重なる月 ~いつの時代も月は見ていた~

志生帆 海

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17章

特別番外編 幕間のひととき

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前置き

 今日は先日連載していた番外編 桜の幕間のひとときをお届けします。
 小森くんに頼まれたカステラのお土産が気になってしまって😅


****

『桜の余韻と甘いお土産』

 美術館を出ると、雨上がりの外気に、ほんのり甘い春の匂いが漂っていた。

 桜は激しい雨に打たれ花吹雪となってしまったのか。

 道の端に薄紅色の花びらとなって集まっている。

 まるで桜色の絨毯のようだ。

 幸せ色の道だ。

 流が歩きながら、ふと思い出したように言った。

「そういえば、小森にカステラを頼まれていたよな」

 そうだった。小森くんに仕事を頼むと「あんこ入りのカステラも食べてみたいんです」と目を輝かせていた。

 甘いものに目がない、あんこが大好きすぎる可愛い小坊主くん。

 くりくりとしたつぶらな瞳、お地蔵様のような微笑みに、僕はつい頭をなでながら「しょうがないなぁ、買ってきてあげるよ」といつも引き受けてしまう。

「うん、目黒川沿いにお店があると言っていたよ」
「よし、ちびっこに買って行くか」

 流の横顔には、まるで父親のような優しさがにじんでいた。
 
 小森くんが、僕たちの息子のように感じるよ。

 なんだかくすぐったいね。

 僕たちは川沿いの小さなカステラ屋さんを目指した。


 
 店先から漂う焼きたての甘い香りに、自然と足を止めた。

「ここだな」
「うん」

 木の格子戸をくぐると、奥から女将さんが優しい笑顔で出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ」
「あの、あんこ入りのカステラはありますか」

 和菓子やの女将さんは「まぁ、お目がお高い。あれは公にはしていないのに……今中からお持ち致しますね」と小さく笑って奥に消えていった。

 店内のガラスケースには、ふっくらとした黄色いカステラが並べられており、とても美味しそうだ。それから、その横に並ぶお饅頭も気になる。

「流、小森くんって本当にあんこが好きだよね。いつもおやつの時間が近づくと、隠しきれないくらいソワソワしていて、本当に可愛いよ」

 流が僕の話に、くくっと口角を上げた。

「それは、翠に似たんだろ?」
「えっ……どうして僕?」

 突然ふられて、目をぱちぱちさせてしまった。
 僕はそんなに甘党ではないと思うが……

「……別に僕は人並みだよ?」
「へぇ~ じゃあ、さっきからこの饅頭をじっと見てるのは、偶然か」
「あっ、……それは、その、気になっただけ」

 口を尖らせると、流は目元を緩めた。

「そうか、じゃあ、翠にはこれを買ってやろう」
「えっ? いいの?」
「もちろんだ」

 僕がそのお饅頭が気になったのは……

 焼き印が龍の絵だったからだよ。

 流は……龍だ。

 僕をどこまでも高く押し上げてくれるパワーを持っている。





「小森くん、ただいま。留守を守ってくれてありがとう」
「ご住職さまぁ、いい子にお留守番できましたよぅ」
「ほら、これ、約束のカステラだよ」


 月影寺に戻り、小森くんにカステラを渡すとぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでくれた。

「わぁ、本当にあんこがのったカステラがあるんですね。口コミバンザイ! あーぁ、まるで雪のようにカステラに積もったあんこちゃん。いただきまーす。っと、あれ? カステラ以外にもお饅頭が入っていますよ」

 小森くんが僕が買ったお饅頭を袋から取り出して、目をキラーンと光らせた。

「わあ! 龍の焼き印がはいっていますよ。かっこいいですね~ これも食べてもいいのですか?」

 期待に満ちた目で見上げてきた。

 あ、まずい……

 僕はその光景に慌ててしまった。

「あっ、そ……それは」
「えっ……何か仰いましたか。いただきまーすよ。あーん」

 焦って口から出たのは……

「小森くん、ストップ! そっ、それは、僕のものなんだ!」

 そう言い切った後、自分の発言にびっくりして顔を赤らめてしまった。

 流はニヤニヤ笑っている。

「あ……そのっ、これは……」
「そうだよな。そのリュウは翠のもんだ」
「りゅ……流っ」

 小森くんは僕たちのやりとりに何かを察したのか、サッと龍の焼き印入りのお饅頭を僕に差し出した。

「ごめんなさい。これは翠さんのものでしたね。翠さんが懇ろに愛でてください」
「う、うん」
「僕はカステラさんにのったあんこちゃんがスキです」

 小森くんは、カステラに山盛りにのったあんこを前に、まるでご本尊に手を合わせるかのように合掌してから、そっと口に運んだ。

「うわぁ、しあわせです……カステラさん、あんこちゃん……ありがとう……」

 目をとろんとさせて、一口食べる度に天にも昇るような顔をする小森くんを見て、また頬が緩んだ。

 今日も小森くんのとろけるような笑顔を沢山見られてよかった。

 小森くんを見守る僕の横に流がやってくる。

 そして、ふと顔を寄せて耳元でそっと囁く。

「翠、さっきの『それは僕のものだよ』って言ってくれたよな。あれ、すっげぇ可愛かった」
 「……っ!」

 耳朶が……かぁっと熱くなる。

「だ、だって……食べられそうだったから!」
「わかってるよ。リュウは翠のもんだ。さぁ、沢山愛でてくれよ」
「……もうっ」

 からかうように笑う流に、僕はぷいと顔をそらして照れ臭さを隠した。

 龍はお饅頭にしっかりと焼きついている。
 
 それが気に入ったんだ。

 何故なら……まるで僕の胸に刻まれた流への想いのようだから。

「ご住職さま! あんこちゃんはやっぱりカステラさんと相性ぴったりでしたぁ! あっ、でもちょっと口の中がぱさぱさになってしまいましたよ。お茶くださ~い!」
「ふふ、はいはい。ただいま」

 台所へ向かいながら、僕はそっと龍のお饅頭を胸に抱く。

 ──これは、僕の流だ。

 流はずっと僕の傍にいろ――

 そうでなければ、駄目だよ。

 
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