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第2章
君と僕、俺と君 21
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「アーサーってば、もうっ、さっきからぼんやりして」
「エミリー、ごめん」
「何か気になる事でも?」
「いや……」
土曜日の午後、エミリーが突然やって来て、彼女の希望で行きつけの高級ホテルで伝統的なアフタヌーンティーをすることになった。
エミリーは親同士が勝手に決めた俺の婚約者だ。彼女の方は乗り気のようだが、どうにも実感が湧かない。俺と同い年で、同じ英国貴族。なかなかの美人で家柄も外見も申し分ないのに、どうも波長が合わずピンとこない。
「最近のあなたは日曜日に出掛けてばかりで全然いないし、私から来ないと会う気もないのよね。憎らしいわ」
「今は男友達と遊ぶのが楽しくてさ。悪かったよ」
「ふぅん、そういうものなのね」
「理解して欲しい」
「……ねぇねぇ、それより私の話を聞いて」
クラシカルな3段ティースタンドの一番下の皿に手を伸ばし、サンドイッチを頬張りながら、彼女だけが興味のある話を延々と上の空で聞いていた。
新作のファッションやアクセサリーの話題や、上流階級特有の噂話。
以前の俺だったらもう少し話に付き合えたが、今は駄目だ。
ここは本当なら明日あの子と来るはずだったのに。
なんだかなぁ……
俺自身の態度も立場も中途半端で、モヤモヤしてしまう。
「あぁ、もうお腹一杯」
「え? まだスコーンもケーキもこんなに残っているのに」
「もういらないわ。それより早くお買い物に行きたくて。今日は付き合ってね」
「……あぁ、分かったよ」
さりげなく彼女が、俺の腕に掴まってくる。
香水の人工的な匂いが、今日は妙に鼻につくな。
公衆の面前で振り払う訳にも行かず、ぎこちなくティールームの外に出た。
そのとき、視線を感じた。
****
「瑠衣、そのジャケット似合うよ」
「そうかな。あの、高かったのに……本当にお代いいの?」
百貨店で瑠衣に濃紺のジャケットを購入してあげた。彼は慎ましく繊細な顔立ちで色白だから、濃紺のジャケットに白シャツというノーブルな出で立ちがよく似合う。
俺には持っていない、生粋の日本人らしさを持っているのが羨ましい。
瑠衣は相変わらず自分の魅力に気が付いていないようだが。
明日のデートも楽しんで来い。
瑠衣の麗しい端正な姿を見たら、きっとますます惚れられるぞ。
日本での日々で、瑠衣に後ろめたさを感じていた俺は、瑠衣の幸せをどうしても願ってしまう。
これって……結局はただの自分勝手な自己満足なのかもしれないが。
「よし、このままアフタヌーンティーに行こうぜ」
「そうだね。行ってみよう」
へぇ、瑠衣としては前向きな発言だ。
自分からどこかに行きたい、何かをしたいと言う事なんて皆無だったので、感激だ。
「せっかくだからロンドンで一番格式のあるホテルでアフタヌーンティーをしよう。俺も行ってみたかったんだ」
「そんな高級な場所……高いよ」
「馬鹿、そんなの気にするな。親父からの仕送り、ちゃんと二人分あるんだぜ。お前が全然使わないから貯まってるし」
瑠衣は意外そうに顔をあげた。
同時に、そこはかとなく嬉しそうな様子だった。
馬鹿、お人好しの瑠衣。
お前は、親父を恨んでいい立場なんだぞ。
それにしても親父は瑠衣を認知していないが、真意はいかに?
いつか本当の気持ちを聞いてみたい。
「……そうなのか。僕は疎くて、お金の使い方も知らないから、君に任せるよ」
高級ホテルのロビーに足を踏み入れると、大理石の床にシャンデリア、豪華絢爛な世界だった。
「海里……僕、大丈夫かな。浮いてない?」
瑠衣が煌めくシャンデリアを見上げて、息を呑んでいる。
「瑠衣、堂々としてろ。きっと明日もこういう場所に行くんだろう。慣れておけ」
ここは先日グレイから教えてもらった所だ。
ロンドンを代表する5つ星ホテルだそうなので、エレガントなアフタヌーンティーが期待できそうだな。
「少々お待ちくださいませ。ご予約のお客様が優先ですので」
「わかった」
予約していなかったので、しばらく待つことになってしまった。
「僕、先に洗面所に行ってきてもいいかな」
「あぁ、そうしろ」
瑠衣を見送りソファでくつろいでいると、ティールームから驚いた事にグレイが出て来た。しかも女性と腕を組んで! 不思議なことにグレイには最近よく会う。
「やあ、グレイじゃないか」
「おっと、モリミヤじゃないか」
「早速教えてもらった場所に来てみたんだ。グレイはデートか?」
あれ? おかしいな。
グレイが恋焦がれる女性って、日本人じゃなかったのか。
隣にいるのは、どうみても英国人だよな。
「……彼女はエミリーだ」
「はじめまして。まぁ素敵! エキゾチックで魅力的な人ね」
彼女が俺にまで色目を使うので驚いてしまった。
彼女の手はしっかりグレイの腕をつかんでいるのに。
上流階級特有の匂いは、英国でも日本でも同じで辟易してしまう。
「モリミヤはひとりで?」
「いや、弟と一緒だ」
グレイは辺りをすぐにキョロキョロ見渡した。
「どこにもいないぞ」
「今、化粧室に行ってる」
「お前の弟か、ぜひ会いたいな」
どうだろう? 瑠衣を見たら驚くのでは。あまりに俺とかけ離れた外見だから。
「ねぇアーサー、もう行きましょうよ。お店閉まっちゃう」
「あぁわかった。じゃあまたテニスしような!」
「あぁ」
彼らの背中を見送ってしばらくすると、瑠衣が戻ってきた。
「海里、今、誰かと話していた?」
「あぁ友達と会ったんだ」
「こんな場所で?」
「この店を教えてくれた奴なんだ。常連なんだな、きっと」
「それは優雅だね」
瑠衣と優雅なティータイムを過ごすと、彼のナイフやフォークを持つ仕草が想像よりずっと上品だったので、驚いた。
「なんだ、あまり教えることないな。テーブルマナーは完璧だ」
そう教えてやると、瑠衣は花が咲くように柔らかく微笑んだ。
「本当? そう見えるのなら、それは執事の田村さんのおかげだよ。彼がいつか役に立つと言っていたのは、こういう事だったんだね」
嬉しそうな瑠衣の笑顔に、俺もつられて微笑んだ。
これなら、大丈夫だ。
もっと自信を持って、もっと自分の人生を楽しんで欲しい。
「エミリー、ごめん」
「何か気になる事でも?」
「いや……」
土曜日の午後、エミリーが突然やって来て、彼女の希望で行きつけの高級ホテルで伝統的なアフタヌーンティーをすることになった。
エミリーは親同士が勝手に決めた俺の婚約者だ。彼女の方は乗り気のようだが、どうにも実感が湧かない。俺と同い年で、同じ英国貴族。なかなかの美人で家柄も外見も申し分ないのに、どうも波長が合わずピンとこない。
「最近のあなたは日曜日に出掛けてばかりで全然いないし、私から来ないと会う気もないのよね。憎らしいわ」
「今は男友達と遊ぶのが楽しくてさ。悪かったよ」
「ふぅん、そういうものなのね」
「理解して欲しい」
「……ねぇねぇ、それより私の話を聞いて」
クラシカルな3段ティースタンドの一番下の皿に手を伸ばし、サンドイッチを頬張りながら、彼女だけが興味のある話を延々と上の空で聞いていた。
新作のファッションやアクセサリーの話題や、上流階級特有の噂話。
以前の俺だったらもう少し話に付き合えたが、今は駄目だ。
ここは本当なら明日あの子と来るはずだったのに。
なんだかなぁ……
俺自身の態度も立場も中途半端で、モヤモヤしてしまう。
「あぁ、もうお腹一杯」
「え? まだスコーンもケーキもこんなに残っているのに」
「もういらないわ。それより早くお買い物に行きたくて。今日は付き合ってね」
「……あぁ、分かったよ」
さりげなく彼女が、俺の腕に掴まってくる。
香水の人工的な匂いが、今日は妙に鼻につくな。
公衆の面前で振り払う訳にも行かず、ぎこちなくティールームの外に出た。
