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第2章
君と僕、俺と君 6
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「ご、ごめんね」
「いや」
指先についたケチャップを、自分の舌でペロリと舐めてみた。
君は目を見開いて驚いたが、俺にとってはこれも間接キスで、ケチャップの酸味がとても甘く感じた。
甘酸っぱい……
「あ……あの、汚くないの?」
「全然、むしろ甘かった」
「……」
彼はすぐに頬を淡く染めた。
透き通るような白い肌は、彼の感情を映す鏡のようだ。
俺の行動に過敏に反応してくれると、やっぱり期待してしまうよ。
その時横を通り過ぎたガラの悪い連中が、君のブカブカのシャツの胸元をひょいと覗き込んで口笛を吹いた。
「ヒュー! 色っぽいな」
「なんだ? 男かよっ」
スラングを含んだ早口だったので、君には聞き取れなかったはずだ。
だが侮蔑の籠もった嫌な視線に気づいたようで、顔が青ざめている。
くそっ邪魔しやがって!
喧嘩っぽい俺だが、ここはグッと堪えた。
君はそんなこと、少しも望んでいないと思ったから。
胸元を押さえて俯いてしまったので表情が伺えない。
でも指先が白くなってかすかに震えているので、君の悲しい気持ちがじんじん伝わって来る。
「おいで」
「え……」
「向こうに行こう!」
手をつないで引っ張った。
なんだろう?
こうやって引っ張っていないと、君はすぐに落っこちてしまいそうだ。
君がどこかにいってしまわないように、逃げてしまわないように、捕まえておかないと……
マーケットには通りに露店がたくさん出ていて、春色のストールがたくさんはためいていた。
「これがいいな」
その中の一つ、若草色から桜色へのグラデーションを描いた美しい色合いのストールを手に取って、彼の首元にふわっと巻いてあげた。
やっぱり似合う!
桜の樹の妖精みたいだ。(おいおい俺、こんなにロマンチストだったか。これはやはり恋の魔法か)
Cherry blossom color!
「これ似合うよ」
「え?」
上気する頬と同じ色。
彼は男性だが、柔らかく優しい色が似合う。
「友達になれた記念に贈るよ」
「でも……」
「いいから受け取って」
「……あ、でも……じゃあ僕も何かお礼をしないと」
「そんなのいいよ……そうだ、よかったらまた会ってくれないか」
もう、まるでデートの誘いだ、これ。
「……うん……僕でよかったら」
「やった! 来週も同じ時間、同じ場所で!」
それが俺たちの合言葉になる!
****
夢なんか見ちゃだめだ。
僕などが抱いてはいけない類のものだ。
それは分かっているのに、また会う約束をしてしまった。
彼といると夢を描いてしまう。
真っ白なキャンバスに幸せな色を……
高い所に登って、未来を自分の手で切り開いてみたくなる。
全部、僕にとっては無理なことなのに。
僕の人生は、無限ではない。
それを君は知らない。
1年後には執事養成学校の寄宿舎に入り2年を過ごし、その後はどこかの屋敷の執事となり、一生を終える。
もう最後まで人生が決まっている。
生まれた時から、堕とされた身の上だ。
何も望まないと思っていたのに……どうしよう。
英国でこんな感情が芽生えてしまうなんて。
おかしい、おかしいよ!
これは友情で片付けていい感情なのだろうか。
彼の顔を思い出すと、どうしてこんなに胸の鼓動が速く熱くなる?
家まで送るという彼の申し出は丁重に断り、困惑した感情を抱いたまま家路についた。
「おーい瑠衣! 今、帰りか」
振り返ると、テニスラケットを持った海里が立っていた。
「海里……」
「ん? 見慣れぬストールだな」
「あっ、うん……」
じろじろ見られて恥ずかしい。
いつも制服以外は白や黒の服しか着ていなかったので、こんな華やかな色合いは慣れないよ。
「へぇ、いいじゃん。すごく似合うな。そうだ明日、服を買いに行こう」
「え……」
「ごめん。やっぱりそのシャツ大きかったな。悪かったよ」
「いや、すごく着心地がよかったよ」
「もっと瑠衣の身体にフィットした服を買おう」
「でも……」
「兄が弟に買ってやるって言っているんだ! あんまり遠慮するな」
『兄』か。
海里は本気でそう思ってくれるのか。
日本では誰からも認められていないのに、それでも僕を『弟』と。
その気持ちが嬉しくて、胸の奥がまた熱くなる。
そして切なくなる。
「いや」
指先についたケチャップを、自分の舌でペロリと舐めてみた。
君は目を見開いて驚いたが、俺にとってはこれも間接キスで、ケチャップの酸味がとても甘く感じた。
甘酸っぱい……
「あ……あの、汚くないの?」
「全然、むしろ甘かった」
「……」
彼はすぐに頬を淡く染めた。
透き通るような白い肌は、彼の感情を映す鏡のようだ。
俺の行動に過敏に反応してくれると、やっぱり期待してしまうよ。
その時横を通り過ぎたガラの悪い連中が、君のブカブカのシャツの胸元をひょいと覗き込んで口笛を吹いた。
「ヒュー! 色っぽいな」
「なんだ? 男かよっ」
スラングを含んだ早口だったので、君には聞き取れなかったはずだ。
だが侮蔑の籠もった嫌な視線に気づいたようで、顔が青ざめている。
くそっ邪魔しやがって!
