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発展編
北の大地で 10
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「瑞樹、おはよう。なんだ、下にいないと思ったら、やっぱりここにいたのか」
「にっ……兄さん、おはよう」
「あれっ宗吾は?」
「宗吾さんは、やっぱり帰らないといけないので支度を」
「あーそうか、あいつも今日は仕事か。年末だし休めないか。やっぱ忙しいな」
宗吾さんは朝一番の飛行機で東京に戻りそのまま出社するそうなので、着替えるために下の部屋に行った。
さっきまで僕と宗吾さんがここでした行為は封印だ。兄さんには絶対に悟られないように気を付けないと。まだ心臓がバクバクしている。僕と宗吾さんは互いに高め合って……なんだかとてもすっきりした気分になっていた。
「にしても、なんで窓なんか開けてる? 外は雪なのに、冷えるぞ」
「あっもう閉めるよ」
まさか換気していたとは言えないので焦って窓を閉めようとすると、兄さんが窓辺に寄ってきた。
「あれ? 昨日より随分積もったな。夜中にまた降ったのか」
「うん、雪の結晶が綺麗だったよ」
「ん? ってことは、お前達やっぱり夜中に起きていたのか」
「あっ……その、目が覚めちゃって」
「ふっそれで宗吾とふたりきりで仲良くしたってわけか」
「にっ兄さん! 」
「恥ずかしがるなって。だが詰めが甘いぞ」
「え! 」
動揺して一歩下がると床がギシッと大きな音を立てた。僕の部屋の真下は兄さん達が雑魚寝していた居間だ。古い木造家屋なので、二階を歩くだけで軋む音が響くことをすっかり忘れていた。
さっき宗吾さんと床に直接しゃがみこんでした没頭した行為を思い出して顔が火照る。もしかして……結構……床が揺れたのでは?
「兄さん、ま……まさか」
「そんな顔すんなって。ちょっと上がギシギシと騒がしいって思っただけさ」
「ギッ……ギシギシとって」
僕があからさまに動揺すると、兄さんは苦笑しながら話題を変えてくれた。
「まぁ気にするな。さてと、そろそろ市場に行くか」
「あっ……いってらっしゃい」
「ふっ懐かしいな。そんな風にお前に送り出してもらうの。瑞樹が高校生の頃、いつもこの窓から見送ってくれていたよな」
花屋にとってクリスマスと年末年始は特にかき入れ時だ。クリスマスの朝だって、いつも通り花を仕入れに兄さんは出かける。
五歳年上の兄さんは高校を出てすぐに家の花屋で働き出し、早朝、母さんと花市場に出かけるのが日課だった。僕はちょうど入れ違いに起きるので、パジャマ姿のまま『いってらっしゃい』と、この窓から声を掛けるので精一杯だった。
「うん、そうだね」
「お前はいつも可愛かったよ。今も昔も大事な弟だ」
「兄さん……」
「幸せになれよ。瑞樹の指もきっと良くなるよ」
「ありがとう」
兄さんが僕の指先を、力強く握ってくれた。
すると、いつもよりも指先に感覚が戻っているように気がした。
そういえばさっき宗吾さんの大事な部分に触れた時も、そう思えた。
いい兆しなのか。
****
早いもので宗吾さんとクリスマスに会ってから、あっという間に年の瀬を迎えていた。
今年の正月はそれぞれ実家で過ごすことにした。僕も八年ぶりに育った家でゆったりと年を越し、宗吾さんもご実家で過ごしているそうだ。
この歳になって家族との時間が大切なものだとようやく気づけた。宗吾さんとの恋を通して、今近くにいてくれる人の存在の尊さを知ったのだ。
「おーい、瑞樹のアレンジメント、すごい好評だ。追加で作れるか」
「分かった!」
リハビリも兼ねて年末は正月飾りのアレンジメントにトライしてみた。ハサミで細かい作業はまだ無理だったが、だいぶイメージ通りのものが作れるようになってきた。
「兄さん、オレも手伝うよ」
「ありがとう!」
潤も僕の手となり足となり動いてくれるので、助かっている。
