幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
1,828 / 1,871
小学生編

しあわせ図鑑 25

「瑞樹、もうあがったか」
「あ、はい、お待たせしました」

 脱衣場からリビングに戻ると、宗吾さんが何故かそわそわしている。

「よし、芽生、今日は時短で一緒に入るぞ」
「えー パパと?」
「そうだ」
「うわー パパとだと狭いよ」
「おーい、寂しいこと言うなよ」

 よく似た者同士の会話に、思わずくすっと笑ってしまう。

「ほら、瑞樹も笑ってるぞ」
「わかったよー お兄ちゃん、次は一緒に入ろうね」
「うん、いってらっしゃい」

 僕がドライヤーで髪を乾かしている間、浴室から楽しそうな声が聞こえてきた。宗吾さんと芽生くん、本当にいいコンビだ。明るく前向きな二人といると、僕も自然と前向きになれる。

 いろんな意味で……今宵は僕も積極的になれそうだ。
 って、また先走ってる自分に気づき、少し赤面する。

 速攻で風呂から上がった芽生くんの髪を乾かしてあげると、大きな欠伸をしていた。

「芽生くん、眠いの?」
「うん、今日はホテルにお出かけしたし、その後あーちゃんの変な遊びに1日中付き合わされたからね」
「変な遊びって?」
「おままごとで、お父さん役とお兄さん役と弟役と、ペット役までだよ~ ちゃたの友達わんこ役を演じるのは大変だった」

 くすっと笑ってしまう。芽生くんは優しいね。いいお兄ちゃんだ。

 歯磨きを終えた芽生くんは、目をごしごしこすりながら子供部屋に向かう。

「おやすみ、お兄ちゃん」
「おやすみ、芽生くん」

 少し経ってから子供部屋を覗くと、あどけない寝顔でぐっすり眠っていたので、跳ね飛ばされたタオルケットをそっとかけ直し、静かにドアを閉める。

 そのまま寝室に戻ると、宗吾さんが腕を広げてくれた。その腕に吸い込まれるように身を寄せた瞬間、心臓がトクンと跳ねる。

「瑞樹、今日はおつかれさん」
「宗吾さんこそ、大きな会議でしたよね。大丈夫でしたか」
「あぁ、ベストを尽くしたつもりだ」
「よかったです」

 宗吾さんの胸の中にすっぽりと収まり、背中をぎゅっと包み込まれる。その力強さと温かさに、早くこの身を委ねたくなる。

 僕は宗吾さんが、大好きだ。好きで、好きで、たまらない。

 愛が胸の奥から溢れてくる。

 ベッドに仰向けにされ、部屋の明かりが落とされる。ところが、瞼を閉じると、今日の出来事が胸の奥でざわつき、忘れていた恐怖が蘇りそうになった。嫌悪感に藻掻く僕を、宗吾さんが心配そうに覗き込む。

 目を開けると、彼の優しい視線の奥に、隠し事は許されない鋭さが光っていた。

「どうした? 今日の撮影で何かあったんだろう?」

 心臓が跳ねる。どうしてわかるんだろう。まだ何も語っていないのに。

 小さく目を見開き、声を震わせる。

「えっ、どうしてわかるんですか……」
「夕食の時、取材の話の最中に少し言葉を詰まらせただろう。芽生の前では話せないことも、俺には話してくれ」

 観念して深く息をつく。胸の奥に押し込んでいたものを少しずつ吐き出すように、ぽつりぽつりと告白する。

「実は……今日の取材カメラマンが……あの、ストーカー事件の時の報道カメラマンだったそうで。その人が僕の顔を見たことがあると……」
「なんだって! そんなこと言うなんてプロ失格だ」

 宗吾さんの声は震え、低く響き、眉が険しく寄せられた。その瞬間、冷たい記憶が胸の奥に蘇りかけ、思わず目を背けそうになる。でも最後まで続けなければと思った。

「でも……途中でカメラマンの林さんが来てくれて、注意してくれました。そこからは大丈夫でした。僕らしさを出せましたし……芽生くんの応援もあったから」
「カメラマンの林って、あの林か」
「はい、彼のことは信じられました」
「そうか、林で良かったな」

 宗吾さんの表情はまだ強張っていたけれど、目には僕の言葉を受け止めようとする必死さがあった。

「それにしても、大変だったな」
「はい、いきなりで動揺して鋏を落として、手が震えて拾えなかったんです」
「俺に……話してくれて、ありがとう」
「宗吾さんに隠し事はしたくないので」
「……瑞樹」

 微笑みながら、僕は宗吾さんを見上げる。

「宗吾さん、大丈夫ですよ。心配しないでください」
「瑞樹……君の優しさは強い。だから、君の行いの善さは巡り巡って君を助けるはずだ」

 胸の奥が一段と熱くなる。僕をこんなふうに信じてくれる人がいるなんて。

 小さく「……はい」と答え、その胸に抱きついた。

 すぐに強く引き寄せられ、深い抱擁を受ける。そっと頭を撫でられ、目を閉じる。心地よい密着に酔いしれながら、深く、深く息を吐く。

(僕はもうひとりじゃない。宗吾さんがいる。見守って、守ってくれる人がいる)

 今日の嫌な出来事も、柔らかく遠ざかっていく。残るのは、尊さと愛おしさに満たされた宗吾さんの肌のぬくもりだけ。

「瑞樹、頑張ったな」

 耳元で低く囁かれる声。手をそっと握られ、体の奥の緊張が少しずつほどけていく。

「もう震えてないな」
「はい」
「ん? 汗ばんでいる気がするが、何か期待しているのか」
「えっ」
「それは、こんなことか」
「あっ、あっ……だめ。だめです」
「本当にダメなのか」
「あ……ダメ……じゃないです」

 額や頬に小鳥が啄むようなキスを受ける。

 キスの一つ一つが僕の身体に、甘い期待と痺れを残す。

「んっ……あぁ」

 声が震え、言葉にならない気持ちがあふれてくる。

 宗吾さんの指が、僕の顎をやさしく持ち上げる。視線が絡み合い、

「大丈夫だ。力を抜いて、俺に身を預けてくれ」

 体の力を抜いて、小さく頷くと、再び唇がぴたりと重なる。

 ゆっくりと、そして次第に深くなる口づけ。

「んっ、あっ―」

 背中に回した僕の手を宗吾さんがぐいっと引き寄せ、胸の厚みにぴたりと押し付けられる。

 鼓動がひとつに重なっていく。

「……瑞樹、可愛いな」

 耳元で甘く低く囁かれ、頬が火照ってしまうよ。

 その後も何度も唇を重ねられ、吐息が絡み合った。

 今日の緊張も不安も、腕の中の温もりにすべて溶かされていく。
 
 次第に口づけだけじゃ物足りなくなって、僕の方から誘うような言葉を……

「宗吾さん……今日は思いっきり抱いてください……心ゆくまで」

 上擦った声に応え、宗吾さんが強く抱きしめてくれる。

「おいおい、そんなに煽るな、制御できなくなる」
「それでもいいです」

 胸の奥が震える。

 僕は抗えない。

 全身で彼を求めたい。

 全身で彼を受け止たい。

 愛の言葉が重なるたび、僕と宗吾さんの心は一つになる。

 それは、最高に甘く幸せなことだから。
感想 88

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。