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色は匂へど……
色は匂へど 14
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前置き
今日の更新分は『重なる月』完結後の甘い物語 『蜜月旅行33』と重複しているので、こちらに掲載するのを迷ったのですが、どうしても翠がアイツと出会った時の心境を深く書きたかったので、大幅に加筆させていただきました。
特にアイツに再会してからの翠の心境を沢山書きました。
****
目覚めると夜のとばりが下りていた。
暗い部屋の窓の向こうには、船の灯りが星のように瞬いていた。
一瞬、時空を越えた世界にいるような気がした。
「綺麗だ。まるでここは宇宙のようだ」
高層階ならではの浮遊感に身を委ね、ぼんやりと窓の景色を眺めていると、上半身裸なことに気が付いた。
「えっ、どうして?」」
慌てて下半身を確かめると、ちゃんと着用していたのでほっとした。海水で肌がべとついて気持ち悪く、早く風呂に行きたいと流に頼んだのまでは覚えているが、どうやら仕度を待つ間に眠ってしまったようだ。
裸で寝るような癖はないはずなのに。
まさか寝惚けてシャツを脱いだのか。
あ、でも上半身がさっぱりしているということは、流が脱がして拭いてくれたのか。
途端に胸が高鳴っていく。
流が僕の身体に触れてくれたのか。
あの大きな逞しい手で……
もう駄目だ。
またおかしくなるよ。
僕は人様には到底言えない淫らな夢を見た。
あれは淫夢だった。
僕の肉体を求める手に身体も心も委ね、甘く疼いていた。
とても人様には言えない内容だ。
妙に現実的で、下腹部が疼き熱くなるものだった。
こんな夢はさっさと記憶の彼方に葬らねば。
ブンブンと頭を振っていると、洋くんがやってきた。
慌てて起き上がると、彼が僕の上半身を不審そうにじっと見つめているのに気が付いた。もしかして心臓の下に残る火傷の痕が気になったかと軽く考えたが、バスルームの鏡に全身を映すと、ちょうど乳首の下辺りにうっすらと火傷のケロイドとは別に、赤い鬱血があることに気が付いた。
「何だろう? これは」
そっと指先で触れるが、痛くはない。
うっすらとした赤い痕には見覚えが……
まさか、これは?
だが、先ほど無理矢理押し込んだ夢の内容は、もう遥か彼方。
いつだって僕は煩悩を押し殺して生きて来た。
寝ている間に何があったのか。
あれは夢か現実か。
今、それを追求するのはやめておこう。丈と洋くんにとって大切な旅行中だから、僕の個人的な思いで迷惑はかけたくない。
シャワーを浴び、流の用意してくれた薄鼠色の浴衣を着て身支度を整えた。
やはり和装は落ち着く。これでいつもの調子を取り戻せそうだ。
「しっかりしろ翠。今日の僕は少しおかしいぞ」
自分を叱咤し、鏡に映る頬をペシっと軽く叩いた。
洋くんは休養をしっかり取ったお陰か血色も良く、それでいて昼間激しく丈に求められたせいで、妖しく艶めいていた。
匂い立つ色気がにじみ出る美貌に、ロビーに集まる人がどよめき出したので、僕は洋くんを連れて外のテラスに出た。
夜風が優しく僕を包み心を落ち着かせてくれる。
隣に立つ洋くんも気持ち良さそうに目を閉じていた。
良かった。
この先は心穏やかに過ごせそうだ。
しかし安堵したのも束の間、運命は酷いことをする。
「えっ……」
心臓が止まるかと思った。
出会ってはいけない人に出会ってしまった。
海辺で迷子になっていた少年を助けると、すぐに父親が駆けつけた。
彼の顔には見覚えがあって、途端にぞくりと肌が粟立った。
父親の方も、僕の顔を見て驚いている。
「なんと! これはこれは、翠さんじゃないですか」
「まっ、まさか……君は……」
「そうです。俺ですよ。克哉ですよ」
かなり太ったようで高校時代とは容貌が違うし、あの頃より一段と悪が増していた。
今すぐ逃げ出した衝動に駆られたが、ここで逃げたら負けだ。
いつかこんな風に偶然再会してしまう予感があった。
だから僕はあれから心を鍛え抜いてきた。
彼に怯えない、動じない心を、けっして踏み入ることが出来ない結界を――
「こんなところで久しぶりに翠さんと会えるなんて最高だな。へへっ、翠さん少しも変わっていなくて、相変わらず気高い美人ですねぇ」
克哉くんは僕の中学からの親友、達哉の弟で、流の同級生だった。
彼との間には人に言いたくない過去があるので、吐き気を催した。
必死に震える手を隠し、動揺を隠した。
しっかりしろ、翠、大丈夫だ。
もう僕は大丈夫だ。
何年ぶりだろうか。
こうやって面と向かって話すのは……
達哉が『建海寺』の跡目を継いだので、克哉くんは都内でサラリーマンをしていると聞いていた。もうスッパリ縁も切った相手と、どうしてこんなタイミングで出遭ってしまうのか。
最悪の事態だ。
克哉くんは危険だ!
僕の心臓は激しく点滅していた。
とにかく洋くんは無関係だ。巻き込んではいけない。
だから僕は克哉くんの誘いに乗って、ラウンジでお茶を飲むしかなかった。
心の中で必死に流を呼んだ。
流、早く戻ってきておくれ。
どうか早く──早く。
どこまで持ちこたえられるか分からない。
もし不運にも克哉くんと再会してしまった暁には……
けっして逃げない。付け入る隙を与えない。
ずっと鍛えてきたことを発揮してみせる。
だが……流……お前が傍にいてくれないと……怖い!
