幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
1,218 / 1,865
小学生編

実りの秋 39

しおりを挟む
「これより、どんぐり保育園の秋の大運動会を始めます!」
「わー パパ、はじまるって」
「よーし、いっくんとパパの力を合わせるぞ」
「うん! 」

 いっくんがニコニコ笑顔で、潤と手をパチンと合わせた。

 見渡せば、どの子も親御さんを眩しそうに見つめて満面の笑みを浮かべている。普段、親御さんと離れている時間が長いこともあり、本当に嬉しそうだ。
 
 まだ始まる前なのに、子供たちの笑顔の花で園庭が満開になっているよ。

「みーくん、保育園の運動会って、親子の触れ合いの時間なんだな。親子で一緒に体を動かすことにより絆を深められるし、子供がこんなに成長したのかと実感出来る大切な機会なんだな」
「そうですね。保育園の運動会は初めてなのでワクワクします」
「そうか、芽生くんは幼稚園だったのか。観に行ったのか」
「はい……最初の時は出張中の宗吾さんの代わりに、次の年は宗吾さんと一緒に行きました」
「そうか、みーくん、がんばったな。偉かったな」

 お父さんの言葉は深くて強くて頼もしくて、大好きだ。

 年中の時は事情を知らない玲子さんと遭遇してしまい辛い思いもしたが、翌年はそれを払拭するような満ち足りた時間だった。

 人生、良いことも悪いこともいろいろだ。

「みーくん……光を埋め尽くすのは闇で、その闇から解放してくれるのは光だ。人はその狭間で生きているんだよな」
「はい、僕もそう思います」
「俺たちはもう怖がらないで、生きていこうな」
「同感です」

 先のことが怖くて引っ込み思案になっていた頃は、毎日が怖かった。明日にはまた誰かが忽然と消えてしまうのではと、恐怖に苛まれていた。
 
 だけど僕はもう恐れない。

 生き生きとした光を見つけたから、どんな時でもそれを目指そう。

「あ、最初は0歳児のハイハイレースですよ」
「おぅ!」

 0歳児がマット1枚分の短い距離をハイハイで進んで、ゴールを目指す競技だった。
  
  パパやママが、マットの向こう側で必死に我が子を呼んでいる。

「おいで! こっちよ」
「がんばれ、がんばれ!」

 親御さんの方が必死になって微笑ましい。

 赤ちゃんは気ままに後ろに下がったり泣いたり、大忙しだ。

 真っ直ぐパパやママの所に行く赤ちゃんの方が少なかったりして!

「賑やかだな。あの子なんて全然違うところにハイハイして行くぞ」
「ですね。あの……僕もあんなでした?」

 ふと興味が湧いて、幼い頃の話をして欲しくて聞いてしまった。
 
「みーくんはママっ子だったから、ママに向かってハイハイもまっしぐらだったよ」
「ええっ、そんなに?」
「感受性が強かったのかな? とにかくママが見えないと大泣きだったよ」
「そうなんですね。あの……パパっ子ではなかったんですか」
「うーん、それがなぁ……1歳までは人見知りが激しくて、大樹さんだと泣く時もあった。多々あった……」
「わぁ、それはなんだか申し訳ないな」

 自分が赤ちゃんの時の話を聞くことは、今生ではないだろうと思っていたのに、こんな風に教えてもらえるのは感激だ。

「大樹さんがよく俺の所に来て嘆いていたよ『熊田ー どうしたら瑞樹を抱っこできるかな?』って」
「そんなに悩ませてしまったんですね」
「まぁ、そんなものさ。だが1歳を過ぎて歩くようになるとニコニコとパパにも抱っこをせがむようになったよ。その……俺にもな」

 お父さんが目を細めて、懐かしがってくれる。

「お父さんたちは背が高いから、視界が開けて楽しかったのでしょうね」
「そうだな。二人のお父さんは力持ちだったから、さっき潤くんがやっていたように、みーくんとなっくんを腕にぶら下げて、遊んだなぁ」
「最強ですね!」

 次は1歳児のにゃんにゃんレースだ。

 1歳児が猫耳のついた帽子としっぽのついたズボンを穿いて登場した。猫になりきってハイハイして進むレースらしい。ネズミの耳をつけた先生が誘導するので、まるでネズミを追いかける猫のように見えて微笑ましい。

「あぁ、これは可愛いですね! 芽生くんにやってもらいたいです」
「ははっ、宗吾くんも喜びそうだな、みーくん逃げ切れよ」
「え?」

 ひとつひとつの競技をお父さんと楽しく会話しながら、見守った。

「あ、次はいっくんですよ」
「なんの種目か」
「『2.3歳児の親子電車でいこう』としおりには書いてあります」
「なんだ、それは?」

 どうやら頑丈な段ボールで出来た箱に子供が入り、親御さんが引っ張る競技のようだ。

 潤がいっくんと沢山公園で練習したと言っていたのは、これだ。去年の運動会でもあったが、菫さんが腰痛で参加出来なかったと聞いていた。

「お父さん、早く写真を撮らないと」
「おぅ、みーくん、もっと近くにいこう」
「はい!」


****

「いっくん、いいか、箱に入ったらじっとしているんだぞ」
「うん!」
「練習した通り、ちゃんと横に掴まるんだぞ」
「うん!」
「パパのスピードは速いからな」
「うん! いっくん、これやってみたかったの」
「おし! 任せておけ」

 顔をあげると、熊田さんと兄さんが笑顔で手を振っていた。

 熊田さんが、俺といっくんを撮影してくれている。

「潤、頑張れ!」
「おぅ!」

 兄さんってば、それじゃ俺の運動会みたいだよ。

 あぁそうか、そんな風に俺はいつも兄さんに応援してもらっていたんだな。

 ありがとう、いつも、来てくれて。

 いつもリレーの時は、声を出して応援してくれたんだな。大人しくて、普段は小さな声しか出さなかった兄さんの声援が、すごく嬉しかった。なのに照れ臭くて、面と向かって礼を言えなかった。

「兄さん、ありがとう! がんばるよ!」

 今からでも間に合うか、今からでも言いたいよ。

「うん! いっくんもがんばれー」
「みーくーん、いってきまーす!」

 さぁ順番が来たぞ。

 いっくんを箱に収めて出発だ!

 この子の父親として、勢いよく出発しよう!  

しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。 オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。

契約満了につき

makase
BL
仮初めの恋人として契約を結んだ二人の、最後の夜。

『定時後の偶然が多すぎる』

こさ
BL
定時後に残業をするたび、 なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。 仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。 必要以上に踏み込まず、距離を保つ人―― それが、彼の上司だった。 ただの偶然。 そう思っていたはずなのに、 声をかけられる回数が増え、 視線が重なる時間が長くなっていく。 「無理はするな」 それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、 彼自身はまだ知らない。 これは、 気づかないふりをする上司と、 勘違いだと思い込もうとする部下が、 少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。 静かで、逃げ場のない溺愛が、 定時後から始まる。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

処理中です...