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色は匂へど……
光を捉える旅 2
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「流、ところで、どこに泊まる予定?」
「海のすぐ傍の宿を予約してある」
「海に近いのか」
「あぁ、部屋の中でも海の波の音が聞こえる程にな」
「そんなに? 嬉しいよ」
隣に座る翠は、心底嬉しそうな表情を浮かべてくれた。
綺麗で可愛い。
おっと、これ以上見ていると事故を起こしそうなので運転に集中しよう。
やがて道は海岸線になり、海がすぐ傍にやってくる。
春の海は色が濃く、海面を渡る風はひんやり涼しかった。
車に酔いやすい翠のために少し窓を開けているので、風が車中を舞っていく。
「夢みたいだよ。本当に僕は海に来たんだね。あぁ、ほらっ潮風を感じるよ」
「大袈裟だな」
「なぁ流……部屋は大丈夫かな? 僕は初めての場所だと転んでばかりだ」
「大丈夫だ。それなりに考慮してもらった」
「そうか」
「兄さんに恥ずかし思いは、絶対にさせないから安心しろ」
「頼もしいよ。ありがとう」
他愛もない会話が楽しすぎる!
俺たちまたこんなに自然に話せるようになったんだな。
宿には予約時に事情を話し、目が見えない兄と泊まるので段差の少ない出入りしやすい部屋をと、しっかり頼んでおいた。
ところが通された部屋を見て、仰天してしまった。
確かにロビーから段差なく行けるフロアで、海側の客室で申し分ない。
なのに……どうしてだ?
ベッドがひとつしかない!
しかも、これってダブルベッドルームじゃねぇか!
「あーあのぉ、すみませんね。ご希望通りの部屋だとここしかなくて、あいにく他は満室でして」
「う……」
兄さんとダ、ダ、ダブルベッドで眠る?
この俺が、そんなことしていいのか!
呆然としていると、翠が不思議そうに話しかけてきた。
「流、どうして中に入らないの? 何か不都合なことでも?」
俺は一向に構わないが、この部屋がダブルベッドだと知ったら、兄さんがどういう反応をするか分からない。
「あっ、いや」
「部屋は和室?」
「いや洋室だ」
「僕はてっきり和室だと思った」
「洋室の方が、兄さんがいつでも休憩出来ると思って」
「優しいね。流はいつも。ところでベッドはどこ?」
来た! どう説明しよう。
キングサイズやクイーンサイズならまだしも、男二人で眠るにはダブルベッドでは狭い。
ううう仕方がない。いざとなったら俺は床に眠るか。そうしよう!
兄さんが見えない目で、壁伝いに歩き出した。
「馬鹿、そっちじゃない。こっちだ」
手を引いてベッドに座らせてやると、ポンポンと手で幅を確かめているようだ。
「……ずいぶん、広いベッドだね」
どうやらシングルベッドだと思っているようだ。
「あぁ兄さんがベッドから落っこちないようにな。普段は和室だから慣れていないだろう」
「そんなことないよ。東京ではベッドだった。あっ…」
そこまで言って哀しげな顔になる。嫌な思い出が蘇ってきたのだろう。
「馬鹿。思い出すなよ」
「う、うん。流のベッドはどこだ?」
「……ちゃんと隣にあるから安心しろ」
「よかった。近くにいて欲しい。初めての場所は怖いんだ。ごめんな、こんな情けない兄さんで」
「そんなことない。今の方がいい」
「流……旅行中よろしくな。また迷惑をかけてしまうが」
翠はすまなそうに微笑んでいた。
そんな顔するな。いや、そんな顔を見せることが出来るのは俺くらいなのか。そう思うと愛おしさが募る。
「少し横になっても?」
「あぁ疲れただろう」
「うん、窓を開けてもらるか」
翠は手探りで枕の位置を確かめて、横になりすぐに目を閉じた。
長い睫毛が、風に揺らぎそうだ。
「海の音が聞こえるね。これは……潮騒……」
そのまま暫くすると、安定した寝息が聴こえてきた。
目が見えない分神経を使うようで、今の翠はとても疲れやすい。
月影寺を離れ、宿には俺と翠だけ。
二人きりだ。
ここは誰も邪魔するものがいない、夢のような空間だ。
波の音を子守唄に眠りについた翠の端正な顔。
穴が開くほどじっと見つめ続けた。
どんなに見つめても、今は許される。
それが嬉しくて、ありがたくて――
