俺は酔っているらしい。妻に相手にしてもらえないなんて……男として恥ずかしいことをこいつにバラしてしまうなんて。だが、本当は……辛くて誰かに相談したかった。
「……急に拒まれだした。彼女は『疲れた』と言うが本当の理由はわからない」
「お前がしつこいから加減しろって意味じゃねぇの?」
ジェフは酒の氷をカラカラと鳴らしながら、わざと揶揄うようにくくっと笑った。
「俺も最初はそうかと思った。彼女は俺が留守しがちなのに女主人として立派に務めてくれて、その上俺の相手を毎晩のようにして……疲れさせたのだろうと。でも……もう二週間も経つ」
「二週間ねぇ……」
「だから、他に好きな男ができたのかと思った。きっと俺に抱かれるのが嫌になったんだ」
俺は机にガンッと額を打ちつけた。なんだか泣きそうだ……情けなさすぎて、ジェフに今の顔を見られたくない。彼はそんな俺の背中をバシバシ叩いた。
「今夜は親友の俺が特別に奢ってやるよ! お姉様系の美人がいいか? それとも嫁に似た可愛い系? いっそのこと清楚系にするって手もあるな」
「……は?」
「安心しろ。みんなテクニックはプロ級だし、顔面偏差値の高い女ばかりだからお前も満足する」
ニコニコと笑っているジェフを、ギロリと睨みつける。
「……なんの話だ」
「お前が欲求不満だから、サクッと解消しに行こうぜ」
「行くわけないだろ! 俺は一生クリスしか愛さないと決めている」
そう言い切った俺をチラリと見て、ジェフはくくっと笑った。
「お前は相変わらずブレないな」
「もし彼女が俺のことを好きじゃなくても……俺は死ぬまでクリスが好きだ」
そう言って俺はまたズブズブと机に沈み込んだ。ジェフは首を傾げながらゔーん、と何かを考え込んでいる。
「お前さ、全体的に避けられてるわけ? 話したりは?」
「それは普通にしてくれる」
「じゃあ夜だけってことか? キスとかハグは?」
「……してる」
そう、俺の違和感もそこだ。俺の全てを拒否されるなら、別の男ができたとか嫌われたとかまだ納得ができる。しかし彼女は『夜の営み』以外は全ていつも通りなのだ。そこが謎だ。
「ふーん、それはおかしいな。キスって濃厚なのだろ?」
「まぁ……それなりに」
本当はそれなりどころではない。彼女が俺から離れていきそうなのが怖くて『しなくても一緒に寝たい』と頼み、毎晩抱きしめて寝ている。そして抱けない代わりに、寝る前に蕩けるように濃厚な口付けをしている。
あわよくばその流れで愛し合えないか……という下心があったのだが、成功したことはない。彼女も頬を染めとろんと気持ちよさそうな顔をしてくれるのに、ある程度のところでぐっと胸を押され『おやすみなさい』と言われるのだ。俺は昂った熱を抑えられず、眠れない日々が続いた。
「女は好きじゃない男にキスなんてさせない。お前はまだ大丈夫だ」
「キスくらい情があればできるじゃないか?」
クリスと結婚をしているのだから、俺への情くらいはあると信じたい。
「お前はわかってないな。女に振られる一番の予兆は、キスを避けられることだ。女は好きじゃない男とキスなんて気持ち悪いんだ」
「気持ち悪い……」
「だから、良かったな? まだクリスティンちゃんはお前を好きだ。取り返しが付かなくなる前に、さっさと話し合え」
俺はその言葉に少しの希望を感じて、彼女と話し合うことを心に決めた。
ドンっと机にグラスを置き、強めの酒を一気に飲み干した。こんなの酔わないとやっていられない。
「いきなり会いに来たと思ったら、なんなんだよ?」
はぁ……と嫌そうな顔でため息をつき、ジェフがこちらをチラリと見た。
「今夜はエミリーちゃんとデートだったんだけど?」
「また知らない女……エミリーとかいう女と俺とどっちが大事なんだ!? お前は傷付いた親友を捨てて女のところへ行くのか!」
