7 / 43
7可愛いと言われるのは苦手
しおりを挟む
翌日から、カールも食堂を手伝うと言い出した。彼はお父さんに泊めてもらっている礼にお金を支払うと言ったみたいだが、拒否されていた。
「三人も四人も変わらないから、気にすんな」
「じゃあ身体で返します」
「おいおい……その台詞、男前に言われると誤解しちまうな!ははは」
お父さんはバシバシとカールの背中を叩いて、笑っている。そして、彼は本当にキッチンに入り父から指導を受けている。
「上手いな!カールは料理もできるのか」
「騎士は野外でも食事をしないといけないので、簡単な調理なら可能です」
「そうか。じゃあこれ全部切って、あと悪いがこれが終わったら裏の倉庫から小麦粉を二袋持って来てくれ」
「はい」
「ありがとう、助かる」
トントントンと器用に野菜を切っている。この人は昔から、何をやらせても上手くやるなぁと感心していた。
私の髪の毛は昨日もらったヘアゴムが付いている。ヘアセットをする時にまた胸が、ドキドキしてしまい困ってしまった。私が突然のプレゼントで嬉しかったのは生まれて初めてだ。
しかし、カールからなんの反応もなくて少しがっかりした。いや……がっかりってなんだと心の中で自分にツッコミをいれる。この男が気まぐれにくれた物に、何かを思うわけがないのに。
カランカラン
「いらっしゃいませ……あら、ダニーおはよう。早いわね」
「ケイトさん、おはよう」
「朝ご飯食べる?」
「ああ。なあ!俺どうしてもミーナに確かめたいことがあって」
ダニーはなんだか真剣な顔で、私にどんどん近付いて来た。
「おはよう!なあに?」
「おはよ、ミーナ。なあ、昨日あの男と出掛けてたって本当か?」
「ええ。お父さんに買い出し頼まれて。重たかったからついて来てもらったの」
「買い出し……ね。町では君にボーイフレンドができたと噂になってたよ」
ええ?そんなことになっていたのか。全く……やめて欲しいものだ。この田舎町の人々は優しく人情味に溢れているが、すぐに人を好きだ嫌いだと男女の関係にしたがるのは悪いところだ。
「やめてよ!そんな変な噂を信じるのは」
「そっか。違うのか」
私がそう怒ると、ダニーはへらりと嬉しそうに笑った。しかし、その直後に彼は奥のキッチンを見て信じられないとでもいうように眉を顰めた。
「なん……で?あの男がここに?」
「助けたお礼に手伝いしてくれるって」
「なんだと!?図々しいな」
「力あるし、お父さんは助かってるみたいだけど」
ダニーはチッと舌打ちをして、キッチン前のカウンターに座った。
「ダニーそこでいいの?広いところで食べたら」
「ここがいい!」
――何考えてるんだか。最近の彼はなんだか変だ。妙にカールに突っかかるし。
「おい!お前……食堂まで来てなんのつもりだよ」
「ああ、あの時のガキか。朝からキャンキャンと元気だな」
カールはチラリとダニーを見た後、何事もなかったかのように料理を続けている。
「バッカスさん!なんでこんなオッサンに料理教えてんだよ!!」
「お前な、こんな男前をオッサンとか言うな!俺のが方がオッサンだっつーの。あれ?そーいやカールっていくつなんだ?」
「俺は三十二です」
「そうなのか。若く見えるな」
「ミーナの十七歳も上だぜ?立派なオッサンじゃねぇか!」
その瞬間、ダニーはお母さんにギリギリとヘッドロックをかけられている。
「口には気をつけなさい?私より年下のカールがオッサンなら私は何なの?オバサン?」
「ぐっ……ケイ……トさんは……」
「ケイトさんは?」
「一生……お……姉さん……です」
「よろしい」
パッと手を離されゲホゲホと咳き込んでいる。それをお父さんはケラケラと笑って見ていた。
「年上のお兄さんにオッサンは失礼だろ。これに懲りて、ちゃんとお前も名前で呼べ」
ダニーはムッとして拗ねている。
「いいですよ。俺はなんでも」
カールは大人の余裕なのか冷静に対応していた。ダニーはそれも気に入らないのか、ギロっと睨んでいる。
「もう、喧嘩しないで。ほら、ご飯できたよ」
今日の朝食メニューは、ふわふわのオムレツに具沢山のクラムチャウダー。あとは熱々に焼いたパンだ。
「ありがとう。いただきます」
ダニーは私を見て嬉しそうに笑い、パクパクと口に運んでいる。
「美味い!このクラムチャウダーはミーナ作だろ」
