幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
1,653 / 1,865
小学生編

冬から春へ 45

しおりを挟む
「芽生、じゃーな」
「うん、バイバイ」

 ランドセルを背負ったお友達がまた一人、二人と帰って行く。

 放課後スクールでは夕方5時のチャイムで帰るお友達が半分以上いるけど、ボクは夜の7時まで帰れない。

 その代わり、お兄ちゃんがお迎えに来てくれるよ。

 でも……

 そっと窓に手をあてて背伸びをした。

 今日はもう少し早く帰りたいな。

 だって、お家にいっくんがいるんだよ。

 いっくん、ボクの弟みたいないっくん。

 早く会いたいな。
 
 早く一緒に遊びたいな。

 あーあ、まだ2時間もあるなんて、長いよ。

 早くお兄ちゃん、お迎えに来てくれないかな。

 なんだか、今すぐお兄ちゃんに会いたくなっちゃった。
 
 優しくて綺麗なお兄ちゃんに。

 物寂しくなって、放課後スクールの教室の片隅で膝を抱えて待っていると、先生が呼びに来たよ。

「滝沢芽生くんは、どこにいますか」

 先生は何故かボクの前を素通りしてしまった。

 えっと……
 
 あ、そうか。

 いつもの優しい先生は赤ちゃんをうむためにお休みに入ってしまったんだ。その代わりに最近やってきた新しい先生だから、まだみんなの顔を覚えていないんだね。

「先生、ボクはここだよ」
「あぁ、君が滝沢くんだったのね。今、お兄さんから電話があって、今日はお迎えに来られないって」
「えっ?」

 ショックだった。

 今、お兄ちゃんに会いたいと願ったばかりなのに……

 パパ、間に合うかな?

 もしかしてお兄ちゃんにまた何かかあったんじゃないよね。

 心配で胸がドキドキしてきたよ。

「じゃあ……誰も来ないの?」
「いや、お兄さんの代わりにおじさんが来てくれるそうよ」
「おじさん?」

 先生がメモ帳を確認して……

「滝沢憲吾さんという人らしいけど、芽生くんは知ってる?」

 わぁ! 憲吾おじさんが迎えに来てくれるの?

 意外でびっくりしたけど、すごく嬉しいよ。

「もちろん知ってるよ。大好きなおじさんだよ」
「良かったわね。滝沢ということはお父さんのご兄弟かしら?」
「そう! パパのお兄さん」
「そっか、よかったわ。実は先生、少し心配だったの」
「え?」

 先生が小声になった。

「いつも芽生くんをお迎えに来る人って、芽生くんの本当のお兄さんじゃないのよね。苗字も違うし……その……大丈夫なのかなって」
「大丈夫って」
「あのね、何か変なことされたりしてない?」
「変なこと?」

 先生が小声になった。

「お父さんが見ていない所で叩かれたり……変な所……」
 
 その言葉に、胸の奥がギュッとしめつけられたよ。
 
 どうしてそんなひどいこと言うの?

 お兄ちゃんはボクを宝物のようにふんわり抱きしめて、優しく話を聞いてくれる人なのに。

「お兄ちゃんは大事な家族だよ? ボクたちを大事にしてくれる人で、ボクもパパもお兄ちゃんのこと大好きだよ!」

 怒りにまかせて叫んでしまった。

「え? そっか、もしかして……そうなのね。まぁ……今はいろいろあるものね」

 含んだような言い方をされて、今度は悲しくなったよ。

 お兄ちゃんは何も悪いことしてないのに、そんな言い方するなんて。

「あ、芽生くん、ごめんねぇ。今、先生が言ったことは忘れてね」
「……」

 そんな簡単に忘れられるようなことじゃないよ。

 ボクの大事な人を、そんな風に言うなんて……

 プンプンしていると、憲吾おじさんが教室まで来てくれた。

「どうした? 芽生」
「おじさん!」
「怒ってるのか? ごめんな。瑞樹が来たがっていたのに、おじさんで」
「ううん、違うよ。嬉しいよ」
「実は瑞樹は仕事が忙しく大荷物を持って疲れていたから、ピンチヒッターを買って出たんだ」

 おじさんはボクに変なかくし事をしない。

 だから好きなんだ。

 ボクを一人前に扱ってくれる人だ。

「おじさん、ありがとう! 元気が出たよ」

 なんだかビシッとカッコいいおじさんが来てくれただけで、さっきの嫌な気持ちが吹っ飛んだ。

 帰り道、おじさんと手をつないで歩いた。

「おじさんって、カッコいいね」
「そうか?」
「うん、ボク、今日ちょっといやな気分になって……怒っていたの」
「どうした?」
「先生が、お兄ちゃんのことを……その……」

 上手く説明出来ずにもやもやしていると、おじさんが察してくれた。

「ん? もしかして、本当のお兄ちゃんではないのに、大丈夫かって言われたのか」

 びっくりした。

 まだ何も話していないのに、どうして分かるの?

「あの先生、私のことも胡散臭そうに上から下まで探るように見ていたからな。芽生……残念だが、まだまだ世の中は難しい。だが少しずつ誰もが過ごしやすい生きやすい世の中になっていくから、安心していい。時代がようやく追いついてきたんだよ」
「そうなんだ。おじさん、あのね、でも……世の中ってどうやって変えて行くの?」
「それは法律を時代に合ったものに変えていくんだよ。もっと柔軟に……ひとりひとりに寄り添えるものに」

『法律』ってすごいんだね。

 ボクも、将来そのお手伝いしていきたいな。

「おじさん、ボク、がんばる」
「芽生、周りの目なんて気にしないで、芽生が心から大切にしたい人は、大切にしていこう。おじさんも一緒にがんばるぞ」
「うん!」
「だから……芽生はそんなに悩まなくていい。おじさんがついているしな」

 おじさんの言うことは、すっと頭に入ってきたよ。

 今のボクに出来ることは、いつも通りでいることだね。

 誰がなんと言おうと、お兄ちゃんはボクの大事なお兄ちゃん。

 パパの大事な人なんだから。

 そう思うと、早くお兄ちゃんに会いたくなったよ。

「おじさん、早く帰ろう」
「よし、元気が出てきたな。そうだ、何か芽生の家に差し入れをしてやろう」
「え?」
「夕食にはまだ時間があるし、今日は寒くて冷えただろう」

 おじさんがニッと笑って、コンビニで肉まんを5個買ってくれた。

「こんな日のおやつは温かい物がいい」
「おじさんもいっしょに食べようよ。だから6個がいい」
「そうか、私もメンバーにいれてくれるのか」
「当たり前だよ。ボクの大好きなおじさんだよ」

 ほかほかの肉まんを抱えると、もうさっきの怒りも悲しみも消えてしまったよ。

 まだ小さなボクだけど、きっとこの先こんなことは沢山あると思った。
 
 だからいちいち怒っていたら、時間がもったいないんだね。

 世の中はまだまだ変わっていくのだから。

 おじさんの言葉を信じるよ。

 怒っている時間より、笑っている時間が多い方がいいよ。

 大好きな人と笑い合えるのって、しあわせって言うんだよね。

「お兄ちゃん、ただいまー!」
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

処理中です...