幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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小学生編

白薔薇の祝福 18

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「今日はありがとうございました」

 僕は雪也さんが持たせてくれた白薔薇の小さな花束を一人一人に手渡して、お礼を言った。

 宗吾さんのお母さんと憲吾さん、美智さんと彩芽ちゃん。大沼のお父さんとお母さん。そして宗吾さんと芽生くん。

 残りはこのままドライフラワーにしよう。

 広樹兄さんと潤にも感謝の気持ちを込めて贈りたい。

 遠く離れていても、時間を合わせ、モニター越しに参加してくれた気持ちが嬉しかった。
 
 何度もお辞儀をし続けていると、お母さんが僕の肩にそっと手を置いた。

「瑞樹、あのね、親だったら息子の誕生日をお祝いしたくなるのは自然なことよ。だからもうお礼は沢山いただいたから大丈夫よ」
「そうだ、そうだ。兄だったら可愛い弟の誕生日は祝いたくなるものさ」
 
 お母さんと憲吾さんが声を揃えて断言してくれる。

 芽生くんも真似して続く。

「大好きなお兄ちゃんのおたんじょうびだもん! えっと、とーぜんだよ」

 周囲の人たちがあまりに自然に僕の誕生日を受け止めているのが伝わって、また一つ心が温まった。

「明日から頑張ってね。私たちは5日に皆で遊びに行くわ」
「頑張れ! そうそう明日は芽生と野球観戦に行ってくるよ」
「宜しくお願いします」

 GWの間中ずっと出社になってしまった僕達を、周りががっちりフォローしてくれる。それが心強い。

 大沼のお父さんとお母さんも、僕の傍にやって来た。

「瑞樹、俺たちは今日はホテルに泊まって、明日『白金薔薇フェスティバル』に顔を出すよ」
「はい。お父さん、お母さん、遠くから来てくれてありがとう。嬉しかったです」
「みーずき、お母さん、来て正解だったわ。幸せいっぱいの息子の顔が拝めて嬉しかった」

 お母さんの心がストンと届く。だから僕も素直に気持ちを伝えよう。

「うん、お母さんに直接見てもらえて良かったよ」
 
 お母さんと函館で暮らしている間、ずっと誕生日に心から笑えなかった僕だから。

「ほっとしたわ。あなたが今幸せなのはよーく分かっていたけれども、やっぱりこの目で見られてよかったわ」

 お母さんが僕の手を優しく握り、ゆっくりゆっくり労るようにマッサージしてくれる。

「いい? くれぐれも無理し過ぎないで」
「はい」
「疲れた時は疲れたと言うのよ」
「はい!」



 


 その晩、僕らは予定通り宗吾さんの実家に泊まらせてもらった。

 一日中身体を動かし、夜は誕生日会で感激し、満ち足りていた。

 だから横になると、誰よりも早く眠ってしまった。
 
 幸せな気持ちはよい睡眠を招く。
 
 さよなら、20代の僕。
 よろしく、30代の僕。

 30代は宗吾さん一色に染まろう。

 僕はもう宗吾さんだけだ。

 生涯の人なんだ。

 そう思った途端、ふと遠い場所にいる一馬を思い出した。

 一馬はもう30歳になったよな。

 アイツは4月生まれだった。

……

『今日は瑞樹の誕生日だろ? ケーキでも買うか』
『えっ、どうして知って?』
『ごめん、見えてしまった。バイトの履歴書を一緒に書いただろ?』
『そっか……でも……ごめん、僕の誕生日は祝わないで欲しい』
『……そ、そうか……分かった』

 アイツはいつも「どうして?」とは聞かなかった。

 だから甘えて、寒さをしのぐように抱かれてしまった。

 ごめんな、一馬。
   
 僕だけ心を見せなくて、狡かったよな。

 11歳の誕生日、本当は天国に逝こうと思って家を飛び出した。

 もう耐えられなかった。

 でも広樹兄さんがこの世につなぎ止めてくれた。

 嬉しかった。

 もう誰も僕を必要としてないと思っていたから。

 お母さんがあかぎれだらけの手で、朝早くから夜まで立ちっぱなしなのも、潤が何かにつけて疎むのも、全部僕が生きているせいだと思い込んでしまった。

 あの日から、坦々と生きてきたが、誕生日を心から嬉しいとは思えなかった。だから一馬にもあんな酷いことを言ってしまった。

 ごめんな。

 一馬、僕も30歳になったよ。

 20歳の誕生日を一緒に過ごしてくれてありがとう。

 今更だけど、お礼を言いたい。

 別れてしまったが、僕を生かしてくれた人だ。

 そして宗吾さんと出会うきっかけをくれた人だ。

『瑞樹、30歳おめでとう。元気にやっているか。俺は仕事に家庭に大忙しだ。瑞樹もだろうな。お互い……あれから幸せになれてよかった! 宗吾さんと芽生くんと幸せになれ! もっともっと幸せになれよ』

 夢の中で一馬からのエールが届き、目覚めた。

 切なくも穏やかな気持ちになっていた。

 一瞬自分がどこにいるのか分からなかったが、すぐに宗吾さんの広い背中が見えて安堵した。

 僕は宗吾さんの背中にくっついて、目を閉じた。

「宗吾さん、大好きです……今日から同じ30代です」

 小声で囁くと、宗吾さんがすぐに振り向いてくれた。

「瑞樹、おはよう。いい夢を見たか」
「あ……実は……」

 いちいち一馬のことは言わなくてもいいのでは? でも隠し事はしたくない。

「実は……アイツの夢を見たんです」
「ン? あぁ、一馬くんか」
「あ、はい」

 名前を出すのは悪いと思ったのに、そんな遠慮は宗吾さんが軽く飛んでしまう。

「遠慮するなって! 俺も実際に彼に会って、二人の立場を理解している。それに瑞樹だって玲子と向き合ってくれた。だから俺も君の過去を大切にしたいよ」
「あ……ありがとうございます」

 宗吾さんの寛大な心は、まるで大きな港のようだ。

 僕の心の小舟は荒波に揉まれることなく着岸できる。

「あの……僕の30代は宗吾さんだけです」
「40代は?」
「もちろん宗吾さんだけです」
「50代も?」
「はい、もうずっと一緒です」
「瑞樹~ サンキュ! ずっと一緒にいよう。俺たち」

 約束のくちづけを交わし、笑顔で今日をスタート!

「新鮮な気分です」
「30代も悪くないぞ~」
「はい! さぁ支度をしましょう」
「今日も瑞樹にとって良い1日となるよう祈ってる」
「僕もです。宗吾さんにとって小さな幸せな見つかる日でありますように」

 お互いがお互いを想い合う関係。

 この先もずっと――



 


  
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