本当に美しい国だった

志生帆 海

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消滅

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 今、僕の目の前は炎の海だ。

「逃げなさいっ!」

 父の怒声で我に返った。

 夜明け。

 暁色の空が世界を染め始めるこの世で一番美しい時刻に、政府軍による爆撃は無差別に僕たちの町を襲った。

 空から降って来るのは恵の雨なんかじゃない。命を奪う爆弾だ!何故?信じられないよ!こんなの嘘だ!僕たちの家はあっという間に爆風に吹き飛ばされ、目の前で父は爆撃をまともに浴び、血を溢れさせた。

「パ……ドゥ……ル」

 父の手から最期に受け取ったのは、あの満月の刀だった。

 母は僕と妹の手をひいて、遺跡の広場へと逃げ込んだ。だが爆撃は続き、空から次々と爆弾が降って来る。同時に地上が燃えていく。僕たちの町が……古代の遺跡が!もう一面炎の壁で、このままでは焼け死んでしまう!

 僕が愛した古代の遺跡が、今は僕を襲う凶器となって襲い掛かって来る。天を貫いていた柱が、ぐらりと火を噴きながら揺れた。

「危ない!」

 母が渾身の力で、僕を突き飛ばした。

「生きてっ!」
「母さんー!!」


 僕はそのまま遺跡広場の階段をゴロゴロと転げ落ち、その後すぐけたたましい騒音が鳴り響いた。慌てて駆け上がると、さっきまで生きていた母は、遺跡の太い柱の下敷きになっていた。

 あの優しくて綺麗だった母は、人間とは思えない無残な姿になっていた。いつも手を繋いであげた可愛い妹は、母のお腹に戻ったように母に包まれて死んでいた。ただし恐怖で引きつった顔のまま。

 なんだ……これは……この光景は。

「嘘だ……そんなー!」



 耐えられない!これが地獄というものなのか。

 僕が愛した世界は一夜にして消え、僕を愛してくれた家族はもういない。

 このまま焼け死んでしまいたい!

 僕も皆のところへ行かせてよ。

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