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4 王女のネックレス
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流石に見知らぬ人間を家に一人にするのはどうかという話になった。しかし「あいつは悪いことする男には見えない」とお父さんが言うので、それもそうかと思い『仕事へ行く』とメモだけ残して三人で仕事に向かう。向かうと言っても、家の隣が食堂になっているからすぐなのだが。
お昼の混雑した時間が終わったので、私はカールの食事を家に運んだ。ノックをすると「はい」と声がしたので、そのまま部屋に入った。
「起きていたのね。遅くなったけどお昼よ」
「……全員で家を空けるなんて、お前達は人が良すぎて危険だ。こんな見知らぬ人間、何をするかわからないぞ。金目の物を盗まれたらどうするんだ」
「あなた盗まないでしょう」
「わからないだろう」
「じゃあ、カールを信じてるわ」
私はケラケラと笑いながら、ベッドサイドに食事を置いた。
「……変な女」
カールは呆れたような顔をして私を見て、ため息をついた。そして、食事を終えた後あのネックレスを取り出してボーッと眺めている。
今のカールには、はっきり言って生きる活力とか気力がないように見える。両親に会う前は、私とキャロラインに何か関係があるのかもしれないという期待で少し瞳に輝きが戻っていたが、今はまた死んだような瞳だ。
「そのネックレス、そんなに大事なの?」
「ああ」
「へー……もしかして好きな人にもらったの?」
私はこの男の表情が変わるところを見たくて、わざと揶揄うようにそう言った。きっと「お前に関係ない」とか「煩い」とか怒るだろうと思ったから。たとえ怒りだとしても……それでも、無表情よりはましだ。
「そうだ」
は?え?それ、私があげたやつだよね?
「俺が一番愛している人から貰った」
彼はそう言って目を閉じて、ネックレスにキスをした。その仕草はとても神聖なものに見えた。
ドクドクと心臓が騒がしい。ライナスが私を好きだったなんてありえない。彼と私は幼馴染のような関係であったが、王女と護衛騎士という主従関係だった。
もちろん、お互い信用していたし好きだったが男女の関係は一切なかった。ライナスは私に『綺麗』とか『美しい』という褒め言葉を一切使わなかったし、もちろん『愛してる』なんて言われたこともない。
彼はキャロラインの婚約が決まった時も、微笑んで『おめでとうございます』と言ってくれた。そんな人が私を好きだったなんてあり得るのだろうか?
「そ、それが……キャロ……ラインって人なの?」
「ああ」
「その人が私に……似てるの?」
彼はじーっと私を見つめている。そんなにじっくり見られると照れてしまうではないか。
「いや、似ていない」
「へ?」
「彼女は君みたいにちんちくりんじゃない」
――ちんちくりん。生まれて初めて言われた言葉だ。
「はぁ?」
「さっきの俺は怪我をして、頭がおかしかったらしい。全く似ていないから安心しろ。彼女はかなり美しかったからな」
カールはニッと意地悪く笑った。
美しいなんて……そんなこと、キャロラインとして生きている時には一言も言ってくれなかったくせに。前世であんなことがあってから、私は容姿を褒められることが嫌いになってしまったが『ちんちくりん』は酷すぎる。若い女性に言っていい言葉とは思えない。
「あっそ。どーせ、私なんてちんちくりんよ!」
私はプイッとそっぽを向いて怒りを露わにした。
「年上の道端に倒れてた大男を説教して、拾って来るようなじゃじゃ馬だしな。普通の女じゃねえよ」
カールはくっくっく……と声を殺して笑っている。
「目の前で死んだら後味が悪いでしょ?私は犬でも猫でも傷ついてたらとりあえず拾うの」
「はあ?俺は犬猫と一緒だってーのか」
「一緒ですって?犬や猫に謝ってよ!ワンコは助けたら懐いてくれるし、甘えてきて可愛わ。あなたなんか助けても酷いこと言うだけじゃない!」
「礼は言っただろ」
「そんなの当たり前でしょ。他人にしてもらって当然なことなんて一つもないんだから!」
そう言った私にカールはまた驚いた顔をした後、前髪をくしゃっと握り片手で顔を隠した。え?なに……私なんか変なこと言った?
「なぜ君は彼女と同じことを言うんだ?」
「え?」
「彼女も『してもらって当然なことはないから、感謝の気持ちを忘れてはいけない』って言っていた。君は彼女とは瞳以外は全然似ていないのに。なぜ」
――しまった。私の考えはキャロラインの影響をもろに受けている。
「そ、そんなの知らないわ。たまたまよ」
「……だろうな」
「もう寝なさいよ。きっと体が弱っているからそんな変なことを思うんだわ」
私はこの話を無理矢理終わらせようとした。このまま話し続けていてはまずい。彼を無理矢理ベッドに寝かせて、シーツを被せた。
「今は何も考えずに、ゆっくり体を休めて」
薬の副作用のせいか、しばらくすると彼はすうすうと寝息を立てた。
「ぐっ、……キャ……ロ……イン」
時折苦しむようなうめき声と共に、私を呼ぶ声が聞こえる。
「ライナス、ごめんね」
私は彼の頭を撫でて、部屋を立ち去った。
♢♢♢
そして、また私は仕事に戻った。
「ミーナ、彼の様子はどうだった?」
「ご飯は食べてくれたけど、まだ調子悪そうだったわ。苦しそうだったし、お薬飲ませて今は寝てる」
「そう。もし心配なら、先に家に戻ってもいいからね」
「お母さん、ありがとう」
そう言ってくれたが、二人っきりで部屋にいるとまたキャロラインの面影が彼を傷つけるのではと思ったので私は黙々と仕事をした。
カランカラン
「いらっしゃいませ」
新しいお客様だと入口を見ると、そこにはダニーが立っていた。
「よお、ミーナ」
「ダニー!昨日は運んでくれてありがとうね」
「ああ。あいつ気が付いたのか?」
「うん。お礼に奢るからなんでも頼んで」
「お!ラッキー。じゃあ、煮込みハンバーグとパン!大盛りで」
「ふふ、わかった。紅茶もつけるわ」
腹減ったと言いながら、出されたハンバーグをパクパクと嬉しそうに食べている。いつ見てもダニーの食べっぷりは気持ちがいいわね。シェフとして作り甲斐がある。
「相変わらず美味いな。ミーナの飯が一番美味い」
「はは、ありがと」
「いや、本気で。毎日……食いたいくらい」
「来て来て!いつでも大歓迎だから」
私があはは、と笑うとダニーは何故かガックリと机に顔を伏せた。
「え?どうしたの」
「なんでもない。しばらく、そっとしておいて」
不思議に思ったが、彼がそう言うのでその場を離れた。すると、周りにいた客達がダニーの肩をポンポンと叩いたり抱き締めたりしている。
――ん?一体なんなんだろう?
「ダニー、いいこと教えてあげる。昨日娘が助けた男の人カールって言うんだけど、とーっても男前だったのよ」
「は?」
「私びっくりしちゃった!髭剃ったらすっごい男前だったの。しかもすごい筋肉!」
「……あの髭面のオッサンが男前だって?」
「そーなんだよ。俺もまじで驚いたわ。ケイトなんて俺よりいいとか言いやがるんだぜ。酷くね?」
またうちの両親はカールの顔について話している。まあ、こんな田舎にいるはずのないレベルの美形ではあるけれど。ただ、前世で私は見慣れているのでそんなに騒がれる程だと思っていなかった。
「な、なんだって?そいつまだ家に置いてるの?」
「ああ。まだ怪我治ってないしな」
「そんなやつ危ないだろ!早く追い出した方がいいよ!ミーナは女の子なんだぞ……同じ家にそんなやばい男がいるなんて」
ダニーはいきなり大声をあげて立ち上がった。女の子って……もう子どもじゃないんだから。
「ミーナ、すぐにあいつ追い出せ」
「でもまだ怪我治ってないし」
「素性もわからない男だろ!……って、何今も三人で働いてるんだよ。家にあの男だけってことか」
「え?うん」
「おかしいだろ!危ないだろ!お前達家族揃ってお人好しすぎるだろ!」
「いや、なんか悪い人じゃないし」
私は曖昧にへへへと笑って誤魔化した。あの人は前世の知り合いだから大丈夫!とはさすがに言えない。ダニーは結構心配性なんだな。
「俺が一緒に行く!ちゃんと出て行けって言ってやるから」
「え?いいよ。そんなのいらないから。怪我が治ったら勝手に出て行くでしょ」
「だーめーだ。バッカスさん、食べ終わったらミーナ借りるから」
「へいへい。どーぞ」
不機嫌なダニーは、ペロリとご飯を食べ終え紅茶も飲まずに私の手をぐいぐい引きながら家に入っていく。
バンッ
勢いよく玄関の扉を開けて、ドタドタと廊下を歩いて行く。幼馴染の彼は我が家の構造を熟知しているため、迷うことなく客間に向かっている。
「ちょっと、ダニー待って!」
彼は無視して扉を乱暴にノックをした後、返事を待たずに扉を開けた。
するとベッドに座っていたカールが、面倒くさそうにこっちを見た。その姿は気怠げであるが、とても色っぽかった。
「ミーナ……帰ったのか。で、お前誰?」
ダニーはカールの姿を見て、一瞬ポカンとしていたがすぐにグッと唇を噛み締めた。
「あんたさ、動けるようならもう出て行けよ。ここに居座ったら迷惑だってわかるだろ」
「カール!ごめん、気にしないで。ダニー、勝手なこと言わないで」
「ミーナは黙っていろ」
カールはちらりとダニーを見て、馬鹿にするようにふっと鼻で笑った。彼はそれにカチンときたのか、眉をつりあげて怒りを露わにした。
「おい、何がおかしいんだよ」
「……別に」
ダニーったらなんなのかしら。この人は本来優しい人なのに、どうしてカールにはこんなに突っかかるの?
「あー……カール!実は倒れたあなたをここに運んでくれたのはこのダニーなの。私の幼馴染よ」
「へえただの幼馴染なのか。昨日は世話になったな」
カールはなんだか棘のある言い方をしている気がする。そして、ダニーも相変わらず機嫌が悪い。
「そんなに心配しなくても、怪我が治って礼をしたら出て行くさ。ああ、でも食事代や泊まらせて貰っている対価を支払っていなくて悪かったな」
「いらないわよ。そんなの」
「悪いがこの国の通貨は持ってない。これで許せ」
そう言って私の手に、キラリと輝く金貨を乗せた。それは……私達家族が半年くらい暮らせる程の価値があるものだった。
私とダニーは目を見開き驚いた。生まれ変わるまで知らなかったが、騎士は命の危険がある分かなり高給取りな仕事だ。きっとカールは平民の今の私では手に届かないほどのお金を持っているだろう。
でも、これは私がもらっていい額じゃない。
「こんな大金いらないわ」
「助けてもらった礼だ。その男と分けたらいい」
「いらない!お金のために助けたわけじゃないんだから」
今度は私が怒ってカールに金貨を押し付けた。
お昼の混雑した時間が終わったので、私はカールの食事を家に運んだ。ノックをすると「はい」と声がしたので、そのまま部屋に入った。
「起きていたのね。遅くなったけどお昼よ」
「……全員で家を空けるなんて、お前達は人が良すぎて危険だ。こんな見知らぬ人間、何をするかわからないぞ。金目の物を盗まれたらどうするんだ」
「あなた盗まないでしょう」
「わからないだろう」
「じゃあ、カールを信じてるわ」
私はケラケラと笑いながら、ベッドサイドに食事を置いた。
「……変な女」
カールは呆れたような顔をして私を見て、ため息をついた。そして、食事を終えた後あのネックレスを取り出してボーッと眺めている。
今のカールには、はっきり言って生きる活力とか気力がないように見える。両親に会う前は、私とキャロラインに何か関係があるのかもしれないという期待で少し瞳に輝きが戻っていたが、今はまた死んだような瞳だ。
「そのネックレス、そんなに大事なの?」
「ああ」
「へー……もしかして好きな人にもらったの?」
私はこの男の表情が変わるところを見たくて、わざと揶揄うようにそう言った。きっと「お前に関係ない」とか「煩い」とか怒るだろうと思ったから。たとえ怒りだとしても……それでも、無表情よりはましだ。
「そうだ」
は?え?それ、私があげたやつだよね?
「俺が一番愛している人から貰った」
彼はそう言って目を閉じて、ネックレスにキスをした。その仕草はとても神聖なものに見えた。
ドクドクと心臓が騒がしい。ライナスが私を好きだったなんてありえない。彼と私は幼馴染のような関係であったが、王女と護衛騎士という主従関係だった。
もちろん、お互い信用していたし好きだったが男女の関係は一切なかった。ライナスは私に『綺麗』とか『美しい』という褒め言葉を一切使わなかったし、もちろん『愛してる』なんて言われたこともない。
彼はキャロラインの婚約が決まった時も、微笑んで『おめでとうございます』と言ってくれた。そんな人が私を好きだったなんてあり得るのだろうか?
「そ、それが……キャロ……ラインって人なの?」
「ああ」
「その人が私に……似てるの?」
彼はじーっと私を見つめている。そんなにじっくり見られると照れてしまうではないか。
「いや、似ていない」
「へ?」
「彼女は君みたいにちんちくりんじゃない」
――ちんちくりん。生まれて初めて言われた言葉だ。
「はぁ?」
「さっきの俺は怪我をして、頭がおかしかったらしい。全く似ていないから安心しろ。彼女はかなり美しかったからな」
カールはニッと意地悪く笑った。
美しいなんて……そんなこと、キャロラインとして生きている時には一言も言ってくれなかったくせに。前世であんなことがあってから、私は容姿を褒められることが嫌いになってしまったが『ちんちくりん』は酷すぎる。若い女性に言っていい言葉とは思えない。
「あっそ。どーせ、私なんてちんちくりんよ!」
私はプイッとそっぽを向いて怒りを露わにした。
「年上の道端に倒れてた大男を説教して、拾って来るようなじゃじゃ馬だしな。普通の女じゃねえよ」
カールはくっくっく……と声を殺して笑っている。
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「はあ?俺は犬猫と一緒だってーのか」
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「礼は言っただろ」
「そんなの当たり前でしょ。他人にしてもらって当然なことなんて一つもないんだから!」
そう言った私にカールはまた驚いた顔をした後、前髪をくしゃっと握り片手で顔を隠した。え?なに……私なんか変なこと言った?
「なぜ君は彼女と同じことを言うんだ?」
「え?」
「彼女も『してもらって当然なことはないから、感謝の気持ちを忘れてはいけない』って言っていた。君は彼女とは瞳以外は全然似ていないのに。なぜ」
――しまった。私の考えはキャロラインの影響をもろに受けている。
「そ、そんなの知らないわ。たまたまよ」
「……だろうな」
「もう寝なさいよ。きっと体が弱っているからそんな変なことを思うんだわ」
私はこの話を無理矢理終わらせようとした。このまま話し続けていてはまずい。彼を無理矢理ベッドに寝かせて、シーツを被せた。
「今は何も考えずに、ゆっくり体を休めて」
薬の副作用のせいか、しばらくすると彼はすうすうと寝息を立てた。
「ぐっ、……キャ……ロ……イン」
時折苦しむようなうめき声と共に、私を呼ぶ声が聞こえる。
「ライナス、ごめんね」
私は彼の頭を撫でて、部屋を立ち去った。
♢♢♢
そして、また私は仕事に戻った。
「ミーナ、彼の様子はどうだった?」
「ご飯は食べてくれたけど、まだ調子悪そうだったわ。苦しそうだったし、お薬飲ませて今は寝てる」
「そう。もし心配なら、先に家に戻ってもいいからね」
「お母さん、ありがとう」
そう言ってくれたが、二人っきりで部屋にいるとまたキャロラインの面影が彼を傷つけるのではと思ったので私は黙々と仕事をした。
カランカラン
「いらっしゃいませ」
新しいお客様だと入口を見ると、そこにはダニーが立っていた。
「よお、ミーナ」
「ダニー!昨日は運んでくれてありがとうね」
「ああ。あいつ気が付いたのか?」
「うん。お礼に奢るからなんでも頼んで」
「お!ラッキー。じゃあ、煮込みハンバーグとパン!大盛りで」
「ふふ、わかった。紅茶もつけるわ」
腹減ったと言いながら、出されたハンバーグをパクパクと嬉しそうに食べている。いつ見てもダニーの食べっぷりは気持ちがいいわね。シェフとして作り甲斐がある。
「相変わらず美味いな。ミーナの飯が一番美味い」
「はは、ありがと」
「いや、本気で。毎日……食いたいくらい」
「来て来て!いつでも大歓迎だから」
私があはは、と笑うとダニーは何故かガックリと机に顔を伏せた。
「え?どうしたの」
「なんでもない。しばらく、そっとしておいて」
不思議に思ったが、彼がそう言うのでその場を離れた。すると、周りにいた客達がダニーの肩をポンポンと叩いたり抱き締めたりしている。
――ん?一体なんなんだろう?
