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発展編

帰郷 19

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 瑞樹の家をひとり後にした。

 オレはお邪魔だろう。後は瑞樹の彼氏に任せるぞ。

 オレなんかよりずっと大人で落ち着いた男性だった。あんな人だから瑞樹も心穏やかに笑い、甘えられているのだろう。さっきの意外な程崩れた瑞樹の態度に驚いたが、同時に嬉しくもなった。

 良かったな、瑞樹。

 瑞樹の恋人が男だというだけでも仰天する事実なのに、どうしてこんなに素直に受け入れられたのか。それに何だろう。少し前まで瑞樹を恨んで100万でアイツに売るような真似をしようとしていたのが嘘みたいだ。

 憑き物が落ちたみたいに、オレの視界はクリアになっていた。

 そっか、こんなに簡単なことだったのだ。

 あの日突然我が家にやってきた瑞樹。自分もまだ子供なのに優しくオレの兄としてがんばっていたんだよな。それなのにオレは天邪鬼だから素直に『ありがとう』を言えなくて、文句ばかり言って……

 反抗期思春期を迎えるうちに、家が忙しく母親に構ってもらえない八つ当たりだったのか瑞樹を虐めるのが面白くなってしまった。段々それがエスカレートして……あぁ穴があったら入りたいぜ。今となってはバツが悪いことばかり仕出かした。

 とにかくもうやめた。明日、若社長に連絡してあの話はなかったことにしてもらおう。
それで月曜日には瑞樹と一緒に函館に帰ろう。

 さっきココアを飲んでいると瑞樹がすっと白い封筒を手渡してくれた。その存在を思い出して開けて見ると、驚いたことに2万円とメモ書きが入っていた。

『潤へ。今日は訪ねてくれてありがとう。高校の卒業祝いも社会人になったお祝いもしてなくてごめん。これは帰りの飛行機代の足しにしてもいいし小遣いにしてもいいよ。僕が乗る飛行機はこの便だ。広樹兄さんが空港まで迎えに来てくれるから、よかったら一緒に帰ろう』

 はっ……本当にお人好しだ。あんなこと仕出かしたオレに小遣いだなんて。兄貴面しやがって……本当に馬鹿だな。だけど本当は……こんな瑞樹がずっと好きだった。

 あーなんだろう。胸にぽっかり穴があいた気分なのは何でだ?

 ホテルに戻るとまたもや函館の兄貴から電話が入った。

「潤、お疲れ。今日も仕事忙しかったのか」
「んー今日は定時に上がってちょっと出かけていた」
「そうか。あっお前はいつこっちに戻ってくる? 」
「何で? 」
「実は瑞樹が来週の月曜日に戻って来ることになった。それでお前に会いたがっていたから」

 まさかその瑞樹に今日会ったとはバツが悪くて言い出せなかった。同時に、瑞樹がオレに会いたがってくれているという言葉が嬉しかった。

「え……そうなのか。オレに……わかった。オレも月曜に戻るよ」
「仕事は大丈夫なのか」
「あぁもう終わったよ」
「それならいいが。そうそう月曜日にそのまま家族旅行を予定しているから」

 突然兄貴の口から家族旅行なんて驚くぜ。そんなことしたことあったか。

「どこにだよ? 気持ち悪いこと言うなぁ」
「大沼に一泊しようって母さんが張り切っている。お前の部屋も取っておくからな」
「ふーん、なんで大沼なんだ? 」
「あそこが瑞樹の生まれ育った場所なんだよ。そこの寺で法要をする予定だ。十七回忌のな」
「あ……」

 そうなのか。瑞樹がオレの家に来る前にどこに住んでいたのか、どんな両親だったのか。そんなこと……今までただの一度も関心を持ったことがなかった。

「行くよ。了解!」

 もう帰郷しよう。瑞樹と共に──


****

 瑞樹のワイシャツのボタンを全部外して脱がした。インナーシャツ姿にしてやると、少し湿っていた。腕や首元がほわんと赤く染まっている。脱がして初めて分かる上気した素肌にドキッとしゾクッとする!

 酔っぱらった瑞樹を押し倒して襲いたくなる衝動を必死に押し込め、至って冷静に対応した。

「これも脱ぐか」
「う……ん、暑いですね、なんか」
「全く……君は酒に弱いな。あの程度でこんなに肌を染め上げて……」

  何の拷問かと思うが、だんだん耐性が出来たような。まさかこんな忍耐を積み重ねることになるとはな。瑞樹はまったくすごいよ。

 迂闊に手を出せない程、俺にとっては清らかな存在だ。

 インナーを脱がすことはやめた。理性がぶっとびそうだから。そのままスウェットの上衣を被せ、今度はスーツのスラックスのベルトを外した。

 カチャカチャという金属音が立つが、瑞樹はぼんやしりたままだ。意識は微かにあるのに甘えたように大人しく、俺に着替えさせてもらっている。

「はぁ……まるで今日の瑞樹は大きな子供みたいだな」
「……こんな僕は……イヤですか」
「とんでもない。俺のいう事を素直に聞いて猛烈に可愛いよ、いい子だな」

 スラックスのファスナーを降ろして腰を浮かせる。すると、すっと真っすぐに伸びた脚が現れる。ほっそりとした太腿、脛が長く綺麗な足だった。男にしておくのもったいないな。

 腰に手をやり持ち上げて足元まで一気に下げる。

 ちらちらと目が行くのは彼のパンツだ。ショート丈のボクサーパンツだった。

 裸も見たことはあるし、温泉で風呂にも入った仲だが……こんな風にスーツを脱がしていくのは初めてで、ヤバイくらい緊張してきた。

 これはただの着替えだ! おっ落ち着け宗吾! 

 実は瑞樹は誘い受けなのか~と悩んでしまう程、今日は大胆だ。

「瑞樹……もうこれ以上……意地悪すんなよ、我慢できなくなる」
「クスッ──宗吾さん……すみません。僕……今日かなり機嫌がいいみたいです」

 瑞樹はいつもより華やかに、綺麗に微笑んだ。



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