「そうよ。よくわかるわね!昨日から煮込んでる自信作」
「めっちゃ美味い。ミーナの味はすぐわかる」
「ふふ、よかったわ」
なんかよくわからないけど、ダニーの機嫌がなおってよかった。彼はあっという間にペロリと食べ終えた。食器を下げようと近づいた時に……ダニーにさらりと髪を触られた。
「いつもと髪留め違うな。こんなの持ってたっけ?買ったのか?」
それは、昨日カールに買ってもらったヘアゴムのことだった。わざわざ言わないでよ!恥ずかしいじゃない。絶対にキッチンにも聞こえている。
「え?あー……うん」
私がドギマギして目を逸らしていると、バチッとカールと目が合った。
「それは俺が昨日あげたやつだ。可愛い、よく似合ってるよ」
いつもの意地悪な笑いではなく、爽やかに普通に褒められて私はぶわっと頬が染まった。
「あ、ありがとう」
照れながらお礼を言った私を、両親とダニーは驚いた顔で見ていた。なぜならこの三人は、私が『可愛い』と言われることも『プレゼントをもらうこと』も苦手だと知っているから。
自分でもわからないけれど、カールにヘアゴムを貰ったり、可愛いと言われるのは自然と嫌でなかったのだ。
「……んだよ」
ダニーは下を向いたまま、苦しそうに何かを呟いた。
「ミーナは昔から容姿を褒められたり、贈り物されるの苦手だろ?こいつならいいのか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
自分でも何故なのかはよくわからない。
「俺だって……していいなら、したかった」
「は?」
「嫌がることはしたくないって思って、あえてしなかっただけなのに。なんでポッと現れたこいつが!……そんなのずるいだろ」
ずるい?したかったって、一体何をだろうか。
「俺はこんなやつよりずっとずっと昔から、ミーナのこと可愛いって思ってる!毎日だって可愛いって伝えたいし、プレゼントだって贈りたいのを我慢してたのに」
私はそのとんでもない告白に、驚いてフリーズしてしまった。
「ごめん。頭冷やすわ」
彼はお金を乱暴にテーブルに置いて、ドアを開けて出て行った。これは……彼は私を好きだということなのだろうか。
ポカンとしている私に、お母さんが「大丈夫?」と優しく声をかけてくれた。ダニーとは子どもの頃から一緒で、幼馴染だけど仲の良い兄妹のような感じだった。
「ちょっと家に戻って心を落ち着かせて来なさい」
「ううん、大丈夫」
「そんな暗い顔で接客したら、お客様が逃げちゃうわ。邪魔よ」
お母さんにそう促されて、一旦家に戻ることにした。しかし、家に戻って一人になると余計にグルグルといらないことを考えてしまう。
リビングでボーっとしていると、トントンとノック音がなり顔をあげるとそこにはカールが立っていた。
「バッカスさんが、君が一人だと心配だから見て来てくれって」
「そう。ごめんね、気を遣わせて」
「さっきは悪かったな。いらないことを言って」
「ううん。あなたが悪いわけないじゃない」
「なぜ容姿を褒められるのが苦手なんだ?君くらいの年齢なら嬉しいはずだろう」
――それは前世、美しさで苦労したから。
しかし、そんなこと言えるはずもない。
「だってほら、私って平凡な顔じゃない?それなのに可愛いとか綺麗とか……嘘っぽいし。中身を褒められた方が嬉しいなって」
「そうか?綺麗っていうのは見た目だけでなく中身も含めての褒め言葉だ。君は生命力に溢れてて、間違いなく美しく可愛い少女だと思うがな」
私はまたブワッと頬が染まる。この人は慰めてくれているのだろうか?それにしても、さらっとこんなことを言うなんて……昔に比べると女性の扱いに手慣れていて、私の知らない十五年の経験値の差を感じた。
「嘘つき。ち、ちんちくりんって言ったくせに!」
私が怒ると、カールはくっくっくと笑った。
「ミーナ、まさかずっと気にしてたのか」
「気にするわよ!」
「はは、悪かったな。あれは揶揄っただけだ」
「なによ、それ」
私の髪をぐしゃぐしゃと撫で「自分への賛辞は素直に喜べばいい」と微笑んだ。
ドキドキドキ……なんでだろう。また胸の鼓動が早くなって苦しくなる。
「あのガキのこと嫌いなのか」
「嫌いじゃない」
「ふーん。じゃあ別に好きな男がいるのか?」