今日の更新分は『重なる月』完結後の甘い物語 『蜜月旅行33』と重複しているので、こちらに掲載するのを迷ったのですが、どうしても翠がアイツと出会った時の心境を深く書きたかったので、大幅に加筆させていただきました。
特にアイツに再会してからの翠の心境を沢山書きました。
****
目覚めると夜のとばりが下りていた。
暗い部屋の窓の向こうには、船の灯りが星のように瞬いていた。
一瞬、時空を越えた世界にいるような気がした。
「綺麗だ。まるでここは宇宙のようだ」
高層階ならではの浮遊感に身を委ね、ぼんやりと窓の景色を眺めていると、上半身裸なことに気が付いた。
「えっ、どうして?」」
慌てて下半身を確かめると、ちゃんと着用していたのでほっとした。海水で肌がべとついて気持ち悪く、早く風呂に行きたいと流に頼んだのまでは覚えているが、どうやら仕度を待つ間に眠ってしまったようだ。
裸で寝るような癖はないはずなのに。
まさか寝惚けてシャツを脱いだのか。
あ、でも上半身がさっぱりしているということは、流が脱がして拭いてくれたのか。
途端に胸が高鳴っていく。
流が僕の身体に触れてくれたのか。
あの大きな逞しい手で……
もう駄目だ。
またおかしくなるよ。
僕は人様には到底言えない淫らな夢を見た。
あれは淫夢だった。
僕の肉体を求める手に身体も心も委ね、甘く疼いていた。
とても人様には言えない内容だ。
妙に現実的で、下腹部が疼き熱くなるものだった。
こんな夢はさっさと記憶の彼方に葬らねば。
ブンブンと頭を振っていると、洋くんがやってきた。
慌てて起き上がると、彼が僕の上半身を不審そうにじっと見つめているのに気が付いた。もしかして心臓の下に残る火傷の痕が気になったかと軽く考えたが、バスルームの鏡に全身を映すと、ちょうど乳首の下辺りにうっすらと火傷のケロイドとは別に、赤い鬱血があることに気が付いた。
「何だろう? これは」
そっと指先で触れるが、痛くはない。
うっすらとした赤い痕には見覚えが……
まさか、これは?
だが、先ほど無理矢理押し込んだ夢の内容は、もう遥か彼方。
いつだって僕は煩悩を押し殺して生きて来た。
寝ている間に何があったのか。
あれは夢か現実か。
今、それを追求するのはやめておこう。丈と洋くんにとって大切な旅行中だから、僕の個人的な思いで迷惑はかけたくない。
シャワーを浴び、流の用意してくれた薄鼠色の浴衣を着て身支度を整えた。
やはり和装は落ち着く。これでいつもの調子を取り戻せそうだ。
「しっかりしろ翠。今日の僕は少しおかしいぞ」
自分を叱咤し、鏡に映る頬をペシっと軽く叩いた。
洋くんは休養をしっかり取ったお陰か血色も良く、それでいて昼間激しく丈に求められたせいで、妖しく艶めいていた。
匂い立つ色気がにじみ出る美貌に、ロビーに集まる人がどよめき出したので、僕は洋くんを連れて外のテラスに出た。
夜風が優しく僕を包み心を落ち着かせてくれる。
隣に立つ洋くんも気持ち良さそうに目を閉じていた。
良かった。
この先は心穏やかに過ごせそうだ。
しかし安堵したのも束の間、運命は酷いことをする。
「えっ……」
心臓が止まるかと思った。
出会ってはいけない人に出会ってしまった。
海辺で迷子になっていた少年を助けると、すぐに父親が駆けつけた。
彼の顔には見覚えがあって、途端にぞくりと肌が粟立った。
父親の方も、僕の顔を見て驚いている。
「なんと! これはこれは、翠さんじゃないですか」
「まっ、まさか……君は……」
「そうです。俺ですよ。克哉ですよ」
かなり太ったようで高校時代とは容貌が違うし、あの頃より一段と悪が増していた。
今すぐ逃げ出した衝動に駆られたが、ここで逃げたら負けだ。
いつかこんな風に偶然再会してしまう予感があった。
だから僕はあれから心を鍛え抜いてきた。
彼に怯えない、動じない心を、けっして踏み入ることが出来ない結界を――
「こんなところで久しぶりに翠さんと会えるなんて最高だな。へへっ、翠さん少しも変わっていなくて、相変わらず気高い美人ですねぇ」
克哉くんは僕の中学からの親友、達哉の弟で、流の同級生だった。
彼との間には人に言いたくない過去があるので、吐き気を催した。
必死に震える手を隠し、動揺を隠した。
しっかりしろ、翠、大丈夫だ。
もう僕は大丈夫だ。
何年ぶりだろうか。
こうやって面と向かって話すのは……
達哉が『建海寺』の跡目を継いだので、克哉くんは都内でサラリーマンをしていると聞いていた。もうスッパリ縁も切った相手と、どうしてこんなタイミングで出遭ってしまうのか。
最悪の事態だ。
克哉くんは危険だ!
僕の心臓は激しく点滅していた。
とにかく洋くんは無関係だ。巻き込んではいけない。
だから僕は克哉くんの誘いに乗って、ラウンジでお茶を飲むしかなかった。
心の中で必死に流を呼んだ。
流、早く戻ってきておくれ。
どうか早く──早く。
どこまで持ちこたえられるか分からない。
もし不運にも克哉くんと再会してしまった暁には……
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