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成就編
夏便り 23
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結局……夜中に芽生くんは嘔吐しなかったが、水を何度も欲しがった。
「芽生くん、お水だよ」
「ん……」
目を瞑り体重を僕に預けたまま……コクコクと飲み干す。
いつも溌溂としている芽生くんが、明らかにぐったりしている様子に胸が痛む。
途中氷枕を取り替え、寝汗もかいていたのでパジャマも着替えさせてあげた。
こんな風にしてもらったら嬉しいだろうと思う限りのことを、芽生くんにしてあげたかった。
「おにいちゃん……いる?」
「ここにいるよ」
「よかったぁ……」
何度かそんな会話を繰り返した。
不安になるよね。
苦しい時って、誰かに傍にいて欲しくなるよね。
やがて朝日が昇り始めたようで、リビングのカーテンの向こうが明るくなって来るのを感じた。更に宗吾さんの部屋からは時計のアラーム音がピピピ……と聞こえ、朝を知らせてくれる。
僕の肩にもたれて眠った宗吾さんは、途中からラグの上でクッションを枕に眠ってもらった。
僕は夜中に目覚めてから眠らなかったけれども、充実した朝を迎えていた。
不思議と、疲れていなかった。
「宗吾さん、もう朝ですよ。そろそろ起きないと」
「えっ!」
宗吾さんが慌てた様子で、ガバっと飛び起きた。
「悪い。俺……寝ちゃったのか」
「すみません。躰、痛くないですか」
「いや大丈夫だ。それより瑞樹は眠ったのか」
「僕はずっと起きていましたが、大丈夫です」
「え……ごめんな」
「謝らないで下さい。僕がそうしたかったんです」
「だが……俺ばかりまた『父親失格』だよ」
宗吾さんが悔しそうに呟いたので、僕の気持を聞いて欲しくなった。
「宗吾さん……少しだけ……僕の昔話と後悔を聞いてくれますか」
「あぁ話してくれ、瑞樹の過去を知りたい」
……
『瑞樹、夜中に苦しかったら起こしてちょうだいね』
『あの……ごめんなさい。また熱、出してしまって』
『馬鹿ね、何言っているの? 子供は遠慮しちゃ駄目よ』
大沼から函館に移り住んだのは、10歳になったばかりの6月だった。
そこから1年は、何度か熱を出してしまった。
函館と大沼では気温や空気が微妙に違い身体が慣れなかったのだろう。それに心が相当弱っていたのだ。
でも……1日花屋の店頭で立ち仕事をしている母には迷惑を掛けたくなかった。
何度か母の寝床まで行くには行ったが、疲れた寝顔に胸が塞がって、どうしても起こせなかった。
(僕を引き取ってくれたから、大変なんだ)
勝手に自己完結してしまい、どんなに苦しくてもどんなに熱が高くても我慢してしまった。
病気の時くらい甘えてもよかったのに、今となっては母も僕に甘えて欲しかったと思う。
……
過去の自分と対峙しながら、宗吾さんに当時の行動と気持ちをありのままに話した。
今の僕はこんな風に過去と向き合えるようになっていた。
「そうか、それは少し辛い思い出になってしまったな」
「後悔しています。だから芽生くんには僕が本当はしたかったことをしてもらいたいし、僕も芽生くんに色々してあげたくて……」
「ありがとう。瑞樹……君は本当に頼りになるよ。俺と芽生にかかせない存在だよ」
宗吾さんに優しくハグされた。
優しく体を労わるように、撫でてもらった。
それだけで疲れが飛んで行くようだった。
「だが、無理し過ぎるなよ」
「はい……僕の出来る範囲で、欲張らず、背伸びせずにやってみます」
「そうしてくれ」
芽生くんの熱を測ると、まだ38.5度あった。
何度も寝汗をかいたので下がったと思ったのに、躰が湯たんぽみたいに熱くて苦しそうだ。食欲もないようで水分しか取れなかった。
「やっぱり、朝のうちに病院に連れていきますね」
「仕事は大丈夫なのか」
「はい。今日はデスクワークの日だったので、なんとかなります」
「……頼めるか。俺は不甲斐なくて悪いな」
「いえ、出来る人が出来ることをしましょう」
「こういう時の瑞樹は潔いな。俺は狼狽えておろおろするばかりなのに」
「家族の……役に立てるのが嬉しいです!」
朝食の後、同期の菅野に先に電話しておいた。リーダーが出社するのは始業時間間近だし、まだ上司に電話するには早い時間だったから。
「もしもし菅野?」
「おー、葉山どうした。こんな朝から」
「ごめん。今日会社を休むことになった」
「ん? 随分急だな。具合でも悪い?」
「僕じゃなくて……その」
「葉山は今日は内勤だったよな」
「うん、デザインは家で空き時間に考えておくよ」
「わかった。お大事にな」
詳しく聞かれなかったが、菅野は全部分かっているようだった。
「あの……何で分かった?」
「いつも真面目なお前が、潔く休みの連絡してくるからさ。いつものお前なら、自分の具合が多少悪くても無理しちゃうからな。大事にしてやれよ……小さな子は病気の時は本当に弱っちいからな。しっかり看病してやれよ」
「うん……そうなんだ。ありがとう恩に着るよ」
「葉山も休める時は一緒に休めよ。気張り過ぎると後が辛いぞ」
菅野の的確なアドバイスが有難かった。
子育ては山あり谷あり……まだまだ続く。
だから頑張り過ぎず、やっていこう。
宗吾さんも僕も手探りだから、お互いに協力して。
宗吾さんと僕は、お互いにしあわせな存在になれた。
そして、お互いに必要な存在になっていく途中だ!
