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色は匂へど……
光を捉える旅 3
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瞼の裏に橙色の暖かな光を感じ、目覚めた。
部屋の匂いと布団の感触がいつもと違うので、旅行に来ている事を思い出した。
「流……どこだ?」
部屋にいるはずの流を呼ぶが、返事がない。
どこに行ったのだろう? 暫く横になったまま待つが、なかなか戻って来ない。もしかして眠っているのかもと横に手を伸ばして探るが、流のベッドがどこにあるのか分からなかった。気配も感じない。
「いない……」
先程までの橙色の光は消え、暗黒の世界が忍び寄ってくる。
流……嫌だ。
こんな風に僕を置いて行くな。
これは駄目だ。
得体のしれない恐怖に苛まれ、ブルブルと身体が震え出した。
耐えきれない。
この部屋から逃げ出したくなった。
ひとりで待つのが怖い。
本当の僕は孤独が苦手なんだ。
ベッドから降りて廊下に出ようと見えない目で伝い歩き出した途端、大きく何かに躓いて転んでしまった。
「わっ!」
ぐらりとバランスを崩して倒れていく身体。
ところが倒れた先は床ではなく、人の身体の上だった。
その人が流だと匂いですぐに分かった。
「えっ、流?」
「にっ、兄さん?」
いきなり流の胴体めがけて倒れたので、流も驚いていた。
僕は流の胸に飛び来んだような形になってしまい、慌てて顔を上げて起き上がろうとしたら、同じく顔をあげた流とゴツンと変な箇所がぶつかってしまった。
え……僕……今、何に触れた?
この感触は……
一瞬、流のくちびるに触れたような柔らかい感触を感じたが、僕の目は生憎見えないので確証が持てない。それを何故か……悔しいと思ってしまった。
同時に、自分でも驚くほど心臓が跳ねていた。
ドキドキ、ドキドキ……
鼓動が早くなる。
「ごっ、ごめん──兄さん、大丈夫だったか」
流の声も驚くほど動揺していた。
僕たち……少し落ち着こう。
何度か深呼吸して息を整えた。
「大丈夫だよ。どうしてこんな所に寝ていた?」
手で床だと思う部分をペタペタと確かめると、敷布団が敷いてある事が分かった。
「あーもう、兄さんがあんまりぐっすり眠ってしまうから、俺も眠くなったんだ」
「そうじゃなくて、どうしてわざわざここに敷布団を? この部屋にはベッドが2台あるんじゃないのか」
「あーその、コホン」
流が観念したような声をあげる。
「あ……もしかして、最初から僕が使ったベッド一台しかなかったのか」
「あー まぁ、そういうことさ。兄さんに悪いから俺は布団で寝ようと、あーもうバレちまったが」
「流……馬鹿だな。一緒に眠ればいいじゃないか。僕たち小さい頃、散々一緒に眠った仲だよ?」
「……兄さんは相変わらずだな。もう成人した弟に言う台詞じゃねーよ」
流は機嫌悪そうに立ち上がった。
「どこへ行く?」
「どこでもいいだろう」
「お願いだ……ひとりにしないで欲しい」
旅先だからなのか、流しかいないからなのか……僕は月影寺では口にしないような甘えた事を言ってしまった。
「あー もう参るぜ。随分と我儘をってくれるな」
流は困った声で、僕の頭を優しく撫でてくれた。
「おいっ、流。僕の方が年上なのに、それはないだろう」
「駄々っ子みたいで可愛いな。兄さん!」
優しく明るい流の声にホッとする。
「……楽しい旅行にしたいんだ。せっかく流と二人きりなのだから」
「そうだな……悪かった。お! ちょうど真正面に日が落ちる時間だ。兄さん、海に行ってみよう! 光を感じに!」
流が逞しい腕で、僕の身体を引き上げてくれた。
流が優しい。
流が逞しい。
僕はそれが嬉しい。
部屋の匂いと布団の感触がいつもと違うので、旅行に来ている事を思い出した。
「流……どこだ?」
部屋にいるはずの流を呼ぶが、返事がない。
どこに行ったのだろう? 暫く横になったまま待つが、なかなか戻って来ない。もしかして眠っているのかもと横に手を伸ばして探るが、流のベッドがどこにあるのか分からなかった。気配も感じない。
「いない……」
先程までの橙色の光は消え、暗黒の世界が忍び寄ってくる。
流……嫌だ。
こんな風に僕を置いて行くな。
これは駄目だ。
得体のしれない恐怖に苛まれ、ブルブルと身体が震え出した。
耐えきれない。
この部屋から逃げ出したくなった。
ひとりで待つのが怖い。
本当の僕は孤独が苦手なんだ。
ベッドから降りて廊下に出ようと見えない目で伝い歩き出した途端、大きく何かに躓いて転んでしまった。
「わっ!」
ぐらりとバランスを崩して倒れていく身体。
ところが倒れた先は床ではなく、人の身体の上だった。
その人が流だと匂いですぐに分かった。
「えっ、流?」
「にっ、兄さん?」
いきなり流の胴体めがけて倒れたので、流も驚いていた。
僕は流の胸に飛び来んだような形になってしまい、慌てて顔を上げて起き上がろうとしたら、同じく顔をあげた流とゴツンと変な箇所がぶつかってしまった。
え……僕……今、何に触れた?
この感触は……
一瞬、流のくちびるに触れたような柔らかい感触を感じたが、僕の目は生憎見えないので確証が持てない。それを何故か……悔しいと思ってしまった。
同時に、自分でも驚くほど心臓が跳ねていた。
ドキドキ、ドキドキ……
鼓動が早くなる。
「ごっ、ごめん──兄さん、大丈夫だったか」
流の声も驚くほど動揺していた。
僕たち……少し落ち着こう。
何度か深呼吸して息を整えた。
「大丈夫だよ。どうしてこんな所に寝ていた?」
手で床だと思う部分をペタペタと確かめると、敷布団が敷いてある事が分かった。
「あーもう、兄さんがあんまりぐっすり眠ってしまうから、俺も眠くなったんだ」
「そうじゃなくて、どうしてわざわざここに敷布団を? この部屋にはベッドが2台あるんじゃないのか」
「あーその、コホン」
流が観念したような声をあげる。
「あ……もしかして、最初から僕が使ったベッド一台しかなかったのか」
「あー まぁ、そういうことさ。兄さんに悪いから俺は布団で寝ようと、あーもうバレちまったが」
「流……馬鹿だな。一緒に眠ればいいじゃないか。僕たち小さい頃、散々一緒に眠った仲だよ?」
「……兄さんは相変わらずだな。もう成人した弟に言う台詞じゃねーよ」
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「あー もう参るぜ。随分と我儘をってくれるな」
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「……楽しい旅行にしたいんだ。せっかく流と二人きりなのだから」
「そうだな……悪かった。お! ちょうど真正面に日が落ちる時間だ。兄さん、海に行ってみよう! 光を感じに!」
流が逞しい腕で、僕の身体を引き上げてくれた。
流が優しい。
流が逞しい。
僕はそれが嬉しい。
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