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忍ぶれど……
枯れゆけば 8
しおりを挟む白い小袖に緋袴で、伝統的な巫女装束に身を包んだ翠は、はっとするほど美しかった。
その頬は恥ずかしさからだろうか、徐々に色づく紅葉のように染まっていた。
「あら、よく似合うわ~ このままでも十分可愛いけれども、せっかくだからロングヘアのカツラをつけない?」
「……もういっそ……僕だと分からないようにしてください」
「ははっ、翠いいのか? 今のセリフ、姉さんに弄られるぞ」
「こうなったら、とことんやるよ。それに女装と言えばワンピースや制服を覚悟していたから、これは想定外だった。これならなんとか頑張れそうだ」
面白いことを言う奴だと思った。
いつも控えめで柔和な翠にも、潔い一面があるようだ。
一度覚悟を決めたらとことん身を尽くす、投じる性格が見え隠れする。
「翠くん可愛いこと言ってくれるわ。じゃあこっちに来て、メイクを一からしましょう。といってもお肌はすべすべで色白だからファンデーションはあんまり塗らない方がいいわね」
****
達哉のお姉さんに誘われ、鏡台の前に座らされた。
髪は長髪の黒髪に。いつもの栗毛色の髪と違って漆黒の烏のようだ。ファンデーションとやらを厚塗りされることはなかったけれども、粉をはたかれ思わずむせそうになった。更に唇にリップを塗られ、それから朱色の紅をさされた。
「あっ……」
途端に自分が誰だか分からなくなった。まるで黄昏時に出逢う現実ではない気分だ。
「どう? 完璧でしょ! これならどうみても女性よ」
「うーん。でもさぁ……姉さん胸がぺったんこだぜ」
「あら本当だ。ブラしないと」
「ぶっブラ!? それは無理っ」
「翠よく聞け。なりきるんだろ」
「いや、それとこれとは別だ」
「んー ブラは抵抗があるの?」
お姉さんに聞かれてコクコクと頷くしかなかった。流石に女性のブラジャーを身に着けるなんて無理だ。だが抵抗を続けると妥協案を出されてしまい断れなくなった。
「じゃあ、このカップ入りタンクトップなら良いわよね。これなら抵抗が少ないと思うわ」
「えー 俺は翠のブラ姿みたいぜ」
「んっ、もうっうるさい子ね。翠くんの気持ちに寄り添いなさい」
結局お姉さんにの意気込みに押され、胸にカップの入ったタンクトップを借りることになってしまった。
スカスカのカップの中に柔らかい布まで詰められ、なんとも居心地が悪く居たたまれない。
淡い、少女のような胸の膨らみが恥ずかしい。
「おおおっ、翠いいぜ! 最高にいい!」
「はぁ……何がいいんだか。達哉は僕のことを見て楽しんでいるだろう?」
「んなことないって! なぁせっかくだからその格好で寺の中を歩いてみろよ」
「なんで?」
「仕草とかも女性らしく見せないとカッコ悪いぜ。拘るときはとことんなんだろ? 翠ならば出来る!」
「うーん、そうかな」
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