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その後の章
その後の二人 『海を越える恋』5
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「優也さん、仕度出来た?」
「あっうん」
一泊だけのソウル旅行なので、荷物は少ない。それでもKaiくんに会えると思ったら胸が高鳴って、一番気に入っている白いセーターを持って来た。その中に着たのは、あの日Kaiくんからもらった青いシャツだった。袖丈が明らかに長いけれども、セーターの中で袖口を折ればなんとかなった。何よりKaiくんの香りが漂うこのシャツが、僕は大好きだ。
「わっ!それって……もしかして優也さんが中に着てくれているシャツって、俺の?」
「ん……僕には大きいんだけどね」
「はぁ~もうなんだろ?優也さんの行動がいちいち可愛すぎて悶える!」
「可愛いって、僕はもうそんな歳じゃ……」
飛びつくように抱きつかれ頬擦りされると、Kaiくんの少し伸びた髭があたってくすぐったい。そのまま顎を掬われたので、僕は静かに目を閉じて受け入れる。
昨日から何度こうやって唇を合わせたことか。
「優也さんが俺のシャツを着てくれているっていうだけで、一日中抱きしめているような気分になってヤバイ!あぁまずい。またムラムラする」
Kaiくんの大きな手が僕の腰を掴み、そのままヒップを揉み込むように降りて来たので、僕だってまた震えてしまう。そこは弱い。
「あっ……だっ駄目だって、ご飯食べに行かないと」
「あっそうだったね!」
そのタイミングで、Kaiくんの部屋のドアがトントンっとノックされた。
「Kai坊ちゃま、そろそろよろしいでしょうか」
「あっリュウか、もう昼飯?」
「左様でございます。旦那さまもお待ちです」
「了解!もう少ししたら行くって伝えて」
「畏まりました。ご友人もご一緒にどうぞとのことです」
「OK!」
え……今なんて言った?
Kai坊ちゃまに、旦那様って、今の人って執事なのか。
僕はちゃんと韓国語を聞き取れているのだろうか。
「あの、なんというか……僕はKaiくんのことを何も知らなかったんだな。今まで何も聞かなくて、その……ごめん」
なんだか僕は本当に酷いことをしたと後悔し、苦笑交じりにぼやいてしまった。ところがKaiくんは首を横に振った。
「いや、それがかえって嬉しかったんだよ。俺のバックグランドなんて関係なく、優也さんは俺そのものに惚れてくれたってことだろう?」
「ん……」
そう言われればそうだが。それにしても知らなかったことを、急に知るというのは驚くものだ。
「逆に俺も知らなかったよ、優也さんの実家が日本であんなに大きな会社を経営しているなんて」
「……うん」
確かにそうだ。僕だって何一つ素性を明かしていなかった。翔のことだけじゃない。親のことも姉のことも何一つ話さなかった。そんな僕のことを、本当に身一つで……Kaiくんは僕を愛してくれ、僕もKaiくんを愛したんだ。
なんだかソウルで通訳に仕事をしていた何のしがらみもなく愛し合えた頃のことが、無性に恋しくなってしまった。
「あっ駄目だよ。優也さんの悪い癖だな。また今……変なことを考えていただろう?」
「え……」
その通りだ。いつもの悪い癖はそう簡単には治らない。でも僕がそういうマイナスな感情に押し流されそうになると、Kaiくんがいつだって呼び止めてくれる。こうやって、今日みたいに。
あぁでも離れて過ごしていると、Kaiくんが近くにいてくれないと駄目な時もあったよ。ましてこうやってKaiくんの温もりに再び触れてしまうと、忘れられなくなる。
昨日まで日本で、遠距離を頑張って来たのにどうしよう。
急にKaiくんとあと数時間で離れるのが怖くなってしまって、僕の腰を抱いてくれているKaiくんにぎゅっとしがみ付いてしまった。
「優也さん……甘えてくれているんだね」
Kaiくんの手が僕をなだめるように優しく背中を通過していく。会えて嬉しいのに、それなのに寂しいなんて。
「俺も寂しいよ。優也さんと離れたくない」
心がシンクロしていく。
