幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
160 / 1,865
発展編

帰郷 18

しおりを挟む
「瑞樹、眠いのか」
「……いえ、大丈夫です」

 と答えたものの本音は眠かった。何だか突然猛烈に眠くなってしまった。

 やっぱり今日は疲れていたのかな。酔いがいつもより早く回ってしまったようだ。でも寝ちゃ駄目だよな。この部屋には潤がいるのに……

 実家にいた時、高校の登下校時に見知らぬ年上の男性に執拗に付きまとわれるというストーカー事件があってから同性の視線が怖くなった時期があった。同時期に血の繋がらない弟の潤から風呂の度に躰を触られる恥しい行為を受けて、戸惑っていた。
 
 だから家でも外でも気を抜けなかった。あの頃は潤とふたりきりにならないように気を付けていた。

 なのに今日……僕は気が付いたら潤を家に招き入れていた。何故だろう。あんなに怖がっていた存在なのに、潤はあの頃のままではなかった。成人し社会人としてしっかり工事現場で働いて、中学生の頃の面影はもう微塵もなかった。

 僕は今になって、本当は亡くなった弟の分も可愛がってあげたかった潤だったことを思い出していた。

「瑞樹。ほら肩にもたれて」
「宗吾さん……いや、僕だけ先に眠るなんて」
「今日は俺がいるから先に眠っていいぞ」
「……でも」
「ほら」

 優しく僕の頭を誘導してくれる手が好きだ。宗吾さんの肩にもたれると、温かい体温をぐっと近くに感じた。

 すごく落ち着くな。あぁそうか、宗吾さんがいるから大丈夫なんだ。そう思ったら急激な睡魔に襲われてしまい、ますます瞼が重たくなってしまった。

****

「瑞樹……寝ちゃったな」
「あぁ、ぐっすりだ。もう少し深く眠ったらベッドに連れて行こう」
「オレは……瑞樹のそんな無防備な姿見たことがなかった」
「君と瑞樹は、その、実の兄弟ではないんだよな」
「えっ何で、それを知って」
「ん、瑞樹から聞いてな」
「そうなのか……瑞樹がそれ、自分の口から言えたのか」

 弟はとても驚いていた。瑞樹のことだから必死に引き取られた家に馴染もうと努力しただろう。自分から血が繋がらないなんて、きっと周りには一度も言わなかっただろう。

 懸命に素直に優しく生きる瑞樹らしいよ。

「そっか、そういうあなたは瑞樹と真剣に付き合ってんの? 」
「そうだ」

 何も恥じることはない。堂々と即答してやると、彼は少し呆気にとられた顔をした後、自嘲気味に笑った。

「そっか……やっぱりそうなのか。さっきから瑞樹の表情が全然違っていたので分かっていたけどさ。驚いたよ……オレは瑞樹にそんな顔させてやること出来なかったのにな。その逆のことばかりしてしまった」
「だが今日、瑞樹は君と楽しそうに過ごしていたんじゃないか。このココアだって」

 リビングテーブルに置かれたマグカップを見ると、ココアが飲みかけだった。瑞樹が彼のためにいれたものだろう。

「え? 」
「俺も以前ご馳走になったことがあるが、『少し甘めだね』と言うと、瑞樹が弟の好みを覚えてしまってと恥ずかしそうに笑っていたよ」
「……そんな」

 彼は何かを後悔している。そんな予感がした。

「君、もしかして何か悩みでもあるのか」
「えっない! 何もない!」

 ムキになったということは図星か。まぁこの位の年代の子が聞かれて素直に言い出すとは思えないし……いきなり初対面のオレに話す気になんてならないよな。

「まぁいい。だが話したくなったらいつでも受け付けるぞ。これ名刺だ。俺の携帯番号も書いてあるからな。君よりはかなり大人だから何かの役に立つかもな」
「はっ……大人は名刺ばかりだな。 でも、オレなんかにいいのかよ? 気軽に渡して後悔するかもしれないぜ」

 わざと尖がっているのが見え隠れして、可愛いな。
 二十歳そこそこの頃ってツンツンして粋がって……俺もこんなだったな。

「君は瑞樹の弟だろう。だから渡した。さてとそろそろベッドに寝かしてくるよ」
「あ……オレはもう帰るよ。明日も朝から現場だし」
「そうか。また会おうな」
「会うような気がする……あの」
「なんだ? 」
「あんたを信頼しても? 」
「あぁ信頼して欲しい」
 
 彼にとっても、いろいろ驚きの連続だったろう。

 瑞樹との関係を修復していけるといいな。少なくとも可能性は高い。俺を素直に受け入れてくれたのだから、きっと上手くいくよ。

「瑞樹……弟が帰るってよ」
「あぁいいよ。そのまま寝かしてやってくれ。瑞樹、疲れているようだし。鍵閉めてポストに入れていくから」
「そうか。悪いな」

 彼は素直に帰って行った。これでよかったのか。今日俺が来たのは瑞樹の役に立ったか。俺の肩にもたれてスヤスヤと寝息をたてる瑞樹に問いかけたくなる。

「さてと……このままじゃ風邪引くからベッドにいくぞ」

 そう話しかけるが返事はない。やれやれ起きそうもないな。俺は瑞樹の膝の裏に手をまわし、横抱きにして立ち上がった。

 懐かしい……瑞樹に出会って間もない頃もこんな風に横抱きしてやった。

 君との距離、あの頃もよりもずっとずっと近づいたな。

 ベッドに降ろすと彼がまだスーツ姿なのに今更ながら気が付いた。流石にこのままでは休んだ気がしないだろう。

「瑞樹。スーツのままだと皺になるぞ」
「ん……でも……ねむくて」
「やれやれ、小さな子供みたいに」
「着替えさせても? 」
「……はい」

 コクンと可愛く頷く様子に、胸がドキっとする。か……可愛すぎる。ずっと甘えるのが下手で頑張り屋の君が、こんなに素直に俺には甘えてくれるなんて。酔っぱらっているからなのか。いつもよりずっと無防備で可愛く甘い雰囲気に、おいおい、ここにいるのが俺だけで本当に良かったと胸をなでおろす。

「着替え……ここに置いてあるスウェットでいいか」
「あ……は……い」

 まだぽわっとした様子の瑞樹のネクタイを緩めてやると、ふぅっと耳元に息がかかった。最後に飲んだ赤ワインの匂いと瑞樹の匂いが混ざり実に官能的だ。

 さてこのまま脱がしていいものか。(はーまずいまずい。このまま押し倒したくなるよ)

 ワイシャツのボタンに手を掛けると、まだ夢見心地な瑞樹も指を伸ばして手伝おうした。

「あっ……」
「いいよ。ボタン位、外してあげよう」
「……す……みません」

 なんだかかなりドキドキしてくるぞ。

 これはただの着替えの介助なのに、まるで今から君を抱くようだ!



 
 
 







しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

白花の檻(はっかのおり)

AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。 その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。 この出会いは祝福か、或いは呪いか。 受け――リュシアン。 祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。 柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。 攻め――アーヴィス。 リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。 黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。 王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

自分勝手な恋

すずかけあおい
BL
高校の卒業式後に幼馴染の拓斗から告白された。 拓斗への感情が恋愛感情かどうか迷った俺は拓斗を振った。 時が過ぎ、気まぐれで会いに行くと、拓斗には恋人ができていた。 馬鹿な俺は今更自覚する。 拓斗が好きだ、と――。

処理中です...