幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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成就編

聖なる夜に 6

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 待ち合わせの交差点からは、先ほど僕が立ち寄った宝飾店がよく見えた。

 屋上に、煙突のようにそびえ立つ時計台は、まるでランドマークのよう。

 きっと、今この瞬間にも……この時計を見上げて、さまざまな人が、時間を合わせているのだろう。

 携帯やスマホの時刻とは違う、1分1秒の重みを感じる、針の動きだった。

 僕もね……今宵は、最愛の家族と待ち合わせている。

 そういえば朝のニュースで、今日は1月並みの寒波が押し寄せていると言っていたな。流石に寒さで、手がかじかんできたな。僕も去年お母さんにもらった手袋をそろそろ出して、冬支度をしよう。

 あ……そうか。ふと、去年の冬は東京にいなかったことを思い出してしまった。

「そろそろ……待ち合わせ時間だ」

 時計の針がちょど19時を示すと同時に、雑踏の中から可愛い声が聞こえてきた。

「おにいちゃん~」
「芽生くん!」

 僕の足元に、ぽすっと抱きついてくれる小さな温もりが愛おしくて、目を細めてしまう。

「じかんにぴったりでしょう」
「うん! 映画、楽しかった?」
「かっこよかったよーみんな。さいごはパパがないていたよ」
「えーそうなんだ!」
 
 待ち合わせ時間を子供なのに、しっかり守ろうとする芽生くんの気持ちも嬉しいし、無邪気な満面の笑みに、少し冷えてきた身体がポカポカと温まっていく。

 芽生くんの背後には、宗吾さんが立っていた。

 今日は彼はオフだったので。ラフなシャツに黒いセーター、ダークグレーのショートコート姿がビシッと決まって格好良いので、僕は、また目を細めてしまう。

「瑞樹、随分早くから来ていたのか」
「え、そんなことはないです」
「うそつけ。手がこんなに冷えているじゃないか」

 銀座の雑踏で両手を掴まれ、息をふぅふぅとかけてもらい、照れ臭くなってしまった。

「だ、駄目ですってば! こんなところで」
「はは、でも君の身体が大切だ」
「あ、ありがとうございます」
「さぁ、帰ろうか。家に」
「はい!」

 宗吾さんは、両手一杯にデパートの包みを下げていた。

「あの、何を買ったんですか。そんなに沢山」
「夕食だ」
「え、帰ってから、簡単に何か作ろうと思っていたのに」
「今日はデパ地下の弁当にしよう。君には、すき焼き弁当を買ったぞ」
「いいですね。ありがとうございます」
「たまには息抜きをしないとな」
「はい!」

 僕たちは駅に向かって歩き出した。

「瑞樹も、何かいい物を買ったのか」
「……それは、内緒です」
「なるほど。じゃあ、いい子に待っているよ」
「くすっ」

 街はすっかりクリスマスのイルミネーションで溢れており、少し大人なシックなクリスマスの装飾に、厳かな気持ちになってくる。

 去年のクリスマスは……函館で迎えた。

 あの事件の後……なかなか動かない手の傷を癒やすために、函館の実家に戻っていた。そしてクリスマス・イブには、宗吾さんが単身で函館に来てくれたのだ。

 無防備な靴で来たから、雪道でつるつる滑って、結局、五稜郭の道で尻もちをついてしまったんだよな。それから……あぁ、まずい。へんなこと思い出してしまった。

 僕の部屋で真夜中にしたこと、彼の言い放った「ホワイトクリスマス」の意味。

 もうっ、あの頃から、宗吾さんはその場のいいムードを、台無しにするの天才だったような。

 電車に揺られながら、1年前のクリスマスに思いを馳せていたら、いつの間にかニヤついていたようで、芽生くんに心配されてしまった。

「おにいちゃん、そのおかおって……ちょっとまずいよ」
「え?」
「おばあちゃんがよくパパにちゅういするときと同じだよ」
「ええ!」
 
 激しく嫌な予感……

「お、おばあちゃんは、いつも何て?」
「えっとね~『しまりのない口もとですよ。そうご、シャキンとしなさい!』っていうんだ」
「ぁ……うう」
「はは! 瑞樹、俺たち似て来たな」

 1年前の哀しげな僕に、教えてあげたいよ。

 1年後の君、家族の明るい笑い声に包まれている。

 そして君も……腹の底から、笑っていると。



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