「いないわ。でも、初めてだしちゃんと好きになった人と付き合いたい。中途半端な気持ちじゃダニーにも失礼だし」
「初めて……か」
はっ!私ったら自分の臣下だった男に何を色々とバラしているんだ。私は恋愛経験ありません!と大々的に言っているようなものだ。沢山恋してますと言うのも恥ずかしいし、全くしてないのも恥ずかしい。乙女心は複雑だ。
「そもそもあれは告白なのかな?」
「は?」
「だって『好き』とか『付き合って』とか言われていないし」
「馬鹿か。あんなの告白以外何があるんだよ」
「……デスヨネ」
どうしたらいいかわからず、ゔーっと唸りながら机に頭をつけて悩む。
「はあ、気分転換に紅茶でも淹れるわ。カールも付き合って」
「ああ」
私はコポコポとお湯を沸かして、丁寧に紅茶を淹れる。王女だった私は前世では料理など全く出来なかったが、貴族の嗜みとして紅茶を淹れるのは美味かった。あの時のような高級な茶葉は手に入らないが、今も紅茶は大好きだ。
そういえば、昔はよくライナスともよく紅茶を飲んだなと思い出す。
「紅茶はね『ゴールデンドロップ』って言って最後の一滴が一番美味しいのよ」
「ゴールデンドロップ……」
「そう!ふふ、今日は特別にあなたにあげるわ」
ティーポットから温めたカップに紅茶を注ぐと、ふんわりと良い香りがする。そこに、オレンジの輪切りを入れ上に砂糖をかける。
「シャリマティーよ。どうぞ」
彼は無言のまま、すーっと香りを楽しんでごくりと飲んだ。
「……美味い」
「本当?それならよかったわ」
私も一口飲んで、ふわーっと幸せな気分になる。
「まさか、また飲める日が来るなんて」
ん?また?私はどういう意味かと思って顔をあげると、カールの瞳から一筋の涙が溢れていた。
「あなたは……キャロライン王女なのですね?」
彼の真剣な眼差しから目を逸らすことはできなかった。
「三人も四人も変わらないから、気にすんな」
「じゃあ身体で返します」
「おいおい……その台詞、男前に言われると誤解しちまうな!ははは」
お父さんはバシバシとカールの背中を叩いて、笑っている。そして、彼は本当にキッチンに入り父から指導を受けている。
「上手いな!カールは料理もできるのか」
「騎士は野外でも食事をしないといけないので、簡単な調理なら可能です」
「そうか。じゃあこれ全部切って、あと悪いがこれが終わったら裏の倉庫から小麦粉を二袋持って来てくれ」
「はい」
「ありがとう、助かる」
トントントンと器用に野菜を切っている。この人は昔から、何をやらせても上手くやるなぁと感心していた。
私の髪の毛は昨日もらったヘアゴムが付いている。ヘアセットをする時にまた胸が、ドキドキしてしまい困ってしまった。私が突然のプレゼントで嬉しかったのは生まれて初めてだ。
しかし、カールからなんの反応もなくて少しがっかりした。いや……がっかりってなんだと心の中で自分にツッコミをいれる。この男が気まぐれにくれた物に、何かを思うわけがないのに。
カランカラン
「いらっしゃいませ……あら、ダニーおはよう。早いわね」
「ケイトさん、おはよう」
「朝ご飯食べる?」
「ああ。なあ!俺どうしてもミーナに確かめたいことがあって」
ダニーはなんだか真剣な顔で、私にどんどん近付いて来た。
「おはよう!なあに?」
「おはよ、ミーナ。なあ、昨日あの男と出掛けてたって本当か?」
「ええ。お父さんに買い出し頼まれて。重たかったからついて来てもらったの」
「買い出し……ね。町では君にボーイフレンドができたと噂になってたよ」
ええ?そんなことになっていたのか。全く……やめて欲しいものだ。この田舎町の人々は優しく人情味に溢れているが、すぐに人を好きだ嫌いだと男女の関係にしたがるのは悪いところだ。
「やめてよ!そんな変な噂を信じるのは」
「そっか。違うのか」
私がそう怒ると、ダニーはへらりと嬉しそうに笑った。しかし、その直後に彼は奥のキッチンを見て信じられないとでもいうように眉を顰めた。
「なん……で?あの男がここに?」
「助けたお礼に手伝いしてくれるって」
「なんだと!?図々しいな」
「力あるし、お父さんは助かってるみたいだけど」
ダニーはチッと舌打ちをして、キッチン前のカウンターに座った。
「ダニーそこでいいの?広いところで食べたら」
「ここがいい!」
