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小学生編
秋色日和 31
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『保護者対抗借り人競争』は、大盛況だった。
うさぎ飛び対カエル跳びの一騎打ちになり、大声援の中、俺も瑞樹も汗びっしょりになってゴールした。
終わった後の爽快感は半端なかった。
……
「やった! 宗吾さん2位ですよ」
「おぉ、頑張ったな!」
「はい!」
……
惜しくも蛙跳びの兄さんには及ばなかったが、勝ち負けよりも一生懸命頑張ったことの方が大事だと、瑞樹の清々しい笑顔を見て心から思えた。
昔の俺は『勝たないと意味がない』と考え、受験は一流大学に合格、就職は第一志望の人気企業に内定がゴールだと思っていた。
恥ずかしいよな。
そこはゴールじゃなくてスタートなのに、いい気になって……見かけは一流を装い、その後はいい加減に流していた。
大学ではサークル活動に夢中で授業はそっちのけ、会社でも浮ついていた。それでもそれなりに出世出来たので調子に乗っていた。
ある日……玲子からいきなり離婚されて目が覚めた。
俺が築いてきたものは『砂上の楼閣』で、見かけは立派だが基礎がしっかりしていないため崩れやすく不安定で移ろいやすいものだった。
それからだ。
毛嫌いしていた兄の生き方に興味を持てたのは。
兄は、勢いで動く俺とは違い、用意周到で生真面目、コツコツ努力してきた人。だが堅物過ぎて嫁さんとの仲は、俺と同じく良好とは言えないようだった。
どっちも何かが足りないのか。
なんて、思っていたのは遠い昔になったな。
俺たちは丸くなった。
相手に寄り添えるようになった。
心が軽くなった。
お互いの違いを認め合えるようになった。
折りたたんだハンカチをジャージのポケットから取り出して、汗を拭う兄さんに声を掛けた。
「兄さん、一位おめでとう!」
これは昔の俺だったら絶対に言えなかったことだ。
「宗吾がいたから頑張れたんだ」
これは絶対に言ってもらえなかった台詞だ。
俺たち兄弟、悪くないな。
「兄さんと一緒にレースに出るの、初めてだったな」
「あぁ、そうだな」
5歳の年の差は、もう感じない。
お互いに自然体で、気心が知れているから。
心、ころころ。
軽快に動いている。
一緒に笑おう!
一緒に泣こう!
一緒に人生を楽しもう!
せっかく兄弟として生まれたのだから、この縁を生かそう!
退場門では美智さんとあーちゃんが待っていてくれた。
さぁ次は昼休憩、いよいよ弁当タイムだ。
「俺が芽生を呼んでくるよ」
「はい、じゃあ僕はお弁当を並べておきます」
「あぁ、任せるよ」
児童席にいる芽生に声をかけると、「パパたちのレース、すごくよかったよ。勝っても負けても、いっしょうけんめいが一番なんだね」と興奮した様子で教えてくれた。
参ったな。
俺がようやく気づいたことを、芽生はもう理解しているのか。
きっとそれは瑞樹が育ててくれているからだ。
彼の優しさは、本当に心地良い。
いつだって相手のことを考え、寄り添ってくれる。
「芽生はいいこと言うな」
「え? そうかな。えへへ、だって、みんなだいすきなんだもん!」
「ありがとうな」
「パパ、あのね、大好きだよ!」
「お、おう!」
「えへへ、ちょっとてれちゃうなぁ」
「パパもだ」
『お兄ちゃん、大好き』という台詞は今でも頻繁に聞くが、面と向かって『パパ、好き』と言われるのはいつぶりか。やっぱり嬉しいもんだな。
「あのね、いっくんがいつもジュンくんのことを『パパ、すき、パパ、すき』って言ってるでしょう。気づいたんだ……ボクにはずっとパパがいるけど、それってあたりまえのことじゃなかったんだって」
「芽生……俺こそ、芽生が大好きだ」
「パパ、ありがとう。ボクたち、お兄ちゃんが大好き同士だもんね」
