本当に美しい国だった

志生帆 海

文字の大きさ
2 / 13

幼き日々

しおりを挟む
 

「パドゥル!どこにいるの?」
「母さん!」
「もう心配かけて、まぁこんなに汚れて」
「へへっ遺跡で隠れん坊してた」
「駄目よ。一人で行ったら」
「はーい」

 僕の故郷は美しい国だった。

 砂が吹き荒れることの方が多い渇いた砂漠の国だったが、大好きな父と母と妹と過ごせる楽園でもあった。町の外れには見上げるほど巨大な古代遺跡が建ち並び、夕暮れ時には僕の足元まで長い影を伸ばしてきた。首都の町は刀剣産業で有名で、僕の父さんも刀づくりの職人をしていた。


「パドゥル帰ったのか。このやんちゃ坊主め」
「父さん!あの刀を見せて」
「あぁこれか。お前はこれが本当に好きだな」


 この街で製造される刀剣は、鋼をも突き刺すことができると評判で、古来から数々の伝説が残っていた。いつも見せて欲しいと強請るのは、僕と同じ名の付いた短い刀。父さんのお爺さんの時代に作られたもので、「バドゥル(満月)」という名がついていた。


「この名刀の名が満月だなんて不思議だ。私だったらもっと切れそうな名にするのにな」


 父さんはいつも悔しそうに呟くが、僕はそう思わない。この刀に相応しい名だと思うよ。刀は人を斬るものかもしれないが、戦いで自分の命を守るものでもあるから。そう思えば夜空に浮かぶ満月が、命を守る盾のようにも見えてくる。僕もこの刀のように、鋼をも突き刺せるような強い男になりたいといつも願っていた。


 父の逞しい声で目覚める朝。
 学校で友達と笑いあう午後。
 遺跡広場で遊ぶ放課後。
 小さな家で家族全員で食事をする夕刻。
 妹と手を繋いで眠る夜。
 はだけた毛布を母がなおしてくれる真夜中。

 こんな幸せな日々が永遠に続くと信じていた。

 この世界が破壊される日が近づいているなんて思いもしなかった。

 まだ十二歳の僕から見える世界は明るく輝いていて、内戦の足音は全く聴こえなかった。

 僕は明日のことなど、本当に何も知らなかった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

恋愛速度【あっというまに始まった、おれと遊び人の先輩の恋の行方……】

毬村 緋紗子
BL
高校生になったばかりの千波矢は、2コ上の先輩、高城 慶と知り合う。 女の子にモテる慶は、これまでかなり派手に遊んできたらしい。 そんな慶から告白されて付き合いはじめた千波矢だったけれど、すぐに身体を求められて、戸惑い、思い悩んでしまう。 先輩は、本当におれのことが好きなのかな おれは、先輩に遊ばれてるだけなのかな──。 〈登場人物〉 瀧川 千波矢 タキガワ チハヤ 高1 高城 慶 タカシロ ケイ 高3 表紙イラストは、生成AIによる自作です。 エールをありがとうございます!(ω〃)

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。 しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです… 本当の花嫁じゃないとばれたら大変! だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

Candy pop〜Bitter&Sweet

義井 映日
BL
完結済み作品。全6話。番外編1本追加! 「185cmの看板男」が、たった一人の恋人の前で理性を失う。 ――三ヶ月の禁欲を経て、その愛は甘く、激しく、暴走する。 「あらすじ」 ​大学の「看板男」こと安達大介は、後輩の一之瀬功(いちのせ こう)を溺愛している。 ついに迎えた初めての夜。しかし、安達の圧倒的な「雄」の迫力に、功は恐怖して逃げ出してしまう。 ​「――お前は俺を狂わせる毒だと思ってた」 ​絶望した安達と、愛しているのに身体が竦む功。 三ヶ月の育みを経て、到達した二人の「じれったい禁欲生活」の行方は? 看板男の仮面が剥がれるとき、世界で一番甘い夜が始まる。 お話が気に入った、面白かった、と思ってくださったら、お気に入り登録、いいね、をお願い致します! 作者の励みになります!!

処理中です...