今の俺は自分が面倒くさいことはわかっている。わかっているが、一人では抱えきれず仕事終わりにステラでわざわざジェフのところまで駆けて来たのだ。こいつが辺境伯領の近くで仕事をしていて良かった。話くらい聞いて欲しい。
「エミリーちゃんのが大事に決まってんだろ!」
「なんだと?」
「誰がこんな大男のうじうじした姿見て酒飲みたいんだよ! 美人で柔らかい女の子と過ごす方が有意義だ。俺の貴重な時間を奪うなら、なにがあったか話せ」
苛ついたジェフにそう言われて、クリスが俺の仕事中に若い美男子と街で密会していたことを話した。
「クリスティンちゃんが浮気なんて考えられないけど? 友達じゃねぇの?」
「知らない顔だった。しかもお互い微笑み合って、その男は……クリスのおでこにキスしていた」
俺はその光景を思い出しただけで、怒りと哀しみで拳が震えてくる。
「へぇ、それを黙って見てたんだ? 出て行けばよかっただろ。お前に勝てるやつはそう居ない」
俺はそう言われて、無言で酒を飲んだ。そうだ……本当なら俺が出て行って『俺の妻に何の用だ』と言えばよかったのだ。だが、それは出来なかった。いや、する勇気がなかった。普段ならすぐに出て行っているが……今は彼女が俺を好きなのか自信がない。
なぜならこの数週間、彼女は俺に抱かれるのを急に拒否しだしたからだ。最初は疲れているのかな、とか昨日激しくしたせいかな? とか心配していたが、あまりに何日も続くのでどうやら違う理由な気がしていた。
――俺に触れられたくない。
もしかして、彼女に好きな男が出来たのではないか。だから俺と寝るのが急に嫌になったのではないか。そう思うと不安でいっぱいになった。
無理矢理押し倒す勇気も、なぜ拒否するのか咎める勇気もなかった。
だってもしクリスに『ごめんなさい、彼のことを好きなったのです。別れて下さい』とでも言われたら俺は生きていけない。彼女が誰を好きでも、例え俺のことを好きじゃなくなったとしても……俺はクリスと別れられない。絶対に別れない。
その死刑宣告をハッキリ聞くくらいなら、抱けなくても今の曖昧な状態の方がいい。だって彼女は大変な女主人としての仕事を器用にこなし、俺を出迎え他愛無い話をしながら一緒に食事を取ってくれる。それに抱くのは嫌がられるがハグやキスは受け入れてくれている。
――充分幸せではないか。
クリスと俺は歳の差がある。しかも、王命による無理矢理な結婚だ。無垢な彼女は俺しか知らなかった。だから俺の一方的な愛を、受け入れてくれたのだ。若い彼女が……結婚後に本当の恋を知ってもおかしくはない。
「すごく綺麗な男だったんだ。華奢で……役者のように整った顔だった。もしクリスがああいう男が好みなら、俺に勝ち目はない」
なんだか自分で言っていて哀しくなってきた。しかしそもそも彼女の生家であるエメット家は文官家系で、義父上も義兄上も細身だ。結婚するまで『こんなに身体の大きな方を間近で見たことなかったので、正直驚きました』と以前クリスに言われたことがある。
つまり、クリスは本当は細い華奢な男が好きなのだろう。そりゃ二人でイチャイチャしてる時は『エルは逞しくて素敵です』なんて褒めてくれていたけれど。しかし冷静にみると俺は身体も傷だらけだし、背はデカイし全体的に筋肉質……都会育ちのお嬢様なクリスが好きになる容姿ではない。
「クリスティンちゃんが男前好きなら、俺に初めて会った時にもっとトキメクはずだろ? 俺に見向きもしなかったから……絶対にその線はない!」
こいつがハッキリ言い切る自信は何処からくるんだ? と思わなくはないが、確かにそうだ。こいつはモテるし、王都一の男前だ。なのにクリスはジェフが来た時も『異性』として興味がなさそうだった。それどころか、むしろ……俺にもっと構って欲しかったと可愛く甘えてくれた。
「てゆーか、知らない男と会ってただけだろ? 絶対クリスティンちゃんの友達か知り合いだ! 別に他に何か不安があるわけじゃないんだろ」
「それなら何でクリスは俺を拒むんだ!」
さらに酒を飲み、ドンッとグラスを机に乱暴に置いた。そしてその後に俺は言わなくていいことを口走ったことに気がつき、サーっと青ざめた。
「……え、お前拒否られてんの?」
ジェフは憐れみの瞳で、俺を見つめた。やはり俺は酔っているらしい。妻に相手にしてもらえないなんて……男として恥ずかしいことをこいつにバラしてしまうなんて。だが、本当は……辛くて誰かに相談したかった。
「……急に拒まれだした。彼女は『疲れた』と言うが本当の理由はわからない」
「お前がしつこいから加減しろって意味じゃねぇの?」
ジェフは酒の氷をカラカラと鳴らしながら、わざと揶揄うようにくくっと笑った。
「俺も最初はそうかと思った。彼女は俺が留守しがちなのに女主人として立派に務めてくれて、その上俺の相手を毎晩のようにして……疲れさせたのだろうと。でも……もう二週間も経つ」
「二週間ねぇ……」
「だから、他に好きな男ができたのかと思った。きっと俺に抱かれるのが嫌になったんだ」
俺は机にガンッと額を打ちつけた。なんだか泣きそうだ……情けなさすぎて、ジェフに今の顔を見られたくない。彼はそんな俺の背中をバシバシ叩いた。
「今夜は親友の俺が特別に奢ってやるよ! お姉様系の美人がいいか? それとも嫁に似た可愛い系? いっそのこと清楚系にするって手もあるな」
「……は?」
「安心しろ。みんなテクニックはプロ級だし、顔面偏差値の高い女ばかりだからお前も満足する」
ニコニコと笑っているジェフを、ギロリと睨みつける。
「……なんの話だ」
「お前が欲求不満だから、サクッと解消しに行こうぜ」
「行くわけないだろ! 俺は一生クリスしか愛さないと決めている」
そう言い切った俺をチラリと見て、ジェフはくくっと笑った。
「お前は相変わらずブレないな」
「もし彼女が俺のことを好きじゃなくても……俺は死ぬまでクリスが好きだ」
そう言って俺はまたズブズブと机に沈み込んだ。ジェフは首を傾げながらゔーん、と何かを考え込んでいる。
「お前さ、全体的に避けられてるわけ? 話したりは?」
「それは普通にしてくれる」
「じゃあ夜だけってことか? キスとかハグは?」
「……してる」
そう、俺の違和感もそこだ。俺の全てを拒否されるなら、別の男ができたとか嫌われたとかまだ納得ができる。しかし彼女は『夜の営み』以外は全ていつも通りなのだ。そこが謎だ。
「ふーん、それはおかしいな。キスって濃厚なのだろ?」
「まぁ……それなりに」
本当はそれなりどころではない。彼女が俺から離れていきそうなのが怖くて『しなくても一緒に寝たい』と頼み、毎晩抱きしめて寝ている。そして抱けない代わりに、寝る前に蕩けるように濃厚な口付けをしている。
あわよくばその流れで愛し合えないか……という下心があったのだが、成功したことはない。彼女も頬を染めとろんと気持ちよさそうな顔をしてくれるのに、ある程度のところでぐっと胸を押され『おやすみなさい』と言われるのだ。俺は昂った熱を抑えられず、眠れない日々が続いた。
「女は好きじゃない男にキスなんてさせない。お前はまだ大丈夫だ」
「キスくらい情があればできるじゃないか?」
クリスと結婚をしているのだから、俺への情くらいはあると信じたい。
「お前はわかってないな。女に振られる一番の予兆は、キスを避けられることだ。女は好きじゃない男とキスなんて気持ち悪いんだ」
「気持ち悪い……」
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