幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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小学生編

湘南ハーモニー 36

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「瑞樹、今日は君のために歌うよ」
「そ、宗吾さん」

 宗吾さんにマイクを渡すと真顔で照れ臭い台詞を言われ……思わず俯いてしまった。

 ぼ、僕、恥ずかしいです。

「お兄ちゃんってば、顔をあげて。あのね……おばあちゃんが言っていたよ。お歌って、大切な人のために歌うと、歌っている人もとっても元気になるんだって。パパが元気になるのは、うれしいよね」
「あ、そうか……そうなんだね」
「芽生くんはえらいね。随分深い言葉を知っているんだね」
「えへへ」

 隣の席で、僕たちの話を聞いていた翠さんが、優しく話しかけてくれた。

「僕もね……お経を読む時、大切な人の顔を浮かべるようにしているよ。お経は生きている人のために読むものだからね。そうだ、瑞樹くんは歌の語源を知っている?」
「いいえ」
「歌の語源は『訴《うった》え』という言葉から来ているんだよ」
「訴え? なんだかそれってマイナスのイメージなんですが」

 悲惨な状況の大変さを訴えたり、苦言を訴えたり、どちらかというと、訴えてやる的なニュアンスを思い浮かべてしまう。

「本来の『訴え』ってね、そうではないんだよ。愛や情熱に人間が突き動かされる行為のことなんだよ」
「そうなんですね」
「うん、人間って……胸の中に溢れる想いを吐き出したい生き物なのかもしれないね」

 翠さんの言葉って説法のように深いから、心の奥にしっかり届くよ。

 確かに歌は人を癒やし、元気づけてくれる。

 今を懸命に生きていることの素晴らしさに共感して欲しくなったり、夢を叶えることの素晴らしさを伝えたくなったり、好きで溜まらない気持ちを代弁してくれたり……とにかく、ありったけ熱い想いを訴えたくなる。

 それが歌を歌うという行為の原点だ。

 だから歌った後は……妙に心がスッキリしたり高揚したり、感極まって涙を浮かべることがあるのだな。

「さぁ始めようか。今日は皆、歌の力に心を委ねておくれ」

 翠さんが口を開けば、和やかなカラオケパーティーが一瞬厳かな雰囲気になった。

 あれ……身体がむずむずしてくる。

 僕も無性に歌いたくなってきた。

「宗吾さんの次は、僕が歌ってもいいですか」
「おっ! 積極的になったな」
「はい、宗吾さんの勢いに乗ってみようかと」
「その調子だよ。君なら出来る!」

 歌を歌おう。
 歌は……僕の気持ちを代弁してくれる。
 歌は……ずっと封印していた気持ちを解いてくれる。

「じゃ、歌うよ。みーずき、君に捧げる!」
「ヒュー! 宗吾、やるなぁ!」
「パパぁ~ かっこいい!」

 宗吾さんが選んだ曲は、大昔の昭和の歌謡曲だった。

「へぇ、これは『君はバラよりも美しい』か……なんだか宗吾にぴったりだな」

 アップテンポな曲調に合わせて、宗吾さんが揺れながら明るい声で歌う。

 宗吾さんの歌声を聴くのは、久しぶりなのでドキドキしてきた。

 彼の少し擦れた大らかな歌声は聴いていて心地良い。

 あ……目が合う度に、ドキッとする。

 鮮やかに浮かぶのは、あの瞬間。

 一馬と別れ……公園で泣いた僕を励ましてくれた人と、翌朝幼稚園のバス停前で再会した。

 一歩、また一歩と……彼が明るい笑顔で僕に近づいてきた瞬間を思い出していた。

『やぁ昨日会ったね』
『俺は宗吾だよ。滝沢宗吾《タキザワソウゴ》だ。よろしくな』

 あの日の宗吾さんの笑顔は、今と少しも変わらない。

 裏表のない、明るく大らかな人が宗吾さんだ。

 続いて『しあわせな結末』という曲も歌ってくれた。

 あぁ……歌の力ってすごい!

 歌詞がこんなに響くなんて。

 宗吾さんの心の声になって、次々に届くよ。

 どうしよう! 宗吾さんへの溢れる想いが抑えきれないよ。

 幸せな存在……幸せな日々。

 全部……全部、宗吾さんが、僕に運んでくれた。

 熱い……熱い愛のメッセージに包まれていく。






 

 



 あとがき(不要な方は飛ばして下さい)

 ****

 歌を歌う意味を探ってみました。
 歌は愛の『訴え』……そうなるとカラオケも、奥深いですね。

 宗吾さんが歌った曲については、私の創作HPのブログに掲載しています。
 YouTubeの動画を貼り付けているので、ぜひご覧下さい。声の質が宗吾さんのイメージ通りなのです。

 https://seahope0502.wixsite.com/website-1/post/宗吾さんが歌いそうな曲


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