「ダニー、いいこと教えてあげる。昨日娘が助けた男の人カールって言うんだけど、とーっても男前だったのよ」
「は?」
「私びっくりしちゃった!髭剃ったらすっごい男前だったの。しかもすごい筋肉!」
「……あの髭面のオッサンが男前だって?」
「そーなんだよ。俺もまじで驚いたわ。ケイトなんて俺よりいいとか言いやがるんだぜ。酷くね?」
またうちの両親はカールの顔について話している。まあ、こんな田舎にいるはずのないレベルの美形ではあるけれど。ただ、前世で私は見慣れているのでそんなに騒がれる程だと思っていなかった。
「な、なんだって?そいつまだ家に置いてるの?」
「ああ。まだ怪我治ってないしな」
「そんなやつ危ないだろ!早く追い出した方がいいよ!ミーナは女の子なんだぞ……同じ家にそんなやばい男がいるなんて」
ダニーはいきなり大声をあげて立ち上がった。女の子って……もう子どもじゃないんだから。
「ミーナ、すぐにあいつ追い出せ」
「でもまだ怪我治ってないし」
「素性もわからない男だろ!……って、何今も三人で働いてるんだよ。家にあの男だけってことか」
「え?うん」
「おかしいだろ!危ないだろ!お前達家族揃ってお人好しすぎるだろ!」
「いや、なんか悪い人じゃないし」
私は曖昧にへへへと笑って誤魔化した。あの人は前世の知り合いだから大丈夫!とはさすがに言えない。ダニーは結構心配性なんだな。
「俺が一緒に行く!ちゃんと出て行けって言ってやるから」
「え?いいよ。そんなのいらないから。怪我が治ったら勝手に出て行くでしょ」
「だーめーだ。バッカスさん、食べ終わったらミーナ借りるから」
「へいへい。どーぞ」
不機嫌なダニーは、ペロリとご飯を食べ終え紅茶も飲まずに私の手をぐいぐい引きながら家に入っていく。
バンッ
勢いよく玄関の扉を開けて、ドタドタと廊下を歩いて行く。幼馴染の彼は我が家の構造を熟知しているため、迷うことなく客間に向かっている。
「ちょっと、ダニー待って!」
彼は無視して扉を乱暴にノックをした後、返事を待たずに扉を開けた。
するとベッドに座っていたカールが、面倒くさそうにこっちを見た。その姿は気怠げであるが、とても色っぽかった。
「ミーナ……帰ったのか。で、お前誰?」
ダニーはカールの姿を見て、一瞬ポカンとしていたがすぐにグッと唇を噛み締めた。
「あんたさ、動けるようならもう出て行けよ。ここに居座ったら迷惑だってわかるだろ」
「カール!ごめん、気にしないで。ダニー、勝手なこと言わないで」
「ミーナは黙っていろ」
カールはちらりとダニーを見て、馬鹿にするようにふっと鼻で笑った。彼はそれにカチンときたのか、眉をつりあげて怒りを露わにした。
「おい、何がおかしいんだよ」
「……別に」
ダニーったらなんなのかしら。この人は本来優しい人なのに、どうしてカールにはこんなに突っかかるの?
「あー……カール!実は倒れたあなたをここに運んでくれたのはこのダニーなの。私の幼馴染よ」
「へえただの幼馴染なのか。昨日は世話になったな」
カールはなんだか棘のある言い方をしている気がする。そして、ダニーも相変わらず機嫌が悪い。
「そんなに心配しなくても、怪我が治って礼をしたら出て行くさ。ああ、でも食事代や泊まらせて貰っている対価を支払っていなくて悪かったな」
「いらないわよ。そんなの」
「悪いがこの国の通貨は持ってない。これで許せ」
そう言って私の手に、キラリと輝く金貨を乗せた。それは……私達家族が半年くらい暮らせる程の価値があるものだった。
私とダニーは目を見開き驚いた。生まれ変わるまで知らなかったが、騎士は命の危険がある分かなり高給取りな仕事だ。きっとカールは平民の今の私では手に届かないほどのお金を持っているだろう。
でも、これは私がもらっていい額じゃない。
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