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幼き日々
しおりを挟む「パドゥル!どこにいるの?」
「母さん!」
「もう心配かけて、まぁこんなに汚れて」
「へへっ遺跡で隠れん坊してた」
「駄目よ。一人で行ったら」
「はーい」
僕の故郷は美しい国だった。
砂が吹き荒れることの方が多い渇いた砂漠の国だったが、大好きな父と母と妹と過ごせる楽園でもあった。町の外れには見上げるほど巨大な古代遺跡が建ち並び、夕暮れ時には僕の足元まで長い影を伸ばしてきた。首都の町は刀剣産業で有名で、僕の父さんも刀づくりの職人をしていた。
「パドゥル帰ったのか。このやんちゃ坊主め」
「父さん!あの刀を見せて」
「あぁこれか。お前はこれが本当に好きだな」
この街で製造される刀剣は、鋼をも突き刺すことができると評判で、古来から数々の伝説が残っていた。いつも見せて欲しいと強請るのは、僕と同じ名の付いた短い刀。父さんのお爺さんの時代に作られたもので、「バドゥル(満月)」という名がついていた。
「この名刀の名が満月だなんて不思議だ。私だったらもっと切れそうな名にするのにな」
父さんはいつも悔しそうに呟くが、僕はそう思わない。この刀に相応しい名だと思うよ。刀は人を斬るものかもしれないが、戦いで自分の命を守るものでもあるから。そう思えば夜空に浮かぶ満月が、命を守る盾のようにも見えてくる。僕もこの刀のように、鋼をも突き刺せるような強い男になりたいといつも願っていた。
父の逞しい声で目覚める朝。
学校で友達と笑いあう午後。
遺跡広場で遊ぶ放課後。
小さな家で家族全員で食事をする夕刻。
妹と手を繋いで眠る夜。
はだけた毛布を母がなおしてくれる真夜中。
こんな幸せな日々が永遠に続くと信じていた。
この世界が破壊される日が近づいているなんて思いもしなかった。
まだ十二歳の僕から見える世界は明るく輝いていて、内戦の足音は全く聴こえなかった。
僕は明日のことなど、本当に何も知らなかった。
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