幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
709 / 1,865
番外編

その後の三人『さらに……初々しい日々』9

しおりを挟む
「芽生、そろそろお昼にしましょうか。今日はお弁当の具材があるので簡単よ」
「わーい! おばあちゃん、あのね……ボクもパパたちみたいに、おべんと箱にいれてほしいな」
「いいわよ!」

 くすつ、なんでも大人の真似をしたがる時期なのね。

 あら、でもお弁当箱あったかしら?

 憲吾と宗吾が中学、高校と使用したアルミの物は、今日二人に使ってしまったわ。そもそもあれは芽生には大きすぎるわね。
 
「そうねぇ……あ、そうだわ! ちょっとおばあちゃんと二階に行きましょう」
「うん!」

 二階に上がって左手が宗吾の子供部屋、右手が憲吾の部屋だった。

「ここって、パパのおへや?」
「そうよ。ここに確か」
「なにがあるのかなぁ? ワクワクするよ」
「芽生、お手伝いしてくれるかしら? この箱を出したいの」
「いいよぅ! ヨイショ、ヨイショ」
「よっこらしょ」

 芽生と顔を見合わせて、微笑み合った。

「おばあちゃん、おおきなかぶみたいだね」
「ふふ、そうね、そうね」
 
 押し入れの下にしまった段ボールを、芽生と力を合わせて引きずり出した。

「ねぇねぇ何が入っているの?」
「宗吾の幼稚園の時の思い出よ」
「おもいで?」

 ガムテープを剥がすと、中には幼稚園の制服や帽子、通園バッグ、そしてスモックも。

「びっくりしたー! こんなにちいさいのパパがきていたの?」
「ふふっ、宗吾は幼稚園の時は芽生くらいだったのよ」
「そっか~おとなもこどもだったんだね」
「そうよ……誰もが子供時代を経て大人になったのよ。だから誰もが子供の心を知っているし、まだ心の中に持っているのよ」
「そうなんだね。あ……おべんとうばこ、みーつけた!」

 お目当てはそれ! やっぱり取ってあった!

 楕円形の小さなアルミのお弁当箱には、『たきざわそうご』と刻印があった。そうだわ、お父さんの友人で、葛飾でお弁当箱を作っている職人さんから直接買ったのよね。懐かしい。

「おなまえもほってあってすごいなぁ」
「芽生、今日はこれにいれてあげるわね。それとこれ……芽生が使う? もっと早く思い出せばよかったわ」
「わーうれしい! しょうがっこうはきゅうしょくだけど、これ、おうちで使うね。あと、ピクニックにいくとき使うよ」
「そうしてくれると嬉しいわ」

 玲子さんがいた時はお嫁さんの決めたことを尊重していたけれども、今ならいいのかしらね。

「おばあちゃん、ボク、つめるのやってみたい」
「じゃあ任せるわ」
「おばあちゃんもお弁当箱にいれようよ」
「まぁ、うふふ。そうね」

 子供の世界って、いいわね。
 私だけでは浮かばない発想ばかりポンポン飛び出してくるのね。
 
「からあげさーん、にくじゃがくーん♪」
「まぁなんのお歌?」
「おべんとの歌だよ。ボクがつくったよ」
「ふふ」
「それでは、たまごやきさーんもどうぞ♬」
 
   芽生がたどたどしく、お弁当に詰めるのを見守った。

「あれ、すきまがあいちゃった」
「そうねぇ、じゃあおまけでたまごやきをもう一ついれていいわよ」
「やったー! おかわりできる! あ……」

 芽生が突然心配そうな声を出したので、今度は何かしらと腰をかがめて聞いてあげた。

「どうしたの?」
「おばあちゃんはお兄ちゃんのお弁当に、たまごやきさん、何個いれた?」
「一切れよ? なんで」
「んー、お兄ちゃんたまごやきスキだから、おかわりがあったらよかったかなって。ボクだけごめんね」

 優しい子ね、芽生は。
 
 そうなのね、瑞樹くん何が好みか分からなくて、卵焼きは一切れしか入れなかったけれども、もっと入れてあげたらよかったわね。

「おばあちゃん、たまごやき、つくるのむずかしいの?」
「そんなことないわ」
「じゃあ、おみやげにつくってくれないかなぁ」
「そんなの容易いご用よ!」
「やったー。お兄ちゃん、きっとよろこぶよ」

 芽生は途端にご機嫌になる。

 まだ小さい芽生が、いつも瑞樹くんを喜ばせようとしているのが微笑ましいわ。

「ねぇ、芽生……どうしていつも瑞樹くんのことばかり、考えられるの」
「んっとね。それは、おにいちゃんとってもやさしいから、だいすきなんだ」
  
 優しいと大好きは仲良しね。

 子供の素直な心は、陽だまりのようで心地良いわ。

 私は夕食の支度をする時に、もう一度卵焼きを焼いた。

 厚焼き卵のレシピはこうよ。

 卵4個に、お砂糖とみりんを大さじ1ずつ。あとお醤油を小さじ1、塩もひとつまみね。

 これが私のお気に入りの味よ。

 甘みをつけて香ばしく焼き上げた定番レシピ。


 ****

 ピンポーン

 インターホンが鳴ると、芽生が目を輝かせた。

「おばあちゃん! きっとお兄ちゃんだよ」
「そうね」
 
   二人で玄関を開けると、瑞樹くんが立っていた。

「お帰りなさい、瑞樹」
「あ……あの、ただいま」

 蚊の鳴くような恥ずかしそうな声で、頬を染めていた。

「あの、これ……職場で残った花材で作ったフリージアのブーケです」

 それは卵焼きのような鮮やかな黄色だった。

「まぁ素敵。お入りなさい。お茶を飲んでいって」
「すみ……、あ、あの、ありがとうございます」

 そうよ、それでいいの。
 もっともっと遠慮無くよ。

 それにしても少しだけ元気がないような?

 どうしたのかしら?

「瑞樹くん、お弁当、お口にあったかしら?」
「はい、とても……どれも美味しかったのですが、その……」

 やはり何かありそうね。

「お口にあったのなら、嬉しいわ。もしも、また作って欲しいものがあったら言ってね」
「あっ……卵焼きを……また作って欲しいです」

 そのまま瑞樹くんは、ほろりと涙を流してしまったの。

「お、お兄ちゃん、どうしたの?」
「ご、ごめん。あ。あれ?涙が……」

 瑞樹くんが慌てて目を擦る。

「だれかにいじめられたの?」
「ううん……違うよ。でもちょっと事情があって、お母さんの焼いてくれた卵焼き食べれなくて……残念だったなぁと思ったら……急に」
「まぁ……もう馬鹿ね、瑞樹、泣くことないわ……またいくらでも作ってあげるわ!」

 もうもうもう、なんて可愛い純粋な子なの。

 宗吾が溺愛するのが、分かるわ。

 私だって、あなたにメロメロだもの!
 
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

自分勝手な恋

すずかけあおい
BL
高校の卒業式後に幼馴染の拓斗から告白された。 拓斗への感情が恋愛感情かどうか迷った俺は拓斗を振った。 時が過ぎ、気まぐれで会いに行くと、拓斗には恋人ができていた。 馬鹿な俺は今更自覚する。 拓斗が好きだ、と――。

分厚いメガネ令息の非日常

餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」 「シノ様……素敵!」 おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!! その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。 「ジュリーが一番素敵だよ」 「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」 「……うん。ジュリーの方が…素敵」 ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい 「先輩、私もおかしいと思います」 「だよな!」 これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

白花の檻(はっかのおり)

AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。 その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。 この出会いは祝福か、或いは呪いか。 受け――リュシアン。 祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。 柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。 攻め――アーヴィス。 リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。 黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。 王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。

六日の菖蒲

あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。 落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。 ▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。 ▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず) ▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。 ▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。 ▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。 ▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

処理中です...