幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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発展編

実らせたい想い 16

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「やめてください!」

 グラリと倒れてくるスタンディングフラワーが、スローモーションのように見えた。
 
「駄目だ!」
 
 花器は白い陶器製だったから、大理石の床に落ちれば粉々に割れてしまう。

 僕は自分が怪我する可能性よりも、陶器を割りたくない思いに駆られ、身を挺して阻止しようと飛び出した。

「あっ!」

 手が届かない!もう……割れてしまう!
 ならば僕の躰全体で受け止めるしかない。
 もう一歩大きく踏み出そうとした瞬間に、背後から制止されるように抱きしめられた。

「危ないっ!よせ!」
 
 なんで? 誰だ?
 もう……割れてしまう。
 ギュッと目を瞑ると、想像通りにガシャンっと陶器の割れる嫌な音が店内に鳴り響いた。

「なんで止めたのですか! 僕なんかより花が……花の方が大事なのに!」
「馬鹿! もっと自分を大事にしろ!」
「えっ」

 この声って、まさか……

「そっ宗吾さんっ」

  慌てて手を振りほどき、僕を抱きしめている人物が誰かを確かめると、ずっとずっと会いたかった宗吾さんだった。

「ふぅ、瑞樹、怪我はなかったか」
「なんで……帰国はもっと遅いはずでは」
「一本前の便にしたよ。君に一刻でも早く会いたくてね」

 なんだか気が抜けてしまい、その場にへたりと座り込んでしまった。すると粉々に砕け散った花器とその周りに無残に散った花が目に入り、涙が出そうになった。

 馬鹿、瑞樹……男だろう。泣くな!耐えろ!

 あんなに長い間迷って、心を決めて丹誠込めて作ったのに、こんなにも一瞬で崩れ落ちてしまうなんて……人生とはそういうものなのか。

「なっ何よっ! 一体あなたたち何なのよ! 当てつけないで!」

 苛ついた声の玲子さんが、高いピンヒールで散らばった深紅の薔薇を思いっきり踏みつけようとするのが見えた。

「やめて下さい!」

 花を助けたくて必死に伸ばした手の甲に、宗吾さんの手がさっと伸びてきて、そのままギュッと宗吾さんの手が踏まれてしまった。

「いててっ!」
「宗吾さん! だっ大丈夫ですか」
「あっあなた……何故……」

 玲子さんの方も、まさか宗吾さんがそんな態度を取ると思っていなかったようで、唖然とした表情のまま固まっていた。

 そこに天使の声が降ってくる。

「ママー、このお花なんだかママみたいだね~」

 振り返ると、和服姿のお祖母さんに連れられた芽生くんが立っていた。今到着したばかりのようで、ドア付近からこちらを見ていた。

「まぁ……玲子さん、あなた派手にやってくれたわね」

 そのまま割れた陶器を宗吾さんのお母さんが黙々と片付けてくれた。そしてそれから……床にバラバラになって散らばった花の中から庭百合(マドンナリリー)を芽生くんが拾って、お母さんに届けた。

「ほら~やっぱりママに似ているお花だよーそれに、いい匂い」
「芽生……」
「ママ悲しそう。あ……もしかしてこれ……ママが割っちゃったの?でも心からごめんなさいって言えば、きっと許してもらえるよ。それってママが芽生にいつも言っていたことだよ」
「うっ……」
「ママがひとりでコワイならメイが一緒にあやまってあげるよ。 ママ……元気だして。このミズキお兄ちゃんはね、すごく優しいんだよ~メイの大好きなお兄ちゃんだからコワクないよ。ぜったいに大丈夫だよ」

 その言葉に僕の強ばっていた心も和らいだ。

 玲子さんの方も、さっきまでの鬼の形相は消え去り、今は慈悲深き母の顔に戻りつつあった。

「でも……芽生。もうバラバラになってしまったわ。もう……きっと無理よ」
「だいじょうぶだよ。だってまだお花さんは生きてるよね?」

 その言葉にはっとした。

  そうだ。まだ死んでいない。駄目になったわけではない。

「早く水をあげないと……」
「水? あっそうか」

 思わず呟いた言葉に反応したのは彼だった。宗吾さんはスーツケースとは別に持っていた手荷物の中から、大きな箱を取り出した。

「瑞樹、これを使え! これに生け直せばいい! まだ大丈夫だ。萎びたような花でも、水を吸えば生き返るのは、君が一番良く知っているだろう!」

 
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