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第1章
紐解いて 10
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僕はあの日、雄一郎さんの友人から、集団で暴行を受けた。
すんでのところで海里に助けられ難を逃れたが、精神的ショックと硬い異物を無理やり突っ込まれた損傷を癒すために、入院することになった。
深く傷ついた僕の姿を見て、海里は僕の前で初めて涙を流した。
それは悔し涙だった。
「うっ……瑠衣……お前、馬鹿だ。どうしてもっと早く俺に言わなかった? こんな目に遭うなんて……悔しい」
「海里? 君が泣くなんて……君はちゃんと助けてくれたじゃないか、君がいなかったら今頃どうなっていたか……」
「いつまでもお人好しの瑠衣。もうあの屋敷には置いておけない!」
海里もお屋敷の旦那さまと、同じ事を言っていた。
結局それから1カ月もの間、病室でぼんやりと過ごすことになった。身体の傷はとっくに癒えたのに、こんなに長い間休みをもらったのは初めてで、どう過ごせば良いのかわからなかった。
後に分かったことだが、意図的に退院させなかったそうだ。僕をお屋敷に戻らせたくなくて。その間に旅立たされる準備が、着々と進められていた。
やがてよく晴れたある日「飛び立つ」時がやってきた。
海里の訴えもあり、僕と海里は揃って英国留学する事になった。
海を越えるのか。
生まれてから、旅行などしたことがない僕が、海外へ行くなんて信じられない。
退院には海里が迎えに来てくれ、私物を取りに一度だけ厳重に付き添われて屋敷に戻った。
「瑠衣、早くしろ。飛行機の時間がある」
「うん」
屋根裏部屋には大した荷物はなかった。数着の着替えを海里が用意してくれた鞄にサッと詰めた。最後に母さんが作ってくれた白兎のぬいぐるみを抱きしめた。
「母さん……」
母さんの荷物は亡くなった時に全部処分されてしまったので、何もない。どこに葬られているのかも知らないので、遺骨も写真もない。だから唯一の形見なのだ。この白兎は……
「瑠衣の荷物……これだけなのか……少ないんだな」
「いや、これで十分だよ」
高校生活の半ばだったので、まずは海里と英国・ロンドンのハイスクールに一緒に通い、卒業後、僕は執事養成学校へ入学が決まっており、海里はメディカルスクールを目指すそうだ。
束の間だが、海里と同じ道を歩めるのが嬉しかった。
「瑠衣、行くぞ」
「……うん」
振り返っても、僕を見送る人なんて誰もいないのに、それでも振り返らずにはいられなかった。
未練がましいのか、それとも決別の意を込めてなのか。
あんな酷い目に遭ったというのに……
それでも、ここは僕が生まれ育った場所だから。
母さんと過ごした屋根裏部屋には、きっともう二度と戻れない。
この屋敷の敷居を跨ぐことも、もうない。
でも僕は心の中で「行ってきます」と告げた。
誰に?
もうこの世にいない母さんと、この世にいてもその名を呼べない父さんに……
それから「さよなら」と。
海の向こうには、何が待っているのだろう。
まだ見ぬ世界への憧れ……
今まで抱いた事もない、新しい感情が芽生えていた。
「瑠衣、この先は俺たちは自由だ。俺たちは兄弟として堂々と生きていけるんだ」
海里の言葉が、胸に響いた。
こんな僕でも、少しは変われるのか。
変わりたいよ。
今の僕を……紐解いていくと……
そこには『希望』という言葉が残っていた。
あとがき(不要な方はスルーして下さい)
****
長いプロローグのような物語の始まりでした。
辛い展開堪えて下さってありがとうございます。
いよいよ英国編です。
ときめき・戸惑い……ラブストーリーの始まりです。
瑠衣の感情を揺さぶっていきます!
いよいよ彼も登場しますので……♡
応援ありがとうございます。
更新の糧になっております。
すんでのところで海里に助けられ難を逃れたが、精神的ショックと硬い異物を無理やり突っ込まれた損傷を癒すために、入院することになった。
深く傷ついた僕の姿を見て、海里は僕の前で初めて涙を流した。
それは悔し涙だった。
「うっ……瑠衣……お前、馬鹿だ。どうしてもっと早く俺に言わなかった? こんな目に遭うなんて……悔しい」
「海里? 君が泣くなんて……君はちゃんと助けてくれたじゃないか、君がいなかったら今頃どうなっていたか……」
「いつまでもお人好しの瑠衣。もうあの屋敷には置いておけない!」
海里もお屋敷の旦那さまと、同じ事を言っていた。
結局それから1カ月もの間、病室でぼんやりと過ごすことになった。身体の傷はとっくに癒えたのに、こんなに長い間休みをもらったのは初めてで、どう過ごせば良いのかわからなかった。
後に分かったことだが、意図的に退院させなかったそうだ。僕をお屋敷に戻らせたくなくて。その間に旅立たされる準備が、着々と進められていた。
やがてよく晴れたある日「飛び立つ」時がやってきた。
海里の訴えもあり、僕と海里は揃って英国留学する事になった。
海を越えるのか。
生まれてから、旅行などしたことがない僕が、海外へ行くなんて信じられない。
退院には海里が迎えに来てくれ、私物を取りに一度だけ厳重に付き添われて屋敷に戻った。
「瑠衣、早くしろ。飛行機の時間がある」
「うん」
屋根裏部屋には大した荷物はなかった。数着の着替えを海里が用意してくれた鞄にサッと詰めた。最後に母さんが作ってくれた白兎のぬいぐるみを抱きしめた。
「母さん……」
母さんの荷物は亡くなった時に全部処分されてしまったので、何もない。どこに葬られているのかも知らないので、遺骨も写真もない。だから唯一の形見なのだ。この白兎は……
「瑠衣の荷物……これだけなのか……少ないんだな」
「いや、これで十分だよ」
高校生活の半ばだったので、まずは海里と英国・ロンドンのハイスクールに一緒に通い、卒業後、僕は執事養成学校へ入学が決まっており、海里はメディカルスクールを目指すそうだ。
束の間だが、海里と同じ道を歩めるのが嬉しかった。
「瑠衣、行くぞ」
「……うん」
振り返っても、僕を見送る人なんて誰もいないのに、それでも振り返らずにはいられなかった。
未練がましいのか、それとも決別の意を込めてなのか。
あんな酷い目に遭ったというのに……
それでも、ここは僕が生まれ育った場所だから。
母さんと過ごした屋根裏部屋には、きっともう二度と戻れない。
この屋敷の敷居を跨ぐことも、もうない。
でも僕は心の中で「行ってきます」と告げた。
誰に?
もうこの世にいない母さんと、この世にいてもその名を呼べない父さんに……
それから「さよなら」と。
海の向こうには、何が待っているのだろう。
まだ見ぬ世界への憧れ……
今まで抱いた事もない、新しい感情が芽生えていた。
「瑠衣、この先は俺たちは自由だ。俺たちは兄弟として堂々と生きていけるんだ」
海里の言葉が、胸に響いた。
こんな僕でも、少しは変われるのか。
変わりたいよ。
今の僕を……紐解いていくと……
そこには『希望』という言葉が残っていた。
あとがき(不要な方はスルーして下さい)
****
長いプロローグのような物語の始まりでした。
辛い展開堪えて下さってありがとうございます。
いよいよ英国編です。
ときめき・戸惑い……ラブストーリーの始まりです。
瑠衣の感情を揺さぶっていきます!
いよいよ彼も登場しますので……♡
応援ありがとうございます。
更新の糧になっております。
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