「兄さんのアレンジメントは流石だな。洗練された美しさと共に、地上から生えているかのような自然なフレッシュさを感じるよ」
「潤、それ……ほめ過ぎだよ。でも嬉しい、ありがとう。潤も花を扱う仕事に向いているよ」
「そうか。実はオレ、造園家になりたいんだ」
「え……造園?」
それはまた予想しないことを。
「軽井沢でイングリッシュガーデンを観て興味を持って、実は春になったらそこで修行を積もうと思っているんだ」
「へぇ……そうか、潤は建築の知識もあるから向いているな」
「オレさ……瑞樹のデザインした庭を造るのが夢だ」
「僕のデザイン? 」
「そうだよ。更にその庭では花を収穫出来て、その花を兄貴がここで売るんだ」
「じゃあ三人で協力し合えるのか」
「そういうことだ」
「潤……すごいな。僕もその夢を叶えたい」
目を閉じて、僕も潤の夢を追いかけてみた。
見えて来る……僕たちの未来。
三人で力を合わせて出来ることがあるなんていいな。
僕も本当に潤と兄さんの兄弟の一員になれそうだ。
****
花屋も大晦日は早目に店じまい出来たので、ゆったりと新年を迎えることが出来た。
宗吾さんとは、年を跨いですぐに電話で話した。
「瑞樹、明けましておめでとう」
「宗吾さん、明けましておめでとうございます」
「今年もいい年にしような」
「はい!」
『今年も』という響きがいい。
去年は……あんな惨い事件の当事者になるなんて思ってもみなかったし、一馬との決定的な別れが訪れることも何も予測していなかった。
二度と戻りたくない辛い年だったのは事実だ。
だが同時に宗吾さんとの出会いの年でもあった。
悪い事は過去に置いて、良い事は今年も継続させていこう。
「はい! 今年もいい年にしましょう。宗吾さん」
「おっ、だいぶ元気が出て来たな。冬眠が終わったら、こっちに戻って来いよ」
「そうします!」
「待ち遠しいよ」
会社には3月末まで休職届を出していた。部署のリーダーと年末にもう一度相談して期限を決めた。たとえ指先の麻痺が少し残ったとしても戻って来いと言ってもらえたのは嬉しかった。この指では、またアシスタントからやり直すことになると思うが、今の僕が出来ることを精一杯したい。
今年は変化の年だ。今までの縁を大事にしながら、もっと良くなるように、新しい年を丁寧に過ごし、分け入っていきたい。
冬があるから春を感じる。春があるから夏を、夏があるから秋を……季節はそうやって巡り繋がっていく。人の縁も同じだ。
僕はそんな季節の繋がりを、花で紡いでいきたい。
「にっ……兄さん、おはよう」
「あれっ宗吾は?」
「宗吾さんは、やっぱり帰らないといけないので支度を」
「あーそうか、あいつも今日は仕事か。年末だし休めないか。やっぱ忙しいな」
宗吾さんは朝一番の飛行機で東京に戻りそのまま出社するそうなので、着替えるために下の部屋に行った。
さっきまで僕と宗吾さんがここでした行為は封印だ。兄さんには絶対に悟られないように気を付けないと。まだ心臓がバクバクしている。僕と宗吾さんは互いに高め合って……なんだかとてもすっきりした気分になっていた。
「にしても、なんで窓なんか開けてる? 外は雪なのに、冷えるぞ」
「あっもう閉めるよ」
まさか換気していたとは言えないので焦って窓を閉めようとすると、兄さんが窓辺に寄ってきた。
「あれ? 昨日より随分積もったな。夜中にまた降ったのか」
「うん、雪の結晶が綺麗だったよ」
「ん? ってことは、お前達やっぱり夜中に起きていたのか」
「あっ……その、目が覚めちゃって」
「ふっそれで宗吾とふたりきりで仲良くしたってわけか」
「にっ兄さん! 」
「恥ずかしがるなって。だが詰めが甘いぞ」
「え! 」
動揺して一歩下がると床がギシッと大きな音を立てた。僕の部屋の真下は兄さん達が雑魚寝していた居間だ。古い木造家屋なので、二階を歩くだけで軋む音が響くことをすっかり忘れていた。
さっき宗吾さんと床に直接しゃがみこんでした没頭した行為を思い出して顔が火照る。もしかして……結構……床が揺れたのでは?