喧嘩っぽい俺だが、ここはグッと堪えた。
君はそんなこと、少しも望んでいないと思ったから。
胸元を押さえて俯いてしまったので表情が伺えない。
でも指先が白くなってかすかに震えているので、君の悲しい気持ちがじんじん伝わって来る。
「おいで」
「え……」
「向こうに行こう!」
手をつないで引っ張った。
なんだろう?
こうやって引っ張っていないと、君はすぐに落っこちてしまいそうだ。
君がどこかにいってしまわないように、逃げてしまわないように、捕まえておかないと……
マーケットには通りに露店がたくさん出ていて、春色のストールがたくさんはためいていた。
「これがいいな」
その中の一つ、若草色から桜色へのグラデーションを描いた美しい色合いのストールを手に取って、彼の首元にふわっと巻いてあげた。
やっぱり似合う!
桜の樹の妖精みたいだ。(おいおい俺、こんなにロマンチストだったか。これはやはり恋の魔法か)
Cherry blossom color!
「これ似合うよ」
「え?」
上気する頬と同じ色。
彼は男性だが、柔らかく優しい色が似合う。
「友達になれた記念に贈るよ」
「でも……」
「いいから受け取って」
「……あ、でも……じゃあ僕も何かお礼をしないと」
「そんなのいいよ……そうだ、よかったらまた会ってくれないか」
もう、まるでデートの誘いだ、これ。
「……うん……僕でよかったら」
「やった! 来週も同じ時間、同じ場所で!」
それが俺たちの合言葉になる!
****
夢なんか見ちゃだめだ。
僕などが抱いてはいけない類のものだ。
それは分かっているのに、また会う約束をしてしまった。
彼といると夢を描いてしまう。
真っ白なキャンバスに幸せな色を……
高い所に登って、未来を自分の手で切り開いてみたくなる。
全部、僕にとっては無理なことなのに。
僕の人生は、無限ではない。
それを君は知らない。
1年後には執事養成学校の寄宿舎に入り2年を過ごし、その後はどこかの屋敷の執事となり、一生を終える。
もう最後まで人生が決まっている。
生まれた時から、堕とされた身の上だ。
何も望まないと思っていたのに……どうしよう。
英国でこんな感情が芽生えてしまうなんて。
おかしい、おかしいよ!
これは友情で片付けていい感情なのだろうか。
彼の顔を思い出すと、どうしてこんなに胸の鼓動が速く熱くなる?
家まで送るという彼の申し出は丁重に断り、困惑した感情を抱いたまま家路についた。
「おーい瑠衣! 今、帰りか」
振り返ると、テニスラケットを持った海里が立っていた。
「海里……」
「ん? 見慣れぬストールだな」
「あっ、うん……」
じろじろ見られて恥ずかしい。
いつも制服以外は白や黒の服しか着ていなかったので、こんな華やかな色合いは慣れないよ。
「へぇ、いいじゃん。すごく似合うな。そうだ明日、服を買いに行こう」
「え……」
「ごめん。やっぱりそのシャツ大きかったな。悪かったよ」
「いや、すごく着心地がよかったよ」
「もっと瑠衣の身体にフィットした服を買おう」
「でも……」
「兄が弟に買ってやるって言っているんだ! あんまり遠慮するな」
『兄』か。
海里は本気でそう思ってくれるのか。
日本では誰からも認められていないのに、それでも僕を『弟』と。
その気持ちが嬉しくて、胸の奥がまた熱くなる。
そして切なくなる。
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