幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
1,234 / 1,865
小学生編

青い車に乗って・地上編 7

しおりを挟む
「お兄ちゃん、そーくんねちゃったみたいだよ」
「え? 宗吾さんならピンピンしているよ?」
「ちがうよ。そうくん」
「あっ、ごめん、ごめん」

 芽生くんはパパと呼ぶのに、つい。

 僕がとっておきの時にだけ呼ぶ「そうくん」を咄嗟に思い出すなんて、いよいよ重症だな。先週は運動会、今週も外出となかなかゆっくり宗吾さんと触れ合えていないからだ。

 ソファに座っていた想くんは、駿くんの肩にもたれて目を瞑っていた。

 うとうと、うとうと……

 もう夢の中のようだ。

「お兄ちゃん、しーっだよね」
「少しお疲れなんだね。静かにしないとね」
「じゃあ外で遊ぶか。せっかくこんな自然豊かな土地に来たんだ」
「いいの?」
「あぁ、パパも発散したい! 最近身体を動かしていないからな」

 宗吾さんがニヤリと笑って、僕を意味ありげに見る。

 なんだか居たたまれないような恥ずかしい気持ちになってしまうよ。

「ぼ、僕も一緒に発散します」
「ははっ、瑞樹同じだったのか~」

 僕たちは再びログハウス前の庭で、元気に遊んだ。

 今度はキャッチボールだ。

 宗吾さんも芽生くんも基本的に体力が有り余っているタイプで、僕も北国育ちで寒さには強いからまだまだいけると思ったが、僕だけ途中でバテてしまった。

 うーん、おそるべし……宗吾さんと芽生くん。

 それでも時計を見ると、小一時間は遊んでいた。

 ログハウスに戻ると、ブランケットを被って眠っていた想くんが目覚め、帰りの運転をどうするか話し合っていた。

 それを聞いた僕は、ある欲望を抱いてしまった。

 ただ……こんな感情は殆ど使ったことながないので、言い出すまで時間がかかってしまった。

「あの、よかったら帰りは僕が運転しようか」
「えっ?」

  唐突な申し出に、想くんと駿君が驚いて顔を見合わせた。

 あぁ違うな、そうじゃない。

 僕は心のままに、ありのままの気持ちを伝えることにした。
 
「運転をしてみたいというのが、本音なんだ」

 行きに想くんがお母さんと楽しそうに喋りながら運転しているのを見続けて、憧れてしまったんだ。

 仮初めでいい。

 少しだけでいいから……

 僕にも青い車を運転させてくれないかな?

 君のお母さんを助手席に乗せて、この世を走ってみたいんだ。

 あぁ……どうしよう?

 今、僕はどんな顔をしている?

 微笑みには、きっと隠しきれない寂しさが宿っているだろう。

 恥ずかしくなり、そのまま目を伏せてしまった。

 それでも隠す切れないよ。

 思慕の気持ちが溢れてきてしまう。

 故郷が恋しくなってしまう。

 僕の様子をじっと見つめていた想くんが、控えめに口を開いた。
 
「瑞樹くんは、もしかして青い車に何か深い思い出が?」

 想くんの瞳は静かな湖のように澄んでいて、僕の返事を全て受け入れてくれる気がした。

「……想くん、僕の夢を叶える手伝いをしてもらないかな?」
 
 こんな風に頼むのも初めてだ。

 こんなことを頼める友だちは初めてだ。

 想くんは僕に寄り添ってくれた。

「僕のお母さんとドライブをして欲しいな」
「いいの? その……ごめん。君の大切なお母さんなのに」
「……僕はまだ眠気が取れなくて、よかったら任せてもいいかな?」
「あ……ありがとう」

 そんな経緯で、僕は帰りの運転を任された。

 想くんは芽生くんの隣に座り、想くんのお母さんは僕の横に。

 あぁ、お母さんを助手席に乗せている。

 これは夢にまで見た光景だ。

「瑞樹くん、運転よろしくね」
「はい」

 お母さんがシートベルトをしたのを確認し、アクセルを踏み込む。
 
 今から、僕だけでは叶えられない夢に踏み込んでいく。

「瑞樹くんのお母さんも、きっとこんな日を楽しみにしていたでしょうね」
「はい、小さい頃、母と約束したんです。いつか大人になったら青い車を買って乗せてあげるねって」
「まぁ、そうだったのね。あぁ……痛い程お母さんの気持ちが分かるわ。子育て中の母なら、誰でも息子が逞しく成長した姿を夢に抱くものよ」
「そうでしょうか」
「ええ、そうよ。今日はきっと天国から見守ってくれているのね」
「そんな気がします。あの……実は僕……歳を重ねたお母さんを想像出来なかったのですが、今日なんとなくイメージ出来て嬉しかったです」
「ふふ、私に重ねてくれていいのよ」
「すみません」

 あまりに優し過ぎて泣けてしまうよ。

 想くんと出逢って夢を叶えることが出来た。

「私でも、役に立つのね」
「僕に母の夢をみさせてくれました。もう叶わないと思っていたのに」

 想くんのお母さんの言葉は慈悲深く、心にすっと入ってくる。

 まるで……まるで……お母さんみたいに。

「瑞樹くん、人と人って、もたれ合って生きているのよね。あなたは宗吾さんと芽生くんに囲まれて、とても幸せなのね」
「はい、僕は二人に支えられています」
「いいわね。私と想もあなたに勇気と元気をもらったわ」
「僕から……?」
「えぇ、あなたは生き生きしているわ。毎日を丁寧に大切に生きているのね」
「あ……ありがとうございます」

 想くんのお母さんからの言葉を噛みしめた。

 まるで天国の母からのメッセージのように。

「天国のお母さんも今のあなたを見て、安心していると思うわ」
「そうでしょうか……そうだといいな」

 
 瑞樹、大人になるまで傍にいられなくてごめんね。

 でもいつも見守っているわ。

 記憶の中でもあなたを抱きしめて、空からも抱きしめて。

 青い車に乗せてくれてありがとう。

 お友達も、お友達のご家族も大切にね。

「お母さん……」
「なぁに?」
「あ、すみません……僕っ」
「いいのよ。そう呼んでも」
「お母さん、ありがとう」


 青い車はこの世を走っていく。

 僕の人生と共に。

 いつか……いつか……天国のお母さんにまた逢う日まで。

 
                 
              青い車に乗って・地上編 了






あとがき

****

『今も初恋、この先も初恋』とのクロスオーバーでした。
⇩(こちらとリンクしています)
https://estar.jp/novels/25931194/viewer?page=125

次回からはいよいよクリスマスの物語になります。
たぶん年内書いていそうです🎅🎄

  
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

処理中です...