ランドマーク ~そこに君がいてくれるから~

志生帆 海

文字の大きさ
58 / 68
第2章

信じることから始めよう 3

しおりを挟む
「ルイ、もうすぐ時間だぞ」
「あぁ悪い」
「また空を見上げていた?」
「ん……」
「変わっているよなぁ……ルイって」
「そうかな?」

 あれから、あっという間に1年が過ぎようとしていた。

 執事《バトラー》養成学校の寄宿舎生活は、想像より苦しくはなかった。

 それはね、君のおかげだよ。

 使用人になるためのスクールなので、様々な人種が集まっていたが、日本人は僕ひとりだった。最初は異端児扱いされていたが、僕の英語の発音がとても綺麗だと先生に褒められた時から、状況が一転した。

「ほぅ、ルイは、流暢な英語を話せるんだね。綺麗な発音と言葉遣いが素晴らしい。皆、彼を見習うように」

 あの一言で、周囲の目の色が変わった。

 綺麗な発音と言葉遣いか。

 それは君がいつも話してくれた英語が綺麗だったので、憧れて習得したんだ。

 君から直接教えてもらった言葉も多い。だからとても大切に扱ってきた。

 先生の一言は、まるで君の存在が認められたようで、心から嬉しかった。

 それから……もう一つ。

 僕の日本での経験が生きたんだ。

 執事養成学校で学ぶ内容は、裕福な家庭に仕える際に必要な作法や判断の仕方のほか、シャンパンの注ぎ方、アイロンのかけ方、フラワーアレンジメントなど細かく多岐に渡ったが……僕はその大半を既に知っていた。知るだけでなく習得していた。

 森宮家で6歳から下働きとして働き、高校にあがってからは使用人の筆頭の田村さんから、執事の仕事について手取り足取りレクチャーされていた。

 毎日の執事になるためのレッスンを完璧にこなすことが出来たおかげで、皆から賞賛された。

 まさかあの苦しい日々が、こんな所で生きてくるとは。

 人生、何が役に立つのか分からないものだな。

 お陰で虐めや嫌がらせに遭う事もなく、寄宿生活での1年を無事に終えることが出来た。

 海里はまた日本と同じような目に遭ったらと、とても心配していたが、そんな理由で大丈夫だった。

 さぁ、今日は第一学年の修了式だ。

 僕は信じられない事に、首席に選ばれた。

 全部、君のおかげだよ。

 君に恥じない生き方を、僕が出来る範囲で精一杯しようとあの日誓ったから、こんなに頑張れたんだ。

 いよいよ来週から実際の英国貴族の館に見習いとして実地訓練に入る。

 伝統的なスリーピースの制服に白い手袋やカフスボタンなど、執事として必要なものが全てセットで渡され、1年間の配属先が発表されるのだ。

 ちなみに成績順によって、実地訓練先が決まるそうだ。

 緊張する。

 どんな貴族の館に勤めるのか、そこで何が待っているのか。

 これからの過酷な日々の前にして、今日から特別に2日間だけ家族の元に戻ることを許された。

 海里……1年ぶりに、君に会えるね。

 連絡すると、喜んで迎えに来てくれると言ってくれた。

 優しい兄なんだ、彼は……

 僕にも海里という家族がいることが、本当に嬉しいよ。

 教室の窓から見上げた空は、どこまでも高く青く澄んでいた。



 ねぇ……君が見上げた空も澄んでいる?

 僕たちは同じ空で繋がっている。

 君と二度と会えなくても、僕は忘れない。

 あの日、君からもらった、ぬくもりを──

 今も変わらず愛してる……心の中でずっと。

 

 

 
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【短編】【完結】王子様の婚約者は狼

天田れおぽん
BL
 サティ王子はクルクルした天然パーマな茶髪が可愛い18歳。婚約者のレアンは狼獣人で、子供の頃は子犬のように愛くるしかったのに、18歳となった今はマッチョでかっこよくなっちゃった。 「レアンのこと大好きだから守りたい。キミは信じてくれないかもしれないけれど……」  レアン(すでにオレは、貴方しか見ていませんが?)  ちょっと小柄なカワイイ系王子サティと、美しく無口なゴツイ系婚約者レアンの恋物語。 o♡o。+。o♡o。+。o♡o。+。o♡o。+。o♡o。 ノベルバにも掲載中☆ボイスノベルがあります。

強欲なる花嫁は総てを諦めない

浦霧らち
BL
 皮肉と才知と美貌をひっさげて、帝国の社交界を渡ってきた伯爵令息・エルンスト──その名には〝強欲〟の二文字が付き纏う。  そんなエルンストが戦功の褒美と称されて嫁がされたのは、冷血と噂される狼の獣人公爵・ローガンのもとだった。  やがて彼のことを知っていくうちに、エルンストは惹かれていく心を誤魔化せなくなる。  エルンストは彼に応える術を探しはじめる。荒れた公爵領を改革し、完璧な伴侶として傍に立つために。  強欲なる花嫁は、総てを手に入れるまで諦めない。 ※性描写がある場合には*を付けています。が、後半になると思います。 ※ご都合主義のため、整合性は無いに等しいです、雰囲気で読んでください。 ※自分の性癖(誤用)にしか配慮しておりません。 ※書き溜めたストックが無くなり次第、ノロノロ更新になります。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

αが離してくれない

雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。 Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。 でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。 これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。

君は恋人、でもまだ家族じゃない

山田森湖
恋愛
あらすじ 同棲して3年。 毎朝コーヒーを淹れて、彼の寝ぼけた声に微笑んで、 一緒に暮らす当たり前の幸せを噛みしめる——そのはずだった。 彼女は彼を愛している。 彼も自分を愛してくれていると信じている。 それでも、胸の奥には消えない不安がある。 「私たちは、このまま“恋人”で止まってしまうの?」 結婚の話になると、彼はいつも曖昧に笑ってごまかす。 最初は理由をつけていたのに、今では何も言わなくなった。 周囲の友人は次々と結婚し、家族を持ち始めている。 幸せそうな写真を見るたび、彼女の心には “言えない言葉”だけが増えていく。 愛している。 でも、それだけでは前に進めない。 同棲という甘い日常の裏で、 少しずつ、確かにズレ始めているふたりの未来。 このまま時間に流されるだけの恋なのか、 それとも、家族へと歩き出せる恋なのか——。 彼の寝息を聞きながら、 彼女は初めて「涙が出そうな夜」を迎えていた。

王妃の椅子~母国のために売られた公子

11ミリ
BL
大陸で一番の強国であるディルア王国には男の王妃がいる。夫婦間は結婚当時より長年冷え切っていた。そんなある日のこと、王のもとへ王妃がやってきて「わたしを殺させてあげよう」と衝撃な一言を告げる。けれど王は取り合わない。 喜んでもらえると思っていただけに意外だった王妃は自分の離宮に帰り、人生を振り返る。 かつて弱小公国の美しい公子だったライル(後の王妃)は強国へ貢がれた。強制的に戦へ参加させられ、人には騙され、第六王子には何かと絡んでくる。そしてある日目が覚めたら王子妃に……。 ■■■ ハピエンですが、前半の人生は辛いことが多いです。一人で耐えて耐えて生き抜く主人公を気にする不器用第六王子が傍にいます。 長年の片思いと鈍感のコンビ夫婦です。 話の都合上、途中で名前がライル(男名)からライラ(女名)に変わります。 鳥の姿に変化できる「ニケ」という特異な体質が出てきます。

囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ
BL
【理知的美形王子×痛みを知らない異能王子】  触れた人の痛みは感じても、自分の痛みに気づけない──そんな異能を持つ王子カシュアは、政略結婚で嫁いだ異国で幽閉され、四年間忘れられていた。  彼が再び人前に姿を現したのは、クーデターの混乱のさなか。そして、存在を持て余された末、次期宰相である王子との再婚が決まる。  冷静で無口な王子が、なぜかカシュアにだけは優しいのは、かつて彼が妖精物語に恋をした少年だったから――不器用な王子とともに、愛をたしかめ合うストーリー。※2025/11/26第三部スタート

君を選ぶ理由 〜花の香りと幼なじみのΩ〜

なの
BL
幼い頃から、桐生湊は桜庭凪のそばにいると、花が咲いたような香りを感じていた。 祖父同士が幼馴染という縁もあり、二人は物心つく前からいつも一緒だった。 第二性の検査で湊はα、凪はΩと判明。 祖父たちは「完璧な番」と大喜びし、将来の結婚話まで持ち上がる。 ――これはαとΩだから? ――家のため? そう疑う湊。一方、凪は「選ばれる側」としての不安を胸に、静かに距離を取ろうとする。 湊の兄・颯の存在も、二人のすれ違いを加速させる。 花の香りの奥に隠れた本当の気持ち。 役割や運命ではなく、「君だから」と選び直す、 幼馴染オメガバースBL

処理中です...