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忍ぶれど……
枯れゆけば 5
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背中に兄の温かい手を感じ、気恥ずかしさが倍増した。
「離せ、俺に触れんなっ! いいから、もう、あっちに行けよ!」
背中を左右に大きく揺り動かし、手を跳ね飛ばそうとした。
いくら兄でもハッキリ拒絶すれば諦めるだろう。
そう思って必死だった。なのに……
「流っ、どうか落ち着いて」
どうして?
兄の手は離れて行かない。それどころか背中から俺のことをギュッと抱きしめたので、いよいよ激しく動揺した。俺の首筋に兄の柔らかい髪の毛が触れるのを感じ、ますます戸惑った。
「な、何すんだよっ!」
「流……お願いだ。僕を避けないで……僕は流に嫌われるのが一番辛い」
まるで告白のような兄の言葉。
いつになく気弱な声。
何かあったのか。
心配になって、これ以上抗うのはやめた。
「……分かったよ」
すると、俺の背中を必死に抱きしめる兄の手も緩んだ。
その隙に居住まいを正し兄と向かい合うと、やはり様子が少し変だった。
はぁはぁと息を切らしている兄のどこか頼りないぐらついた表情。
さっきの、らしくない発言。
「兄さん? ……もしかして何かに困ってるのか」
その瞬間、一気にいつもの凛と澄ました兄の顔へ変化するのが感じ取れた。
「いや、大丈夫だよ。文化祭のこと、黙っていてごめん。実は頼まれ事があって午前中は忙しいんだ。だから13時以降に来てくれるか。そうしたら僕がずっと案内できるよ。なっ、駄目か」
「なんだ! そうならそうと初めから言えばいいのに……俺だってもう子供じゃないんだ。一人で回れるのに……でも案内してくれるの嬉しいよ。じゃあ13時に行けばいい?」
「うん、その……それ以上早くは来ないで欲しい」
なんで? と再び聞きたかったが、やめた。
兄さんがこんな風に頼んでくるのは珍しい。これは本当に午前中は忙しいのだろう。少しの違和感は感じたが、俺は兄さんが嫌がることはしたくない。だから素直に指定された時間に行く約束をした。
「りゅーう、これで仲直りできたのかな?」
「あぁ、バッチリな!」
「良かった……本当に良かったよ」
そんな可愛いことを言う兄さんを正面から見つめると、髪に赤く色づいた紅葉が絡まっていた。
まるで兄さんの美しい顔に、花を添える髪飾りのようだ。
柄でもないことを。
でも本当によく似合っていた。
兄さんの白い肌に赤がよく似合う。
まるで唇に紅をさしたようだ。
そこから、ふと変なことを思いついてしまった。
もしかしたら兄さんって女性の格好をしたら、凄く似合うんじゃないか。
やばい……また不謹慎なことを考えてしまった。
もうやめよう!
兄さんは俺の兄さんなんだ。
そう、必死に言い聞かせた。
すると俺の視線に気が付いた兄さんが、不思議そうに小首を傾げた。
「流、どうしたの?」
「えっと……兄さん、頭に葉っぱがついている!」
「えっ……どこ?」
「ここさ」
そっと手を伸ばして取ってやると、兄さんはふんわりと微笑んだ。
「気付かなかったよ。ありがとう」
「頭に葉っぱを乗せるなんて、タヌキみたいだな」
「え? タヌキ? 僕が?」
「ははっ、不満そうだな」
「うーん、もっとカッコいいのがいいよ」
「へぇ、兄さんでもそんな欲があるのか」
「あ、いや……ふふっ、僕はね、流にとってカッコいい兄でありたいんだ」
「……そうだな」
兄さんがそう願えば、俺もそう願おう。
さっき、やましいことをしてしまった罪滅ぼしだ。
精一杯兄として慕おう。今は――
「兄さんはカッコいいよ。俺の自慢の兄だ」
「流、ありがとう……とても嬉しいよ」
俺と兄さんは肩を並べて苔生した大地に体育座りをし、空を見上げた。
俺たちに向かってはらはらと落ちてくる紅葉を、心を揃えて見つめた。
赤い葉っぱ同士が絡まるように舞い落ちてくる光景が、印象的だった。
「落ち葉も仲良しだね」
「……そうだな」
いつまでもこうしていたい、二人だけの親密な時間だった。
「離せ、俺に触れんなっ! いいから、もう、あっちに行けよ!」
背中を左右に大きく揺り動かし、手を跳ね飛ばそうとした。
いくら兄でもハッキリ拒絶すれば諦めるだろう。
そう思って必死だった。なのに……
「流っ、どうか落ち着いて」
どうして?
