ランドマーク ~そこに君がいてくれるから~

志生帆 海

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第2章

君と僕、俺と君 3

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 ここは英国だ。
 日本での僕の不様で憐れな姿は、海里以外には誰も知らない。
 だから僕も友達というものを作ってもいいのでは……
 日本ではクラスメイトと話はしたが、誘われても放課後や休日の遊びに一切付き合えなかったので、友達と呼びあえる存在にはなれなかった。

 だからなのか……
 こうやって異国の地、異国の街で息をして石畳を踏みしめる度に、甘い期待が芽生えてしまうのは。

 公園で出逢った君の名は、まだ知らない。
 でも知らない方がいいと思った。
 僕が英国で自由に過ごせる時間はとても短い。だが束の間の時間だからこそ、今まで絶対に出来なかった事をしてみたい。

 だから……
 僕の名前も言わない。

『君と僕』でも許してもらえるかな。


****
 
 連れてこられた広場には、ドールハウスのような家が立ち並び、赤いダブルデッカー(二階建バス)が所狭しと駆け回っていた。
 海里と暮らすフラットからハイスクールは徒歩圏内だったので、バスに乗る機会がなかった。どうやって乗るのかも知らないし。 

 僕の前を颯爽と歩く君の姿、見事な金髪が太陽の光を浴びてキラキラして綺麗だ。
 つい見とれていると、いきなり振り向かれたので照れくさくなった。
「な、何?」
「あのさ、バスに乗って行きたい所はある?」
「……どこにも行きたくない」
 こんな平和な時間が、いつまでも続けばいいと願ってしまうよ。
「え?」
「あっごめん。その、バスの2階からロンドンの景色を眺めてみたくて、だから行先は、どこでもいいんだ」
(君と一緒に景色を眺めてみたいだけ……)

 最後の言葉は、口には出さなかった。
 友達との距離感が分からない。
 こんな感じでいいのだろうか。
 僕は何も知らない。

「そういうことか。俺もそれがいいな。君と一緒にいたいだけだからさ」
「え……」
 それは、僕が呑み込んだ言葉だ

「じゃあ行先はどこでもいいよな。よし、あのバスに乗ろう」
「あっ、待って」
 雑踏の中、背の高い君を慌てて追いかける。
「おいで、こっちだ」
 君は何の躊躇いもなく、僕の手首を掴んで引っ張ってくれる。
 誰かにこんなに力強く、希望を持って触れてもらった事はない。
 母さん以外には。

(瑠衣、おいで! 今日は母さんお休みなの。公園に行きましょう)
(うん!)

 まずい……涙で視界が霞んでしまうよ。
 いきなり泣いたら驚かれるだろう。だから必死に堪えた。
 彼は僕の分のバス代も、スマートに払ってくれた。

「あ、バス代を」
 
 海里から、小銭は預かっている。
 勝手に使っていいのか分からないが、きちんと払いたい。

「後でいいって。おっ、やったな。最前列が空いてる。あそこに座ろう!」
「わっ」
「早く! 早く!」

 さらに勢いよく手を引っ張られる。
 グイグイと視界が流れる。
 いつもの僕の速度じゃない、これっ……!

「ほら座って!」
「う、うん。わ……景色が違う!」
「そうか、よかったよ」

 高さが違うと、世界はこうも違うのか。いつも底辺から空を見上げていた僕だから、見たこともない高さから、ロンドンの街並みを見下ろすのは驚きだった。

 バスが動きだすと、目の前には何もなく、視界がどんどん開けていく。
 まるで僕の力で世界を切り開いているような錯覚に陥ってしまうよ。

 すごく気持ちいい。
 でもすごく怖い。
 こんな場所から世界を見たことがない僕だから、悪酔いしそうだ。

「大丈夫?」
「ごめん。高さに慣れなくて」
「……そうだ。水飲んで」
「あ、うん」
「おっと、俺も喉カラカラなんだ。先に一口もらうな」
「あ……」
 
 日本に居た時、クラスメイトの男子と女子が水筒を回し飲みして『間接キス』と騒いでいたのを急に思い出し、赤面してしまった。
「あ、悪い」
 するとなぜか彼も、顔を赤くしていた。
 
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