――何考えてるんだか。最近の彼はなんだか変だ。妙にカールに突っかかるし。
「おい!お前……食堂まで来てなんのつもりだよ」
「ああ、あの時のガキか。朝からキャンキャンと元気だな」
カールはチラリとダニーを見た後、何事もなかったかのように料理を続けている。
「バッカスさん!なんでこんなオッサンに料理教えてんだよ!!」
「お前な、こんな男前をオッサンとか言うな!俺のが方がオッサンだっつーの。あれ?そーいやカールっていくつなんだ?」
「俺は三十二です」
「そうなのか。若く見えるな」
「ミーナの十七歳も上だぜ?立派なオッサンじゃねぇか!」
その瞬間、ダニーはお母さんにギリギリとヘッドロックをかけられている。
「口には気をつけなさい?私より年下のカールがオッサンなら私は何なの?オバサン?」
「ぐっ……ケイ……トさんは……」
「ケイトさんは?」
「一生……お……姉さん……です」
「よろしい」
パッと手を離されゲホゲホと咳き込んでいる。それをお父さんはケラケラと笑って見ていた。
「年上のお兄さんにオッサンは失礼だろ。これに懲りて、ちゃんとお前も名前で呼べ」
ダニーはムッとして拗ねている。
「いいですよ。俺はなんでも」
カールは大人の余裕なのか冷静に対応していた。ダニーはそれも気に入らないのか、ギロっと睨んでいる。
「もう、喧嘩しないで。ほら、ご飯できたよ」
今日の朝食メニューは、ふわふわのオムレツに具沢山のクラムチャウダー。あとは熱々に焼いたパンだ。
「ありがとう。いただきます」
ダニーは私を見て嬉しそうに笑い、パクパクと口に運んでいる。
「美味い!このクラムチャウダーはミーナ作だろ」
「そうよ。よくわかるわね!昨日から煮込んでる自信作」
「めっちゃ美味い。ミーナの味はすぐわかる」
「ふふ、よかったわ」
なんかよくわからないけど、ダニーの機嫌がなおってよかった。彼はあっという間にペロリと食べ終えた。食器を下げようと近づいた時に……ダニーにさらりと髪を触られた。
「いつもと髪留め違うな。こんなの持ってたっけ?買ったのか?」
それは、昨日カールに買ってもらったヘアゴムのことだった。わざわざ言わないでよ!恥ずかしいじゃない。絶対にキッチンにも聞こえている。
「え?あー……うん」
私がドギマギして目を逸らしていると、バチッとカールと目が合った。
「それは俺が昨日あげたやつだ。可愛い、よく似合ってるよ」
いつもの意地悪な笑いではなく、爽やかに普通に褒められて私はぶわっと頬が染まった。
「あ、ありがとう」
照れながらお礼を言った私を、両親とダニーは驚いた顔で見ていた。なぜならこの三人は、私が『可愛い』と言われることも『プレゼントをもらうこと』も苦手だと知っているから。
自分でもわからないけれど、カールにヘアゴムを貰ったり、可愛いと言われるのは自然と嫌でなかったのだ。
「……んだよ」
ダニーは下を向いたまま、苦しそうに何かを呟いた。
「ミーナは昔から容姿を褒められたり、贈り物されるの苦手だろ?こいつならいいのか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
自分でも何故なのかはよくわからない。
「俺だって……していいなら、したかった」
「は?」
「嫌がることはしたくないって思って、あえてしなかっただけなのに。なんでポッと現れたこいつが!……そんなのずるいだろ」
ずるい?したかったって、一体何をだろうか。
「俺はこんなやつよりずっとずっと昔から、ミーナのこと可愛いって思ってる!毎日だって可愛いって伝えたいし、プレゼントだって贈りたいのを我慢してたのに」
私はそのとんでもない告白に、驚いてフリーズしてしまった。
「ごめん。頭冷やすわ」
彼はお金を乱暴にテーブルに置いて、ドアを開けて出て行った。これは……彼は私を好きだということなのだろうか。
ポカンとしている私に、お母さんが「大丈夫?」と優しく声をかけてくれた。ダニーとは子どもの頃から一緒で、幼馴染だけど仲の良い兄妹のような感じだった。
「ちょっと家に戻って心を落ち着かせて来なさい」
「ううん、大丈夫」
「そんな暗い顔で接客したら、お客様が逃げちゃうわ。邪魔よ」
お母さんにそう促されて、一旦家に戻ることにした。しかし、家に戻って一人になると余計にグルグルといらないことを考えてしまう。