「海のすぐ傍の宿を予約してある」
「海に近いのか」
「あぁ、部屋の中でも海の波の音が聞こえる程にな」
「そんなに? 嬉しいよ」
隣に座る翠は、心底嬉しそうな表情を浮かべてくれた。
綺麗で可愛い。
おっと、これ以上見ていると事故を起こしそうなので運転に集中しよう。
やがて道は海岸線になり、海がすぐ傍にやってくる。
春の海は色が濃く、海面を渡る風はひんやり涼しかった。
車に酔いやすい翠のために少し窓を開けているので、風が車中を舞っていく。
「夢みたいだよ。本当に僕は海に来たんだね。あぁ、ほらっ潮風を感じるよ」
「大袈裟だな」
「なぁ流……部屋は大丈夫かな? 僕は初めての場所だと転んでばかりだ」
「大丈夫だ。それなりに考慮してもらった」
「そうか」
「兄さんに恥ずかし思いは、絶対にさせないから安心しろ」
「頼もしいよ。ありがとう」
他愛もない会話が楽しすぎる!
俺たちまたこんなに自然に話せるようになったんだな。
宿には予約時に事情を話し、目が見えない兄と泊まるので段差の少ない出入りしやすい部屋をと、しっかり頼んでおいた。
ところが通された部屋を見て、仰天してしまった。
確かにロビーから段差なく行けるフロアで、海側の客室で申し分ない。
なのに……どうしてだ?
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しかも、これってダブルベッドルームじゃねぇか!
「あーあのぉ、すみませんね。ご希望通りの部屋だとここしかなくて、あいにく他は満室でして」
「う……」
兄さんとダ、ダ、ダブルベッドで眠る?
この俺が、そんなことしていいのか!
呆然としていると、翠が不思議そうに話しかけてきた。
「流、どうして中に入らないの? 何か不都合なことでも?」
俺は一向に構わないが、この部屋がダブルベッドだと知ったら、兄さんがどういう反応をするか分からない。
「あっ、いや」
「部屋は和室?」
「いや洋室だ」
「僕はてっきり和室だと思った」
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来た! どう説明しよう。
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ううう仕方がない。いざとなったら俺は床に眠るか。そうしよう!
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「馬鹿、そっちじゃない。こっちだ」
手を引いてベッドに座らせてやると、ポンポンと手で幅を確かめているようだ。
「……ずいぶん、広いベッドだね」
どうやらシングルベッドだと思っているようだ。
「あぁ兄さんがベッドから落っこちないようにな。普段は和室だから慣れていないだろう」
「そんなことないよ。東京ではベッドだった。あっ…」
そこまで言って哀しげな顔になる。嫌な思い出が蘇ってきたのだろう。
「馬鹿。思い出すなよ」
「う、うん。流のベッドはどこだ?」
「……ちゃんと隣にあるから安心しろ」
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「そんなことない。今の方がいい」
「流……旅行中よろしくな。また迷惑をかけてしまうが」
翠はすまなそうに微笑んでいた。
そんな顔するな。いや、そんな顔を見せることが出来るのは俺くらいなのか。そう思うと愛おしさが募る。
「少し横になっても?」
「あぁ疲れただろう」
「うん、窓を開けてもらるか」
翠は手探りで枕の位置を確かめて、横になりすぐに目を閉じた。
長い睫毛が、風に揺らぎそうだ。
「海の音が聞こえるね。これは……潮騒……」
そのまま暫くすると、安定した寝息が聴こえてきた。
目が見えない分神経を使うようで、今の翠はとても疲れやすい。
月影寺を離れ、宿には俺と翠だけ。
二人きりだ。
ここは誰も邪魔するものがいない、夢のような空間だ。
波の音を子守唄に眠りについた翠の端正な顔。
穴が開くほどじっと見つめ続けた。
どんなに見つめても、今は許される。
それが嬉しくて、ありがたくて――
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