幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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小学生編

母の日特別SS 『ありがとうを束ねて』

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 前置き

 今日は母の日なので、母の日SSを置かせてくださいね。
 いつも脱線ばかりで申し訳ないのですが、旬の物語を紡ぎたくて。


****



 母の日の朝。

 僕は宗吾さんの腕をすり抜けて、そっと自分の部屋に向かった。

 窓からこぼれる光は淡く、空気はまだ眠たげだ。

「よし、取りかかろう」

 花材は昨夜のうちに準備しておいた。

 僕は今から二つの花束を作る。

 母の日のための花束を――

 あっ、正確には三つだ。

 大沼の母には、今日届くように発送済みだから。


 一つ目は亡くなった実母のためのブーケ。

 迷った末に、ライラックの花をセレクトしてみた。

 白いライラックの小枝を手に取り、静かに見つめると、懐かしい情景が脳裏に浮かんできた。

「お母さん、あのライラックの木のこと、覚えてる?」

 大沼の実家の玄関の脇に、お母さんが植えたライラックの木があった。

 ライラックは北海道の初夏を代表する花のひとつで、冷涼な気候を好むため、北海道のあちこちで栽培されていた。幹は細くて頼りないが、枝先には淡い色の花がこぼれるように咲いており、陽の光に透けた花びらは絹のようにやわらかで繊細だ。

 少し甘くて少し懐かしい。目を閉じれば母に優しく抱きしめられたような香りの花だ。
 
 母は「ライラックはお母さんのお友達なのよ」と言い、春になるとよく花を見上げていたが、僕には甘い香りのする花が、母のように見えた。

「お母さんの友達じゃなくて、お母さんみたいだよ」

 そう言うと母はふんわりと微笑んで、僕を優しく抱きしめてくれた。

 幼い声、ぬくもり、笑い声。

 あのライラックの下で見上げた空の色。

 懐かしい思い出が、どんどんこみ上げてくる。

「白いライラックの花言葉は、青春の思い出と無垢だ」

 十歳の時、突然消えてしまった母。

 あの頃の僕は、何も知らない子供だった。

 今も心の奥に灯っているのは、あの頃の記憶。

 それは、もう戻らない母との日々。

 けれども、永遠に色あせることのない母の愛。

 ライラックの花に、宗吾さんのお母さん用に用意した淡いピンクのカーネーションも少し加えることにした。

 カーネーションの花言葉は「愛」と「感謝」だ。

「お母さん、いつも見守ってくれてありがとう。僕はちゃんと生きてるよ」

 心の中で、そっと呟いた。

 宗吾さんのこと、芽生くんのこと、僕の仕事や暮らしのこと――

 話したいことが、山ほどあるよ。

 もう一度だけ会いたいという願いを込めて。
 もう二度と会えないと寂しさを込めて、作ったブーケだよ。

 花束はリビングの真ん中、よく陽が差す場所に飾りたいな。

 
****

 ブーケを作り終えて棚の上に飾ろうとした時、リビングから足音が近づいてきた。

「瑞樹、おはよう! 何してるんだ?」
 
 宗吾さんの声は、いつも明るく優しい。

「あ、あの、亡き母に母の日のブーケを作ってあげたくて、その、こんなことをするの初めてなんですが……」

 宗吾さんは少し驚いたように歩み寄り、僕の手元に視線を落とした。

「この花はカーネーションだよな、で、こっちは……うーん」
「これはライラックです、僕の故郷の花です」
「そうか、お母さんの好き花だったんだな。君を産んだお母さんはライラックのような人だったんだろうな」
「あっ……」
「いいな、すごく素敵だ」

 宗吾さんの手が、僕の肩をそっと包み込む。

 手のひらの温もりが、じんわりと心にしみる。

 しばらくの沈黙の後、芽生くんの元気な声が聞こえてきた。

「おはよう、お兄ちゃん!」

 芽生くんが僕が作った花束に気づいたようで、興味津々で近づいてきた。

「わぁ、きれい! どうして花束を作っているの?」
「えっと……母の日だからだよ」
「あっ、そうだった!」

 芽生くんは少し考えてから、僕を見上げて言った。

「この白いお花はなんていう名前なの?」
「ライラックだよ」
「なんだかお兄ちゃんのお友達みたいだね」
「えっ」
「うん、お兄ちゃんと仲良しなんでしょ?」

 ライラックが友達?
 
 母も同じ台詞を言っていた。

 ふと昔の記憶が浮かび上がってきた。

 あの時、お母さんと一緒にライラックの木を見上げながら話したことを。


「お母さんの友達じゃなくて、お母さんみたいだよ」と言うと、お母さんは優しく微笑んで、僕を抱きしめてくれた。

「じゃあお母さんを思い出したい時は、この花の香りを嗅いでね」

 母が残してくれた思い出の花が、僕を包み込んでくれる。

「お母さん……」




「瑞樹?」

 宗吾さんの声が、僕を現実に引き戻してくれた。

「大丈夫か?」

 僕は目を細めて、花の香りを一度深く嗅いだ。

 あぁ、確かにお母さんの香りだ。

「ありがとうございます。今、亡き母をとても近くに感じていました」
「そうか、瑞樹、君は一人じゃない。俺も芽生もいつも君の側にいるよ」

 その言葉に、僕の心はますます温かくなった。

「ありがとうございます」

 心の中で母と話していたことが、今ここにいる宗吾さんや芽生くんと繋がっている気がして、胸が一杯だ。

 ブーケは、リビングの棚の上に宗吾さんが飾ってくれた。

「ここなら、お母さんから俺たちの様子がよく見えるだろう」

 陽が差し込む場所で、ライラックとカーネーションが優しく微笑んでいるように見えた。

「次は宗吾さんのお母さんに手渡すブーケを作ります」
「ありがとう。それを持って遊びに行こう!」
「はい!」

     
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