リビングでボーっとしていると、トントンとノック音がなり顔をあげるとそこにはカールが立っていた。
「バッカスさんが、君が一人だと心配だから見て来てくれって」
「そう。ごめんね、気を遣わせて」
「さっきは悪かったな。いらないことを言って」
「ううん。あなたが悪いわけないじゃない」
「なぜ容姿を褒められるのが苦手なんだ?君くらいの年齢なら嬉しいはずだろう」
――それは前世、美しさで苦労したから。
しかし、そんなこと言えるはずもない。
「だってほら、私って平凡な顔じゃない?それなのに可愛いとか綺麗とか……嘘っぽいし。中身を褒められた方が嬉しいなって」
「そうか?綺麗っていうのは見た目だけでなく中身も含めての褒め言葉だ。君は生命力に溢れてて、間違いなく美しく可愛い少女だと思うがな」
私はまたブワッと頬が染まる。この人は慰めてくれているのだろうか?それにしても、さらっとこんなことを言うなんて……昔に比べると女性の扱いに手慣れていて、私の知らない十五年の経験値の差を感じた。
「嘘つき。ち、ちんちくりんって言ったくせに!」
私が怒ると、カールはくっくっくと笑った。
「ミーナ、まさかずっと気にしてたのか」
「気にするわよ!」
「はは、悪かったな。あれは揶揄っただけだ」
「なによ、それ」
私の髪をぐしゃぐしゃと撫で「自分への賛辞は素直に喜べばいい」と微笑んだ。
ドキドキドキ……なんでだろう。また胸の鼓動が早くなって苦しくなる。
「あのガキのこと嫌いなのか」
「嫌いじゃない」
「ふーん。じゃあ別に好きな男がいるのか?」
「いないわ。でも、初めてだしちゃんと好きになった人と付き合いたい。中途半端な気持ちじゃダニーにも失礼だし」
「初めて……か」
はっ!私ったら自分の臣下だった男に何を色々とバラしているんだ。私は恋愛経験ありません!と大々的に言っているようなものだ。沢山恋してますと言うのも恥ずかしいし、全くしてないのも恥ずかしい。乙女心は複雑だ。
「そもそもあれは告白なのかな?」
「は?」
「だって『好き』とか『付き合って』とか言われていないし」
「馬鹿か。あんなの告白以外何があるんだよ」
「……デスヨネ」
どうしたらいいかわからず、ゔーっと唸りながら机に頭をつけて悩む。
「はあ、気分転換に紅茶でも淹れるわ。カールも付き合って」
「ああ」
私はコポコポとお湯を沸かして、丁寧に紅茶を淹れる。王女だった私は前世では料理など全く出来なかったが、貴族の嗜みとして紅茶を淹れるのは美味かった。あの時のような高級な茶葉は手に入らないが、今も紅茶は大好きだ。
そういえば、昔はよくライナスともよく紅茶を飲んだなと思い出す。
「紅茶はね『ゴールデンドロップ』って言って最後の一滴が一番美味しいのよ」
「ゴールデンドロップ……」
「そう!ふふ、今日は特別にあなたにあげるわ」
ティーポットから温めたカップに紅茶を注ぐと、ふんわりと良い香りがする。そこに、オレンジの輪切りを入れ上に砂糖をかける。
「シャリマティーよ。どうぞ」
彼は無言のまま、すーっと香りを楽しんでごくりと飲んだ。
「……美味い」
「本当?それならよかったわ」
私も一口飲んで、ふわーっと幸せな気分になる。
「まさか、また飲める日が来るなんて」
ん?また?私はどういう意味かと思って顔をあげると、カールの瞳から一筋の涙が溢れていた。
「あなたは……キャロライン王女なのですね?」
彼の真剣な眼差しから目を逸らすことはできなかった。
38
あなたにおすすめの小説
【完結】恋につける薬は、なし
ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。
着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…
しつこい公爵が、わたしを逃がしてくれない
千堂みくま
恋愛
細々と仕事をして生きてきた薬師のノアは、経済的に追い詰められて仕方なく危険な仕事に手を出してしまう。それは因縁の幼なじみ、若き公爵ジオルドに惚れ薬を盛る仕事だった。
失敗して捕らえられたノアに、公爵は「俺の人生を狂わせた女」などと言い、変身魔術がかけられたチョーカーを付けて妙に可愛がる。
ジオルドの指示で王子の友人になったノアは、薬師として成長しようと決意。