「兄さん、ま……まさか」
「そんな顔すんなって。ちょっと上がギシギシと騒がしいって思っただけさ」
「ギッ……ギシギシとって」
僕があからさまに動揺すると、兄さんは苦笑しながら話題を変えてくれた。
「まぁ気にするな。さてと、そろそろ市場に行くか」
「あっ……いってらっしゃい」
「ふっ懐かしいな。そんな風にお前に送り出してもらうの。瑞樹が高校生の頃、いつもこの窓から見送ってくれていたよな」
花屋にとってクリスマスと年末年始は特にかき入れ時だ。クリスマスの朝だって、いつも通り花を仕入れに兄さんは出かける。
五歳年上の兄さんは高校を出てすぐに家の花屋で働き出し、早朝、母さんと花市場に出かけるのが日課だった。僕はちょうど入れ違いに起きるので、パジャマ姿のまま『いってらっしゃい』と、この窓から声を掛けるので精一杯だった。
「うん、そうだね」
「お前はいつも可愛かったよ。今も昔も大事な弟だ」
「兄さん……」
「幸せになれよ。瑞樹の指もきっと良くなるよ」
「ありがとう」
兄さんが僕の指先を、力強く握ってくれた。
すると、いつもよりも指先に感覚が戻っているように気がした。
そういえばさっき宗吾さんの大事な部分に触れた時も、そう思えた。
いい兆しなのか。
****
早いもので宗吾さんとクリスマスに会ってから、あっという間に年の瀬を迎えていた。
今年の正月はそれぞれ実家で過ごすことにした。僕も八年ぶりに育った家でゆったりと年を越し、宗吾さんもご実家で過ごしているそうだ。
この歳になって家族との時間が大切なものだとようやく気づけた。宗吾さんとの恋を通して、今近くにいてくれる人の存在の尊さを知ったのだ。
「おーい、瑞樹のアレンジメント、すごい好評だ。追加で作れるか」
「分かった!」
リハビリも兼ねて年末は正月飾りのアレンジメントにトライしてみた。ハサミで細かい作業はまだ無理だったが、だいぶイメージ通りのものが作れるようになってきた。
「兄さん、オレも手伝うよ」
「ありがとう!」
潤も僕の手となり足となり動いてくれるので、助かっている。
「兄さんのアレンジメントは流石だな。洗練された美しさと共に、地上から生えているかのような自然なフレッシュさを感じるよ」
「潤、それ……ほめ過ぎだよ。でも嬉しい、ありがとう。潤も花を扱う仕事に向いているよ」
「そうか。実はオレ、造園家になりたいんだ」
「え……造園?」
それはまた予想しないことを。
「軽井沢でイングリッシュガーデンを観て興味を持って、実は春になったらそこで修行を積もうと思っているんだ」
「へぇ……そうか、潤は建築の知識もあるから向いているな」
「オレさ……瑞樹のデザインした庭を造るのが夢だ」
「僕のデザイン? 」
「そうだよ。更にその庭では花を収穫出来て、その花を兄貴がここで売るんだ」
「じゃあ三人で協力し合えるのか」
「そういうことだ」
「潤……すごいな。僕もその夢を叶えたい」
目を閉じて、僕も潤の夢を追いかけてみた。
見えて来る……僕たちの未来。
三人で力を合わせて出来ることがあるなんていいな。
僕も本当に潤と兄さんの兄弟の一員になれそうだ。
****
花屋も大晦日は早目に店じまい出来たので、ゆったりと新年を迎えることが出来た。
宗吾さんとは、年を跨いですぐに電話で話した。
「瑞樹、明けましておめでとう」
「宗吾さん、明けましておめでとうございます」
「今年もいい年にしような」
「はい!」
『今年も』という響きがいい。
去年は……あんな惨い事件の当事者になるなんて思ってもみなかったし、一馬との決定的な別れが訪れることも何も予測していなかった。
二度と戻りたくない辛い年だったのは事実だ。
だが同時に宗吾さんとの出会いの年でもあった。
悪い事は過去に置いて、良い事は今年も継続させていこう。
「はい! 今年もいい年にしましょう。宗吾さん」
「おっ、だいぶ元気が出て来たな。冬眠が終わったら、こっちに戻って来いよ」
「そうします!」
「待ち遠しいよ」
会社には3月末まで休職届を出していた。部署のリーダーと年末にもう一度相談して期限を決めた。たとえ指先の麻痺が少し残ったとしても戻って来いと言ってもらえたのは嬉しかった。この指では、またアシスタントからやり直すことになると思うが、今の僕が出来ることを精一杯したい。
今年は変化の年だ。今までの縁を大事にしながら、もっと良くなるように、新しい年を丁寧に過ごし、分け入っていきたい。
冬があるから春を感じる。春があるから夏を、夏があるから秋を……季節はそうやって巡り繋がっていく。人の縁も同じだ。
僕はそんな季節の繋がりを、花で紡いでいきたい。
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