兄の手は離れて行かない。それどころか背中から俺のことをギュッと抱きしめたので、いよいよ激しく動揺した。俺の首筋に兄の柔らかい髪の毛が触れるのを感じ、ますます戸惑った。
「な、何すんだよっ!」
「流……お願いだ。僕を避けないで……僕は流に嫌われるのが一番辛い」
まるで告白のような兄の言葉。
いつになく気弱な声。
何かあったのか。
心配になって、これ以上抗うのはやめた。
「……分かったよ」
すると、俺の背中を必死に抱きしめる兄の手も緩んだ。
その隙に居住まいを正し兄と向かい合うと、やはり様子が少し変だった。
はぁはぁと息を切らしている兄のどこか頼りないぐらついた表情。
さっきの、らしくない発言。
「兄さん? ……もしかして何かに困ってるのか」
その瞬間、一気にいつもの凛と澄ました兄の顔へ変化するのが感じ取れた。
「いや、大丈夫だよ。文化祭のこと、黙っていてごめん。実は頼まれ事があって午前中は忙しいんだ。だから13時以降に来てくれるか。そうしたら僕がずっと案内できるよ。なっ、駄目か」
「なんだ! そうならそうと初めから言えばいいのに……俺だってもう子供じゃないんだ。一人で回れるのに……でも案内してくれるの嬉しいよ。じゃあ13時に行けばいい?」
「うん、その……それ以上早くは来ないで欲しい」
なんで? と再び聞きたかったが、やめた。
兄さんがこんな風に頼んでくるのは珍しい。これは本当に午前中は忙しいのだろう。少しの違和感は感じたが、俺は兄さんが嫌がることはしたくない。だから素直に指定された時間に行く約束をした。
「りゅーう、これで仲直りできたのかな?」
「あぁ、バッチリな!」
「良かった……本当に良かったよ」
そんな可愛いことを言う兄さんを正面から見つめると、髪に赤く色づいた紅葉が絡まっていた。
まるで兄さんの美しい顔に、花を添える髪飾りのようだ。
柄でもないことを。
でも本当によく似合っていた。
兄さんの白い肌に赤がよく似合う。
まるで唇に紅をさしたようだ。
そこから、ふと変なことを思いついてしまった。
もしかしたら兄さんって女性の格好をしたら、凄く似合うんじゃないか。
やばい……また不謹慎なことを考えてしまった。
もうやめよう!
兄さんは俺の兄さんなんだ。
そう、必死に言い聞かせた。
すると俺の視線に気が付いた兄さんが、不思議そうに小首を傾げた。
「流、どうしたの?」
「えっと……兄さん、頭に葉っぱがついている!」
「えっ……どこ?」
「ここさ」
そっと手を伸ばして取ってやると、兄さんはふんわりと微笑んだ。
「気付かなかったよ。ありがとう」
「頭に葉っぱを乗せるなんて、タヌキみたいだな」
「え? タヌキ? 僕が?」
「ははっ、不満そうだな」
「うーん、もっとカッコいいのがいいよ」
「へぇ、兄さんでもそんな欲があるのか」
「あ、いや……ふふっ、僕はね、流にとってカッコいい兄でありたいんだ」
「……そうだな」
兄さんがそう願えば、俺もそう願おう。
さっき、やましいことをしてしまった罪滅ぼしだ。
精一杯兄として慕おう。今は――
「兄さんはカッコいいよ。俺の自慢の兄だ」
「流、ありがとう……とても嬉しいよ」
俺と兄さんは肩を並べて苔生した大地に体育座りをし、空を見上げた。
俺たちに向かってはらはらと落ちてくる紅葉を、心を揃えて見つめた。
赤い葉っぱ同士が絡まるように舞い落ちてくる光景が、印象的だった。
「落ち葉も仲良しだね」
「……そうだな」
いつまでもこうしていたい、二人だけの親密な時間だった。
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