そのとき、視線を感じた。
****
「瑠衣、そのジャケット似合うよ」
「そうかな。あの、高かったのに……本当にお代いいの?」
百貨店で瑠衣に濃紺のジャケットを購入してあげた。彼は慎ましく繊細な顔立ちで色白だから、濃紺のジャケットに白シャツというノーブルな出で立ちがよく似合う。
俺には持っていない、生粋の日本人らしさを持っているのが羨ましい。
瑠衣は相変わらず自分の魅力に気が付いていないようだが。
明日のデートも楽しんで来い。
瑠衣の麗しい端正な姿を見たら、きっとますます惚れられるぞ。
日本での日々で、瑠衣に後ろめたさを感じていた俺は、瑠衣の幸せをどうしても願ってしまう。
これって……結局はただの自分勝手な自己満足なのかもしれないが。
「よし、このままアフタヌーンティーに行こうぜ」
「そうだね。行ってみよう」
へぇ、瑠衣としては前向きな発言だ。
自分からどこかに行きたい、何かをしたいと言う事なんて皆無だったので、感激だ。
「せっかくだからロンドンで一番格式のあるホテルでアフタヌーンティーをしよう。俺も行ってみたかったんだ」
「そんな高級な場所……高いよ」
「馬鹿、そんなの気にするな。親父からの仕送り、ちゃんと二人分あるんだぜ。お前が全然使わないから貯まってるし」
瑠衣は意外そうに顔をあげた。
同時に、そこはかとなく嬉しそうな様子だった。
馬鹿、お人好しの瑠衣。
お前は、親父を恨んでいい立場なんだぞ。
それにしても親父は瑠衣を認知していないが、真意はいかに?
いつか本当の気持ちを聞いてみたい。
「……そうなのか。僕は疎くて、お金の使い方も知らないから、君に任せるよ」
高級ホテルのロビーに足を踏み入れると、大理石の床にシャンデリア、豪華絢爛な世界だった。
「海里……僕、大丈夫かな。浮いてない?」
瑠衣が煌めくシャンデリアを見上げて、息を呑んでいる。
「瑠衣、堂々としてろ。きっと明日もこういう場所に行くんだろう。慣れておけ」
ここは先日グレイから教えてもらった所だ。
ロンドンを代表する5つ星ホテルだそうなので、エレガントなアフタヌーンティーが期待できそうだな。
「少々お待ちくださいませ。ご予約のお客様が優先ですので」
「わかった」
予約していなかったので、しばらく待つことになってしまった。
「僕、先に洗面所に行ってきてもいいかな」
「あぁ、そうしろ」
瑠衣を見送りソファでくつろいでいると、ティールームから驚いた事にグレイが出て来た。しかも女性と腕を組んで! 不思議なことにグレイには最近よく会う。
「やあ、グレイじゃないか」
「おっと、モリミヤじゃないか」
「早速教えてもらった場所に来てみたんだ。グレイはデートか?」
あれ? おかしいな。
グレイが恋焦がれる女性って、日本人じゃなかったのか。
隣にいるのは、どうみても英国人だよな。
「……彼女はエミリーだ」
「はじめまして。まぁ素敵! エキゾチックで魅力的な人ね」
彼女が俺にまで色目を使うので驚いてしまった。
彼女の手はしっかりグレイの腕をつかんでいるのに。
上流階級特有の匂いは、英国でも日本でも同じで辟易してしまう。
「モリミヤはひとりで?」
「いや、弟と一緒だ」
グレイは辺りをすぐにキョロキョロ見渡した。
「どこにもいないぞ」
「今、化粧室に行ってる」
「お前の弟か、ぜひ会いたいな」
どうだろう? 瑠衣を見たら驚くのでは。あまりに俺とかけ離れた外見だから。
「ねぇアーサー、もう行きましょうよ。お店閉まっちゃう」
「あぁわかった。じゃあまたテニスしような!」
「あぁ」
彼らの背中を見送ってしばらくすると、瑠衣が戻ってきた。
「海里、今、誰かと話していた?」
「あぁ友達と会ったんだ」
「こんな場所で?」
「この店を教えてくれた奴なんだ。常連なんだな、きっと」
「それは優雅だね」
瑠衣と優雅なティータイムを過ごすと、彼のナイフやフォークを持つ仕草が想像よりずっと上品だったので、驚いた。
「なんだ、あまり教えることないな。テーブルマナーは完璧だ」
そう教えてやると、瑠衣は花が咲くように柔らかく微笑んだ。
「本当? そう見えるのなら、それは執事の田村さんのおかげだよ。彼がいつか役に立つと言っていたのは、こういう事だったんだね」
嬉しそうな瑠衣の笑顔に、俺もつられて微笑んだ。
これなら、大丈夫だ。
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