幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
18 / 1,865
発展編

心寄せる人 12

しおりを挟む
「瑞樹、着いたよ。起きて」

 余程、安心したのだろうか。瑞樹はいつの間にか、助手席で眠ってしまっていた。

 それにしても……さっきは嬉しかったぞ。俺が瑞樹の玄関に駆けつける前に、瑞樹から俺に電話をかけてくれた。そのことに感動してしまった。今日は瑞樹からの初めてのアクションばかりで興奮してしまう。

 好きな人に振り向いてもらえることの嬉しさを、この歳になってどうやら俺は初めて知ったようだ。

「パパーお兄ちゃん眠っちゃったの?」

「そうみたいだ。怖い夢から解き放たれて……ようやく眠れたんだろうな」

「よかったね。じゃあパパに、とっておきのいいこと教えてあげるよ」

 芽生の方は実家で軽く眠ったせいか、すっかり目覚めて生き生きしているな。この、いつもと違う状況を楽しんでいるようだった。

「何だい?パパに教えてくれ」

「あのね!」

 芽生は後部座席のチャイルドシートからピョンっと降りて近寄って来た。

「あのね、ほらっ絵本みたいにさ、こうやるの!」

 持っていた羊のぬいぐるみを、芽生は大事そうに横抱きにした。男の子なのに、ふわふわのぬいぐるみ好きなのは相変わらずだな。

 それにしても……いい案じゃないか!流石我が息子だ。

「じゃあ、芽生が瑞樹の荷物と鍵を持ってくれるか」

「うん!ボクにまかせて!もう何でもできるもん!」

「ははっ、頼もしいな」

 念のためもう一度瑞樹に呼び掛けてみる。(起きなくていいが……)

「瑞樹……起きて。着いたよ」

「……」

 やはり返事はない。 ならば「いいよな」と勝手に心の奥が躍り出す。シートベルトを外し、そっと瑞樹のすらっとした足に手を差し入れぐっと持ち上げた。

 やっぱり軽いな。スーツを着ていても分かる華奢な体躯だった。

 こんなんじゃ、あの四宮ってバカでかい奴に羽交い絞めにされたら抵抗できなかっただろう。瑞樹は何も語らなかったが、電話越しに漏れた苦痛の声を考えれば、絶対どこかに触られたはずだ。どこか痛めつけられたのではないか。瑞樹の躰のすべてを確かめる権利がないので推測なのが、もどかしい。

 それにしても……こんなに本当は傷ついていた癖に君は馬鹿だ。あんな奴、証拠も揃っていたし庇う事なんてないのに。俺だったら、とっとと警察に電話して……とことん証拠を暴露して二度と起き上がれないように潰してやるところだった。

 でも……どうしてだろうな?俺とは真逆な判断をする瑞樹のことを尊重したくなった。

 最後に立ち直る根っこを残してやりたいだなんて、俺にはない発想だった。でも瑞樹の考えなら素直に受け入れられた。

 それは瑞樹のことが愛おしいから、大切だからなのか……

 それにしても瑞樹、参ったな。

 シャワーを浴びたばかりだったのか、躰中からいい匂いがしてクラクラするな。まだ乾ききっていない髪は濡れると癖が増すようで軽くウエーブしていて可愛いな。腰もほっそりとして、でも骨ばってもいなくて抱き心地が良い。いつものスーツ姿もストイックな印象でいいが、こういう躰の線がでる緩めの服もいいな。

「パパー!かっこいいよ。まるでおひめさまを抱っこしているみたい!」

 煩悩に走りだしていたが……芽生の無邪気な声に慌てて、襟を正した。

「おう!そうか。あとで芽生も抱っこしてやるからな」

「うん!でもまずはお姫様が先でいいよ。あっと……おにいちゃんは男の人だけど。僕も羊のメイを抱っこしてるから忙しいよ」

「ははっ、そうみたいだな」

 嬉し恥ずかし明るい笑顔を浮かべる芽生のことを見つめていると、自然と頬が緩む。

 可愛い息子だ。すくすく優しく明るく成長してくれている。

 そのことが嬉しく、そして今、憧れの瑞樹をこの腕に抱いていることが嬉しくて二重の喜びをギュッと噛み締めていた。

 
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

処理中です...