幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
598 / 1,865
成就編

白銀の世界に羽ばたこう 8

しおりを挟む
    
「瑞樹、そろそろ着くぞ」
「おにーちゃん、起きて」

 両肩を揺すられてパッと目が開くと、宗吾さんと芽生くんの明るい笑顔が飛び込んできた。

「えっ……もう?」
「そうだ。もう着く。あと5分だぞ」
「えっ……え?」
「まだ寝ぼけているのか。ほら、立って。コートを着て」
「は、はい」
「お兄ちゃん、いそがなくっちゃ」

 幼子のように宗吾さんにダッフルコートを着せられて、照れ臭い。芽生くんも小さな手で、ボタンを一生懸命、留めてくれる。

「お兄ちゃん、前のボタンをちゃーんととめないと、おカゼひくよって、いつもいってるでしょ」
「そうだね芽生くんは上手に着られたね」
「もう、ひとりで、できるもん!」

 出会った頃は一人で着替えることが出来なかったのに、いつの間に……。

 芽生くんは、もうボタンを掛け違えることなく、子供用の水色のダッフルコートをちゃんと着ていた。さらに昨日もらったばかりの帽子とマフラー・手袋までしっかり身につけて、すっかり雪国仕様だ。

 雪ん子みたいで可愛いよ。

「すごいね」
「ねぇ、お兄ちゃん、はやく、はやく! 着いちゃうよ!」
「分かった」

 参ったな。少し目を瞑ったつもりが、1時間もぐっすり眠っていたなんて。

 その代わり、悪い夢は見なかった。気怠かった身体もすっきりしていた。



 やがて新幹線が、静かにホームに滑り込む。 

 プラットホームに浮かぶ看板の文字は『軽井沢駅』だ。

「わぁ~ついたよ。ちゃんと『か・る・い・ざ・わ』ってかいてある!」

 芽生くんにグイグイと手を引かれて、引っ張られるように、新幹線から降りた。

 こんな風に可愛い手に誘われるのは、いいね。

 もう忘れていい……あの日僕を無理矢理引きずり下ろしたおぞましい手のことは。

 そう言ってもらっているようだ。

 芽生くんと一緒に勢いよく階段を駆け上ると、真正面に潤の姿を見つけた。

 潤は、僕たちを心配そうな表情でキョロキョロと探している。

 染めていた茶髪は黒く戻し、すっかり短髪が板についたね。今日は仕事を抜け出して来てくれたので、作業服なのがまたいい。良い感じにGardener(庭師)の風情が出ているよ。
 
  会いに来たよ……お前の住む街に。潤がひとりで頑張っている姿を見に来たよ。

「お兄ちゃん、あそこに、ジュンくんがいるよ」
「行こう! 芽生くん」

 今度は、僕が芽生くんの手を引っ張った。

 僕が行きたい所に、僕の意志で行こう!


 ****

 軽井沢はすっきりと晴れていた。

 空はどこまでも高い。遠くにそびえる山は、しっかりと雪化粧しており、北国らしい雄大な景色が広がっていた。現在の気温は1度しかないので、都会で暮らしに慣れた僕らは、肌を突き刺す風に震え上がった。

「うわっ!」
「ははっ、都会っ子には寒いだろ?」
「さ、さむくないもん!」
「はは、鼻の頭が赤いぞ」
「むー、トナカイじゃないよ~、ボク」

 くすっ、芽生くんは案外負けん気が強いのかな。でもそんな所も可愛いよ。
 潤について駐車場に行くと、大型の4WDが停まっていた。

「さぁ、早く乗って」
「わー! カッコイイ!」
「これ、潤の?」
「まさか! 職場の車だよ。オーナーに頼んだら貸してもらえてさ」

 そうなのか。良かったな、潤。
 信頼してもらえなければ、こんな立派な車は貸してもらえないだろう。
 
「そうか。潤は職場で良くしてもらっているんだな」
「まぁ、なんだかんだと可愛がってもらってさ」
「兄さんも後できちんとご挨拶したいから、オーナーに紹介して欲しいな」
「な、なんか照れるぜ」
「何、言って? 身内なんだから当然だよ」
「お、おう、そうだな!」
 
 潤はポリポリと頭を掻いていた。
 潤と、こんな風に気ままな会話が出来るなんて――新鮮だね。
 
「ふーん、もっと雪が積もっていると思ったが、軽井沢はそうでもないんだな。これなら俺でも運転できそうだぞ」
 
 助手席の宗吾さんが、残念そうに呟いた。

「ははっ、軽井沢は雪は降っても、そこまで積もることは少ないですよ。でもとにかく気温が下がるので、一度降ると雪が凍結する可能性が高いんです。だからタイヤはノーマルタイヤではお手上げで、スタッドレスが必須ですね」
「なるほど、ふぅん……それにしても君は運転が上手いな」
「まぁ瑞樹と一緒で北国育ちですからね」
「むっ」
「そういえば、宗吾さんはスキー、得意ですか」
「……俺は海派だ。そういう君は泳ぎは得意か」
「うっ」

 車中で、なんとも微妙な会話が続いて、いたたまれない。

 二人とも、大人げない。

「なぁ、瑞樹はスキーが得意だよな?」
「え? まぁ、好きだけど……」

 潤……突然ふられても困るよ。それは宗吾さんの闘争心を増長させるヤツだ。

「瑞樹ぃ~、なぁ、海も良かっただろう? 君の泳ぎはイルカのように綺麗だったよ」

 ちょっと‼ わ、わ、やっぱり!

「……あ、ありがとうございます」
「ちょっと待ったー! 宗吾さん、今は冬ですよ。で、明日はスキー三昧を予定しています。なのに……どうして話をそらすのですか。まさかスキーが出来ないわけじゃ……」

 まずい……流石に潤の口を止めないと。
 すると僕より先に芽生くんが叫んだ。

「もぉー! コラッ、ふたりとも、そういうのはいけませんよ。オトナゲナイ!」
「えっ!」
「え?」

 ギョッとした。一瞬、宗吾さんのお母さんが車中に乗り込んでいるのかと思うほど、忠実に再現できていたから。

「くすっ、くす……ははっ、芽生くん、よく言えました! 今の状況にぴったりだね」

 なんだか、またおかしくなって、腹を抱えて笑ってしまった。

「おいおい、瑞樹はどっちの味方なんだぁ~?」
「兄さん、そんなに笑うなんて、ひでぇな!」
「あっ……ごめん、ごめん、でもっ……くっ……」
  
 笑いを堪えていると、芽生くんがまた……

「えへん! えっと……お兄ちゃんがつけてくれたハナマル印のおかげだよ。ジュンくんも、ハナマルを見たい? 」
「へぇ~芽生くんは、ハナマルを身につけてんのか。かわいいな。どれ?手にでも書いたのか。あとで見せてくれよー」
「ちがうよ~、パンツにかいてもらったんだ」
「へっ?」
 
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

処理中です...