「芽生くん、お水だよ」
「ん……」
目を瞑り体重を僕に預けたまま……コクコクと飲み干す。
いつも溌溂としている芽生くんが、明らかにぐったりしている様子に胸が痛む。
途中氷枕を取り替え、寝汗もかいていたのでパジャマも着替えさせてあげた。
こんな風にしてもらったら嬉しいだろうと思う限りのことを、芽生くんにしてあげたかった。
「おにいちゃん……いる?」
「ここにいるよ」
「よかったぁ……」
何度かそんな会話を繰り返した。
不安になるよね。
苦しい時って、誰かに傍にいて欲しくなるよね。
やがて朝日が昇り始めたようで、リビングのカーテンの向こうが明るくなって来るのを感じた。更に宗吾さんの部屋からは時計のアラーム音がピピピ……と聞こえ、朝を知らせてくれる。
僕の肩にもたれて眠った宗吾さんは、途中からラグの上でクッションを枕に眠ってもらった。
僕は夜中に目覚めてから眠らなかったけれども、充実した朝を迎えていた。
不思議と、疲れていなかった。
「宗吾さん、もう朝ですよ。そろそろ起きないと」
「えっ!」
宗吾さんが慌てた様子で、ガバっと飛び起きた。
「悪い。俺……寝ちゃったのか」
「すみません。躰、痛くないですか」
「いや大丈夫だ。それより瑞樹は眠ったのか」
「僕はずっと起きていましたが、大丈夫です」
「え……ごめんな」
「謝らないで下さい。僕がそうしたかったんです」
「だが……俺ばかりまた『父親失格』だよ」
宗吾さんが悔しそうに呟いたので、僕の気持を聞いて欲しくなった。
「宗吾さん……少しだけ……僕の昔話と後悔を聞いてくれますか」
「あぁ話してくれ、瑞樹の過去を知りたい」
……
『瑞樹、夜中に苦しかったら起こしてちょうだいね』
『あの……ごめんなさい。また熱、出してしまって』
『馬鹿ね、何言っているの? 子供は遠慮しちゃ駄目よ』
大沼から函館に移り住んだのは、10歳になったばかりの6月だった。
そこから1年は、何度か熱を出してしまった。
函館と大沼では気温や空気が微妙に違い身体が慣れなかったのだろう。それに心が相当弱っていたのだ。
でも……1日花屋の店頭で立ち仕事をしている母には迷惑を掛けたくなかった。
何度か母の寝床まで行くには行ったが、疲れた寝顔に胸が塞がって、どうしても起こせなかった。
(僕を引き取ってくれたから、大変なんだ)
勝手に自己完結してしまい、どんなに苦しくてもどんなに熱が高くても我慢してしまった。
病気の時くらい甘えてもよかったのに、今となっては母も僕に甘えて欲しかったと思う。
……
過去の自分と対峙しながら、宗吾さんに当時の行動と気持ちをありのままに話した。
今の僕はこんな風に過去と向き合えるようになっていた。
「そうか、それは少し辛い思い出になってしまったな」
「後悔しています。だから芽生くんには僕が本当はしたかったことをしてもらいたいし、僕も芽生くんに色々してあげたくて……」
「ありがとう。瑞樹……君は本当に頼りになるよ。俺と芽生にかかせない存在だよ」
宗吾さんに優しくハグされた。
優しく体を労わるように、撫でてもらった。
それだけで疲れが飛んで行くようだった。
「だが、無理し過ぎるなよ」
「はい……僕の出来る範囲で、欲張らず、背伸びせずにやってみます」
「そうしてくれ」
芽生くんの熱を測ると、まだ38.5度あった。
何度も寝汗をかいたので下がったと思ったのに、躰が湯たんぽみたいに熱くて苦しそうだ。食欲もないようで水分しか取れなかった。
「やっぱり、朝のうちに病院に連れていきますね」
「仕事は大丈夫なのか」
「はい。今日はデスクワークの日だったので、なんとかなります」
「……頼めるか。俺は不甲斐なくて悪いな」
「いえ、出来る人が出来ることをしましょう」
「こういう時の瑞樹は潔いな。俺は狼狽えておろおろするばかりなのに」
「家族の……役に立てるのが嬉しいです!」
朝食の後、同期の菅野に先に電話しておいた。リーダーが出社するのは始業時間間近だし、まだ上司に電話するには早い時間だったから。
「もしもし菅野?」
「おー、葉山どうした。こんな朝から」
「ごめん。今日会社を休むことになった」
「ん? 随分急だな。具合でも悪い?」
「僕じゃなくて……その」
「葉山は今日は内勤だったよな」
「うん、デザインは家で空き時間に考えておくよ」
「わかった。お大事にな」
詳しく聞かれなかったが、菅野は全部分かっているようだった。
「あの……何で分かった?」
「いつも真面目なお前が、潔く休みの連絡してくるからさ。いつものお前なら、自分の具合が多少悪くても無理しちゃうからな。大事にしてやれよ……小さな子は病気の時は本当に弱っちいからな。しっかり看病してやれよ」
「うん……そうなんだ。ありがとう恩に着るよ」
「葉山も休める時は一緒に休めよ。気張り過ぎると後が辛いぞ」
菅野の的確なアドバイスが有難かった。
子育ては山あり谷あり……まだまだ続く。
だから頑張り過ぎず、やっていこう。
宗吾さんも僕も手探りだから、お互いに協力して。
宗吾さんと僕は、お互いにしあわせな存在になれた。
そして、お互いに必要な存在になっていく途中だ!
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