公爵から逃げたいノアと、自覚のない思いに悩む公爵の話。
※毎午前中に数話更新します。
二年後、可愛かった彼の変貌に興ざめ(偽者でしょう?)
岬 空弥
恋愛
二歳年下のユーレットに人目惚れした侯爵家の一人娘エリシア。自分の気持ちを素直に伝えてくる彼女に戸惑いながらも、次第に彼女に好意を持つようになって行くユーレット。しかし大人になりきれない不器用な彼の言動は周りに誤解を与えるようなものばかりだった。ある日、そんなユーレットの態度を誤解した幼馴染のリーシャによって二人の関係は壊されてしまう。
エリシアの卒業式の日、意を決したユーレットは言った。「俺が卒業したら絶対迎えに行く。だから待っていてほしい」
二年の時は、彼らを成長させたはずなのだが・・・。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。
長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様!
しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが?
だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど!
義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて……
もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。
「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。
しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。
ねえ、どうして? 前妻さんに何があったの?
そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!?
恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。
私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。
*他サイトにも公開しています
毒姫ライラは今日も生きている
木崎優
恋愛
エイシュケル王国第二王女ライラ。
だけど私をそう呼ぶ人はいない。毒姫ライラ、それは私を示す名だ。
ひっそりと森で暮らす私はこの国において毒にも等しく、王女として扱われることはなかった。
そんな私に、十六歳にして初めて、王女としての役割が与えられた。
それは、王様が愛するお姫様の代わりに、暴君と呼ばれる皇帝に嫁ぐこと。
「これは王命だ。王女としての責務を果たせ」
暴君のもとに愛しいお姫様を嫁がせたくない王様。
「どうしてもいやだったら、代わってあげるわ」
暴君のもとに嫁ぎたいお姫様。
「お前を妃に迎える気はない」
そして私を認めない暴君。
三者三様の彼らのもとで私がするべきことは一つだけ。
「頑張って死んでまいります!」
――そのはずが、何故だか死ぬ気配がありません。
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない
咲桜りおな
恋愛
愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。
自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。
どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。
それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。
嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。
悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!
そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる