幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
814 / 1,865
小学生編

北国のぬくもり 13

しおりを挟む
 待合室で待っていると、看護師さんに呼ばれた。

「おめでとうございます! 無事に産まれましたよ。今、奥様が個室に移りますので、いらして下さい」
「あ、あのっ、みっちゃん……妻は無事ですか」
「はい、母子共に健康です」
「あぁ……よかった」

 待合室から個室に移動すると、ベッドに寝かされたみっちゃんが戻って来た。

「おめでとうございます。お疲れさま、皆さんお待ちですよ」
「ありがとうございます」

 みっちゃんの声……元気そうで良かった。

 俺が出迎えると、にっこりと笑ってくれた。沢山の管に繋がれていて大変そうだが、意識もはっきりしていたので安心した。

「ヒロくん、赤ちゃん、女の子よ。早く名前を考えないとね」
「お、女の子か!」

 声が上擦ってしまった。頭の中がお花畑になってしまいそうだが、まだ早い。

 みっちゃんに伝えたいことがある。

「みっちゃん、産んでくれてありがとう。そして、お疲れさま」
「ヒロくん、とうとうパパになったね」
「みっちゃんはママになったな」
「うん! ふたりで子育ても楽しもうね」

 そこからみっちゃんのご両親も集まり、和やかな時間になった。

 暫くすると看護師さんが、また声をかけてくれた。

「赤ちゃんの処置が終わったので、こちらにお連れしてもいいですか」
「ぜひ! 早く逢いたいわ」

 いよいよだ。看護師さんに抱っこされてやってきたのは、本当に小さな小さな赤ん坊だった。

「さぁ、どうぞ。ちょうど今起きたところですよ」

 まずみっちゃんが抱っこする。あぁすっかり母の顔だな、慈愛に満ちた表情を浮かべている。

「顔が丸くてかわいいね。目を開けているわ。ヒロくんも抱っこして」
「あぁ」

 ふと、潤が生まれた日を思い出した。10歳も年下だったから、鮮明に覚えている。父さんが嬉し泣きをしていた。その頃父さんはもう……病魔に冒されていたので、新しい命の誕生に直面し、心から感謝していた。同時に「この子が大きくなるまで一緒にいられない」と詫びていたのが、とても印象的だった。

 それにしても……この赤ん坊が俺の娘なんだと思うとしみじみと感動した。腕におそるおそる抱けば、それなりにずしっと重く、命の重みを感じた。

「ヒロくん、お母さんと瑞樹くんに知らせた?」
「あ、まだだ! 名前もまだだ!」
「男の子でも女の子でも『優』の漢字をつけようと約束したのは覚えている?」
「もちろんだ」

 優しい人になって欲しい。ふたりのシンプルな願いだった。
 
「何がいいかなぁ~、少し、考えていいか」
「うん、早く呼びたいな」
「分かった」

 母さんは電話口で泣いてくれた。

「広樹がついにお父さんになったのね。今までお父さんの代わりを沢山してくれてありがとう。これからはあなたの赤ちゃんのお父さんを優先させてね」
「母さん……」
「腰が痛くてすぐに会えないのが残念よ。退院を心待ちにしているわ」
「あとで写真を送るよ」

 それから瑞樹に電話をかけた。

「もしもし……あっ、広樹兄さん、もしかして!」

 可憐な声が弾んでいた。

「あぁ、無事に産まれたよ。女の子だ」
「わぁ……兄さん。おめでとう」
「ありがとうな。レストランの方は無事に終わったのか。ひとりで大丈夫だったのか」
「兄さん、兄さん……みっちゃんも赤ちゃんも無事?」

 まったく瑞樹らしいな。自分のことより、いつも周りを大切にして。だから俺は瑞樹を大切にしたくなる。

「あぁ、無事だ。母子共に健康だ」
「良かった、本当に良かった」
「お、おい。瑞樹、泣くなって」
「ごめんなさい、ほっとしたから」
「女の子だよ。瑞樹の姪だ。可愛がってくれよ」
「女の子だったの? 嬉しい。嬉しいよ!」

 電話の向こうの声が明るくなる。

「店を早めに閉めて、会いに来てくれ」
「うん!」
 
 かわいい返事に、つい目尻が下がる。

****

「瑞樹、無事に産まれたのか」
「はい、女の子だそうです」
「そうか、うちの兄さんとますます意気投合だな」
「ですね。じゃあ、そろそろ撤収しましょう」
「おお」

 瑞樹は最終点検をして、レストランオーナーに挨拶をした。

「いやぁ、君……えっと、葉山生花店さんは素晴らしい出来映えだね。うちのレストランがまるで野原のようになったようだよ」
「ナチュラルなお料理の内容に合うように、野外を意識してみました」
「いい腕前だな。これはサービスだよ」

 サービスだと? 俺の瑞樹に何を?

 っと思ったら、瑞樹はピンク色のオーガンジー袋に入ったドラジェを受け取っていた。

「あ、ありがとうございます」
「末永くお幸せに」
「え?」
「あぁこっちの話、気にしないで」

 ドラジェとはアーモンドに白やピンク色の砂糖ペーストをコーティングしたもので、ヨーロッパでは結婚式や誕生日などの祝い菓子として用いられているものだ。 

「宗吾さん、お土産までいただいてしまいました。このお菓子って、ナッツですか」
「アーモンドだよ。今日の結婚式の引き菓子じゃないか」
「成程、でも、どうしてアーモンドなんでしょうね?」
「アーモンドは実を一杯つけるから多産や繁栄を意味しているのさ。まぁ……つまり幸せの象徴だ。さては、俺と瑞樹の関係を見破ったのかな? それともさっきの電話が聞こえたのか」
「あ……」

 車にせっせと持ち帰る資材を積み込んでいた瑞樹の耳が、赤くなる。
 
 入れ替わりに車が到着して、純白のウェディングドレスの女性が降りてきた。

「……綺麗ですね」
「瑞樹の次にな」
「も、もう――何を言って」

 ハンドルを握ろうとする瑞樹の左手薬指に、すっと指輪をつけてやった。

「あ……持って来ていたんですか」
「おまじないさ」
「ゆめの国でも……ここでも驚かされます」
「瑞樹がいい、瑞樹が好きだ、瑞樹を愛している」

 小さな不安はすぐに取り除く。

「俺たちには芽生がいるし、姪っ子も産まれた。充分に……幸せだよな」
「あ……はい」

 指輪を見つめた瑞樹の頬が、どんどん上気していく。

 綺麗な色に染まっていく。
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

処理中です...