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色は匂へど……
暗中模索 5
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「待ってくれ、僕も行く!」
そう叫ぶと、走りだそうとしていた流が急ブレーキをかけた。
「翠は救護室で待ってろ」
「嫌だ! 薙は僕の息子だ!」
「馬鹿! これ以上、翠に何かあったら……俺はどうすればいい?」
流の目は赤く充血していた。
そこでようやく我に返った。
駄々をこねている場合じゃない。
こんなことしている間に、薙を見失ってしまう。
あの子は、まだ10歳。
大人びているといっても、まだたった10年しか生きていない小さな子供だ。
「流、頼む!」
薙も流も先ほどまで僕の傍にいたのに、一瞬で消えてしまった。
寂しい、侘しい。
どうしてこんなことに……
救護室のベッドでうなだれてると、一部始終を見守っていた看護師が優しく声をかけてくれた。
「お連れ様が戻られるまで、ここで休まれてください。吐き気やめまいは、もうしませんか」
「すみませんでした。もう大丈夫のようです」
「様子を見て、必要でしたら病院へ」
「分かりました。かかりつけ医に相談します」
「それがいいと思います」
クリーム色のカーテンで、僕を守ってくれた。
外からは遊園地のざわめきが聞こえてくる。
さっきまで、僕もそこにいたのに、分厚い壁が出来てしまったようだ。
どの位経過したのだろうか。
流はまだ戻らない。
ベッドの上で祈った。
どうか、僕の息子を守ってください。
その時、園内放送が聞こえてきた。
その内容に……僕の頬に涙が伝った。
****
しまった!
完全に見失っちまったぞ!
薙、あいつ、まさか本当に一人で家に帰ろうとしているのか。
万が一に備えて、出口に向かった。
「えっ……」
そこで俺は身の毛がよだつ相手を見つけてしまった。
アイツは忘れもしない俺の翠を蔑ろにした男。
克哉だ!
小さな子供の手を引いて、遊園地から出る所だった。
いつの間に……父親になったのか。
そのまま殴り込みたい気持ちは必死に押さえ込んだ。
子供に罪はない。
アイツは、今の俺には無関係だ。
関わりを持つのもおぞましい相手だ。
だが翠が突然倒れた理由はお前のせいだ。
きっと一人で待っている間、偶然見かけてしまったのだろう。
翠はあいつに今も恐怖を抱いている。
こびりついた恐怖はなかなか取れない。
こんなにも俺の大切な翠を怯えさせた相手が憎い。
だが、お前の相手をしている場合ではない。
俺にはもっと大切な使命がある。
薙……
どこだ?
翠の血を色濃く受け継いだ俺の甥っ子。
そこに館内放送がかかる。
アナウンスの内容に呆然とした……
俺は迷子センターに走った!
****
一人で帰る!
カッとして飛び出してきちゃったけど、どうしよう?
遊園地には車で来たから、帰り道が分からないよ。
出口の前で、オレは足がすくんでしまった。
前にも後ろに進めないよ。
父さん、流さん……どこ?
周囲を見渡すが、ここは初めて来た場所だ。
どこから来たのか、どこにいるもわからない。
「うっ……」
泣くもんか。
ひとりにはなれてる。
こんなのガマンできる。
なのに……さっきまでそばにいた優しい人たちがいないのがさみしくて、さみしくて……
ぽつんと立っていると、遊園地の人が話しかけてくれた。
「君、もしかして迷子になっちゃった?」
「……ちがいます。オレはもう10さいだから、迷子になんてならない」
「そんなことないよ。大人だって迷子になるんだから、大丈夫だよ。お父さんと来たの?」
「え……」
何も話していないのに、父さんと言ってくれた。
「なんで?」
「やっぱりそうなんだね。なんだか……お父さんに会いたそうな顔をしているから。園内放送をかけてあげるから迷子センターに行こう」
「うん」
迷子センターには、オレだけじゃなかった。
小さな子供が何人かいて、皆、めそめそ泣いている。
急に心細くなってしまった。
同時に、父さんにすごく会いたくなったよ。
「君、お名前は?」
「……なぎ」
「えっと……名字も言えるかな?」
「あ……はい、あの……」
父さんと同じがいい。
とっさにそう思って……思わず……
****
「はりやなぎくんのおとうさま、息子さんを迷子センターでお預かりしております」
今……なんて?
聞き間違いじゃないよな?
生まれたからずっと薙は『森』の姓だったのに、今……確かに『張矢 薙』と……
「薙……ごめん。ごめんよ……離婚するなら薙も連れてきたかった。一緒に過ごしたかった。あの頃の僕は目も見えず骨折していて身体も心も傷だらけで……親権を主張できる立場でなかったんだ」
それでもいよいよ遠くに離れてしまったと感じた薙の心の奥底を垣間見れて、涙が溢れてくる。
いつか手元に……
戻ってきて欲しい。
そう叫ぶと、走りだそうとしていた流が急ブレーキをかけた。
「翠は救護室で待ってろ」
「嫌だ! 薙は僕の息子だ!」
「馬鹿! これ以上、翠に何かあったら……俺はどうすればいい?」
流の目は赤く充血していた。
そこでようやく我に返った。
駄々をこねている場合じゃない。
こんなことしている間に、薙を見失ってしまう。
あの子は、まだ10歳。
大人びているといっても、まだたった10年しか生きていない小さな子供だ。
「流、頼む!」
薙も流も先ほどまで僕の傍にいたのに、一瞬で消えてしまった。
寂しい、侘しい。
どうしてこんなことに……
救護室のベッドでうなだれてると、一部始終を見守っていた看護師が優しく声をかけてくれた。
「お連れ様が戻られるまで、ここで休まれてください。吐き気やめまいは、もうしませんか」
「すみませんでした。もう大丈夫のようです」
「様子を見て、必要でしたら病院へ」
「分かりました。かかりつけ医に相談します」
「それがいいと思います」
クリーム色のカーテンで、僕を守ってくれた。
外からは遊園地のざわめきが聞こえてくる。
さっきまで、僕もそこにいたのに、分厚い壁が出来てしまったようだ。
どの位経過したのだろうか。
流はまだ戻らない。
ベッドの上で祈った。
どうか、僕の息子を守ってください。
その時、園内放送が聞こえてきた。
その内容に……僕の頬に涙が伝った。
****
しまった!
完全に見失っちまったぞ!
薙、あいつ、まさか本当に一人で家に帰ろうとしているのか。
万が一に備えて、出口に向かった。
「えっ……」
そこで俺は身の毛がよだつ相手を見つけてしまった。
アイツは忘れもしない俺の翠を蔑ろにした男。
克哉だ!
小さな子供の手を引いて、遊園地から出る所だった。
いつの間に……父親になったのか。
そのまま殴り込みたい気持ちは必死に押さえ込んだ。
子供に罪はない。
アイツは、今の俺には無関係だ。
関わりを持つのもおぞましい相手だ。
だが翠が突然倒れた理由はお前のせいだ。
きっと一人で待っている間、偶然見かけてしまったのだろう。
翠はあいつに今も恐怖を抱いている。
こびりついた恐怖はなかなか取れない。
こんなにも俺の大切な翠を怯えさせた相手が憎い。
だが、お前の相手をしている場合ではない。
俺にはもっと大切な使命がある。
薙……
どこだ?
翠の血を色濃く受け継いだ俺の甥っ子。
そこに館内放送がかかる。
アナウンスの内容に呆然とした……
俺は迷子センターに走った!
****
一人で帰る!
カッとして飛び出してきちゃったけど、どうしよう?
遊園地には車で来たから、帰り道が分からないよ。
出口の前で、オレは足がすくんでしまった。
前にも後ろに進めないよ。
父さん、流さん……どこ?
周囲を見渡すが、ここは初めて来た場所だ。
どこから来たのか、どこにいるもわからない。
「うっ……」
泣くもんか。
ひとりにはなれてる。
こんなのガマンできる。
なのに……さっきまでそばにいた優しい人たちがいないのがさみしくて、さみしくて……
ぽつんと立っていると、遊園地の人が話しかけてくれた。
「君、もしかして迷子になっちゃった?」
「……ちがいます。オレはもう10さいだから、迷子になんてならない」
「そんなことないよ。大人だって迷子になるんだから、大丈夫だよ。お父さんと来たの?」
「え……」
何も話していないのに、父さんと言ってくれた。
「なんで?」
「やっぱりそうなんだね。なんだか……お父さんに会いたそうな顔をしているから。園内放送をかけてあげるから迷子センターに行こう」
「うん」
迷子センターには、オレだけじゃなかった。
小さな子供が何人かいて、皆、めそめそ泣いている。
急に心細くなってしまった。
同時に、父さんにすごく会いたくなったよ。
「君、お名前は?」
「……なぎ」
「えっと……名字も言えるかな?」
「あ……はい、あの……」
父さんと同じがいい。
とっさにそう思って……思わず……
****
「はりやなぎくんのおとうさま、息子さんを迷子センターでお預かりしております」
今……なんて?
聞き間違いじゃないよな?
生まれたからずっと薙は『森』の姓だったのに、今……確かに『張矢 薙』と……
「薙……ごめん。ごめんよ……離婚するなら薙も連れてきたかった。一緒に過ごしたかった。あの頃の僕は目も見えず骨折していて身体も心も傷だらけで……親権を主張できる立場でなかったんだ」
それでもいよいよ遠くに離れてしまったと感じた薙の心の奥底を垣間見れて、涙が溢れてくる。
いつか手元に……
戻ってきて欲しい。
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