Kaiくんと僕、まったく同じことを考えていたんだね。
「うん、僕も……寂しい」
「あっうん」
一泊だけのソウル旅行なので、荷物は少ない。それでもKaiくんに会えると思ったら胸が高鳴って、一番気に入っている白いセーターを持って来た。その中に着たのは、あの日Kaiくんからもらった青いシャツだった。袖丈が明らかに長いけれども、セーターの中で袖口を折ればなんとかなった。何よりKaiくんの香りが漂うこのシャツが、僕は大好きだ。
「わっ!それって……もしかして優也さんが中に着てくれているシャツって、俺の?」
「ん……僕には大きいんだけどね」
「はぁ~もうなんだろ?優也さんの行動がいちいち可愛すぎて悶える!」
「可愛いって、僕はもうそんな歳じゃ……」
飛びつくように抱きつかれ頬擦りされると、Kaiくんの少し伸びた髭があたってくすぐったい。そのまま顎を掬われたので、僕は静かに目を閉じて受け入れる。
昨日から何度こうやって唇を合わせたことか。
「優也さんが俺のシャツを着てくれているっていうだけで、一日中抱きしめているような気分になってヤバイ!あぁまずい。またムラムラする」
Kaiくんの大きな手が僕の腰を掴み、そのままヒップを揉み込むように降りて来たので、僕だってまた震えてしまう。そこは弱い。
「あっ……だっ駄目だって、ご飯食べに行かないと」
「あっそうだったね!」
そのタイミングで、Kaiくんの部屋のドアがトントンっとノックされた。
「Kai坊ちゃま、そろそろよろしいでしょうか」
「あっリュウか、もう昼飯?」
「左様でございます。旦那さまもお待ちです」
「了解!もう少ししたら行くって伝えて」
「畏まりました。ご友人もご一緒にどうぞとのことです」
「OK!」
え……今なんて言った?
Kai坊ちゃまに、旦那様って、今の人って執事なのか。
僕はちゃんと韓国語を聞き取れているのだろうか。
「あの、なんというか……僕はKaiくんのことを何も知らなかったんだな。今まで何も聞かなくて、その……ごめん」
なんだか僕は本当に酷いことをしたと後悔し、苦笑交じりにぼやいてしまった。ところがKaiくんは首を横に振った。
「いや、それがかえって嬉しかったんだよ。俺のバックグランドなんて関係なく、優也さんは俺そのものに惚れてくれたってことだろう?」
「ん……」
そう言われればそうだが。それにしても知らなかったことを、急に知るというのは驚くものだ。
「逆に俺も知らなかったよ、優也さんの実家が日本であんなに大きな会社を経営しているなんて」
「……うん」
確かにそうだ。僕だって何一つ素性を明かしていなかった。翔のことだけじゃない。親のことも姉のことも何一つ話さなかった。そんな僕のことを、本当に身一つで……Kaiくんは僕を愛してくれ、僕もKaiくんを愛したんだ。
なんだかソウルで通訳に仕事をしていた何のしがらみもなく愛し合えた頃のことが、無性に恋しくなってしまった。
「あっ駄目だよ。優也さんの悪い癖だな。また今……変なことを考えていただろう?」
「え……」
その通りだ。いつもの悪い癖はそう簡単には治らない。でも僕がそういうマイナスな感情に押し流されそうになると、Kaiくんがいつだって呼び止めてくれる。こうやって、今日みたいに。
あぁでも離れて過ごしていると、Kaiくんが近くにいてくれないと駄目な時もあったよ。ましてこうやってKaiくんの温もりに再び触れてしまうと、忘れられなくなる。
昨日まで日本で、遠距離を頑張って来たのにどうしよう。
急にKaiくんとあと数時間で離れるのが怖くなってしまって、僕の腰を抱いてくれているKaiくんにぎゅっとしがみ付いてしまった。
「優也さん……甘えてくれているんだね」
Kaiくんの手が僕をなだめるように優しく背中を通過していく。会えて嬉しいのに、それなのに寂しいなんて。
「俺も寂しいよ。優也さんと離れたくない」
心がシンクロしていく。
Kaiくんと僕、まったく同じことを考えていたんだね。
「うん、僕も……寂しい」
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