「そうだ、一緒に瑞樹を守っていこうな」
「うん! 約束するよ」
「あぁ」
息子との心強い約束をした。
空は爽やかな秋晴れで、心には清々しい風が吹いていく。
「芽生くん、こっちだよ」
「あ、お兄ちゃん!」
芽生が瑞樹を見つけて走り出すと、瑞樹の後ろからあーちゃんが飛び出してきた。両手を広げて突進してくる。
「めーくーん、めーくん」
「わ! あーちゃん」
なんと、あーちゃんが芽生に抱きついた。
「めーくん~ しゅきー」
兄さんが「なぬっ?」と顔をして、美智さんはギョッとして、芽生は恥ずかしそうに顔を赤くした。
瑞樹は微笑んで、俺はくくっと肩を揺らした。
母さんは全てを包みような笑みを称えていた。
「ははは、あーちゃんはお目が高いな」
「あーちゃん、そーくんもしゅき」
「おぉ! あーちゃん、かわいいな」
抱っこしてやると、男の子とは違ってふんわり柔らかくてびっくりした。
「に、兄さん! 女の子って男の子と全然違うんだな」
「そうだな。コホン、彩芽おいで」
「パパぁ~ パパ、だーいすき」
おぉ、今度は『大』がついた!
兄さんは顔には出さないが超嬉しそうだ。
「いただきまーす」
「いっぱい食べてね」
「うん!」
レジャーシートに輪になって座り、皆、一斉におにぎりを頬張った。
運動会の弁当作りもだいぶ慣れて、瑞樹と手分けして去年よりずっと効率よく作れた。
お弁当の中見はおにぎりと卵焼きと唐揚げとウインナー。
やっぱり定番が一番だ。
なんかいいな。
こんなありふれたひとときが愛おしいと思えるのは、今が幸せだから。
「瑞樹、美味しくて幸せだな!」
「はい。宗吾さん、幸せだから、とても美味しく感じるのですね」
好きな人を大事にし、好きな人から大事にされている。
そうすることで恋人も家族も、それぞれが幸せな存在になっていく。
それが今の俺たちだ。
うさぎ飛び対カエル跳びの一騎打ちになり、大声援の中、俺も瑞樹も汗びっしょりになってゴールした。
終わった後の爽快感は半端なかった。
……
「やった! 宗吾さん2位ですよ」
「おぉ、頑張ったな!」
「はい!」
……
惜しくも蛙跳びの兄さんには及ばなかったが、勝ち負けよりも一生懸命頑張ったことの方が大事だと、瑞樹の清々しい笑顔を見て心から思えた。
昔の俺は『勝たないと意味がない』と考え、受験は一流大学に合格、就職は第一志望の人気企業に内定がゴールだと思っていた。
恥ずかしいよな。
そこはゴールじゃなくてスタートなのに、いい気になって……見かけは一流を装い、その後はいい加減に流していた。
大学ではサークル活動に夢中で授業はそっちのけ、会社でも浮ついていた。それでもそれなりに出世出来たので調子に乗っていた。
ある日……玲子からいきなり離婚されて目が覚めた。
俺が築いてきたものは『砂上の楼閣』で、見かけは立派だが基礎がしっかりしていないため崩れやすく不安定で移ろいやすいものだった。
それからだ。
毛嫌いしていた兄の生き方に興味を持てたのは。
兄は、勢いで動く俺とは違い、用意周到で生真面目、コツコツ努力してきた人。だが堅物過ぎて嫁さんとの仲は、俺と同じく良好とは言えないようだった。
どっちも何かが足りないのか。
なんて、思っていたのは遠い昔になったな。
俺たちは丸くなった。
相手に寄り添えるようになった。
心が軽くなった。
お互いの違いを認め合えるようになった。
折りたたんだハンカチをジャージのポケットから取り出して、汗を拭う兄さんに声を掛けた。
「兄さん、一位おめでとう!」
これは昔の俺だったら絶対に言えなかったことだ。
「宗吾がいたから頑張れたんだ」
これは絶対に言ってもらえなかった台詞だ。
俺たち兄弟、悪くないな。
「兄さんと一緒にレースに出るの、初めてだったな」
「あぁ、そうだな」
5歳の年の差は、もう感じない。
お互いに自然体で、気心が知れているから。
心、ころころ。
軽快に動いている。
一緒に笑おう!
一緒に泣こう!
一緒に人生を楽しもう!
せっかく兄弟として生まれたのだから、この縁を生かそう!
退場門では美智さんとあーちゃんが待っていてくれた。
さぁ次は昼休憩、いよいよ弁当タイムだ。
「俺が芽生を呼んでくるよ」
「はい、じゃあ僕はお弁当を並べておきます」
「あぁ、任せるよ」
児童席にいる芽生に声をかけると、「パパたちのレース、すごくよかったよ。勝っても負けても、いっしょうけんめいが一番なんだね」と興奮した様子で教えてくれた。
参ったな。
俺がようやく気づいたことを、芽生はもう理解しているのか。
きっとそれは瑞樹が育ててくれているからだ。
彼の優しさは、本当に心地良い。
いつだって相手のことを考え、寄り添ってくれる。
「芽生はいいこと言うな」
「え? そうかな。えへへ、だって、みんなだいすきなんだもん!」
「ありがとうな」
「パパ、あのね、大好きだよ!」
「お、おう!」
「えへへ、ちょっとてれちゃうなぁ」
「パパもだ」
『お兄ちゃん、大好き』という台詞は今でも頻繁に聞くが、面と向かって『パパ、好き』と言われるのはいつぶりか。やっぱり嬉しいもんだな。
「あのね、いっくんがいつもジュンくんのことを『パパ、すき、パパ、すき』って言ってるでしょう。気づいたんだ……ボクにはずっとパパがいるけど、それってあたりまえのことじゃなかったんだって」
「芽生……俺こそ、芽生が大好きだ」
「パパ、ありがとう。ボクたち、お兄ちゃんが大好き同士だもんね」
「そうだ、一緒に瑞樹を守っていこうな」
「うん! 約束するよ」
「あぁ」
息子との心強い約束をした。
空は爽やかな秋晴れで、心には清々しい風が吹いていく。
「芽生くん、こっちだよ」
「あ、お兄ちゃん!」
芽生が瑞樹を見つけて走り出すと、瑞樹の後ろからあーちゃんが飛び出してきた。両手を広げて突進してくる。
「めーくーん、めーくん」
「わ! あーちゃん」
なんと、あーちゃんが芽生に抱きついた。
「めーくん~ しゅきー」
兄さんが「なぬっ?」と顔をして、美智さんはギョッとして、芽生は恥ずかしそうに顔を赤くした。
瑞樹は微笑んで、俺はくくっと肩を揺らした。
母さんは全てを包みような笑みを称えていた。
「ははは、あーちゃんはお目が高いな」
「あーちゃん、そーくんもしゅき」
「おぉ! あーちゃん、かわいいな」
抱っこしてやると、男の子とは違ってふんわり柔らかくてびっくりした。
「に、兄さん! 女の子って男の子と全然違うんだな」
「そうだな。コホン、彩芽おいで」
「パパぁ~ パパ、だーいすき」
おぉ、今度は『大』がついた!
兄さんは顔には出さないが超嬉しそうだ。
「いただきまーす」
「いっぱい食べてね」
「うん!」
レジャーシートに輪になって座り、皆、一斉におにぎりを頬張った。
運動会の弁当作りもだいぶ慣れて、瑞樹と手分けして去年よりずっと効率よく作れた。
お弁当の中見はおにぎりと卵焼きと唐揚げとウインナー。
やっぱり定番が一番だ。
なんかいいな。
こんなありふれたひとときが愛おしいと思えるのは、今が幸せだから。
「瑞樹、美味しくて幸せだな!」
「はい。宗吾さん、幸せだから、とても美味しく感じるのですね」
好きな人を大事にし、好きな人から大事にされている。
そうすることで恋人も家族も、それぞれが幸せな存在になっていく。
それが今の俺たちだ。
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