217 / 236
色は匂へど……
色は匂へど 8
しおりを挟む
前置き
今日のシーンは『重なる月』雨の悪戯11と12を一緒に読まれると流の心の動きが見えるしかけです。
****
あの晩、僕が取った行動はあまりに衝動的であまりに大胆だった。
嵐に勇気づけられたのか、一緒に風呂に入ろうとしたり、自分の部屋を丈と洋くんに明け渡し、流の部屋で流の布団で共に眠ってしまった。
どうにかして流との距離を縮めたかったんだ。
丈と洋くんの仲睦まじい様子を日々目の当たりにし、我慢しきれなくなったのか。仏に仕える身、ずっと自分を律して生きてきたのに、流が関わると、僕の感情は嵐のように揺れ動いてしまうよ。
あの晩……
流の布団に入り、逞しい身体に寄り添うように眠った。
途中で我に返り無性に恥ずかしくなって、布団から抜け出ようとすると、流が肩を抱くように引き留めてくれた。
「なぁ……流、狭くないか。布団……悪かったな」
「狭くなんかないですよ。兄さんは喉が弱いのだから、ほら、肌掛けはしっかり被ってくださいよ」
まるで僕たち、兄弟ではないようだ。「兄さん」呼ばれているのに「翠」と呼ばれているようで目眩がした。
「……流、お前は」
「なんです?」
暗闇で至近距離で、流と目があった。
今、僕たちは息遣いが届くほど傍にいる。
このまま流の匂いに溶け込んでしまいたい。
僕は流を愛している。
長い長い遠回りをして、ようやく気付いけたことだ。
じっと流を見つめると、視線をサッと逸らされてしまった。
そこで我に返った。
もしかして……こんな言葉は、流を苦しめるだけなのか。
あぁ、流の心が見えたらいいのに。僕に兄以上の感情を抱いてくれていると感じるのは、僕の勝手な妄想なのか。
その場で面と向かって「愛している」など言えるはずもなく、またいつものように言葉を濁してしまった。
「僕は流にこうされるのが……好きだよ。流がいれば安心できる」
「好き」という言葉では足りない程の愛を育ててきたくせに。
翠……いつまでもこのままでいいのか。
僕たちはもういい年齢だ。
このまま、この人生を終わりにしていいのか。
この世の果てまで平行線で、一線を越えないでいいのか。
繰り返す波のように、何度も自問自答しながら深い眠りに落ちた。
その晩、僕が見た夢はとても人には言えない内容だった。
屋根を打ち続ける激しい雨の中、僕はいつの間にか一糸纏わぬ姿になっていた。
流は息遣いが届くほど近くにいてくれる。
満ち足りた気持ちで身体の力を抜くと、逞しい腕が僕を引き寄せてくれた。
僕はまどろんでいるようで、身体に力が入らなかった。
逞しい腕は、僕が眠りから覚めないようにと慎重にそっと抱きしめてきた。
待て……夢の中でも遠慮するのか。
僕の心は既に整っているのに……あの山を越える覚悟だって出来ている。
一緒に旅立ってみないか。
空高く舞い上がり、一つになってしまいたい。
僕の心はそれを望んでいる。
だから僕の方から逞しい身体を強く抱き寄せた。
「一線を越えよう」
そう望んでいると伝えたくて――
僕の夢は……まるで雨の悪戯のようだった。
朝起きると流はもう隣にはおらず、僕はきちんと浴衣を身に着け布団をすっぽり被って眠っていた。
だが僕の記憶は鮮明だった。
あの夢を辿ろう。
そんな強い気持ちが芽生えた朝だった。
今日のシーンは『重なる月』雨の悪戯11と12を一緒に読まれると流の心の動きが見えるしかけです。
****
あの晩、僕が取った行動はあまりに衝動的であまりに大胆だった。
嵐に勇気づけられたのか、一緒に風呂に入ろうとしたり、自分の部屋を丈と洋くんに明け渡し、流の部屋で流の布団で共に眠ってしまった。
どうにかして流との距離を縮めたかったんだ。
丈と洋くんの仲睦まじい様子を日々目の当たりにし、我慢しきれなくなったのか。仏に仕える身、ずっと自分を律して生きてきたのに、流が関わると、僕の感情は嵐のように揺れ動いてしまうよ。
あの晩……
流の布団に入り、逞しい身体に寄り添うように眠った。
途中で我に返り無性に恥ずかしくなって、布団から抜け出ようとすると、流が肩を抱くように引き留めてくれた。
「なぁ……流、狭くないか。布団……悪かったな」
「狭くなんかないですよ。兄さんは喉が弱いのだから、ほら、肌掛けはしっかり被ってくださいよ」
まるで僕たち、兄弟ではないようだ。「兄さん」呼ばれているのに「翠」と呼ばれているようで目眩がした。
「……流、お前は」
「なんです?」
暗闇で至近距離で、流と目があった。
今、僕たちは息遣いが届くほど傍にいる。
このまま流の匂いに溶け込んでしまいたい。
僕は流を愛している。
長い長い遠回りをして、ようやく気付いけたことだ。
じっと流を見つめると、視線をサッと逸らされてしまった。
そこで我に返った。
もしかして……こんな言葉は、流を苦しめるだけなのか。
あぁ、流の心が見えたらいいのに。僕に兄以上の感情を抱いてくれていると感じるのは、僕の勝手な妄想なのか。
その場で面と向かって「愛している」など言えるはずもなく、またいつものように言葉を濁してしまった。
「僕は流にこうされるのが……好きだよ。流がいれば安心できる」
「好き」という言葉では足りない程の愛を育ててきたくせに。
翠……いつまでもこのままでいいのか。
僕たちはもういい年齢だ。
このまま、この人生を終わりにしていいのか。
この世の果てまで平行線で、一線を越えないでいいのか。
繰り返す波のように、何度も自問自答しながら深い眠りに落ちた。
その晩、僕が見た夢はとても人には言えない内容だった。
屋根を打ち続ける激しい雨の中、僕はいつの間にか一糸纏わぬ姿になっていた。
流は息遣いが届くほど近くにいてくれる。
満ち足りた気持ちで身体の力を抜くと、逞しい腕が僕を引き寄せてくれた。
僕はまどろんでいるようで、身体に力が入らなかった。
逞しい腕は、僕が眠りから覚めないようにと慎重にそっと抱きしめてきた。
待て……夢の中でも遠慮するのか。
僕の心は既に整っているのに……あの山を越える覚悟だって出来ている。
一緒に旅立ってみないか。
空高く舞い上がり、一つになってしまいたい。
僕の心はそれを望んでいる。
だから僕の方から逞しい身体を強く抱き寄せた。
「一線を越えよう」
そう望んでいると伝えたくて――
僕の夢は……まるで雨の悪戯のようだった。
朝起きると流はもう隣にはおらず、僕はきちんと浴衣を身に着け布団をすっぽり被って眠っていた。
だが僕の記憶は鮮明だった。
あの夢を辿ろう。
そんな強い気持ちが芽生えた朝だった。
10
あなたにおすすめの小説
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる