32 / 32
番外編
そのままの君が好き④【エルベルト視点】
かなり急いで家に戻ったが、間に合わなかったことがわかった。なぜならリビングからジェフの大きな笑い声が聞こえてきたからだ。
「じゃあ、クリスティンちゃんが会ってたのは女のダンスの先生だったんだ。なにそれ、めちゃくちゃ面白いんだけど! あいつ勘違いして……ははは」
「おい! ジェフ、お前……エドの名前を使って嘘をついたな!!」
俺は怒りに任せてバンっと扉を乱暴に開けた。
「あ! お帰り。はっはっは、もー話聞いてたら、面白すぎて。エル……お前はやっぱり可愛いよな」
家に戻った時には、俺が美男子だと言っていたのが女性だったことはクリスの口から話されており……ジェフも俺が仕事だと嘘をついて飲んでいたことをしっかりバラしていた。
「エルったら! あの時、仕事って言っていたのに」
クリスが唇をツンと尖らせて、ムーっと拗ねたような顔をしている。んんっ……そんな顔も可愛い。ジェフがいなければ「ごめん」と謝ってキスをしているところだ。
「お前……要らぬことを話したな」
「本当のことを話しただけさ。お前が俺にベロベロに酔いながら『別れたくない』とか『クリスが誰を好きでも一生愛する』とか『俺は華奢じゃないからクリスの好みじゃないんだ』とか泣きながら叫んでたって伝えただけだ」
俺はそれを聞いて真っ赤に頬を染めた。隣にいるクリスも同じように真っ赤だ。
「なっ……! 泣いてなどいない」
「いやー泣いてたね」
「泣いていない」
くっくっく、とジェフは腹を抱えてまだ大笑いしている。そして俺の肩をガッと組み、耳元に顔を近付けた。
「でも良かったな。クリスティンちゃんの好みは華奢な美男子じゃなくて、大男で怖い顔で筋肉質の『エル』らしいぞ」
ニヤニヤとしながら、俺の頬をつんつんとしている。彼女の好みが……俺? まさかそんなこと。
「ジェ……ジェフ様っ! それは秘密ですと申し上げたではありませんか」
「はは、ごめんね。つい話しちゃった」
クリスはさらに真っ赤に頬を染めて、ジェフに向けて怒っている。それはつまり……彼女が本当にそう言ったということだ。ジェフはまるっきり悪いと思っていない態度で、口だけで謝りながら笑っている。
――彼女の好みが俺。やばい、嬉しすぎて昇天しかける。
「クリス、俺の好みも君だ。君の全てが俺の好みだ」
俺は彼女の手を握り、チュッと甲にキスをした。恥ずかしがり屋のクリスは、照れて下を向いた。あー……可愛い。このままベッドに連れて行きたい。
「あー……せっかく来たのに結局お前の惚気を見に来ただけだったな。あ、今夜はここに泊まるからよろしく」
ジェフはさらりとそんな恐ろしいことを言った。
「なっ……! 今すぐ帰れ!!」
「はあ? 心配して来た親友を追い出すのか? クリスティンちゃん、もう遅いし泊まってもいいよね?」
ジェフは潤んだ瞳で、わざと甘えた声を出して彼女に頼んだ。
「ええ、もちろんですわ。シェフにジェフ様の料理も準備してもらうように伝えてきますね」
「クリスティンちやん、ありがとう! 愛してるよ」
チュッ、チュと馬鹿みたいに投げキッスをするジェフにクスリと笑い彼女は部屋を出て行った。
「くっくっく、ご愁傷様。きっと今夜は別の部屋で寝る羽目になるな」
俺はジェフをギロリと睨みつける。
「……帰れ」
「嫌だね。俺は甘ったるくて胸焼けして吐きそうなんだ。今夜はお前のとっておきの辛口の酒を出せよ」
はぁ、こうなったら絶対にこいつは帰らない。しかし……こいつのおかげでクリスの好みが俺だと知れたのだからいいことにしよう。
「浮気が誤解だったのはわかったけど、じゃあなんでお前は夜避けられてたんだ? やっぱりしつこいから?」
ジェフはうーんと首を捻った。しかし彼女が太ったと気にしていたことをこいつに言うのはなんとなく失礼な気がした。彼女が気にしすぎただけで、本当は全く太っていないけれど。
「別に……」
「理由が無いはずないだろ? 無いのに避けられる方が怖いだろ。もやもやするから、全部洗いざらい吐け。言わないからクリスティンちゃんに直接聞くぞ」
こいつなら本当に聞きそうだ。彼女が自分の口から理由を言うのは憚られるだろう。俺は渋々口を開いた。
「……太ったと気にしていたらしい。だから、痩せるまで俺に身体を見せたくなかったそうだ。実際は全然太っていないし、クリスは可愛くて綺麗なままだから彼女の気にしすぎだったのだが」
「さすが女の子。旦那のために痩せる……うわ、健気だな」
「俺は美味しそうに食べる彼女が好きなんだ。だから、ダイエットなんてして欲しくない」
そう言った俺をジェフはチラリと見て、はぁとため息をついた。
「お前はやっぱり女心が全くわかってないな。好きな人のために可愛く綺麗でありたい。それは当たり前だろ? だから、男はその健気な努力を称えて褒めあげるべきだ。まさか甘い物を常に与えたりしてないだろうな?」
そう言われて、今度は俺が首を傾げた。それの何が問題なんだ?
「もちろんあげている。クリスは甘い物が好きだし、美味しい物を食べている表情がとっても可愛いんだ」
ジェフは信じられないというような顔で俺を見た。
「馬鹿野郎。じゃあ彼女の悩みは全てお前のせいだ! 甘い物はたまにとびっきり美味しい物をあげるんだよ。女の子達は綺麗になるために、毎日必死なんだから」
「クリスは今のままで充分綺麗だ」
「はぁー……こりゃクリスティンちゃんが可哀想だ。彼女は若いから、これからどんどん心も身体も大人になる。それをちゃんと見守るのは年上の旦那の役目だろ」
ジェフは呆れたように頭を抱えた。確かに彼女は今まさに可愛らしい少女から色っぽい大人の女性に変わっている。それを間近でみるのは旦那である俺の特権だ。しかし……俺はやはり彼女を甘やかしたい。
「だめなのか」
「彼女の気持ちも汲んでやれってことさ。ずっと綺麗でいたいのはお前のためだぜ? 嬉しいことじゃねぇか」
「……俺は食事制限して欲しくない。だから彼女と一緒に運動する約束をした」
「一緒に運動……?」
それでピンときたらしいジェフは、やはり俺と同じ汚い大人のようだ。フッと鼻で笑って揶揄ってくる。
「年上の旦那様はいやらしいね。何も知らない若い奥さんをいいように丸め込んで……あーやだやだ!」
「……ダンスの相手をするだけだ」
「へぇー? ふーん?」
俺が無愛想言った答えに納得していないこいつは、ニヤニヤと笑っている。
「俺もクリスティンちゃんとたーっぷり運動したいな」
俺は笑えない冗談を言うジェフをガンッと強めに殴った。
「痛っ! 洒落のわからねぇやつだな。ダンスの相手って意味だろ」
「残念だな。彼女とダンスを踊っていいのも俺だけだ」
「男の嫉妬は見苦しいぞ」
殴った腹いせか、晩御飯を食べた後こいつはまたしっかり俺の邪魔をして予想通り今夜は彼女に「ジェフ様がいらっしゃるので、エルとは別で寝ます!」と逃げられた。
そしてまた俺は文句を言いながら、ジェフと飲み明かす。こいつの笑い声を聞きながら飲む酒は、悔しいが美味い。
この前と違うところは俺は明け方に彼女の部屋に行き、そっと抱きしめながら眠りについた。すやすやと寝ているクリスはあどけなくて可愛い。俺はこの前ジェフが来た時『私もかまって欲しい』と言ってくれた彼女に寂しい思いをさせないため……と理由をつけベッドに潜り込んだことを正当化させた。
――本当は俺がクリスを感じて寝たいからだけど。甘くいい匂いの彼女は心地が良い。
朝起きた彼女は俺に抱きしめられていることに驚いたが……嬉しそうに笑い、すりすりと甘えるように胸元に擦り寄って来てくれたので襲わないように耐えるのに必死だった。
よし、やはり早めにジェフを追い出そう。俺はその決意を固めクリスの頬におはようのキスをした。
♢♢♢
そして時は流れて数年後、俺達には二人の子どもができたが相変わらず俺はクリスを溺愛している。
ジェフに「読んでみろ」と王都で人気のある恋愛小説を渡された。恋愛小説は基本的に年若い御令嬢方が読む物だ。なぜこんな物を……?と眉を顰めたが「いいから読め」と押し付けられた。
ペラペラとめくるとこれは俺とクリスの話が元になっているのだとすぐにわかった。
「なんだこれは?」
「それ最近、超人気なんだぜ? 感動する、こんな旦那様に憧れるって若い御令嬢方から大評判だ」
「これ……俺たちの!」
「くっくっく、陛下がお前は英雄のはずなのに王都では『鬼』と呼ばれているのが許せないから、俺にどうにかしろって言われたんだ」
はぁ? 俺は怪訝な顔をした。
「だから人気の小説家にお前らの話をしたら、とんでもない傑作を書いてくれたんだ。世紀の純愛ストーリーだと喜んでいたよ」
「なんだと!?」
「これでお前も人気者だ。俺に感謝しろよ?」
ゲラゲラと笑っている。俺はこいつの情報操作能力は半端ないことを知っている。陛下の命で裏から手を回し、良い噂も悪い噂もこいつが操っていることは珍しくない。
「人気などいらない。お前の能力をしょうもないことに使うな」
「まあ、そう言うな。愛するクリスティンちゃんや子ども達のためにも自分の評価を上げとくのは悪いことじゃない。それに俺も陛下と同じ気持ちさ。お前が今まで『鬼』だなんて言われていたことが許せない」
そう言ってニッと笑った。そんな風に思ってくださる陛下と親友に感謝しないといけないな。
「……感謝する」
「クリスティンちゃんにはバレるまで黙ってろよ。きっと悲鳴をあげるだろうから」
ジェフはクリスが事実を知って叫ぶのを想像して笑っている。確かに……恥ずかしがるだろうな。
俺が読み進めると、本の中のクリスに似た姫はとても愛らしく描かれている。まるで彼女が本の中で生きているかのようだ。うん……悪くない。しかも最後はハッピーエンド。素晴らしい。
しかし俺はこの本の中の姫より彼女を幸せにしなければと決意を固めた。俺は彼女が嫁いできてくれた日からすでに幸せなのだから。
――そしてこの本の存在を知り「きゃー」と悲鳴をあげる愛するクリスを見るのはまだ少し先の話。
番外編END
------
最後までお読みいただきありがとうございました。
本の存在を知ったクリスの反応は、本編の最終話に繋がります。
皆様に少しでも楽しんでいただけていれば、幸せです。恋愛小説大賞にも応募しています。もしよろしければ、応援していただければ嬉しいです。
大森 樹
「じゃあ、クリスティンちゃんが会ってたのは女のダンスの先生だったんだ。なにそれ、めちゃくちゃ面白いんだけど! あいつ勘違いして……ははは」
「おい! ジェフ、お前……エドの名前を使って嘘をついたな!!」
俺は怒りに任せてバンっと扉を乱暴に開けた。
「あ! お帰り。はっはっは、もー話聞いてたら、面白すぎて。エル……お前はやっぱり可愛いよな」
家に戻った時には、俺が美男子だと言っていたのが女性だったことはクリスの口から話されており……ジェフも俺が仕事だと嘘をついて飲んでいたことをしっかりバラしていた。
「エルったら! あの時、仕事って言っていたのに」
クリスが唇をツンと尖らせて、ムーっと拗ねたような顔をしている。んんっ……そんな顔も可愛い。ジェフがいなければ「ごめん」と謝ってキスをしているところだ。
「お前……要らぬことを話したな」
「本当のことを話しただけさ。お前が俺にベロベロに酔いながら『別れたくない』とか『クリスが誰を好きでも一生愛する』とか『俺は華奢じゃないからクリスの好みじゃないんだ』とか泣きながら叫んでたって伝えただけだ」
俺はそれを聞いて真っ赤に頬を染めた。隣にいるクリスも同じように真っ赤だ。
「なっ……! 泣いてなどいない」
「いやー泣いてたね」
「泣いていない」
くっくっく、とジェフは腹を抱えてまだ大笑いしている。そして俺の肩をガッと組み、耳元に顔を近付けた。
「でも良かったな。クリスティンちゃんの好みは華奢な美男子じゃなくて、大男で怖い顔で筋肉質の『エル』らしいぞ」
ニヤニヤとしながら、俺の頬をつんつんとしている。彼女の好みが……俺? まさかそんなこと。
「ジェ……ジェフ様っ! それは秘密ですと申し上げたではありませんか」
「はは、ごめんね。つい話しちゃった」
クリスはさらに真っ赤に頬を染めて、ジェフに向けて怒っている。それはつまり……彼女が本当にそう言ったということだ。ジェフはまるっきり悪いと思っていない態度で、口だけで謝りながら笑っている。
――彼女の好みが俺。やばい、嬉しすぎて昇天しかける。
「クリス、俺の好みも君だ。君の全てが俺の好みだ」
俺は彼女の手を握り、チュッと甲にキスをした。恥ずかしがり屋のクリスは、照れて下を向いた。あー……可愛い。このままベッドに連れて行きたい。
「あー……せっかく来たのに結局お前の惚気を見に来ただけだったな。あ、今夜はここに泊まるからよろしく」
ジェフはさらりとそんな恐ろしいことを言った。
「なっ……! 今すぐ帰れ!!」
「はあ? 心配して来た親友を追い出すのか? クリスティンちゃん、もう遅いし泊まってもいいよね?」
ジェフは潤んだ瞳で、わざと甘えた声を出して彼女に頼んだ。
「ええ、もちろんですわ。シェフにジェフ様の料理も準備してもらうように伝えてきますね」
「クリスティンちやん、ありがとう! 愛してるよ」
チュッ、チュと馬鹿みたいに投げキッスをするジェフにクスリと笑い彼女は部屋を出て行った。
「くっくっく、ご愁傷様。きっと今夜は別の部屋で寝る羽目になるな」
俺はジェフをギロリと睨みつける。
「……帰れ」
「嫌だね。俺は甘ったるくて胸焼けして吐きそうなんだ。今夜はお前のとっておきの辛口の酒を出せよ」
はぁ、こうなったら絶対にこいつは帰らない。しかし……こいつのおかげでクリスの好みが俺だと知れたのだからいいことにしよう。
「浮気が誤解だったのはわかったけど、じゃあなんでお前は夜避けられてたんだ? やっぱりしつこいから?」
ジェフはうーんと首を捻った。しかし彼女が太ったと気にしていたことをこいつに言うのはなんとなく失礼な気がした。彼女が気にしすぎただけで、本当は全く太っていないけれど。
「別に……」
「理由が無いはずないだろ? 無いのに避けられる方が怖いだろ。もやもやするから、全部洗いざらい吐け。言わないからクリスティンちゃんに直接聞くぞ」
こいつなら本当に聞きそうだ。彼女が自分の口から理由を言うのは憚られるだろう。俺は渋々口を開いた。
「……太ったと気にしていたらしい。だから、痩せるまで俺に身体を見せたくなかったそうだ。実際は全然太っていないし、クリスは可愛くて綺麗なままだから彼女の気にしすぎだったのだが」
「さすが女の子。旦那のために痩せる……うわ、健気だな」
「俺は美味しそうに食べる彼女が好きなんだ。だから、ダイエットなんてして欲しくない」
そう言った俺をジェフはチラリと見て、はぁとため息をついた。
「お前はやっぱり女心が全くわかってないな。好きな人のために可愛く綺麗でありたい。それは当たり前だろ? だから、男はその健気な努力を称えて褒めあげるべきだ。まさか甘い物を常に与えたりしてないだろうな?」
そう言われて、今度は俺が首を傾げた。それの何が問題なんだ?
「もちろんあげている。クリスは甘い物が好きだし、美味しい物を食べている表情がとっても可愛いんだ」
ジェフは信じられないというような顔で俺を見た。
「馬鹿野郎。じゃあ彼女の悩みは全てお前のせいだ! 甘い物はたまにとびっきり美味しい物をあげるんだよ。女の子達は綺麗になるために、毎日必死なんだから」
「クリスは今のままで充分綺麗だ」
「はぁー……こりゃクリスティンちゃんが可哀想だ。彼女は若いから、これからどんどん心も身体も大人になる。それをちゃんと見守るのは年上の旦那の役目だろ」
ジェフは呆れたように頭を抱えた。確かに彼女は今まさに可愛らしい少女から色っぽい大人の女性に変わっている。それを間近でみるのは旦那である俺の特権だ。しかし……俺はやはり彼女を甘やかしたい。
「だめなのか」
「彼女の気持ちも汲んでやれってことさ。ずっと綺麗でいたいのはお前のためだぜ? 嬉しいことじゃねぇか」
「……俺は食事制限して欲しくない。だから彼女と一緒に運動する約束をした」
「一緒に運動……?」
それでピンときたらしいジェフは、やはり俺と同じ汚い大人のようだ。フッと鼻で笑って揶揄ってくる。
「年上の旦那様はいやらしいね。何も知らない若い奥さんをいいように丸め込んで……あーやだやだ!」
「……ダンスの相手をするだけだ」
「へぇー? ふーん?」
俺が無愛想言った答えに納得していないこいつは、ニヤニヤと笑っている。
「俺もクリスティンちゃんとたーっぷり運動したいな」
俺は笑えない冗談を言うジェフをガンッと強めに殴った。
「痛っ! 洒落のわからねぇやつだな。ダンスの相手って意味だろ」
「残念だな。彼女とダンスを踊っていいのも俺だけだ」
「男の嫉妬は見苦しいぞ」
殴った腹いせか、晩御飯を食べた後こいつはまたしっかり俺の邪魔をして予想通り今夜は彼女に「ジェフ様がいらっしゃるので、エルとは別で寝ます!」と逃げられた。
そしてまた俺は文句を言いながら、ジェフと飲み明かす。こいつの笑い声を聞きながら飲む酒は、悔しいが美味い。
この前と違うところは俺は明け方に彼女の部屋に行き、そっと抱きしめながら眠りについた。すやすやと寝ているクリスはあどけなくて可愛い。俺はこの前ジェフが来た時『私もかまって欲しい』と言ってくれた彼女に寂しい思いをさせないため……と理由をつけベッドに潜り込んだことを正当化させた。
――本当は俺がクリスを感じて寝たいからだけど。甘くいい匂いの彼女は心地が良い。
朝起きた彼女は俺に抱きしめられていることに驚いたが……嬉しそうに笑い、すりすりと甘えるように胸元に擦り寄って来てくれたので襲わないように耐えるのに必死だった。
よし、やはり早めにジェフを追い出そう。俺はその決意を固めクリスの頬におはようのキスをした。
♢♢♢
そして時は流れて数年後、俺達には二人の子どもができたが相変わらず俺はクリスを溺愛している。
ジェフに「読んでみろ」と王都で人気のある恋愛小説を渡された。恋愛小説は基本的に年若い御令嬢方が読む物だ。なぜこんな物を……?と眉を顰めたが「いいから読め」と押し付けられた。
ペラペラとめくるとこれは俺とクリスの話が元になっているのだとすぐにわかった。
「なんだこれは?」
「それ最近、超人気なんだぜ? 感動する、こんな旦那様に憧れるって若い御令嬢方から大評判だ」
「これ……俺たちの!」
「くっくっく、陛下がお前は英雄のはずなのに王都では『鬼』と呼ばれているのが許せないから、俺にどうにかしろって言われたんだ」
はぁ? 俺は怪訝な顔をした。
「だから人気の小説家にお前らの話をしたら、とんでもない傑作を書いてくれたんだ。世紀の純愛ストーリーだと喜んでいたよ」
「なんだと!?」
「これでお前も人気者だ。俺に感謝しろよ?」
ゲラゲラと笑っている。俺はこいつの情報操作能力は半端ないことを知っている。陛下の命で裏から手を回し、良い噂も悪い噂もこいつが操っていることは珍しくない。
「人気などいらない。お前の能力をしょうもないことに使うな」
「まあ、そう言うな。愛するクリスティンちゃんや子ども達のためにも自分の評価を上げとくのは悪いことじゃない。それに俺も陛下と同じ気持ちさ。お前が今まで『鬼』だなんて言われていたことが許せない」
そう言ってニッと笑った。そんな風に思ってくださる陛下と親友に感謝しないといけないな。
「……感謝する」
「クリスティンちゃんにはバレるまで黙ってろよ。きっと悲鳴をあげるだろうから」
ジェフはクリスが事実を知って叫ぶのを想像して笑っている。確かに……恥ずかしがるだろうな。
俺が読み進めると、本の中のクリスに似た姫はとても愛らしく描かれている。まるで彼女が本の中で生きているかのようだ。うん……悪くない。しかも最後はハッピーエンド。素晴らしい。
しかし俺はこの本の中の姫より彼女を幸せにしなければと決意を固めた。俺は彼女が嫁いできてくれた日からすでに幸せなのだから。
――そしてこの本の存在を知り「きゃー」と悲鳴をあげる愛するクリスを見るのはまだ少し先の話。
番外編END
------
最後までお読みいただきありがとうございました。
本の存在を知ったクリスの反応は、本編の最終話に繋がります。
皆様に少しでも楽しんでいただけていれば、幸せです。恋愛小説大賞にも応募しています。もしよろしければ、応援していただければ嬉しいです。
大森 樹
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
皇太子殿下は、幼なじみに触れていないと落ち着かない
由香
ファンタジー
幼い頃から一緒に育った皇子は、なぜか距離が近すぎる。
後ろから抱きしめられ、手を取られ、頬に触れられるのが当たり前の日常。
やがて彼は皇太子となるが――その距離は変わらないどころか、むしろ深まっていき。
「触れていないと、落ち着かない」
公の場でも離してくれない彼の執着に、周囲は騒然。
けれどその腕の中は、どうしようもなく安心してしまう。
これは、幼なじみの距離のまま始まる、逃げ場のない溺愛の物語。
基本的にエルの方が重いので、隠し事はしない方がいいですよね😱
好きな人のために、綺麗になりたいクリスがどうなるのか……楽しみにしていてください♡後半はエル視点でお送りします。
感想ありがとうございます!嬉しいです✨
次はいつ更新されるかと思いながらは既読しています😊
楽しんで読んでいただけて、とてもとても嬉しいです😃
実はもうすぐ終わりなのですが……番外編も数話書く予定です✨
感想ありがとうございます!