本当に美しい国だった

志生帆 海

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オレを抱いた男

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「痛っ……」

 八年前、火の海から助け出した小さな子供はもういない。

 朝になり、パドゥルに抱かれた余韻が残る熱い躰に戸惑った。腰も重たく鈍痛が突き抜ける。この感覚はとうの昔に忘れたものだった。あんな風に激しく求められたのは、本当に久しぶりだ。

 オレの相棒であり恋人と呼べる存在だったルーカス。お前があの日爆風に吹き飛ばされ、この世から消えて、もう五年か。お前が亡くなる前日も、オレ達はいつものように野営のテントで裸で抱き合っていた。

「セイフ大丈夫か」
「あぁ……ルーカス」
「なぁ、お前が助けたあの子のことだが」
「ん?パドゥルのことか」
「最近逞しくなってきたな。あと5年もしたらいい男になるだろう」
「どうした?何か気になるのか」
「あの子はお前のことが好きだよ」

「まさか!憧れているだけだろう?」
「いや俺には分かるよ。なぁセイフ、お互いいつ死ぬかも分からぬ身だ。もしも俺の方が先に逝くことになったら、俺の後釜はパドゥルにしてくれ。あの子ならお前を託せるよ」
「おいおい不吉なこと言うなよ。それにあの子はオレにとって息子みたいなものだ」
「とにかくお前のこの銀髪を、最初からあの子は曇りない目で見てくれた。俺は最初から見込んでいたんだ。だから決して他の奴には抱かれるなよ」
「ルーカスそれ以上不吉なことを言うな。捨て子で混血で居場所がなかったオレに生きる喜びを教えてくれるのは、お前だけでいい」

 オレの白い肌、金髪の中でも特に色素が薄く銀色に見える髪。目が覚めるようなブルーの瞳。
 明らかに周囲と違う外見に、よからぬ血が混ざっているのだろうと邪険に扱われていたオレのことを、お前だけはまっすぐ見てくれた。

 実際は親とはぐれたのか捨てられたのか分からない。まだ三歳だったオレをお前の家族が拾ってくれなかったら、とっくにこの世を去っていただろう。オレ達は仲睦まじく兄弟のように成長した。やがて隣国から飛び火してきた政権に対する抗議運動に、若かったオレ達も共に駆け出した。その後ルーカスは親も家も捨て、反体制派グループに加わると明かした。

「セイフ行こう!俺と一緒に戦って自由を手に入れよう。ついて来てくれ!親も家もいらないが、セイフだけは絶対に手放せない!」

 ずっと異国の形相のオレを対等に見てくれたお前についていくこと、躊躇するはずがない。ルーカスはその晩…俺を女のように……強引に優しく抱いた。

「ルーカス……なんで俺を抱いた?」
「セイフ……お前のことがずっと好きだった。俺の同士だ。戦いの場に女なんていらない。セイフがいればそれでいい」
「ルーカス……」

 初めての性行為の相手が男だったことに、戸惑いがなかったわけじゃない。だがお前を信頼していたし、オレにはもうお前しかいなかったのですべてを受け入れた。

 実際、躰を重ね共に暮らすようになって、ますます結束は高まった。オレの銃の腕も、全部お前仕込みだ。お前がいてくれたおかげで、混血のオレでも反体制派のリーダー格にまで上り詰めることが出来た。

 そしてお前が亡き後も、その地位を揺るがせてはいない。お前が切り開いてくれた道を穢されることなく守り通している。もちろん言い寄って来る奴も多かったが、誰にも躰を明け渡すこともなかった。

 それがまさか十歳も年下でオレが育てたパドゥルに抱かれる日が来るなんて、思いもしなかった。だが、それを許したのは……他でもないオレ自身だ。

 あの日のあんな約束が、まさか本当になるなんて。天国にいるルーカス。オレのこと許してくれるよな。相手はお前が望んだパドゥルだったのだから。

 パドゥルは、オレだけの満月だ。

 オレを大胆に抱いたあいつの若い熱を、躰の奥にまだ感じている。パドゥルは、オレに力を注いでくれる存在だ。ルーカスを失った悲しみも、人に言えないこの身の辛さも、戦争孤児として懸命に生きるお前を見ているだけで、今までも癒されパワーをもらっていた。

 躰を合わせたこの先は、もっと力強くオレを支えてくれるのか。

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