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忍ぶれど……
枯れゆけば 18
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「えーお待たせしました! 今から文化祭恒例の女装コンテストをスタートしまぁす!」
軽薄そうな司会の声が会場に大音量で鳴り響くと、午前中だというのに集まった生徒達は、一気にハイテンションになった。
コンテスト出場者がやることを、事前に舞台裏で説明された。
それは校庭に簡易設置されたステージに順番に上がり女装姿で一周し、その後くじを引いて指示された動作をするという流れだった。
くじ……?
そんなの聞いてない。ますます不安が増してしまう。
順番がやってくるまで、じっと脇で待つが、その時間がとてつもなく長く感じた。ステージで何が行われているのかは見ないようにした。でも時折どっと沸く歓声や黄色い悲鳴から相当な無理難題が降りかかっているようだと察し、気持ちが沈んだ。
「そろそろだな」
僕の横に付き人のように立っている達哉が、励ますように肩を抱いてくれた。
「翠、困ったことがあったら、真っ先に俺を頼れよ」
「ありがとう。達哉……お前って案外頼もしいんだな」
「えっ、今まで知らなかったのか。こんなにアピールしていたのに!」
「くすっ、そうだった?」
「コイツー!」
達哉の優しさと明るさに、ほっとする。
少し笑えた。良かった……
「次は高1A組の張矢 翠くんの登場です! 」
「ほら、翠、頑張ってこい。これも修行の一つだと思って」
「あぁ」
肩をトンと押され僕は歩き出した。舞台はそんなに高くないはずなのに、大勢の男子学生の視線を一身に受けて身体が小刻みに震えた。そんな中、さっき達哉が言ってくれた言葉が頭の中をリフレインしていく。
「修行だ。これも人生において一つの修行だ」
そう自分を必死に励ますが、足が震えて上手く歩けなかった。なんとか皆が見える所まで歩くと、何故かさっきまでの騒がしさが消え、会場が静まり返ってしまった。
一体、どうしたのだろう?
心配になると、やがて静まりは感嘆の溜息へと変わった。
「これは……本命登場だな!」
「気高すぎる……袴姿が」
「超美人!」
どれも男に対する誉め言葉ではないものばかりだったが、気持ち悪いと言われるよりましなのか。僕もやるからには人の目を汚すことにはなりたくなかった。
風が吹く。
涼しい秋風が吹き抜ける。
長い黒髪が風に棚引き自分の視界に映り込むと、はっとした。
これは誰だ? 僕じゃない、仮の姿だ。
そうだ……仮(かり)という漢字は、仏教用語にも出て来たばかりだ。
先日父から説法を受けた時に、ちょうど『仮(け)』という仏教用語に触れたことを思い出した。
「仮(け)」とは、存在や事象などに実体はないが、現象として成立していることを意味すると教えてもらったばかりだ。仮の状態に戸惑うということは、本来実体のない存在や事象を、あたかも実体があるように誤って考え、それに執着しているからであると。
ならば僕はもう迷わない。
今この瞬間は仮のもの。僕は女性ではないし巫女でもない。女装したからって女性になるわけでもないし、僕が僕でなくなるわけではない。
だから堂々とやり切ればいい。
前向きになれ。
中途半端に迷うな。
どんな視線にも耐えろ。
なんとかステージを一周し、中央の司会者の前で停まった。ところが司会者は僕を見つめたまま固まっている。
「あの?」
「あっ、あまりのリアリティ溢れる美しさに見惚れちゃいましたー! えっと1年の張矢翠くんでした! さて彼が引くくじにはどんな指示が! 」
抽選箱に手を入れ折り畳んである紙を引き、司会者に渡した。
「さて発表です! 張矢くんに課せられたものとは!」
会場がざわめき、期待に満ちていくのが手に取るように分かった。
軽薄そうな司会の声が会場に大音量で鳴り響くと、午前中だというのに集まった生徒達は、一気にハイテンションになった。
コンテスト出場者がやることを、事前に舞台裏で説明された。
それは校庭に簡易設置されたステージに順番に上がり女装姿で一周し、その後くじを引いて指示された動作をするという流れだった。
くじ……?
そんなの聞いてない。ますます不安が増してしまう。
順番がやってくるまで、じっと脇で待つが、その時間がとてつもなく長く感じた。ステージで何が行われているのかは見ないようにした。でも時折どっと沸く歓声や黄色い悲鳴から相当な無理難題が降りかかっているようだと察し、気持ちが沈んだ。
「そろそろだな」
僕の横に付き人のように立っている達哉が、励ますように肩を抱いてくれた。
「翠、困ったことがあったら、真っ先に俺を頼れよ」
「ありがとう。達哉……お前って案外頼もしいんだな」
「えっ、今まで知らなかったのか。こんなにアピールしていたのに!」
「くすっ、そうだった?」
「コイツー!」
達哉の優しさと明るさに、ほっとする。
少し笑えた。良かった……
「次は高1A組の張矢 翠くんの登場です! 」
「ほら、翠、頑張ってこい。これも修行の一つだと思って」
「あぁ」
肩をトンと押され僕は歩き出した。舞台はそんなに高くないはずなのに、大勢の男子学生の視線を一身に受けて身体が小刻みに震えた。そんな中、さっき達哉が言ってくれた言葉が頭の中をリフレインしていく。
「修行だ。これも人生において一つの修行だ」
そう自分を必死に励ますが、足が震えて上手く歩けなかった。なんとか皆が見える所まで歩くと、何故かさっきまでの騒がしさが消え、会場が静まり返ってしまった。
一体、どうしたのだろう?
心配になると、やがて静まりは感嘆の溜息へと変わった。
「これは……本命登場だな!」
「気高すぎる……袴姿が」
「超美人!」
どれも男に対する誉め言葉ではないものばかりだったが、気持ち悪いと言われるよりましなのか。僕もやるからには人の目を汚すことにはなりたくなかった。
風が吹く。
涼しい秋風が吹き抜ける。
長い黒髪が風に棚引き自分の視界に映り込むと、はっとした。
これは誰だ? 僕じゃない、仮の姿だ。
そうだ……仮(かり)という漢字は、仏教用語にも出て来たばかりだ。
先日父から説法を受けた時に、ちょうど『仮(け)』という仏教用語に触れたことを思い出した。
「仮(け)」とは、存在や事象などに実体はないが、現象として成立していることを意味すると教えてもらったばかりだ。仮の状態に戸惑うということは、本来実体のない存在や事象を、あたかも実体があるように誤って考え、それに執着しているからであると。
ならば僕はもう迷わない。
今この瞬間は仮のもの。僕は女性ではないし巫女でもない。女装したからって女性になるわけでもないし、僕が僕でなくなるわけではない。
だから堂々とやり切ればいい。
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中途半端に迷うな。
どんな視線にも耐えろ。
なんとかステージを一周し、中央の司会者の前で停まった。ところが司会者は僕を見つめたまま固まっている。
「あの?」
「あっ、あまりのリアリティ溢れる美しさに見惚れちゃいましたー! えっと1年の張矢翠くんでした! さて彼が引くくじにはどんな指示が! 」
抽選箱に手を入れ折り畳んである紙を引き、司会者に渡した。
「さて発表です! 張矢くんに課せられたものとは!」
会場がざわめき、期待に満ちていくのが手に取るように分かった。
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