ランドマーク ~そこに君がいてくれるから~

志生帆 海

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第2章

ただ会いたくて 7

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 真新しいダッフルコートと手袋を着用し、鏡の中の自分を見つめた。

 分不相応な姿をしている自覚はあるが、君と不釣り合いな姿で出かけたくないので、素直に嬉しかった。

「行ってくるよ」
「瑠衣、楽しんで来いよ」
「海里はどうするの?」
「俺もこれからガールフレンドとデートさ」
「え? この前別れたと言っていたのに、もう次の子?」
「ははん、この外見だ。黙っていても次から次に寄って来る」
「……」

 どこか自嘲した様子に、眉をひそめてしまった。

 こんな時の海里は人知れず……落ち込んでいる。

 僕には分かる。

 海里の先祖返りした西洋風の顔立ち、ヘーゼルブラウンの髪色と光の加減で碧色にも見える瞳は、日本では明らかに浮いていた。

 日本を代表するホテルグループの御曹司でなかったら、どうなっていたかと危惧するほど、海里の容姿は明らかに日本人離れしていた。

 そして英国でも再びその容姿が、君を違う意味で悩ませている。

 今度は純粋な英国人だと間違えられてしまうのだ。

 海里の母親は英国人とのハーフなので、外国の血が混ざっているのは確かだが……後から日本人だと分かると侮蔑の眼差しを向けられる事が何度かあったようだ。国籍の違いや、血筋を理由に振られた事もあるようだ。

 悔しい思いをしているのは、海里も同じだ。

 海里は同い年だが、先に生まれたから僕の兄だという意識が高い。

 だからなのか、僕には弱味を見せてくれない。

 いや、誰にも見せない。

 いつか海里の悩みを受け止めてあげたい。

 どうか……海里の全てを心から愛してくれる人と出逢えますように。

 君には、日本であまりに酷く悲惨な姿ばかり見せてしまった。だからいつまでも心配な存在なのは分かっているが、願わずにいられない。

「瑠衣、心配するなって。俺は大丈夫だ。もう開き直って適当に遊ぶことにしたよ。せっかく自由な英国生活、楽しまなきゃ損だろう」

 らしくない言葉を吐いている。
 つまり、そこまで君は傷ついているということなんだね。

「海里……投げやりにならないで……」
「俺のことはいいから、自分の心配をしろ。今日はなんなら帰らなくてもいいぞ! お前もそろそろ童貞を卒業しないとな」
「か、海里!」

 顔が赤くなってしまったのを見られたくなくて、そのまま背を向けて扉を開けた。

「その様子じゃ、まだなんだな。相手も奥手なのか。欲しいと求めて来ないか」
「しっ、知らない! 行ってくるよ」
「あぁいってらっしゃい」

 そんなんじゃない。
 
 そもそも君と僕の関係に、まだ『名前』はついていない。

 互いに惹かれ合っている。
 それは互いに知っている。

 だとすれば君と僕はPlatonic loveプラトニック・ラブだ。

 肉体的な関係がない代わりに、精神的な繋がりを大切にしている。現代では男女の恋愛の種類を意味するこの言葉だが、昔は男性同士の友情関係や愛情のことを『プラトニック・ラブ』と呼んでいたと、ハイスクールで習った。

 その言葉が、すとんと腑に落ちた。

 心と心が通じ合うことで、肉体関係のある普通の恋愛よりも、もっと深い愛を見つけることができる。

 僕の自由には期限がある。

 だから、求めすぎてはいけない……

 Platonic loveがいい。

****

「やぁ!」
「こんにちは」
「さぁ行こう」
「うん!」

 君とは、駅で待ち合わせをした。

 君も僕も、偶然にも色違いのダッフルコートだった。

 僕はチョコレート色で、君はキャメル色。英国の伝統的なスタイルなので、違うメーカーの商品でも、まるでお揃いのよう。

 なんとなく気恥ずかしくて、ふたりで無言で電車に乗った。

 ロンドンに来てから郊外の街に行くのは初めてで、僕は移り行く車窓の景色に夢中になってしまった。

 ドールハウスのような煉瓦の家の間隔が開き出すと、やがて濃いグリーンの森が現れた。

「わぁ……」

 僕の横顔を、君がずっと見つめてくれるのを感じていた。

 君の視線を浴びた左の頬だけが、どんどん熱くなってくる。
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